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俺が最初に好きだったんだ

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 有給を取得した。
 私用の為に、とそれだけ書いた。
 上司は理由を聞きだそうとしていたが理解される事はないだろうと叶は適当にはぐらかした。繁忙期、それも急な説明のない有給取得に同僚達の雰囲気はどこか悪かった。
 しかし今の叶は会社内でどう思われるかなんて気に留める心の余裕など無い。

 とにかく輝の痕跡を集中して探したかった。

 それでも家族にはこれ以上嘘を吐きたくなくて、友人が失踪したと…探しに行きたいのだと話をした。
 …いや、欺瞞ぎまんだ。

 理解、して欲しかった。共感して欲しかった。一緒に心配して、大丈夫だと、まだ間に合うと、きっと生きて待っていると、安心させて欲しかった。
 

「ねぇそれは本当に貴方がしなくちゃいけない事なの?警察に任せたり、専門の機関にお願いした方がいいんじゃない?しかも山の中なんて貴方まで遭難したらどうするの?山での捜索は莫大な費用がかかるんだよ?それに山に行ったなんて決まったわけではないんでしょ?ちょっと気まぐれで出掛けてるだけってことはないの?……伊東…輝…さんだっけ?そんなに仲がいいなんて…、だって今まで貴方の口からは聞いたことがなかったし…結婚式にも呼んでいなかったでしょう?……それに、その人、あまりいい話は聞いた事がないよ。昔から貴方に付き纏って、お金を無心していたって…。…そんな人がいなくなったなんて何か危ない事でもしていたんじゃない?…巻き込まれたら大変だし、貴方が直接捜索する必要なんてないと思うけど?…ねぇ、私、ずっと1人で子供の面倒見てるんだよ?…家族の事、第一に考えて欲しい…。…それに………言い難いけど、…もしもなんの準備もせず1人で山奥に向かったんだとするならば……その、……自殺願望でも、あったんじゃ……」

 叶は、気が付いたら、手のひらがジンジンと痛み、彼女は床に崩れて、驚いてこちらを見上げていた。
 その頬は片側だけ痛そうに赤くなっていた。

 ああ、やってしまった。

 後悔と罪悪感と、…叩かれて少しだけ怯えた彼女の顔を見て感じたものを押し殺して叶は後ずさった。

「…ごめん、行ってくる」

 玄関を出てもう振り向かない。扉の隙間からすすり泣く声が聞こえた気がした。

 身の内の中ぐるぐると感情が渦巻いた。
 それが落ち着くとその後には沸々ふつふつと沸き立つように怒りの感情が思考を鎮めていく。

(………てっちゃんが自分で死のうなんて思うわけ無いだろっ!!明るくて元気で馬鹿で可愛いヒーローのてっちゃんが…!!ふざけるな!…今もまだ助けを待ってるんだ。絶対に。おれが、俺が行かないと。俺が見つけてやらないと!だってアイツには俺しか頼れる相手がいないんだっ……)

 

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