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「アルト、入って?さぁマリー、彼をお出迎えして。」
「し、失礼します!」
ふわん。
な、何だ……?
俺の足に、何やら柔らかな感触が──。
「ニャーン」
ね、猫……?
下を見れば、フワフワの真っ白な毛並みをした猫が、俺の足にじゃれついている。
「この子が、マリーだよ。マリーの毛並みとアルトが巻いてくれたストール……どちらも温かくてふわっとしてるから、間違えたんだ。」
「そ、そうだったんですね。あぁ、良かった……女の子じゃなかった。カイル様、まだ誰のものでもなかった──!」
俺は、思わずその場にへたり込んでしまった。
それをじっと見ていたカイル様は、俺に手を差し伸べ抱き起すと、ソファーに座らせてくれた。
「……君は、本当にアルトではないんだね。アルトも俺の事を慕っていたけど……それはただ、年上に甘えるような感じでしかなかったから。」
「俺はあなたの事を、お兄さんとして好きとかじゃないです。あなたの事を、一人の男性として好きなんです!」
※※※
その時だった。
「お前、よくこの城に来れたな……!」
そう大声を上げ、部屋の中に一人の男が踏み込んできた。
「サ、サリュー様……!」
「兄上、なぜここに……先程おみえになった叔父上に連れられ、ここを出たのでは──!?」
「申し訳ありません、すぐにお連れ致します!」
騒ぎを聞きつけ駆けつけた使用人の男が、慌てた様子でサリュー様を部屋から連れ出そうとした。
「離せ、使用人の分際で生意気な!忘れ物があってな……それでお前の部屋の前を通ったら、ずいぶんと面白い話が聞こえるじゃないか。この男の正体、アルトではなかったか。あの男に、死人の魂でも入ったか?やはりあいつは、ろくでもない男だ。俺が話しかけてやっても、陰気な顔ばかりして。だから正反対のノアを選んだと言うのに……なのにこんな目に合うとは!アルトなどどいう男に関わったせいで、俺は不幸になった。弟よ……お前も今にきっと不幸になるぞ!」
使用人の制止も聞かず、サリュー様はそう言って俺を罵った。
俺はその言葉に、胸の奥がカアッと熱くなった。
「……アルトが暗くなったのは、あなたがいつもノアと比べるからだろう?見た目よりも、中身をもっと気に掛けろ?そんなの、あの子はとっくの昔にやってた。何度も教科書の問題を解いて、勉強を頑張って。何でそれをノアが気づいて、肝心のあなたが気づかないの?あなたが少しでも気づいてあげたら、アルトは虐めを思いとどまったよ……?もうこれ以上、アルトを悪く言うのは辞めて。それに、カイル様はあなたと同じになどならない!俺が、そんな事させない。俺は、カイル様が何よりも大事で誰よりも愛してる。俺が、カイル様を幸せにするんだから──!」
俺は、ポタポタと涙を零していた。
アルトの涙?
俺の涙?
それとも、二人分かな……?
分からない……だけど、自分の言った事に、何一つ嘘はないよ──。
「兄上。あなたは、何度彼を泣かせれば気が済むのです?お忘れですか、神の愛し子の言葉を。今後、友達のアルト様に暴言を吐こうものなら許さない、そう彼は言いました。なのに、あなたはこうしてそれに背いた。次の王として、先程のあなたの振る舞いは見過ごせない。」
その言葉を聞いた使用人が城の兵を呼び、サリュー様は皆に取り押さえられ部屋を後にした。
「アルト……もう、泣かないで?ありがとう、俺を守ってくれたんだね。」
「お、俺のせいで、カイル様まで酷い事を言われた……!ごめんなさい……俺が、あなたを好きになってしまったから──!」
するとカイル様は、俺をその胸に優しく抱き締め、目に溜まった涙をチュッと吸い取ってくれた。
い、今……カイル様、俺にキスした──!
「謝らないで……。俺は君の言葉を聞いて、とても嬉しかったよ。俺をこんなにも好きでいてくれる子が居るなんて、何て幸せな事なのだろうって……胸の奥が打ち震えた。それで、俺はそれを聞いてこうも思ったよ。俺も……そんな君の事を、幸せにしたいって。」
「そ、それって……。」
「君が何者であろうが、俺は構わない……ちゃんと受け入れるよ。だから、君にはいつも笑っていて欲しいんだ。その為に、俺は君を大事にする……そして、誰よりも君を愛する。だから、俺と一緒に幸せになろう──?」
そう言って優しく微笑むカイル様を見て、俺はこくんと頷いた──。
※※※
「カイル様の結婚相手って、この子だったの!?」
「まさか、悪役令息アルトだったとはね~。でも、どうしてこんな事になったのかな。」
「それはね……きっとアルトが頑張って、カイル様のハートを射止めたんだよ!」
友人たちが手にし話している、BLゲーム「禁断の薔薇園」の攻略本を見て、私はそう言った。
お兄ちゃん……あなたは突然この世を去ったけど……今はすごく幸せでいるみたいね。
だってここに描かれた笑顔……アルトなんだけど、私にはお兄ちゃんが笑ってるみたいに見えるんだ。
結婚式の場面と説明が書かれたページには、大勢の人に祝福され笑みを交わす、カイル王子とアルトの姿があった──。
「し、失礼します!」
ふわん。
な、何だ……?
俺の足に、何やら柔らかな感触が──。
「ニャーン」
ね、猫……?
下を見れば、フワフワの真っ白な毛並みをした猫が、俺の足にじゃれついている。
「この子が、マリーだよ。マリーの毛並みとアルトが巻いてくれたストール……どちらも温かくてふわっとしてるから、間違えたんだ。」
「そ、そうだったんですね。あぁ、良かった……女の子じゃなかった。カイル様、まだ誰のものでもなかった──!」
俺は、思わずその場にへたり込んでしまった。
それをじっと見ていたカイル様は、俺に手を差し伸べ抱き起すと、ソファーに座らせてくれた。
「……君は、本当にアルトではないんだね。アルトも俺の事を慕っていたけど……それはただ、年上に甘えるような感じでしかなかったから。」
「俺はあなたの事を、お兄さんとして好きとかじゃないです。あなたの事を、一人の男性として好きなんです!」
※※※
その時だった。
「お前、よくこの城に来れたな……!」
そう大声を上げ、部屋の中に一人の男が踏み込んできた。
「サ、サリュー様……!」
「兄上、なぜここに……先程おみえになった叔父上に連れられ、ここを出たのでは──!?」
「申し訳ありません、すぐにお連れ致します!」
騒ぎを聞きつけ駆けつけた使用人の男が、慌てた様子でサリュー様を部屋から連れ出そうとした。
「離せ、使用人の分際で生意気な!忘れ物があってな……それでお前の部屋の前を通ったら、ずいぶんと面白い話が聞こえるじゃないか。この男の正体、アルトではなかったか。あの男に、死人の魂でも入ったか?やはりあいつは、ろくでもない男だ。俺が話しかけてやっても、陰気な顔ばかりして。だから正反対のノアを選んだと言うのに……なのにこんな目に合うとは!アルトなどどいう男に関わったせいで、俺は不幸になった。弟よ……お前も今にきっと不幸になるぞ!」
使用人の制止も聞かず、サリュー様はそう言って俺を罵った。
俺はその言葉に、胸の奥がカアッと熱くなった。
「……アルトが暗くなったのは、あなたがいつもノアと比べるからだろう?見た目よりも、中身をもっと気に掛けろ?そんなの、あの子はとっくの昔にやってた。何度も教科書の問題を解いて、勉強を頑張って。何でそれをノアが気づいて、肝心のあなたが気づかないの?あなたが少しでも気づいてあげたら、アルトは虐めを思いとどまったよ……?もうこれ以上、アルトを悪く言うのは辞めて。それに、カイル様はあなたと同じになどならない!俺が、そんな事させない。俺は、カイル様が何よりも大事で誰よりも愛してる。俺が、カイル様を幸せにするんだから──!」
俺は、ポタポタと涙を零していた。
アルトの涙?
俺の涙?
それとも、二人分かな……?
分からない……だけど、自分の言った事に、何一つ嘘はないよ──。
「兄上。あなたは、何度彼を泣かせれば気が済むのです?お忘れですか、神の愛し子の言葉を。今後、友達のアルト様に暴言を吐こうものなら許さない、そう彼は言いました。なのに、あなたはこうしてそれに背いた。次の王として、先程のあなたの振る舞いは見過ごせない。」
その言葉を聞いた使用人が城の兵を呼び、サリュー様は皆に取り押さえられ部屋を後にした。
「アルト……もう、泣かないで?ありがとう、俺を守ってくれたんだね。」
「お、俺のせいで、カイル様まで酷い事を言われた……!ごめんなさい……俺が、あなたを好きになってしまったから──!」
するとカイル様は、俺をその胸に優しく抱き締め、目に溜まった涙をチュッと吸い取ってくれた。
い、今……カイル様、俺にキスした──!
「謝らないで……。俺は君の言葉を聞いて、とても嬉しかったよ。俺をこんなにも好きでいてくれる子が居るなんて、何て幸せな事なのだろうって……胸の奥が打ち震えた。それで、俺はそれを聞いてこうも思ったよ。俺も……そんな君の事を、幸せにしたいって。」
「そ、それって……。」
「君が何者であろうが、俺は構わない……ちゃんと受け入れるよ。だから、君にはいつも笑っていて欲しいんだ。その為に、俺は君を大事にする……そして、誰よりも君を愛する。だから、俺と一緒に幸せになろう──?」
そう言って優しく微笑むカイル様を見て、俺はこくんと頷いた──。
※※※
「カイル様の結婚相手って、この子だったの!?」
「まさか、悪役令息アルトだったとはね~。でも、どうしてこんな事になったのかな。」
「それはね……きっとアルトが頑張って、カイル様のハートを射止めたんだよ!」
友人たちが手にし話している、BLゲーム「禁断の薔薇園」の攻略本を見て、私はそう言った。
お兄ちゃん……あなたは突然この世を去ったけど……今はすごく幸せでいるみたいね。
だってここに描かれた笑顔……アルトなんだけど、私にはお兄ちゃんが笑ってるみたいに見えるんだ。
結婚式の場面と説明が書かれたページには、大勢の人に祝福され笑みを交わす、カイル王子とアルトの姿があった──。
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