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本編
8 記憶喪失
しおりを挟む「記憶喪失、ですか?」
「あぁ、何も覚えていないらしい。…セレス、危ないから近づくな。噛みつかれそうになった」
「も、申し訳ありません…。でも、俺、噛みつこうなんて…」
「…混乱していたのでしょう。こんなに酷く痛めつけられていたのですもの。しょうがないわ」
「…そうだな。しかしセレスはしばらくは近づいてはいけないよ」
「仰せのままに、アルヴィン様」
「…ご、ご無礼を働き、誠に申し訳ありません…ご主人様…」
「…いい、許す。生死の淵から帰ってきたんだ。混乱もするだろう。しかし覚えておくといい。お前の身体には奴隷紋が刻まれている。俺に、また俺の所有物に害をなす事は自身の死に繋がることを理解しろ」
「…奴隷紋?」
「ああ、首の後ろに刻まれている。…見てみるか?セレス、鏡を2つ用意してくれ」
「承知いたしました。少々お待ち下さい」
セレスが足速に立ち去った。アルヴィンは男の金眼を見つめた。男が口を開き何か喋ったが何故かアルヴィンには理解できなかった。
「なるほど、聖女の加護ですか。それでは歯が立たない訳です。安心してください。流石の俺でも聖女は食べませんよ」
「…?今、なんと?」
「…?俺は何も…。ご主人様?」
「…いや…」
「えと、…申し訳ありません…?」
2人で首を傾げているとセレスが手鏡を2つ手にして戻ってきた。
「お待たせいたしました。こちらをどうぞアルヴィン様」
「ああ、ありがとう」
セレスからそれを受け取り少々身構えつつもアルヴィンは男の側に寄った。
1つの鏡を手に持たせ、赤い髪を捲り、もう一つで首の後ろを写した。
「ほら、これが奴隷紋だ」
「わっ…本当だ。…美しい紋様ですね…」
「ああ。初めから刻まれていた物に、俺の所有物だと追加したんだ。お前は何度か売買されているらしいからな。普通の者よりも複雑で強いものが刻まれているそうだ」
「それは召喚主が俺を使役しようとしたからでしょう。肉の器とは随分と不自由な物ですね。召喚主達は俺の眷属にでも食べられてしまったのでしょうか?その辺りが記憶にありません。あはは、隷属紋を刻まれてもいくらでもやり用はありますから」
「…なんだ。なんと言った?」
「いえ、綺麗な紋様ですと…」
そんな内容ではなかったとアルヴィンは思ったが、セレスの方を見ても特段気にしている素振りはなかった。
じっと見つめるとセレスは怪訝そうな顔をしてアルヴィンを見返して、何かを思いついたのか男に質問した。
「せっかく鏡があるのだからご自身の顔をよく見てみたらどうでしょうか。もしかしたら何か思い出すかも知れませんしね」
「俺の…顔ですか?」
男は改めて鏡を覗き込むとじっくりとその鏡像を見つめた。
そうして、ポロリと涙を溢した。
「…泣いているのか?」
「ああ、ああ。そうです。これは俺の顔です。そうだ、そうです、俺の顔だと分かります…。ちゃんとすべて揃っている……。揃っている?…ああ、でもこれは俺の顔だ…」
嬉しそうに顔を掌で擦っていた男の動きが止まった。
「…でも、この瞳も、髪も、…俺の物はこんな色では無かった。…そんな気がします」
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