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週末の夜。
気だるい体をそのままベッドに沈めていると、シャワーを終えた彼が出てきて身支度を始めた。
「帰るの?」
目の前で服を着ていくのを見ながらのその質問、ちょっと間抜けだったかな。帰るつもりがなければ服など着ない。
「お前は寝てていいよ。支払いも済ませておくから」
「いいよ。泊まるのは僕だから、僕が払う」
最後に腕時計をはめた彼は、僕を見ずにカバンに手をかけた。
「・・・別れよう」
それは唐突に発せられた。でも僕は、別段驚きはしなかった。
「わかった。今までありがとう」
その言葉にぎゅっと眉根を寄せ、一瞬目を閉じるも直ぐにカバンを持って部屋を出ていった。
その背を見送ったあと、僕はゴロンと反対側を向く。
なんで別れを告げた方が辛そうな顔をするのだろう。
窓に広がる夜景を見ながら、先程の彼を思い出す。
別れを告げるのがわかってたのに、僕としたのかな?それとも、してる最中に別れようと思ったのかな?
いつものように待ち合わせをして、いつものようにホテルに入って、いつものように体を繋げた。
特に変わらない彼の行動に、いつから別れを言おうと思っていたのか想像もつかない。でも・・・。
僕はまた振られたってことだね。
何人もの人が僕の上を通り過ぎていく。時々立ち止まってくれる人もいるけど、大抵は彼のように去っていく。大体3ヶ月・・・。
彼は3ヶ月半のお付き合いだから・・・そんなものか。
ここまで来ると、僕の方に非があるのかもしれない。
彼は決して悪い人じゃなかった。
顔は悪くないし、性格も優しい。デートも飽きさせないように色々考えてくれたし、夜の方も下手ではなかった。
僕はベッドから出るとシャワーを浴びて服に着替えた。そしてスマホとキーを持つとバーラウンジへと向かう。
まだそれほど遅い時間では無い。少し飲んで、運が良ければ一夜の相手が見つかるかもしれない。
たった今振られたばかりだと言うのに、僕は次を探してる。
あ、そういうところか・・・。
振られても僕の心は痛まない。それほど相手に執着していないからだ。
でも嫌いじゃなかった。
だからキスもするし、体も重ねる。その人のものを口ですることだって・・・飲むことだってできる。
でも・・・。
好きでもなかった、てことか。
僕はカウンターの端に腰掛けて、軽めのカクテルをおまかせで頼んだ。
男でも女でも、今日最初に声をかけてくれた人にしよう。
そう思いながら、出てきたカクテルをちびちび舐める。出してくれた時、このカクテルの名前を言われたけど、忘れてしまった。
お酒は飲むけどあまり強くはない。それに、実はあまり興味もない。要は酔えればいいのだ。
たとえ相手が見つからなくても、アルコールが入れば一人でも眠れる。
そう思ってたら、隣に人の気配。
「隣、いいですか?」
テノールの声に顔を上げると、背の高いスーツの男が立っていた。
顔もスタイルも悪くない。
「どうぞ」
ここは普通のホテルのバーラウンジ。その手の人ばかりが来る場所じゃないけど、わざわざ隣に来たということは、そういう意味だよね。
「お一人ですか?」
彼は水割りを頼んで僕を見た。一人だと思ったから声をかけたんじゃないの?
「ええ。あなたは?」
愚問に愚問で返す。こういうやり取り、嫌いじゃない。
「実は2年ぶりに日本に帰ってきたところなんですよ。その間に気軽に声をかけられる友人もいなくなってしまって・・・」
水割りが前に置かれる。それに小さくありがとうと応える。
「でも、なんだか人恋しくてここに来たんです。もし良かったら、少し付き合ってもらえませんか?」
さわやかに笑いながら話す彼を横目で見ながら、カクテルを一口飲んだ。
人恋しい、か・・・。僕は人肌が恋しい。
「僕もちょうど一人が寂しかったんです。その一杯が終わったら、少し部屋で話しませんか?」
そしてもう一口飲んだ。
これ以上飲んだら酔ってしまいそうだ。
「いいですね。ではそうしましょう」
相手はその意図がわかっているのか、快く同意してくれた。
彼が飲み終わるのを待って、僕達は彼の部屋に向かった。そして、中に入った瞬間、お互いに身を寄せて唇を合わせた。
背の高い彼の首に腕を回し、彼は僕の背を掻き抱いた。
初めから激しいキスに頭がクラクラする。
あんなにさわやかでスマートな彼からは想像出来ないほど激しく唇を吸われる。まるで食べられてしまうかと思うほど唇を食まれ、舌を引きずり出される。それを思う様吸い上げられ、絡め取られ、そして唾液を流し込まれた。
「ん・・・んん・・・っ」
呼吸が追いつかないほどの激しい動きに、酸欠を起こし始めて足元がぐらついた。すると腰を抱えられ、唇を合わせたままベッドまで運ばれる。そしてその身をベッドに沈められても唇は離れなかった。
軟体動物のような舌が口内を嬲っていく。その間にシャツの端を引きずり出され、入ってきた手が脇腹を撫で、胸の突起を転がした。
「んぁ・・・っ」
体がビクンと跳ねる。その反応に更に大胆にそこを摘まれ、先端を擦られた。
「はぁ・・・ん・・・っ」
唇を塞がれているため、吐息のような喘ぎしか出ない。
一気に体に火をつけられ、僕はもどかしく身を震わした。彼のものも僕に反応してさっきから硬いものが当たっている。けれど、彼の右手がベルトを外そうと手にかけるもなかなか上手くいかない。その様子にもしかして、と思う。
はぁはぁと息を切らせながら唇を離し、耳元に寄せる。
「・・・もしかして男は初めてですか?」
その囁きに、彼は体をビクンとさせた。その様子に、僕はよいしょと体の位置を入れ替えて、仰向けの彼の上に跨った。
「僕がリードしてもいいですか?」
僕は彼が外し損なったベルトを外し、下着ごとズボンを脱いだ。だけどシャツは脱がない。男の裸を見たら、萎えてしまうかもしれないから。
シャツだけ身につけた僕は屈んで彼にキスをした。
小さなキスを繰り返し、手は彼のズボンの前を寛げる。
萎えてしまうかも・・・なんて杞憂だった。
彼のそこは熱く滾り、下着から飛び出さんばかりに上を向いていた。
小さなキスを徐々に深くしながら下着を下ろして彼の昂りを解放すると、それを握ってゆっくり上下に動かした。彼の体が僅かに震える。
「目を瞑ってて」
僕は両手で包むように握ると、そこをぱくんと咥えた。びっくりしたように彼の体が跳ねたが、僕は構わず深く口に含み、たっぷりの唾液とともに舌と手で彼を扱いた。
大きい・・・。
これがこの後僕の中に入ってくると思うだけでゾクゾクする。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音をわざと立たせ、届かない根元を手で扱きながら裏筋に舌を這わせた。そして上目遣いに彼を見ると、目を瞑っていると思った彼は目元を赤く染めて僕を見ていた。
僕はその目を見ながら殊更ゆっくりと先の割れ目を舐め、そのままわざと舌を見せながら口を離した。そして再び彼に跨ると、腹につくほど反り返った彼の猛りを後ろ手に持って後孔にあてがった。
ここへ来る前、別れた彼を一度受け挿れているそこはまだ柔らかく、触らなくても彼の先端を難なく飲み込んだ。そしてゆっくり身を落としていく。
「・・・ぁん・・・ぅん」
自らの体重で深く彼を受け入れるもそれだけで強い快感に体が震える。
基本僕は誰かと付き合うとその人としか寝ない。だからいつも別れて違う人を受け入れる時は最初違和感を感じることがあるのだけど・・・。
この強い快感は・・・。
大きさなのか、角度なのか、彼のは挿れるだけで僕の体は感じまくり、それだけでイってしまいそうになる。
体の相性・・・?
まだ何も動いていないのに、僕は覚えたての初心な子供のように快感に身を震わせている。すると急に彼が起き上がり、あっという間に体を入れ替えた。
繋がったまま体を倒されてベッドに沈められる。その時の刺激に更に体が煽られて、下肢に力が入った。その瞬間彼がうっと唸り、僕の中に放った。
まだ挿れただけだというのに、彼もまた強い快感に翻弄されたらしい。
いつもは必ず相手にはゴムをつけてもらってるので、中に直接出されることは滅多にない。今日も頃合いを見てつけてもらうか、外に出してもらおうと思ってたのに、想定外の快楽にその余裕がなかった。
一度放ってサイズダウンした彼のものに少し余裕ができて来たものの、まだ籠ったままの僕の熱が体の中に渦を巻く。
彼のものがずるりと抜かれる。
精を放って冷静になったのか、勝手に終わろうとしているのか・・・。しかしそれは完全に抜ける前に再び押し入ってきた。
「はぁ・・・んっ」
予想外のその挿入に体が必要以上に跳ねる。
そして、体が見えないように着たままになっていたシャツを首近くまで捲られて乳首を強く抓られた瞬間、僕のものは勢いよく爆ぜた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
整わない息を吐きながら快感を逃そうとするも、いつまでも体の中に留まり身体を震わせる。
いつもなら突き抜けて終わるのに、何かおかしい・・・。
いつもと違う感じ方に少し恐怖を覚えていると、彼は僕のシャツのボタンを外して脱がしてしまった。
膨らみのない胸とまだ半勃ちの昂り、そして腹に散った白濁・・・。
このまま終わられても仕方がない。
そう思っていたのに、彼はおもむろに腰を動かし始めた。
いつの間にか硬度が戻ったそれに中を擦られ、体の中で燻っていた快感が再び暴れだす。
「あ・・・あ・・・あ・・・っ」
一度目の射精を恥じるかのように激しく抽挿されるそれに翻弄され、一気に高みに追い上げられる。
いつの間にかに膝を抱えられ、高く上がった腰に激しく打ち付けられる乾いた音が静まり返った部屋に響き渡り、中では彼の放ったものがぐちゅぐちゅと音を立てて結合部分を泡立たせていた。
僕の口からはタガが外れたように嬌声が上がり、腰は無意識に揺れている。
ピンポイントの快感ではない。中全体が全て彼のものを感じ、彼をグイグイ締め付けている。
噛み付くような激しいキスをされ、下肢を深く抉られるだけでもイッてしまいそうなのに、彼は僕のそれを握り、上下に扱いた。
その一瞬で僕がイクと、彼も僕の中に勢いよく放った。
さっき僕より先にイッてしまったのが気に食わなかったらしい。
二度吐精したにも関わらず、僕たちの欲望は収まらず、お互い獣のように交わりあった。
どろどろに溶けた頭は過ぎる快感にもう恐怖も覚えない。ひたすら相手を求め、食いちぎらんばかりに締め付けた。
体はもっともっとと彼を求め、一度も中から出ていくことを許さなかった。
彼もまたそれに応えて抜かずに何度も放ち、僕の気が失われるまで与え続けてくれた。
その後どれだけ繋がっていたのか、僕ははっと目が覚めて時間を確認する。
4時23分。
隣を見ると彼はまだ深い眠りの中にいた。僕は起こさないようにそっとベッドから抜けると素早く身支度をして、音を立てないように部屋を出た。そして足早に自分の部屋に戻る。
胸の鼓動が収まらない。あんなの初めてだ。
今まで幾度となく男と寝たけど、あんなに乱れて求めたことなんてなかった。
いつもどこか冷静で余裕があったなに、あんな自分が隠れていたなんて・・・。
収まらない強い快感に恐怖すら覚えた。僕は一体どうなってしまうのだろう、と。
怖い。
初めて誰かを怖いと思った。
あの人は僕を変えてしまう。
その恐怖を振り払うかのように、僕はバスルームに入って熱いシャワーを浴びた。どこもかしこにも残る彼の痕跡を消すかのように洗い上げ、散々放たれたものも中からかき出した。
これは夢。
僕は夢を見てるんだ。だから目が覚めたら全てなかったことになる。
僕は髪を拭くのもそこそこに、ベッドに入った。
チェックアウトの時間まで、眠ることにしたのだ。
週末の夜のことを夢だと思い込み、気持ちも新たに出社したというのに、悪夢は覚めていなかった。
目の前に新しくアメリカ支社から赴任してきた部長が挨拶をしている。
彼だった。
そういえば、2年ぶりに帰国したと言ってたっけ。
僕は極力彼の目につかないように視線を下げ、紹介が終わると直ぐに自分のデスクに戻った。
会社では目立たぬように前髪を垂らし、眼鏡をかけている。だけど、見つからないはずはなかった。
「ちょっといいかな?この書類について聞きたいことがあるんだけど」
僕の後ろに来た彼はいかにもな感じで僕が出した書類を差し出した。それを受け取ろうとするとすっと書類が下げられる。
「私の部屋で話してもいいかな?」
断れる訳もなく、僕は部長室に入って行く彼の後に従った。彼はドアのところで待ち構え、僕が入るとドアに鍵をかけた。
「君・・・だよね?」
そう言うと、僕の眼鏡を外し、前髪をかき上げられた。
「・・・セクハラですよ、部長」
一応牽制するが、誤魔化せるわけもない。
「僕もあなたも一夜の相手を求めていた。夜は明けました」
胸の鼓動が止まらない。
朝、彼が入ってきた時から壊れたように脈打っている。
「私は一夜のつもりはなかったけどね」
彼は余裕の笑みを浮かべて僕の腰に手を回した。
「・・・運命を信じる?」
ここで会ったことを言ってるのだろうか?
「信じません。ただの偶然です」
あなたもきっと、僕の上を通り過ぎていく一人だ。
今までは来るものは拒まず、誰であっても付き合ってきた。だけど、彼はダメだ。この人に去られたら、きっと僕はダメになる。
「この広い東京で何社も会社があるのに?しかも同じ部署だ」
それでも、運命なんてただのおとぎ話だ。
そう言おうと思った唇を塞がれる。けれど、肩を押して唇を離した。
「あなたもきっと、僕の前から去りますよ」
「なぜ?」
まっすぐ見つめられて僕は顔を横に向けた。
「みんなそうだからです。大体3ヶ月位するといなくなります」
その言葉に彼は少し考えて、
「なら賭けをしよう」
と言った。
「3ヶ月後に私が別れを切り出したら君の勝ち。別れなかったら私の勝ち。もし私が勝ったら君のその先の3ヶ月をもらおう。そしてまた賭けをして、私が勝ったらさらにその先の3ヶ月をもらい受ける」
楽しげに語るその提案に、僕は眉を顰める。
「僕が勝った時のことがありませんが・・・」
「君が勝つことは無いよ」
どこからその自信が出てくるのだろう。それに大事な部分が抜けている。
「僕から別れを切り出したらどうするんですか?」
「それも無い」
「?」
「君は私が好きだろう?」
だから、どこからその自信が・・・て、なんだか面倒くさくなってきた。胸の鼓動もいつの間にか収まっている。彼の腕の中にいるからだ。
「もしも、でいいです。僕が勝ったら何をくれますか?」
きっと僕は立ち直れなくなりますよ?その代償はなんですか?
「もしももないけどね・・・。そうだな・・・私の残りの人生をあげよう」
・・・それってやっぱり負けないってことだよね?
僕は一つ息を吐いた。
この腕の中は心地よい。
離したくない。
「じゃあもし僕が勝ったら、あなたの命を下さい」
命懸けですよ?
「いいよ。じゃあ残りの人生、命も含めて君にあげよう」
なんでもない事のように言い放つと、これでお終いとばかりに唇を合わせてきた。
まだ一日が始まったばかりのオフィスで、僕たちは激しいキスをした。
了
気だるい体をそのままベッドに沈めていると、シャワーを終えた彼が出てきて身支度を始めた。
「帰るの?」
目の前で服を着ていくのを見ながらのその質問、ちょっと間抜けだったかな。帰るつもりがなければ服など着ない。
「お前は寝てていいよ。支払いも済ませておくから」
「いいよ。泊まるのは僕だから、僕が払う」
最後に腕時計をはめた彼は、僕を見ずにカバンに手をかけた。
「・・・別れよう」
それは唐突に発せられた。でも僕は、別段驚きはしなかった。
「わかった。今までありがとう」
その言葉にぎゅっと眉根を寄せ、一瞬目を閉じるも直ぐにカバンを持って部屋を出ていった。
その背を見送ったあと、僕はゴロンと反対側を向く。
なんで別れを告げた方が辛そうな顔をするのだろう。
窓に広がる夜景を見ながら、先程の彼を思い出す。
別れを告げるのがわかってたのに、僕としたのかな?それとも、してる最中に別れようと思ったのかな?
いつものように待ち合わせをして、いつものようにホテルに入って、いつものように体を繋げた。
特に変わらない彼の行動に、いつから別れを言おうと思っていたのか想像もつかない。でも・・・。
僕はまた振られたってことだね。
何人もの人が僕の上を通り過ぎていく。時々立ち止まってくれる人もいるけど、大抵は彼のように去っていく。大体3ヶ月・・・。
彼は3ヶ月半のお付き合いだから・・・そんなものか。
ここまで来ると、僕の方に非があるのかもしれない。
彼は決して悪い人じゃなかった。
顔は悪くないし、性格も優しい。デートも飽きさせないように色々考えてくれたし、夜の方も下手ではなかった。
僕はベッドから出るとシャワーを浴びて服に着替えた。そしてスマホとキーを持つとバーラウンジへと向かう。
まだそれほど遅い時間では無い。少し飲んで、運が良ければ一夜の相手が見つかるかもしれない。
たった今振られたばかりだと言うのに、僕は次を探してる。
あ、そういうところか・・・。
振られても僕の心は痛まない。それほど相手に執着していないからだ。
でも嫌いじゃなかった。
だからキスもするし、体も重ねる。その人のものを口ですることだって・・・飲むことだってできる。
でも・・・。
好きでもなかった、てことか。
僕はカウンターの端に腰掛けて、軽めのカクテルをおまかせで頼んだ。
男でも女でも、今日最初に声をかけてくれた人にしよう。
そう思いながら、出てきたカクテルをちびちび舐める。出してくれた時、このカクテルの名前を言われたけど、忘れてしまった。
お酒は飲むけどあまり強くはない。それに、実はあまり興味もない。要は酔えればいいのだ。
たとえ相手が見つからなくても、アルコールが入れば一人でも眠れる。
そう思ってたら、隣に人の気配。
「隣、いいですか?」
テノールの声に顔を上げると、背の高いスーツの男が立っていた。
顔もスタイルも悪くない。
「どうぞ」
ここは普通のホテルのバーラウンジ。その手の人ばかりが来る場所じゃないけど、わざわざ隣に来たということは、そういう意味だよね。
「お一人ですか?」
彼は水割りを頼んで僕を見た。一人だと思ったから声をかけたんじゃないの?
「ええ。あなたは?」
愚問に愚問で返す。こういうやり取り、嫌いじゃない。
「実は2年ぶりに日本に帰ってきたところなんですよ。その間に気軽に声をかけられる友人もいなくなってしまって・・・」
水割りが前に置かれる。それに小さくありがとうと応える。
「でも、なんだか人恋しくてここに来たんです。もし良かったら、少し付き合ってもらえませんか?」
さわやかに笑いながら話す彼を横目で見ながら、カクテルを一口飲んだ。
人恋しい、か・・・。僕は人肌が恋しい。
「僕もちょうど一人が寂しかったんです。その一杯が終わったら、少し部屋で話しませんか?」
そしてもう一口飲んだ。
これ以上飲んだら酔ってしまいそうだ。
「いいですね。ではそうしましょう」
相手はその意図がわかっているのか、快く同意してくれた。
彼が飲み終わるのを待って、僕達は彼の部屋に向かった。そして、中に入った瞬間、お互いに身を寄せて唇を合わせた。
背の高い彼の首に腕を回し、彼は僕の背を掻き抱いた。
初めから激しいキスに頭がクラクラする。
あんなにさわやかでスマートな彼からは想像出来ないほど激しく唇を吸われる。まるで食べられてしまうかと思うほど唇を食まれ、舌を引きずり出される。それを思う様吸い上げられ、絡め取られ、そして唾液を流し込まれた。
「ん・・・んん・・・っ」
呼吸が追いつかないほどの激しい動きに、酸欠を起こし始めて足元がぐらついた。すると腰を抱えられ、唇を合わせたままベッドまで運ばれる。そしてその身をベッドに沈められても唇は離れなかった。
軟体動物のような舌が口内を嬲っていく。その間にシャツの端を引きずり出され、入ってきた手が脇腹を撫で、胸の突起を転がした。
「んぁ・・・っ」
体がビクンと跳ねる。その反応に更に大胆にそこを摘まれ、先端を擦られた。
「はぁ・・・ん・・・っ」
唇を塞がれているため、吐息のような喘ぎしか出ない。
一気に体に火をつけられ、僕はもどかしく身を震わした。彼のものも僕に反応してさっきから硬いものが当たっている。けれど、彼の右手がベルトを外そうと手にかけるもなかなか上手くいかない。その様子にもしかして、と思う。
はぁはぁと息を切らせながら唇を離し、耳元に寄せる。
「・・・もしかして男は初めてですか?」
その囁きに、彼は体をビクンとさせた。その様子に、僕はよいしょと体の位置を入れ替えて、仰向けの彼の上に跨った。
「僕がリードしてもいいですか?」
僕は彼が外し損なったベルトを外し、下着ごとズボンを脱いだ。だけどシャツは脱がない。男の裸を見たら、萎えてしまうかもしれないから。
シャツだけ身につけた僕は屈んで彼にキスをした。
小さなキスを繰り返し、手は彼のズボンの前を寛げる。
萎えてしまうかも・・・なんて杞憂だった。
彼のそこは熱く滾り、下着から飛び出さんばかりに上を向いていた。
小さなキスを徐々に深くしながら下着を下ろして彼の昂りを解放すると、それを握ってゆっくり上下に動かした。彼の体が僅かに震える。
「目を瞑ってて」
僕は両手で包むように握ると、そこをぱくんと咥えた。びっくりしたように彼の体が跳ねたが、僕は構わず深く口に含み、たっぷりの唾液とともに舌と手で彼を扱いた。
大きい・・・。
これがこの後僕の中に入ってくると思うだけでゾクゾクする。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音をわざと立たせ、届かない根元を手で扱きながら裏筋に舌を這わせた。そして上目遣いに彼を見ると、目を瞑っていると思った彼は目元を赤く染めて僕を見ていた。
僕はその目を見ながら殊更ゆっくりと先の割れ目を舐め、そのままわざと舌を見せながら口を離した。そして再び彼に跨ると、腹につくほど反り返った彼の猛りを後ろ手に持って後孔にあてがった。
ここへ来る前、別れた彼を一度受け挿れているそこはまだ柔らかく、触らなくても彼の先端を難なく飲み込んだ。そしてゆっくり身を落としていく。
「・・・ぁん・・・ぅん」
自らの体重で深く彼を受け入れるもそれだけで強い快感に体が震える。
基本僕は誰かと付き合うとその人としか寝ない。だからいつも別れて違う人を受け入れる時は最初違和感を感じることがあるのだけど・・・。
この強い快感は・・・。
大きさなのか、角度なのか、彼のは挿れるだけで僕の体は感じまくり、それだけでイってしまいそうになる。
体の相性・・・?
まだ何も動いていないのに、僕は覚えたての初心な子供のように快感に身を震わせている。すると急に彼が起き上がり、あっという間に体を入れ替えた。
繋がったまま体を倒されてベッドに沈められる。その時の刺激に更に体が煽られて、下肢に力が入った。その瞬間彼がうっと唸り、僕の中に放った。
まだ挿れただけだというのに、彼もまた強い快感に翻弄されたらしい。
いつもは必ず相手にはゴムをつけてもらってるので、中に直接出されることは滅多にない。今日も頃合いを見てつけてもらうか、外に出してもらおうと思ってたのに、想定外の快楽にその余裕がなかった。
一度放ってサイズダウンした彼のものに少し余裕ができて来たものの、まだ籠ったままの僕の熱が体の中に渦を巻く。
彼のものがずるりと抜かれる。
精を放って冷静になったのか、勝手に終わろうとしているのか・・・。しかしそれは完全に抜ける前に再び押し入ってきた。
「はぁ・・・んっ」
予想外のその挿入に体が必要以上に跳ねる。
そして、体が見えないように着たままになっていたシャツを首近くまで捲られて乳首を強く抓られた瞬間、僕のものは勢いよく爆ぜた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
整わない息を吐きながら快感を逃そうとするも、いつまでも体の中に留まり身体を震わせる。
いつもなら突き抜けて終わるのに、何かおかしい・・・。
いつもと違う感じ方に少し恐怖を覚えていると、彼は僕のシャツのボタンを外して脱がしてしまった。
膨らみのない胸とまだ半勃ちの昂り、そして腹に散った白濁・・・。
このまま終わられても仕方がない。
そう思っていたのに、彼はおもむろに腰を動かし始めた。
いつの間にか硬度が戻ったそれに中を擦られ、体の中で燻っていた快感が再び暴れだす。
「あ・・・あ・・・あ・・・っ」
一度目の射精を恥じるかのように激しく抽挿されるそれに翻弄され、一気に高みに追い上げられる。
いつの間にかに膝を抱えられ、高く上がった腰に激しく打ち付けられる乾いた音が静まり返った部屋に響き渡り、中では彼の放ったものがぐちゅぐちゅと音を立てて結合部分を泡立たせていた。
僕の口からはタガが外れたように嬌声が上がり、腰は無意識に揺れている。
ピンポイントの快感ではない。中全体が全て彼のものを感じ、彼をグイグイ締め付けている。
噛み付くような激しいキスをされ、下肢を深く抉られるだけでもイッてしまいそうなのに、彼は僕のそれを握り、上下に扱いた。
その一瞬で僕がイクと、彼も僕の中に勢いよく放った。
さっき僕より先にイッてしまったのが気に食わなかったらしい。
二度吐精したにも関わらず、僕たちの欲望は収まらず、お互い獣のように交わりあった。
どろどろに溶けた頭は過ぎる快感にもう恐怖も覚えない。ひたすら相手を求め、食いちぎらんばかりに締め付けた。
体はもっともっとと彼を求め、一度も中から出ていくことを許さなかった。
彼もまたそれに応えて抜かずに何度も放ち、僕の気が失われるまで与え続けてくれた。
その後どれだけ繋がっていたのか、僕ははっと目が覚めて時間を確認する。
4時23分。
隣を見ると彼はまだ深い眠りの中にいた。僕は起こさないようにそっとベッドから抜けると素早く身支度をして、音を立てないように部屋を出た。そして足早に自分の部屋に戻る。
胸の鼓動が収まらない。あんなの初めてだ。
今まで幾度となく男と寝たけど、あんなに乱れて求めたことなんてなかった。
いつもどこか冷静で余裕があったなに、あんな自分が隠れていたなんて・・・。
収まらない強い快感に恐怖すら覚えた。僕は一体どうなってしまうのだろう、と。
怖い。
初めて誰かを怖いと思った。
あの人は僕を変えてしまう。
その恐怖を振り払うかのように、僕はバスルームに入って熱いシャワーを浴びた。どこもかしこにも残る彼の痕跡を消すかのように洗い上げ、散々放たれたものも中からかき出した。
これは夢。
僕は夢を見てるんだ。だから目が覚めたら全てなかったことになる。
僕は髪を拭くのもそこそこに、ベッドに入った。
チェックアウトの時間まで、眠ることにしたのだ。
週末の夜のことを夢だと思い込み、気持ちも新たに出社したというのに、悪夢は覚めていなかった。
目の前に新しくアメリカ支社から赴任してきた部長が挨拶をしている。
彼だった。
そういえば、2年ぶりに帰国したと言ってたっけ。
僕は極力彼の目につかないように視線を下げ、紹介が終わると直ぐに自分のデスクに戻った。
会社では目立たぬように前髪を垂らし、眼鏡をかけている。だけど、見つからないはずはなかった。
「ちょっといいかな?この書類について聞きたいことがあるんだけど」
僕の後ろに来た彼はいかにもな感じで僕が出した書類を差し出した。それを受け取ろうとするとすっと書類が下げられる。
「私の部屋で話してもいいかな?」
断れる訳もなく、僕は部長室に入って行く彼の後に従った。彼はドアのところで待ち構え、僕が入るとドアに鍵をかけた。
「君・・・だよね?」
そう言うと、僕の眼鏡を外し、前髪をかき上げられた。
「・・・セクハラですよ、部長」
一応牽制するが、誤魔化せるわけもない。
「僕もあなたも一夜の相手を求めていた。夜は明けました」
胸の鼓動が止まらない。
朝、彼が入ってきた時から壊れたように脈打っている。
「私は一夜のつもりはなかったけどね」
彼は余裕の笑みを浮かべて僕の腰に手を回した。
「・・・運命を信じる?」
ここで会ったことを言ってるのだろうか?
「信じません。ただの偶然です」
あなたもきっと、僕の上を通り過ぎていく一人だ。
今までは来るものは拒まず、誰であっても付き合ってきた。だけど、彼はダメだ。この人に去られたら、きっと僕はダメになる。
「この広い東京で何社も会社があるのに?しかも同じ部署だ」
それでも、運命なんてただのおとぎ話だ。
そう言おうと思った唇を塞がれる。けれど、肩を押して唇を離した。
「あなたもきっと、僕の前から去りますよ」
「なぜ?」
まっすぐ見つめられて僕は顔を横に向けた。
「みんなそうだからです。大体3ヶ月位するといなくなります」
その言葉に彼は少し考えて、
「なら賭けをしよう」
と言った。
「3ヶ月後に私が別れを切り出したら君の勝ち。別れなかったら私の勝ち。もし私が勝ったら君のその先の3ヶ月をもらおう。そしてまた賭けをして、私が勝ったらさらにその先の3ヶ月をもらい受ける」
楽しげに語るその提案に、僕は眉を顰める。
「僕が勝った時のことがありませんが・・・」
「君が勝つことは無いよ」
どこからその自信が出てくるのだろう。それに大事な部分が抜けている。
「僕から別れを切り出したらどうするんですか?」
「それも無い」
「?」
「君は私が好きだろう?」
だから、どこからその自信が・・・て、なんだか面倒くさくなってきた。胸の鼓動もいつの間にか収まっている。彼の腕の中にいるからだ。
「もしも、でいいです。僕が勝ったら何をくれますか?」
きっと僕は立ち直れなくなりますよ?その代償はなんですか?
「もしももないけどね・・・。そうだな・・・私の残りの人生をあげよう」
・・・それってやっぱり負けないってことだよね?
僕は一つ息を吐いた。
この腕の中は心地よい。
離したくない。
「じゃあもし僕が勝ったら、あなたの命を下さい」
命懸けですよ?
「いいよ。じゃあ残りの人生、命も含めて君にあげよう」
なんでもない事のように言い放つと、これでお終いとばかりに唇を合わせてきた。
まだ一日が始まったばかりのオフィスで、僕たちは激しいキスをした。
了
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拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
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