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俺が最初に好きだったんだ

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 このクソ馬鹿単細胞自己中男は本当に自分が困った時しか連絡してきやがらない。

 阿保汚物カス腰抜け根性無しからの連絡が来ても絶対に未読無視してやるし、電話一回程度では出てやるものかと叶は心に決めていた。
 はずだったが、[非通知]の表示を見た瞬間通話ボタンを押していた。
 仕事を放り出して席を立ち、なるべく人気のない所に速足で移動する。

『あ、もしもしぃ?かなえ元気ぃ?ちょっとさぁ、悪いんだけどさぁ、…金貸してくんね?』

 気の抜けた、声。

 いったい、いつぶりだろうか。

 脳味噌スカスカ男はそんな事も覚えていないのだろう。ほんの1、2週間ぐらいしか経っていないかのような軽い調子だった。
 叶は喜びたくないのに、身体は勝手に歓喜に震えている。こんな薄情者の事など忘れてしまいたいのに。

「…やっぱりお前か、輝」

 絶対にこの興奮を知られたくなくて、感情を抑えきった無機質な声で答えた。

『そうそうオレ俺。ねね、1万!いちまんでいいからさぁ…』

 こいつの決まり文句だ。1万なんかでは絶対に足らないだろうし、強請ねだられるままに渡してもパチンコ代に消えるだけだ。わかっている。こんなにこの社会不適合者の事を理解しているのは叶だけだろう。
 なのに、こいつは、そんな事も分かってない。

「貸すわけないだろ。ボケ」
『どしてぇ…?じゃあ五千円でもいいから!マジ困ってんだよお…すぐ返すからさ…』

 そんな甘えた声を出したって、微塵も、これっぽっちも、絶対に、可愛いなんて思わない。思っていない。
 しかし叶はもっとそんな声を聴きたくて現実を突きつけてみた。

「輝…。…俺が総額いくら貸したか覚えているか…?」
『んえぇ…、いくらだっけ…?……5万くらい?』
「28万2千200円だ。馬鹿。お前のすぐ返すは最初だけだったじゃないか。その後もズルズルズルズルと…」
『マジごめんってば!なぁ悪いんだけど手持ち数百円しか無くて、今も減り続けてるからさ、手短に、お金…』

 困り果てた声を聞けば聴くほど愉悦を感じた。

「貸さない」
『…はぇ?』

 もっともっと困ればいい。
 こんなクソ馬鹿のすがる相手は他にいないのだから。

『なんでだよぉ…。俺とお前の仲だろ?』

 そんな仲を蔑ろにしたのはお前だろう?『親友』だと言ってたのに、世話を焼いてくれる相手を見つけた途端に叶の事など忘れていたくせに。

 叶はグラグラ煮え立つ感情をどうにも出来なくなり、ついに自身の中で最大の爆弾を落とした。

「…子供、産まれたんだ」

 どう、反応するだろうか。
 もしも微塵も興味を示さなかった場合はあの懐かしい顔面をぐちゃぐちゃにする為に今すぐ会社を飛び出してしまうかもしれない。

『……へ?……そっかぁ!おめでと!え?結婚したの?え?いつ?…俺全然知らないけど』

 戸惑った声を聞けて、少しだけ満足した。

「言ってないから」
『…なんでぇ?』
「結婚式に呼びたくなかった」

 あまりの事に声を出せなくなっている輝に叶は歓喜を抑え込んで、出来うる限り冷たい声を作って答えた。

「俺も自分の家庭の事だけで手一杯だ。昼間っから遊んでないでお前も働け…まぁ、どうしてもどうにもならないのなら、少しだけなら融通してやってもいいけどな」

 ツー、ツー、ツー…と、いつの間にか通話は切れていた。
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