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俺が最初に好きだったんだ
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しおりを挟む伊東輝が消えた。
親類が居らず、現状無職な素行のあまり良くない男を必死に探す人など叶以外にいなかった。
友人と言う立場では行方不明届さえ出す事は出来ず警察には頼れない。
いない。いなくなってしまった。
既読もつかず、電話もかからない。『電源が入っていないかーーーー…』と言うお決まり文句をいったい何回聞いた事だろうか。
気の所為だと信じたかった。少し大きめの金銭を手に入れて遊び呆けているだけだと。また誰かパトロンを見つけて転がり込んでいるのだと。
でも、違う。嫌な感覚だ。
このまま放っておいたら2度と会えない。
そんな気がする。
山。山だ。
山に行ったと言っていた。妙な生き物を見つけたと。
そうに違いないと、叶は確信していた。
ああ、きっと気軽に山に入り遭難してしまったんだ。
あの馬鹿は夢中になるとそれしか見えなくなってしまうから。今頃きっと身動きが取れなくなって、助けを待っているはずだった。
(ああ、いやだいやだいやだいやだ!!)
叶の関連できない所で永遠に消えてしまうなど絶対に許せなかった。
どうすれば良かったのか。どこで間違えてしまったんだろうかー…
叶は数日前の記憶を遡った。
…暗闇の中、最後の1本に火をつける。
1箱全て吸ってしまった。泣き言を言っていた癖に一向に輝は帰ってこない。遊び歩く金がまだあるのにあんなに哀れに縋って来ていたのだと思うとイライラとした。
それさえも吸い終わると叶はフラフラ近場のコンビニでもう一箱買うと再び元の場所へと戻る。
輝からの電話が切れた後、折り返しはなかった。こちらから掛けても電話はまったく繋がらず、叶は諦めて仕事に戻った。
だがしかし集中など出来るはずもなく、結局は早めに仕事を切り上げて金を下ろすと慣れた道を進んでいった。
年季の入ったその階段を上がると表札には変わらず「伊東」の文字があり転居していなくてホッとした。
そのまま待ち続け、待ち続け、待ち続け……今に至る。
待ちくたびれた叶の携帯がピロンっと鳴った。輝からの連絡かと期待して慌てて開いた。
ーー[何時に帰ってくる?]
可愛らしい絵文字と共にそんなメッセージが、来た。
配偶者からだった。
今この瞬間まで、忘れてしまっていた。
ーー今日は仕事で遅くなるから先に寝てて
ーー[そっか!お疲れ様~夕飯は冷蔵庫に入れとくよ]
ーーありがとう。ごめん
ーー[いえいえ。今日は生姜焼き!]
ーー楽しみ!明日の朝食べるから
…しばらく返信が無かった。
ピロンと再び鳴る。写真が送られてきた。
ーー[今日は全部食べました]
ふくふくとした幼い子供だ。顔中を、汚した、子供。
「………」
何をしているんだろうかまたこんな所に来て。もはやこの金も叶一人の金では無い。家族の共有財産なのに。
久しぶりに来た連絡で舞い上がって。
昔みたいに駆けつけた。
輝に、何を期待しているのか…叶自身全く理解出来ていなかった。
心が、冷えていく。
家族を作ってみたんだ。
偶発的なものだったが、それでも居場所は出来たはずだった。
それなのに彼からの電話1つで何もかも忘れ去り、嘘を吐き、こんな所で立ち続けている。
やめるべきだこんな事。
やめなくちゃいけない。
依存し合って、まともじゃない。
(…ーーーだって母親そっくりじゃないか…)
「…かなぇ」
そう、決意した叶の耳にか細い声が聞こえてきた。
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