10 / 52
本編
10 まだまだ我慢
しおりを挟む「レド、訓練に付き合ってくれないか」
「はい、俺で宜しければ御相手致します」
屋敷の仕事を一通り終えたであろうレドにアルヴィンは木剣を渡した。
セレスの教育は厳しくも的確だったようで、今や屋敷の事でレドにわからない事はなかった。
そのセレスも随分と腹が大きくなってきていて安静にしていることが増えた。実質の生活基盤はレドに移ったと取ってよかった。
そんな暮らしにも慣れてきた頃、アルヴィンがふと気まぐれで朝の訓練に誘ったところからそれは始まった。
片脚を失い、義足のレドの訓練の為でもあったが、直ぐにそんな事は気にならなくなった。ハンデを背負いつつも木剣を振るうレドの動きはアルヴィンに引けを取らなかった。
もしかしたら以前は剣を振るう事を生業としていたのではないかとアルヴィンは予測した。このまま順当に訓練を続けていけば、実戦での活躍も期待できるだろう。
コン、カン、カン、コン…
乾いた軽い音を立てながら緩やかに決まった型を繰り返していく。
最初はゆっくりと。徐々に加速していく。
レドは片脚が細い木製なのも気にさせない軽やかなステップを刻んでいる。
アルヴィンも全力は出していなかったが、この速さについていけるのは中々だった。
コンカンコンカンコン…
徐々に速く。徐々に強く。
ゴッ、ガッ、ゴンガッゴッゴッ…
少し押され気味だったレドの黄金の瞳が楽しそうに輝き、動きを変えた。それは少し粗野で、トリッキーなものだった。
「なっ…!?」
「あは」
楽しそうに笑うレドを見て、アルヴィンも本気になった。見慣れない動きにも直ぐに慣れ、持ち前の速度で圧倒していく。
「くっ…」
「ほらっ!どうした」
アルヴィンは興奮からぎらつく眼を眇め、レドを追い詰めていく。そうして幾度か打ち合い、レドの木剣を握る腕を跳ね上げた。
(もらった!)
そうして止めを刺そうとした瞬間。
レドの義足がアルヴィンの木剣を受け止め弾き返した。
「なに!?」
レドはそのまま手を地面につき、回転して義足で攻撃を仕掛けてくる。
コンカンゴッガッコンコンカン…
レドの動きは見事な物だった。攻撃を受け止め、受け流し、時に義足を使い意表をつく。
全くもって素晴らしい、とアルヴィンは思った。
「だが、まだまだだな!」
「っ…!あ…」
アルヴィンはレドがちょうど義足側に体重をかけた所を見計らい、足払いをかけた。バランスを崩しながらも手に握り締めた木剣で対応しようとするレドのそれを弾き上げる。
後ろに倒れていくレドの懐に潜り込み、動きに合わせてその体躯に馬乗りになった。
無防備な首筋にアルヴィンは木剣を押し当てて勝利を宣言した。
「ふふ、いい動きだったぞ」
「はぁはぁ…参りました。ご主人様には敵いませんね。動きが速くて目で追うのがやっとです」
息を荒げるレドに対して、アルヴィンは汗を流しながらも平静なままだった。
体力差は明らかだったが、傷付き伏せっていた事を考えると素晴らしい動きだと感心せざる終えない。
「そんな事はないぞ?充分付いてきていた。途中の動きも良かったし…」
「はぁはぁ…あの…ご主人様」
「脚技も見事な物だった。あんなに柔軟に動けるのならば色々な戦術も…」
「その…ご主人様」
顔を赤らめ戸惑うレドの様子に自分の思考に夢中なアルヴィンは気がつかない。レドの目が踊る。
「注文していた義足も少し形を変えた方が良さそうだな…」
「ご主人様っ!!」
ついに耐えられなくなり、レドは大きな声を上げた。
「…ん?」
「はぁはぁ…この格好は…ちょっと…」
そうレドに言われてアルヴィンは今の状況を把握した。倒れ込んだレドの腹の上にどっしりと座り込む形であった。
アルヴィンは少し考えて意地悪く笑うとレドの顔の横に両手をついて覗き込んだ。
「なんだ、レド。上に乗られるのは不服か?生意気だな…」
挑発的に歪められた目を、レドはうっとりと見つめ返した。
「ああ…、…ごしゅじんさま…」
「どうした、嫌なんだろう?」
そう揶揄うアルヴィンの汗が、顎を伝い、恍惚と見上げるレドの口元に滴った。
ポタポタと降り注ぐそれをレドは舐め、雛鳥のように口を開けてもっと欲しいと強請った。
「あ…あ…ご主人様…。おいしいです…。もっと…、もっと欲しい…」
「……レド」
アルヴィンの体液を口にする毎に怪しくヌルヌルと輝きを増す金眼に引き寄せられ、アルヴィンは顔を近付けていく。
「ご主人様ぁ…」
「あ…レド…」
互いの熱い呼気が触れそうになった。
だが、怪しいその空気も遠くからのセレスの呼び声で霧散した。
「アルヴィン様ーー!レドーー!お茶が入りましたよー!そろそろ休憩にしてはいかがですかーー?」
明るいセレスの声にアルヴィンは我にかえると立ち上がり、レドに手を差し伸べて助け起こした。
「……レド、今日の訓練は終わりにしようか」
「…はい、承知しました。ご主人様」
セレスの声がした方角に2人揃って歩き出す。
「ああ、良いところだったのに。流石聖女と言うべきですか。でも彼女の力も弱まりつつある。何故でしょうか?…あは、…何にしろ、もう少しの我慢ですね。もう少し…もう少し…。あぁ、ご主人様…」
20
あなたにおすすめの小説
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令嬢の兄、閨の講義をする。
猫宮乾
BL
ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。
美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる