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第39話
しおりを挟む目的の店は街の中心地、特に立地の良い場所にある。王宮御用達の店や、高級ブランドの他、庶民的だが人気のあるところなど、集客力のある店ばかりが集まっている。
「あそこですよ」
目の前に見えてきた真っ白な壁の店を指差すと、サーヤはにっこりと満面の笑みを浮かべた。
「わーい、やっと来れた!」
ティルは焦った。サーヤの愛らしい笑顔は、周りのエルフ達を惹きつけてしまう。外にいるよりは店内の方が幾分マシである。
「早く、中へ入りますよ」
「なんだ、ティルもワクワクしてるんじゃん」
断じて違うけれど、否定している暇はない。
サーヤを離さないように、とっとと入店する。
入り口で待機しているスタッフが会釈をした。
「いらっしゃいませ、ティル様。本日は……」
ティルの横にいるサーヤを見て、スタッフが優しく微笑んだ。
「ようこそ、ごゆっくりご覧ください」
やはり店内も危険だったか。
ティルは目線で挨拶をし、そのままどんどん奥へと進む。
「こんな高級なお店だって思わなかった!」
サーヤが小声で話しかける。
「知り合いがここしかないのですよ」
「ティル、友達あんまいないもんね。まあ、今は私がいるけど」
ふふん、と得意げに言うから、ティルは笑ってしまった。
「私のサーヤは、本当に愛らしい」
艶やかな髪を空いた方の手で撫でると、りんごのように赤く染まった。
「ずるい」
「おいおい、ティル。いくら可愛いからって、店内でいちゃつかないでもらえるかな?」
奥から出て来たダークエルフが、二人の目の前に立った。
「ようこそ、ティルの愛し子。私はこの店のオーナーをしている、エランドと申します」
「あ、七五三木沙彩です。はじめまして」
「サーヤ!」
早速、約束を破っている。
「挨拶は最低限の礼儀でしょ!」
「ははは、ティルは私に妬いているんですよ」
エランドはティルを見てニヤッと笑った。
「そうなんですか?!えっ、そうなの?」
サーヤはティルを見上げると、繋いだ手をぐいぐいと引っ張った。
「この男は危険なので、これ以上話してはいけません」
「友人を歩く猥褻物のように言うんじゃない」
「猥褻物でしょう、女性を取っ替え引っ替えして遊んでいたのは誰ですか」
「わーお、プレイボーイ」
ティルはサーヤを抱き込むように引き寄せて、エランドを睨んだ。
「サーヤには指一本触れさせませんからね」
「おお怖い怖い。親友の大切な人には手を出さないと決めてるから、安心してくれ」
エランドは爽やかな笑顔に戻ると、ティルの腕の中のサーヤへ声をかけた。
「サーヤさん、良かったら奥のティールームでお茶でもいかがですか」
サーヤは元気に答えようとして、そっとティルの顔を覗いた。
「……まあ、店内でこうして不特定多数の目に晒されているよりは、ティールームの方が安全でしょう」
「やった!お願いします!」
「どうぞ、こちらへ」
二人は案内するエランドの後へ続いた。
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