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【第3世・もうひとりの自分】
違和感のない『違和感』
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「ん………」
大きな机に突っ伏すような体勢で目が覚めると、私の背中には厚みのある布のようなものが被せられていた。曖昧な意識でその布に触れてみると、手触りからしてスーツの上着のようだ。
ズキズキと頭が痛むのを感じてさらに目が冴えるが、掛けられた上着の温かさが心地良くて再び意識を手放してしまいそうになる。
私が今いる場所は…先程まで突っ伏していた質の良い木材で出来た大きな机と、私が腰掛けている上質な革の椅子がよく似合う、とても広くて綺麗な応接間のような…………いや、もっと相応しい言葉を当てはめるならば、まるで、社長室のような……そんな場所だった。
「なんだここは…」
今、自分が腰掛けている場所から部屋全体が見渡せる。
背後には壁一面に広がるこの部屋唯一の窓ガラス。机の前にはこれまた高価な来客用であろうソファーとテーブルがあり、その下に敷かれた上質な絨毯。そして、右手の壁には自分は絶対に読まないであろう小難しそうなの書籍の数々がぎっしり詰め込まれた本棚、左手の壁にあるこれみよがしに飾られた絵画や剥製が自分の趣味でないことは確かで、その鼻に障る存在感が私に嫌というほど圧を与えてくる。
扉は正面の関門開きの扉と、今いる場所から左右に一箇所ずつ。
ここが何処だか確かめるには出入り口であろう正面の扉を出るべきか、左右の扉の先を散策すべきか考えどころである。
その前にまず何故こんなところに私がいて、こんなところで居眠りをしていたのか状況が把握できない。
「おや、お目覚めですか社長」
物音からして右手の扉が開くのを察した私が扉に目を向けると、水色がかった灰色の髪をした眼鏡の男がその扉から出てきた。
男は真面目そうな眼鏡に髪は七三分けのスーツ姿。その見るからに気難しそうな匂いを漂わせるその男が履いていたスラックスの色が、私に掛けられていたスーツの上着と同じ色だったことに、この男がどうして上着を着ていないのかを察した。
「これ、返します」
私が上着を渡すと男は渡された上着を黙ったまま受け取り、羽織った。
男性のスーツ姿ってカッコイイ!とはよく言ったものだ。その言葉をこの男にも当てはめられるならば、黄色い歓声でも飛ばてやりたいものだ。
そう痛感させられるほどその薄い灰色のスーツは男の髪と同化しつつ、その何とも言えない重い色合いが男の冷徹さを沸々と強めていった。
カッコイイ、などではない。ただ、ただ、怖い。
男は武器も何も持ってない。私に敵意や殺意があるわけでもない。
なのに私は今、この男を"怖い"と思っている。
「あの……」
「社長、13時から各部署の担当たちと会議があります。お疲れだとはお思いですが準備をお願い致します」
「そうか。わかった」
………………………………驚いた。何故だ。何故なのだろう。今、私はこの男が言ったことに当たり前のように返事をしてしまった。
さぞ普通に、慣れたような、何の違和感も不自然もない、返事。
身の毛がよだつということはこうゆうことなのだろうか。冷や汗が流れる。この男は何者なのだろうか…、何故、私はこんなところにいるのだろうか。問いただしたい疑問が溢れるばかりだが、どうにもこうにもそれを口に出せないでいるのは何故なのだろう。この男が怖いから?威圧されている?わからない。何もわからない。
わからなければやはり聞くしかない。
「ねえ、鈴木。聞きたいこ…………」
私の背中にさっきよりも大量の冷や汗が流れた。呼び止められた男は静止してこちらを見ているが、その男と交わる視線が私を貫き、一瞬ぐにゃりと私の視界が歪んだ。
ちょっと待て。
私は今、この男の『名前』を呼んだのか?
それがそいつの名前かどうかは呼び止められて静止したこの男の反応が答えを物語っているではないか。
確か『鈴木』だったか?苗字は鈴木……下の名前はなんだ?…そうだ『一哉』だ。
すずき………かずや、それがこの男の名前………。そしてこの男は私の…。
「鈴木一哉……。お前は私の秘書、だよな?」
「そうですよ?どうしたんですか、今更。それにしても顔色が優れませんね?大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だ。問題ない。会議まで時間がない……急ごう」
「何故」「どうして」という疑問がまだ少しも解消されていないのに業務を優先するところとか、男の言葉に私が普通に返事をしてしまったせいですっかり忘れていが、ひとつ引っ掛かるところをまた見つけてしまった。
そういえばこの男、最初に私を"社長"と呼ばなかったか…?
大きな机に突っ伏すような体勢で目が覚めると、私の背中には厚みのある布のようなものが被せられていた。曖昧な意識でその布に触れてみると、手触りからしてスーツの上着のようだ。
ズキズキと頭が痛むのを感じてさらに目が冴えるが、掛けられた上着の温かさが心地良くて再び意識を手放してしまいそうになる。
私が今いる場所は…先程まで突っ伏していた質の良い木材で出来た大きな机と、私が腰掛けている上質な革の椅子がよく似合う、とても広くて綺麗な応接間のような…………いや、もっと相応しい言葉を当てはめるならば、まるで、社長室のような……そんな場所だった。
「なんだここは…」
今、自分が腰掛けている場所から部屋全体が見渡せる。
背後には壁一面に広がるこの部屋唯一の窓ガラス。机の前にはこれまた高価な来客用であろうソファーとテーブルがあり、その下に敷かれた上質な絨毯。そして、右手の壁には自分は絶対に読まないであろう小難しそうなの書籍の数々がぎっしり詰め込まれた本棚、左手の壁にあるこれみよがしに飾られた絵画や剥製が自分の趣味でないことは確かで、その鼻に障る存在感が私に嫌というほど圧を与えてくる。
扉は正面の関門開きの扉と、今いる場所から左右に一箇所ずつ。
ここが何処だか確かめるには出入り口であろう正面の扉を出るべきか、左右の扉の先を散策すべきか考えどころである。
その前にまず何故こんなところに私がいて、こんなところで居眠りをしていたのか状況が把握できない。
「おや、お目覚めですか社長」
物音からして右手の扉が開くのを察した私が扉に目を向けると、水色がかった灰色の髪をした眼鏡の男がその扉から出てきた。
男は真面目そうな眼鏡に髪は七三分けのスーツ姿。その見るからに気難しそうな匂いを漂わせるその男が履いていたスラックスの色が、私に掛けられていたスーツの上着と同じ色だったことに、この男がどうして上着を着ていないのかを察した。
「これ、返します」
私が上着を渡すと男は渡された上着を黙ったまま受け取り、羽織った。
男性のスーツ姿ってカッコイイ!とはよく言ったものだ。その言葉をこの男にも当てはめられるならば、黄色い歓声でも飛ばてやりたいものだ。
そう痛感させられるほどその薄い灰色のスーツは男の髪と同化しつつ、その何とも言えない重い色合いが男の冷徹さを沸々と強めていった。
カッコイイ、などではない。ただ、ただ、怖い。
男は武器も何も持ってない。私に敵意や殺意があるわけでもない。
なのに私は今、この男を"怖い"と思っている。
「あの……」
「社長、13時から各部署の担当たちと会議があります。お疲れだとはお思いですが準備をお願い致します」
「そうか。わかった」
………………………………驚いた。何故だ。何故なのだろう。今、私はこの男が言ったことに当たり前のように返事をしてしまった。
さぞ普通に、慣れたような、何の違和感も不自然もない、返事。
身の毛がよだつということはこうゆうことなのだろうか。冷や汗が流れる。この男は何者なのだろうか…、何故、私はこんなところにいるのだろうか。問いただしたい疑問が溢れるばかりだが、どうにもこうにもそれを口に出せないでいるのは何故なのだろう。この男が怖いから?威圧されている?わからない。何もわからない。
わからなければやはり聞くしかない。
「ねえ、鈴木。聞きたいこ…………」
私の背中にさっきよりも大量の冷や汗が流れた。呼び止められた男は静止してこちらを見ているが、その男と交わる視線が私を貫き、一瞬ぐにゃりと私の視界が歪んだ。
ちょっと待て。
私は今、この男の『名前』を呼んだのか?
それがそいつの名前かどうかは呼び止められて静止したこの男の反応が答えを物語っているではないか。
確か『鈴木』だったか?苗字は鈴木……下の名前はなんだ?…そうだ『一哉』だ。
すずき………かずや、それがこの男の名前………。そしてこの男は私の…。
「鈴木一哉……。お前は私の秘書、だよな?」
「そうですよ?どうしたんですか、今更。それにしても顔色が優れませんね?大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だ。問題ない。会議まで時間がない……急ごう」
「何故」「どうして」という疑問がまだ少しも解消されていないのに業務を優先するところとか、男の言葉に私が普通に返事をしてしまったせいですっかり忘れていが、ひとつ引っ掛かるところをまた見つけてしまった。
そういえばこの男、最初に私を"社長"と呼ばなかったか…?
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