上 下
17 / 19
初夜を夫に拒否された瞬間、これが二回目の人生だと気付きました──。

後編

しおりを挟む
「私は、もう一つ守護神に願った。私の命を身勝手に奪い……そしてまた再び、あなた達が私の命を奪おうとしているならば……それ相応の罰をお与え下さいと」

「何!?」

「ただの……出来心だったのよ!でも、まだ実行されて居ないんだし──」

「されたのよ!あの時、私は──」

 私は、二人にあの鏡を突き付けた──。



 そこには……一回目の私の人生が、そして彼らのやった事が、次々に映し出されて行く。
 
 そしてそれを見た二人は、ハッと目を見開き……その顔は一気に血の気が失せ、そしてワナワナと体を震わせ……恐らく、この二人も今の自分が二回目の自分だと気付いたようだ。

 でも、もう何もかもが遅い。

 だって、あなたたちはもうすぐ──。



「その、鏡……私の、お兄様が磨いていた。魔石を、毎日磨いて作り上げ……あなたの、お墓に──」

 そして女は、もうそれ以上何も口にしなくなり……それを見た男は、私に必死に手を伸ばしたが……私はその手を叩き落とした。

「私、あなたのような不誠実な夫は要らないの。二回目の人生は……私の事だけを思ってくれる、素敵な方と結ばれるわ──」

 私の言葉に、彼は涙を流し……そして、静かに目を閉じた──。



 その後、あの二人は謎の病に倒れ亡くなった事になった。

 その直前、魔石がただの石ころに変わった事もあり、二人は神罰でああなったとも言われたが……真相は、私しか知らない。

 いや……もう一人、居るか──。



「この鏡……ありがとうございました。」

 私は、あの山の神殿を訪ねた。

 やはり、そこに彼は居た。



「お礼など、俺は言って貰える立場じゃ……。俺の妹が、君に酷い事を──」

「あの子は、妹でも元は捨て子……あなたとは、血の繋がりもないじゃないですか。だから、ご自分が兄だからと気に病む必要はないんです」

「それだけじゃないんだ。俺は……一回目の人生の時、君の事が密かに好きだった。でも、気持ちを伝えられなくて……。そしたら、あの妹と君の夫により、君は命を落とす事になり……。それを知った俺は、どうか君が、今度は幸せな人生を歩めるようにと……この山の守護神に願ったんだ。すると、この石を使い鏡を作り、彼女の墓標に備えろと神託を受けた。そしてその通りにしたら、鏡から強い光が放たれ……そして俺は、一回目の人生の記憶を持ったまま、二回目の人生を歩んでいた」

 そうか……私は彼のおかげで、今ここに居られるのか──。



「君が、あの男と出会わないよう、そうしてあげられれば良かったんだが──」

「いいえ……十分ですよ。あの時、思い出せただけでも良かったんです。これから先、私が幸せになれるかは……私自身が努力すべき事ですから」

 私は、彼に近づき……あの要石の欠片を、その石の上に置いた。



「あの男との結婚式の際……私にこの石の欠片をくれたのは、ちゃんと意味があったんですね」

 彼は、あの女と共に式に招待されていたが……その式が終わった後、私に駆け寄り、これを差し出した。

『これは、君を幸せにする石だから……どうか、持って居て欲しい──』

 その真剣な眼差しに、私は断る事はせず……何か困り事が出来たらこの石にお願いしようと決め、クローゼットに隠していたのだ。

 あの男が見たら、美しい石だと言って、売ってしまいそうな気がしたから──。



「思えば……その時から私は、あの人に不信感を抱いていたのかもね……」

「え……?」

「守護神様……この石はもうお返しします。私の願いを叶えて下さり、ありがとうございました。お陰様で、私の幸せは……もう、すぐ傍にありそうです」



 私は、隣に立つ彼を見た。

「私は……この鏡で、これを作ったあなたの一回目の人生を見ました。あなたは私を思い、縁談を断り続けて居たのですね。そして、それは今でも──」

「俺は……昔も今も、君だけが好きなんだ。例え……三回目の人生があるとしても、俺はきっと君を愛するだろう」

 

 彼の目は、私にあの石を渡した時と同じ、真剣な目をしていた。

 この人の愛なら……私、信じられるわ。
 いや……信じてみたい──。



「この鏡には、悲劇的な事ばかりしか映らなかったけれど……そうじゃなく、幸せな……輝かしい日々を映したいわ。だって……せっかくあなたが、私を想い作ってくれたのだから。だから、どうか私のこの願い、一緒に叶えて下さいませんか?」

 そう言って、私は右手で鏡を抱き締め……左手を彼に伸ばした。

 彼は一瞬驚いた顔をしたけれど……すぐに穏やかな笑みを浮かべ、私の左手を優しく取ると……その薬指にそっとキスを落とした──。



 初夜にあの男に叩き落とされた、愛を乞うこの虚しい左手は……今は、こんなにも深い愛を与えられている。
 
 私はその喜びに……ただうっとりと目を閉じた──。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【本編完結】旦那様、離婚してくださいませ!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,072pt お気に入り:5,434

ロリコンな俺の記憶

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:3,834pt お気に入り:15

冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,354pt お気に入り:177

お高い魔術師様は、今日も侍女に憎まれ口を叩く。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:532pt お気に入り:120

飯屋のせがれ、魔術師になる。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:86

最初に私を蔑ろにしたのは殿下の方でしょう?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,042pt お気に入り:1,958

運命の番を見つけることがわかっている婚約者に尽くした結果

恋愛 / 完結 24h.ポイント:16,076pt お気に入り:261

処理中です...