ウチのメイドがお嫁に出るので、没落貴族の俺が死にかけ奴隷を購入したら記憶喪失でなんだか様子がおかしくて…?

蔓巍ゆんた

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本編

10 まだまだ我慢

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「レド、訓練に付き合ってくれないか」
「はい、俺で宜しければ御相手致します」

 屋敷の仕事を一通り終えたであろうレドにアルヴィンは木剣を渡した。
 セレスの教育は厳しくも的確だったようで、今や屋敷の事でレドにわからない事はなかった。
 そのセレスも随分と腹が大きくなってきていて安静にしていることが増えた。実質の生活基盤はレドに移ったと取ってよかった。

 そんな暮らしにも慣れてきた頃、アルヴィンがふと気まぐれで朝の訓練に誘ったところからそれは始まった。
 片脚を失い、義足のレドの訓練の為でもあったが、直ぐにそんな事は気にならなくなった。ハンデを背負いつつも木剣を振るうレドの動きはアルヴィンに引けを取らなかった。
 もしかしたら以前は剣を振るう事を生業なりわいとしていたのではないかとアルヴィンは予測した。このまま順当に訓練を続けていけば、実戦での活躍も期待できるだろう。

 コン、カン、カン、コン…

 乾いた軽い音を立てながら緩やかに決まった型を繰り返していく。
 最初はゆっくりと。徐々に加速していく。
 レドは片脚が細い木製なのも気にさせない軽やかなステップを刻んでいる。
 アルヴィンも全力は出していなかったが、この速さについていけるのは中々だった。

 コンカンコンカンコン…

 徐々に速く。徐々に強く。

 ゴッ、ガッ、ゴンガッゴッゴッ…

 少し押され気味だったレドの黄金の瞳が楽しそうに輝き、動きを変えた。それは少し粗野で、トリッキーなものだった。

「なっ…!?」
「あは」

 楽しそうに笑うレドを見て、アルヴィンも本気になった。見慣れない動きにも直ぐに慣れ、持ち前の速度で圧倒していく。

「くっ…」
「ほらっ!どうした」

 アルヴィンは興奮からぎらつく眼を眇め、レドを追い詰めていく。そうして幾度か打ち合い、レドの木剣を握る腕を跳ね上げた。

(もらった!)

 そうして止めを刺そうとした瞬間。
 レドの義足がアルヴィンの木剣を受け止め弾き返した。

「なに!?」

 レドはそのまま手を地面につき、回転して義足で攻撃を仕掛けてくる。
 
 コンカンゴッガッコンコンカン…

 レドの動きは見事な物だった。攻撃を受け止め、受け流し、時に義足を使い意表をつく。
 全くもって素晴らしい、とアルヴィンは思った。

「だが、まだまだだな!」
「っ…!あ…」

 アルヴィンはレドがちょうど義足側に体重をかけた所を見計らい、足払いをかけた。バランスを崩しながらも手に握り締めた木剣で対応しようとするレドのそれを弾き上げる。
 後ろに倒れていくレドの懐に潜り込み、動きに合わせてその体躯に馬乗りになった。
 無防備な首筋にアルヴィンは木剣を押し当てて勝利を宣言した。

「ふふ、いい動きだったぞ」
「はぁはぁ…参りました。ご主人様には敵いませんね。動きが速くて目で追うのがやっとです」

 息を荒げるレドに対して、アルヴィンは汗を流しながらも平静なままだった。
 体力差は明らかだったが、傷付き伏せっていた事を考えると素晴らしい動きだと感心せざる終えない。

「そんな事はないぞ?充分付いてきていた。途中の動きも良かったし…」
「はぁはぁ…あの…ご主人様」
「脚技も見事な物だった。あんなに柔軟に動けるのならば色々な戦術も…」
「その…ご主人様」

 顔を赤らめ戸惑うレドの様子に自分の思考に夢中なアルヴィンは気がつかない。レドの目が踊る。

「注文していた義足も少し形を変えた方が良さそうだな…」
「ご主人様っ!!」

 ついに耐えられなくなり、レドは大きな声を上げた。

「…ん?」
「はぁはぁ…この格好は…ちょっと…」

 そうレドに言われてアルヴィンは今の状況を把握した。倒れ込んだレドの腹の上にどっしりと座り込む形であった。

 アルヴィンは少し考えて意地悪く笑うとレドの顔の横に両手をついて覗き込んだ。

「なんだ、レド。上に乗られるのは不服か?生意気だな…」

 挑発的に歪められた目を、レドはうっとりと見つめ返した。

「ああ…、…ごしゅじんさま…」
「どうした、嫌なんだろう?」

 そう揶揄うアルヴィンの汗が、顎を伝い、恍惚と見上げるレドの口元に滴った。
 ポタポタと降り注ぐそれをレドは舐め、雛鳥のように口を開けてもっと欲しいと強請ねだった。

「あ…あ…ご主人様…。おいしいです…。もっと…、もっと欲しい…」
「……レド」

 アルヴィンの体液を口にする毎に怪しくヌルヌルと輝きを増す金眼に引き寄せられ、アルヴィンは顔を近付けていく。

「ご主人様ぁ…」
「あ…レド…」

 互いの熱い呼気が触れそうになった。

 だが、怪しいその空気も遠くからのセレスの呼び声で霧散した。

「アルヴィン様ーー!レドーー!お茶が入りましたよー!そろそろ休憩にしてはいかがですかーー?」

 明るいセレスの声にアルヴィンは我にかえると立ち上がり、レドに手を差し伸べて助け起こした。

「……レド、今日の訓練は終わりにしようか」
「…はい、承知しました。ご主人様」

 セレスの声がした方角に2人揃って歩き出す。




「ああ、良いところだったのに。流石聖女と言うべきですか。でも彼女の力も弱まりつつある。何故でしょうか?…あは、…何にしろ、もう少しの我慢ですね。もう少し…もう少し…。あぁ、ご主人様…」


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