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第38話
しおりを挟む部屋から出てきたサーヤは、お気に入りの青い膝丈ワンピースを着て、首から滴型のネックレスを下げていた。
「お待たせ」
頭の上で丸くまとめた髪を、ティルはするりと解いた。
「あっ!何すんの」
「髪を上げていたら、耳が見えてしまいますから」
丸みを帯びた可愛らしい耳では、すぐに人間だとバレてしまう。街はどんな危険人物がいるか分からない。油断は禁物だ。
「ティル以外のエルフに人間ってバレたら、そんなに危ないの?」
「ええ、いつ拐われてもおかしくありません。サーヤは特に気をつけなければ」
「え、怖すぎ。治安悪いな」
下ろしたサーヤの髪をブラシで整え、ゆるく三つ編みにする。
「これでいいでしょう」
耳も見えない。
「ありがと」
「では、いきましょうか」
二人連れ立って家を出た。
行先は街だというのが恐ろしいが、嬉しそうにしているサーヤを見ると暖かな気持ちになる。ティルは知らぬ間に微笑んで、サーヤを見つめていた。
「うわー、ティル以外のエルフ初めて見た。いっぱいいる」
「それはいますよ、エルフの街ですから」
昼を過ぎても街は賑わっており、喧騒に包まれている。
「ダークエルフって少ないの?」
サーヤが気になるのも無理はない。目に見える範囲は普通のエルフばかりだからだ。
「多くはないですね。あと、この街よりももっと遠い地域に住んでいます」
「へー!あ、花冠つけてる人がいる!」
この前納品した花冠だった。ティルとサーヤの前を通り過ぎていく。
「わあ……なんか嬉しいね。つけてる人、見たことなかったし、ティル以外で」
「入荷するとすぐ売れ切れるロングヒット商品ですからねえ」
サーヤがエヘヘと照れ笑いをする。
「手を離さないでくださいね」
「分かってるよー!」
ギュッと力を入れて握ると、柔らかくてすべすべとした手が握り返してきた。
手をつなぎ、並んで歩く。歩調を合わせて歩くことは、サーヤと暮らしてから身につけた。
とても小さかった頃は常に確認をしながら歩いていたが、今は自然と並んで歩くようになっている。
「どこに行きたいですか」
サーヤは得意そうに答える。
「卸してもらってるお店!」
予想はしていたが……
「……やはりそうなりますか」
「なりますねえ!さ、早く連れてって!」
意気揚々と進むサーヤを引き寄せて、ぴったりとくっつく。
「道もわからないのに、勝手に進まないでください」
ぺろっと舌を出して笑っているから、怒る気が削がれてしまう。
「絶対に離れないでくださいね。危ないですから」
「ティルが離さなきゃ、離れないよ」
サーヤは本当に愛らしい、ティルは改めて納得した。
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