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その7
しおりを挟む「探偵…ですか?」
「さえちゃん先生って、最近探偵らしいことしてたっけ?」
西が行儀良く食事をしながら、首を傾げる。
「どうだったかしら…あっ、この前は町内会長さんが相談しに来てたわね。」
ー町内会長が美少女に相談って…
どんな内容なのか千歳には皆目見当がつかなかった。
渦中の人物は、安楽椅子探偵と名乗って満足したのか、スプーンでカニグラタンを食べている。
この細い体にどれだけ入るのか、先程から恐ろしい量を食べているが、速度も全く衰えず吸い込まれていくように無くなっていた。
突然、ガチャリとドアが開き、背の高いひょろりとした男性が入ってきた。
「お、本当だ。人が増えてるね。いらっしゃい。」
「あなた、お帰りなさい。先に食べちゃってるわ。」
「お帰り。」
西親子の反応を見なくても、家主だと分かった。
「は、初めましてこんばんは。」
「ああ、いいよいいよ。座ってご飯食べて。千歳ちゃんだよね、話は聞いてるよ。我が家だと思って寛いで。」
「ありがとうございます…」
にっこり笑った顔があまりにも息子と酷似しているので、なんだか気持ちが緩んでしまった。
「まあ!千歳ちゃん…辛かったのね。」
恥ずかしくて手で顔を覆っていると、暖かな腕に抱きしめられた。
「優雅、千歳ちゃんの保護、よくやった!危ないからなぁ、今の世の中。」
「結構、ガチめにヤバいストーカーだったんだよね。あれは放っといたら危険だから、警察に行った方がいいと思うんだ。」
「そうだなあ、俺か優雅かさえちゃんでも良いし、付き添って行ったらどうか?」
「うーん、父さんとさえちゃん先生は良いけど、僕は頼りにならないと思うよ。体力に自信ないし。」
「優雅はひょろひょろで折れそう。」
「ははは!鍛えたらどうだ?」
「今のところ、研究に筋肉は必要ないよ。」
初めて会った人間に対して、こんなに親身になってくれる人達がいるとは思っていなかった。
「…ありがとうございます。」
「いいのよ、私達がお節介なだけなの。」
千歳は西母に抱きしめられたまま、しばらくそうしていた。
歓迎会がお開きになり、それぞれの部屋へ戻ることとなった。
美少女探偵と二人で、母屋からミントグリーンの離れへ帰り、戸締りをする。
「あの…」
背に問いかけると、ふわりと振り返ってスカートが揺れた。
「何?」
「お風呂、どうしますか。先に入りますか。」
「後でいい。いつも夜中だし。」
「分かりました。先にいただいちゃいます。」
コクリと頷くと階段を上り始める。
「あっあの!」
怪訝そうな顔で見下ろされると、美少女ゆえの迫力があるなと思った。
「私も、さえちゃん先生って呼んでいいんでしょうか。」
「んー、何でもいい。お好きにどうぞ。」
こだわりは無いようだ。
「さえちゃん先生、今日からよろしくお願いします。」
「ん。」
肯定の返事らしい。
さえちゃん先生が奥の自室に入ってしまっても、人気が感じられる静かな家は、大層居心地が良かった。
「…一人暮らしじゃないって、良いかも。」
千歳はへへっと一人笑い、風呂の準備をした。
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