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26・耳敏いことこの上なし

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翌朝も、大河に送られて出勤することになってしまった。
昨日は会社の真ん前の道に横付けされたから、今日は絶対に少し離れたところでって頼んだけど、全く聞いてくれなかった。
大変、強引だ。
週末だから明日から休みだし、来週は忙しくて送れないと言っていたから、今日までみたいだし。
そうやって、送られてしまう自分に言い訳を探してる。
車から降りる寸前、大河の手が私の耳から顎に触れた。
あまりのふわふわさに、思わずうっとりとしてしまう。
「本当、弱いな。俺よりネコみたいだぞ。」
「う、うるさい!もう行くんだから離して!」
満足そうに笑って離れる。
「いってらっしゃい。」
「いってきます…。」
妙に気恥ずかしくて顔を見られなかった。これが意識してるって言うやつなんだろうか。
なんか、変な感じ。

専務室に入れば、既に重厚なデスクで仕事を始めていた専務がいた。
「おはようございます。」
「おはようございます。」
ちらりと目線が合い、何故か胸の奥が重く感じた。なんだろうこれ、そわそわする。
振り切るように自席へ向かい準備をして、いつものようにコーヒーを入れてパソコンの電源を押す。
今日の仕事は、そうだ連絡しなきゃいけない案件がいくつかと、急ぎでセミナーの予約をしなくては。
頭を仕事に切り替えて、仕事に不要な感情はしまう。
「専務、セミナーは来月の参加でしたでしょうか。」
開いているドア越しに声を掛けると、何故か席を立ってこちらにやってきた。
目の前で止まり手を近づけようとするので、咄嗟に椅子を引いて距離を取る。あからさまだっただろうか。
専務は眼光鋭く睨め付ける。
随分慣れたと思ったけれど、心臓を握られたような寒気がする程、怖かった。
「どうして避けるんですか。」
「…近いので。」
「いつもと同じですよ。」
「それが、おかしいと思います。私達は、上司と部下ですので。」
一歩踏み込まれて、椅子を引き、また一歩近づかれれば、椅子をずらす。でも広くないこの部屋では、すぐに限界が来る。背もたれが壁に当たっているのが分かった。
ずいっと体を近づけてられて、もう逃げ場がない。
「渡辺さんは、虎松君を選ぶのですか。」
「へあ?」
変な声が出た。膝の間に専務の足が入る。
「思いを伝えられたのでしょう。昨日も今日も会社に車で横付け。二人で朝からドライブして、随分と楽しそうですね。」
何で知ってるんだ。見てないのに。
「どうして」
「知ってますよ。社員が何人も見かけてるんですから、僕の耳にも入ります。」
金色の瞳の中、黒い瞳孔が細まる。
「もう彼の気持ちを受け入れたのですか。」
「あれは、大河が…」
「強引に?僕の時のように?」
流されやすい自分を、否定できない。
「じゃあ、僕が今、渡辺さんを欲したら、同じようにしてくれますよね。」
「…しません。」
「虎松君を選ぶってことですか。」
そういうことじゃない。でもとても気まずい。
さっき感じた胸の奥の重みが増す。
「私は…」
何て言えばいい?どうしたらいい?自分でもよく分からないのに、どうして人に伝えられる?
どうして胸が変なの?
逡巡していると、スーツが覆うように被さって来た。ふわっとした感触が私の顔を持ち上げて、ぬるりとした物が開きっぱなしだった口の中を這い回る。
「んぐっ!」
苦しくて息が出来ないほど、荒々しい。でも、的確に弱いところを突かれて、体の力が抜けてしまう。
「僕としたみたいに、車でしたんですか?渡辺さん、快感とモフモフに弱いですもんね。」
「はぁ…はぁ…して…んむっ!」
返事をする前に、口内を舌で掻き回されて何も言えなくなる。
舌を絡める度に体が快感の記憶を思い出して、首筋はぞくぞくし、足の間が濡れ、お腹の奥がキュッと締まる。
次に嘴が離れた頃には、肌を触られるだけでヒクついてしまっていた。
「虎松君の痕を消さないといけませんね。」
指先が首筋をなぞる。
「…んっ…やめてください。もう専務とはしません。」
強く睨まれて、思わず体が竦んでしまった。
「それは、虎松君のせいですか。」
「…違います、私の意志です。」
するりするり首筋から、いつの間にかボタンを外されていたシャツの中、鎖骨まで指が渡る。
「んあっ…やめて…」
「すぐに僕のことしか考えられなくなりますよ。そうじゃなきゃ、嫌だ。」
強く抱きしめられて、ドクンと心臓が脈打つ。胸がざわついて仕方ない。
「やめて…」
体を椅子から持ち上げられて、一面の窓ガラスに押し付けられる。足の間には専務の体が入り、身動きが取れない。
「聞きたくないです。」
嘴に顔を覆われて、細長い舌で口内を弄られる。シャツのボタンは全て外され、下着は捲れて、ブラジャーを外そうと触れる羽毛の感触で、体が震えて止まらない。
飲み込めない唾液が口の端から垂れ、首を伝って落ちた。
プチリとホックが外され、浮いた隙間から手が差し込まれるけれど、直接触れずに羽毛の先だけが弱く刺激してくる。
「んむう、んっんんっ。」
肌の上で踊る羽毛が胸の先端を固く尖らせ、微弱な快感に耐えきれず、もっともっとと体が跳ねた。
それでも刺激は強くならず、弄ぶように往復する。
足りない気持ちよくなりたい、流されちゃ駄目だという気持ちが拮抗している。
その時、指先が背骨をなぞるように一本線を描いた。
「んんんー!」
弓なりになった反動で、胸を手に押し付けるような形になり、乳房を強く握られた。
ちゅるっと音を立てて舌が離れる。
「可愛い、可愛いです。ほら、僕の羽毛でもっと乱れてください。」
背中や腰を指先で触れながら、乳首を摘んだり乳房を揺らしたりして、快感が段々と強くなっていく。
「あっ…やっああっ!やめて…ああっ。」
「やめてなんてあげません。」
言葉とは裏腹に、自分の体が貪欲に快感を求めている。
「渡辺さんのそこ動いてますよ。」
足の間にある専務の膝に、気持ちいい場所を押し付けてしまっていた。流されたくないのに、止まらない。
「ふうっ…う…。」
本当にこのままじゃ、仕事とセックスをする部下になってしまう。
太ももを撫でられてから、タイトスカートを上にずらされ、ストッキングが丸見えになった。
「もう、濡れてますね。ストッキングまで染み出してる。」
恥ずかしくて、遣る瀬無くて、自分の淫乱さに涙が出そうだった。
ストッキングの上から気持ちいい突起を押しつぶされて、高い声が出る。
「ああっん!」
「後ろ、向きましょうか。」
くるりと反転させられて、窓ガラスに押し付けられた。裸の乳房と乳首が、ヒヤリとしたガラスにくっつき、それだけで感じてしまう。
「はあん。」
「渡辺さん、もし同じ高さのビルが向かいにあったら、丸見えだったかもしれませんね。」
その言葉に、びくりと体が震える。
そして、背後ではストッキングを引き裂く音がした。


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