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海賊の楽園編
第21話 黄金島
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「や、キミたち! 着いたよ!」
声が聞こえて、サルマは目を覚まし、ゆっくりと瞼を開く。
赤髪の、やや長い後髪を頭の後ろで束ね、鼻が高く切れ長のつり目で美形の青年が、こちらを覗き込んで、白い歯と輝く笑顔を見せている。
「……ケーウッドか……」
サルマは嫌なものを見た、といった表情でケーウッドを見た後、きょろきょろと辺りを見渡す。
「ここは……どこだ?」
「どこって、僕の船の中に決まってるじゃあないか。昨日の夜更けに、キミたちを海の真ん中で拾って……疲れてるだろうし立ち話もなんだからって、船室の余ってる部屋に通したら、二人ともすぐに眠りこけてしまったんじゃないか。せっかくこの僕がじっくり話を聞いてやろうと……」
「そっか、そうだったな」
サルマは慌てて長くなりそうなケーウッドの話を遮った後、何かに気づいた様子で目を見開きケーウッドを見る。
「……ちょっと待て。さっき……着いたって言ったよな? 一体どこに連れて行きやがったんだ?」
「黄金島だよ。金山で有名な、一攫千金のでっかい夢を追い求める者の溜まり場さ。悪いね、キミたちすぐに眠ってしまって話す暇もなかったもんだから、勝手に僕らの目的地に船を進めたよ」
サルマはケーウッドの言葉を聞いて思案する。
(黄金島……戦士島から見て西にある島だな。コンパスが指してるのは北北西だったから、まあ進路は大幅にズレてるワケじゃねぇし……)
サルマはケーウッドを見て頷く。
「構わねぇよ。ここにはどれくらい滞在する予定だ?」
「う~ん……そうだね、ここの伯爵様にお宝を売り渡して、今日一日はここに滞在する予定だよ。そこから先は未定さ。僕の気分次第、ってとこかな」
「……そうか」
(……昨日の闇の大穴の様子じゃ、俺の船でこの先旅をするのはキツそうだな……気を抜くとすぐ渦に引っかかっちまいそうだ。コイツの船は大型帆船だから、このまま乗せてってもらうのもアリだが……)
サルマはケーウッドの顔を横目でチラリと見る。
(たいして親しくもなく、顔見知り程度の俺にコイツがそこまでしてくれるかはわからねぇ。それに、ケーウッドのヤツとずっと旅するのはさすがに気疲れしそうだからな……俺の方から願い下げだよ。やっぱり乗せてもらうなら、アルゴの船しかねぇな)
「なあ、もしよければ明日にでも……ヴァイキング・アイランドに行かねぇか。こっから西に行けば着くだろ? 俺、アルゴ海賊団のヤツらに用があってな……アイツら今あそこにいるんだよ。オマエも久々にキャビルノに会いてぇだろ?」
「‼ それ、本当かい⁉ キャビルノがそこに?」
ケーウッドが身を乗り出す。
「ああ。こないだアイツらに会って、戦士島で捕まってるところを俺が逃がしてやったんだぜ?」
サルマがにやりと笑い、親指を自分に突き立ててそう言うと、ケーウッドは目を潤ませ、サルマの手をがっしと両手で勢いよく掴む。
「そうだったのかい⁉ キャビルノは戦士のヤツらに捕まっていたのか……そうと知っていればこの僕が真っ先に助けに行ったのに! キミはキャビルノの恩人だよ! もちろん、一緒に行こう。ヴァイキング・アイランド……別名『海賊の楽園』へ!」
ケーウッドは格好つけた動作で、西の方を勢いよく指さす。
「ああ……」
サルマは苦々しげな顔でケーウッドから目をそらし、離れる。
「じゃ、今日はこの島で用を済ませてくるよ。明日にはこの島から発てると思うからね。キミと……そこで寝ているかわいらしいお連れさんは、今日一日は好きにするといいさ。夕飯をご馳走するから、夜には船に戻っておきなよ!」
ケーウッドはそう言ってウインクし、颯爽と部屋から出て行く。
「……いい人じゃない。あの人」
後ろから声がしてサルマが振り向くと、アイラが目覚めたらしく、寝床から体を起こしてこちらを見ている。
「ああ……ま、別に悪いヤツじゃねぇんだが、どうもアイツのテンションについていけねぇというか……。あの常に明るく華やかな感じが苦手なんだよな。あと、なかなかのナルシストっぷりでキザで自信家なところとかな……」
(サルマさんも前に自分のこと俺様とか言ってたし、なかなかの自信家だと思うけどなぁ)
アイラはそう思ってくすりと笑う。
「あ、そういえばあの人……キャビルノさんのこと知ってるみたいだったけど」
「ああ、あいつ……ケーウッドも海賊で、ヤツは自分の海賊団を持ってるんだが、実はキャビルノの兄貴でな。おまけにキャビルノのことを相当溺愛していて、『キャビルノは僕に似て美しいだろ?』が口癖だ。アイツの前でキャビルノの悪口は絶対言うなよ……殺される。アイツ……ああ見えても細身の剣の二刀流で有名な、腕のたつヤツだからな」
「キャビルノさんのお兄さんなんだ! 確かに髪の色とか目元のあたりとかそっくりだね。でも……じゃあなんでお兄さんの船じゃなくて、アルゴさんの船に乗ってるんだろ?」
「……さあな。何があったかは知らねぇが、キャビルノもデルヒスも、アルゴのヤツに惚れ込んでるからな」
サルマは寝床から出て、立ち上がる。
「聞いたかもしれねぇが、今日一日はここ……黄金島にいて、明日、アルゴたちのいるヴァイキング・アイランドに行くことになった。そこでアルゴの船に乗せてもらって、コンパスの旅を再開するつもりだ。牢から助けた恩もあるし、今度は快く連れて行ってくれるだろう」
サルマは自分の荷物を手に取り、アイラの方を振り返る。
「俺はこれから、この島をぶらぶら見て回るつもりだ。この島は特に金鉱石の採掘が有名で、その関係から金銀財宝が並ぶでかい市場があるからな……。俺様の鼻を使って、めぼしいお宝がないか探してみるつもりだ。オマエはどうする?」
「わたし……わたしは……」
アイラは少し迷っている様子で口ごもった後、力なく笑って首を軽く横に振る。
「……やめとこうかな。なんだか体が疲れてて……どうも風邪気味みたい。初めて来たこの島も、どんなところか探検してみたかったけど……」
「……そうか。大丈夫なのか?」
サルマはアイラのおでこに手を当てる。
「……確かにちょっと熱いかもな。よし、じゃあケーウッドのヤツに頼んで薬をもらってきてやるよ。ちょっと待ってな」
サルマはそう言って部屋から出て行く。
サルマはアイラに薬を渡してケーウッドの船を出てから、金銀に宝石類の装飾品の並ぶきらびやかな黄金島の市場をぶらついていた。お宝がそこら中に並んでいるその光景は、お宝好きのサルマにとって心惹かれるものがある。
(アイラのヤツにもこの市場を見せてやりたかったな。アイツ、お宝らしいお宝なんて見たこともなさそうだから……。そうだ、手頃なお宝があったら持って帰ってやっか)
そう思って、引き続き市場をぶらついてお宝のニオイを嗅ぎまわり、いかにも価値の高そうな宝飾具やきらびやかな装身具などの様々なお宝を見てまわる。
しかし、鼻に反応するものはなかなか見当たらなかった。
(鼻が反応しねぇとはいえ、ここのお宝が全部無価値ってことはねぇだろう。薄々感じてはいたが、やはり俺様の鼻に反応するのは、隠されたお宝……傍から見てお宝とは認識されてねぇモノなんだろうな……)
サルマはそう考え、高価な値のつけられているお宝ばかりが並ぶ黄金島中心街の市場を避け、裏道の散策に切り替える。
夕暮れの近づいてきている時間の裏道は薄暗く、小さな屋台のような店がぽつりぽつりとあるだけで、中心街と比べると寂れた印象を受ける。
(……ん? かすかに鼻が反応する。お宝のニオイがするような……)
サルマは鼻を頼りにニオイを辿っていく。すると、裏道のはずれの海の近くにある、折りたたみ式の仮設の屋台に行き着く。
黄金色のくるくると巻き癖のついた髪をしている店主らしき男が、座って分厚い本に没頭していたが、サルマに気がつくと本から顔を上げる。
「あ、いらっしゃい。いろいろ見てってよ……って言っても商品は一種類しかないけどね」
サルマが商品の並んでいる机に目をやると、翡翠のようなやや半透明の翠色をした、大きさがばらばらの小石がたくさん並べられていた。
「この石はなんだ? 名前も値段も書いてねぇようだが……」
「さぁ。僕もよく知らないけど、娘がよくこれを拾ってくるんだ。そこそこ綺麗だし、意外と売り物になるからとりあえず並べてるんだけど」
(なんだよそれ、ずいぶん適当な石売りだな。でも、かすかにこの石からお宝のニオイがするんだよな……)
サルマは机に並んでいる石の一つを指差す。
「……この一番ちっこいので、いくらするんだ?」
「うーん……どうしようかな。とりあえず金貨一枚貰おうかな」
サルマはそれを聞いて目を丸くする。
「ずいぶん高ぇな。ぼったくりすぎじゃねぇのか?」
「言ったろう、意外と売り物になるって。名もない石だけど、なかなか綺麗だからって好んで買いに来る客も多いんだよ。別に無理に売りつけたりするつもりもないから、買わないならそれでいいよ」
男はそう言って、再び本を読む体制に入る。
(……負けてくれる気はなし、か。くそ、こんな石ころに金貨一枚も払ってられっかよ。こうなったら……)
サルマは持っている石をじっと眺め、ため息をついて、石を机に戻す……ふりをした後、腰布に手を突っ込んでそこにこっそり入れる。
男が本に夢中でそれに気がついていないのを確認した後、サルマはその場から立ち去ろうとする。
「ちょっと待って」
突然男に声をかけられ、サルマは心臓が飛び出しそうになる。
「な……何だよ!」
男は本から顔を上げて、サルマを見る。
「もし娘に会ったら、家に戻るように言っておいてくれないかな。いつも海辺のあたりで遊んでるんだけど……昼飯時にも帰ってきていないもんだから。髪が僕とそっくりな、癖っ毛の女の子なんだけど」
石をくすねたことに言及されると思っていたサルマは、拍子抜けして目をぱちくりさせる。
「はあ……ま、見かけたら声かけとくよ」
「ありがとう」
男はそう言って再び本に視線を戻す。
(女の子……か)
店から離れて歩きだしたサルマは、くすねた翠色の石を眺めてかすかに笑う。
(アイラのヤツ、これをくすねたって言ったらまた呆れそうだな)
サルマは夕暮れの中、ケーウッドの船のある海辺に辿り着く。船の前ではケーウッドが浜辺に座り、海を眺めてたそがれている。
「お、戻ってきたね。……どうしたんだい? きょろきょろして」
ケーウッドがサルマに気づいて声をかける。
「いや……海辺のあたりに女の子がぶらついていたりしなかったか?」
「女の子? キミの連れてた子なら、船室で寝てるけど」
「いや、その……まあいい」
サルマは説明するのを煩わしく思って口を閉ざす。そしてケーウッドの隣に置いてある、袋の口から金貨がちらりと見えている大きな袋を羨ましそうに眺める。
「……あいかわらずオマエんとこの海賊団は儲かっているようだな」
ケーウッドは得意げな表情を見せる。
「まあね、僕は世渡り上手いから。この島にもお得意様がいるんでね、また儲けさせてもらったよ。キャビルノも、寂れた海賊団にいるくらいなら僕のところに戻ってくればいいのに……」
「アルゴんとこか? 確かにあそこの海賊団はあいかわらず寂れてはいるが……キャビルノのやつは楽しそうにやってたぜ」
「……そうか、それならいいけど。僕としては、かわいい妹と一緒にいられなくて淋しいけどね」
ケーウッドは淋しげに笑い、夕焼けに染まった海を少しの間眺めた後、ゆっくりと立ち上がる。
「そろそろ船に戻ろうか。夕飯をご馳走するから、好きなだけ食べてってくれたまえよ。そんでもって、明日の朝にはヴァイキング・アイランドに向かうよ」
ケーウッドはいつもの眩しげな笑顔を見せると、自分の船に戻る。
(……妹を溺愛してるといっても、妹の人生に干渉する気はないんだな)
ケーウッドの背中を見ながら、サルマはふっと笑う。
(コイツのことはうざったいヤツだという印象しかなかったが……案外いいヤツなのかもしれないな)
サルマは密かにそう思うと、ケーウッドに続いて船に戻る。
声が聞こえて、サルマは目を覚まし、ゆっくりと瞼を開く。
赤髪の、やや長い後髪を頭の後ろで束ね、鼻が高く切れ長のつり目で美形の青年が、こちらを覗き込んで、白い歯と輝く笑顔を見せている。
「……ケーウッドか……」
サルマは嫌なものを見た、といった表情でケーウッドを見た後、きょろきょろと辺りを見渡す。
「ここは……どこだ?」
「どこって、僕の船の中に決まってるじゃあないか。昨日の夜更けに、キミたちを海の真ん中で拾って……疲れてるだろうし立ち話もなんだからって、船室の余ってる部屋に通したら、二人ともすぐに眠りこけてしまったんじゃないか。せっかくこの僕がじっくり話を聞いてやろうと……」
「そっか、そうだったな」
サルマは慌てて長くなりそうなケーウッドの話を遮った後、何かに気づいた様子で目を見開きケーウッドを見る。
「……ちょっと待て。さっき……着いたって言ったよな? 一体どこに連れて行きやがったんだ?」
「黄金島だよ。金山で有名な、一攫千金のでっかい夢を追い求める者の溜まり場さ。悪いね、キミたちすぐに眠ってしまって話す暇もなかったもんだから、勝手に僕らの目的地に船を進めたよ」
サルマはケーウッドの言葉を聞いて思案する。
(黄金島……戦士島から見て西にある島だな。コンパスが指してるのは北北西だったから、まあ進路は大幅にズレてるワケじゃねぇし……)
サルマはケーウッドを見て頷く。
「構わねぇよ。ここにはどれくらい滞在する予定だ?」
「う~ん……そうだね、ここの伯爵様にお宝を売り渡して、今日一日はここに滞在する予定だよ。そこから先は未定さ。僕の気分次第、ってとこかな」
「……そうか」
(……昨日の闇の大穴の様子じゃ、俺の船でこの先旅をするのはキツそうだな……気を抜くとすぐ渦に引っかかっちまいそうだ。コイツの船は大型帆船だから、このまま乗せてってもらうのもアリだが……)
サルマはケーウッドの顔を横目でチラリと見る。
(たいして親しくもなく、顔見知り程度の俺にコイツがそこまでしてくれるかはわからねぇ。それに、ケーウッドのヤツとずっと旅するのはさすがに気疲れしそうだからな……俺の方から願い下げだよ。やっぱり乗せてもらうなら、アルゴの船しかねぇな)
「なあ、もしよければ明日にでも……ヴァイキング・アイランドに行かねぇか。こっから西に行けば着くだろ? 俺、アルゴ海賊団のヤツらに用があってな……アイツら今あそこにいるんだよ。オマエも久々にキャビルノに会いてぇだろ?」
「‼ それ、本当かい⁉ キャビルノがそこに?」
ケーウッドが身を乗り出す。
「ああ。こないだアイツらに会って、戦士島で捕まってるところを俺が逃がしてやったんだぜ?」
サルマがにやりと笑い、親指を自分に突き立ててそう言うと、ケーウッドは目を潤ませ、サルマの手をがっしと両手で勢いよく掴む。
「そうだったのかい⁉ キャビルノは戦士のヤツらに捕まっていたのか……そうと知っていればこの僕が真っ先に助けに行ったのに! キミはキャビルノの恩人だよ! もちろん、一緒に行こう。ヴァイキング・アイランド……別名『海賊の楽園』へ!」
ケーウッドは格好つけた動作で、西の方を勢いよく指さす。
「ああ……」
サルマは苦々しげな顔でケーウッドから目をそらし、離れる。
「じゃ、今日はこの島で用を済ませてくるよ。明日にはこの島から発てると思うからね。キミと……そこで寝ているかわいらしいお連れさんは、今日一日は好きにするといいさ。夕飯をご馳走するから、夜には船に戻っておきなよ!」
ケーウッドはそう言ってウインクし、颯爽と部屋から出て行く。
「……いい人じゃない。あの人」
後ろから声がしてサルマが振り向くと、アイラが目覚めたらしく、寝床から体を起こしてこちらを見ている。
「ああ……ま、別に悪いヤツじゃねぇんだが、どうもアイツのテンションについていけねぇというか……。あの常に明るく華やかな感じが苦手なんだよな。あと、なかなかのナルシストっぷりでキザで自信家なところとかな……」
(サルマさんも前に自分のこと俺様とか言ってたし、なかなかの自信家だと思うけどなぁ)
アイラはそう思ってくすりと笑う。
「あ、そういえばあの人……キャビルノさんのこと知ってるみたいだったけど」
「ああ、あいつ……ケーウッドも海賊で、ヤツは自分の海賊団を持ってるんだが、実はキャビルノの兄貴でな。おまけにキャビルノのことを相当溺愛していて、『キャビルノは僕に似て美しいだろ?』が口癖だ。アイツの前でキャビルノの悪口は絶対言うなよ……殺される。アイツ……ああ見えても細身の剣の二刀流で有名な、腕のたつヤツだからな」
「キャビルノさんのお兄さんなんだ! 確かに髪の色とか目元のあたりとかそっくりだね。でも……じゃあなんでお兄さんの船じゃなくて、アルゴさんの船に乗ってるんだろ?」
「……さあな。何があったかは知らねぇが、キャビルノもデルヒスも、アルゴのヤツに惚れ込んでるからな」
サルマは寝床から出て、立ち上がる。
「聞いたかもしれねぇが、今日一日はここ……黄金島にいて、明日、アルゴたちのいるヴァイキング・アイランドに行くことになった。そこでアルゴの船に乗せてもらって、コンパスの旅を再開するつもりだ。牢から助けた恩もあるし、今度は快く連れて行ってくれるだろう」
サルマは自分の荷物を手に取り、アイラの方を振り返る。
「俺はこれから、この島をぶらぶら見て回るつもりだ。この島は特に金鉱石の採掘が有名で、その関係から金銀財宝が並ぶでかい市場があるからな……。俺様の鼻を使って、めぼしいお宝がないか探してみるつもりだ。オマエはどうする?」
「わたし……わたしは……」
アイラは少し迷っている様子で口ごもった後、力なく笑って首を軽く横に振る。
「……やめとこうかな。なんだか体が疲れてて……どうも風邪気味みたい。初めて来たこの島も、どんなところか探検してみたかったけど……」
「……そうか。大丈夫なのか?」
サルマはアイラのおでこに手を当てる。
「……確かにちょっと熱いかもな。よし、じゃあケーウッドのヤツに頼んで薬をもらってきてやるよ。ちょっと待ってな」
サルマはそう言って部屋から出て行く。
サルマはアイラに薬を渡してケーウッドの船を出てから、金銀に宝石類の装飾品の並ぶきらびやかな黄金島の市場をぶらついていた。お宝がそこら中に並んでいるその光景は、お宝好きのサルマにとって心惹かれるものがある。
(アイラのヤツにもこの市場を見せてやりたかったな。アイツ、お宝らしいお宝なんて見たこともなさそうだから……。そうだ、手頃なお宝があったら持って帰ってやっか)
そう思って、引き続き市場をぶらついてお宝のニオイを嗅ぎまわり、いかにも価値の高そうな宝飾具やきらびやかな装身具などの様々なお宝を見てまわる。
しかし、鼻に反応するものはなかなか見当たらなかった。
(鼻が反応しねぇとはいえ、ここのお宝が全部無価値ってことはねぇだろう。薄々感じてはいたが、やはり俺様の鼻に反応するのは、隠されたお宝……傍から見てお宝とは認識されてねぇモノなんだろうな……)
サルマはそう考え、高価な値のつけられているお宝ばかりが並ぶ黄金島中心街の市場を避け、裏道の散策に切り替える。
夕暮れの近づいてきている時間の裏道は薄暗く、小さな屋台のような店がぽつりぽつりとあるだけで、中心街と比べると寂れた印象を受ける。
(……ん? かすかに鼻が反応する。お宝のニオイがするような……)
サルマは鼻を頼りにニオイを辿っていく。すると、裏道のはずれの海の近くにある、折りたたみ式の仮設の屋台に行き着く。
黄金色のくるくると巻き癖のついた髪をしている店主らしき男が、座って分厚い本に没頭していたが、サルマに気がつくと本から顔を上げる。
「あ、いらっしゃい。いろいろ見てってよ……って言っても商品は一種類しかないけどね」
サルマが商品の並んでいる机に目をやると、翡翠のようなやや半透明の翠色をした、大きさがばらばらの小石がたくさん並べられていた。
「この石はなんだ? 名前も値段も書いてねぇようだが……」
「さぁ。僕もよく知らないけど、娘がよくこれを拾ってくるんだ。そこそこ綺麗だし、意外と売り物になるからとりあえず並べてるんだけど」
(なんだよそれ、ずいぶん適当な石売りだな。でも、かすかにこの石からお宝のニオイがするんだよな……)
サルマは机に並んでいる石の一つを指差す。
「……この一番ちっこいので、いくらするんだ?」
「うーん……どうしようかな。とりあえず金貨一枚貰おうかな」
サルマはそれを聞いて目を丸くする。
「ずいぶん高ぇな。ぼったくりすぎじゃねぇのか?」
「言ったろう、意外と売り物になるって。名もない石だけど、なかなか綺麗だからって好んで買いに来る客も多いんだよ。別に無理に売りつけたりするつもりもないから、買わないならそれでいいよ」
男はそう言って、再び本を読む体制に入る。
(……負けてくれる気はなし、か。くそ、こんな石ころに金貨一枚も払ってられっかよ。こうなったら……)
サルマは持っている石をじっと眺め、ため息をついて、石を机に戻す……ふりをした後、腰布に手を突っ込んでそこにこっそり入れる。
男が本に夢中でそれに気がついていないのを確認した後、サルマはその場から立ち去ろうとする。
「ちょっと待って」
突然男に声をかけられ、サルマは心臓が飛び出しそうになる。
「な……何だよ!」
男は本から顔を上げて、サルマを見る。
「もし娘に会ったら、家に戻るように言っておいてくれないかな。いつも海辺のあたりで遊んでるんだけど……昼飯時にも帰ってきていないもんだから。髪が僕とそっくりな、癖っ毛の女の子なんだけど」
石をくすねたことに言及されると思っていたサルマは、拍子抜けして目をぱちくりさせる。
「はあ……ま、見かけたら声かけとくよ」
「ありがとう」
男はそう言って再び本に視線を戻す。
(女の子……か)
店から離れて歩きだしたサルマは、くすねた翠色の石を眺めてかすかに笑う。
(アイラのヤツ、これをくすねたって言ったらまた呆れそうだな)
サルマは夕暮れの中、ケーウッドの船のある海辺に辿り着く。船の前ではケーウッドが浜辺に座り、海を眺めてたそがれている。
「お、戻ってきたね。……どうしたんだい? きょろきょろして」
ケーウッドがサルマに気づいて声をかける。
「いや……海辺のあたりに女の子がぶらついていたりしなかったか?」
「女の子? キミの連れてた子なら、船室で寝てるけど」
「いや、その……まあいい」
サルマは説明するのを煩わしく思って口を閉ざす。そしてケーウッドの隣に置いてある、袋の口から金貨がちらりと見えている大きな袋を羨ましそうに眺める。
「……あいかわらずオマエんとこの海賊団は儲かっているようだな」
ケーウッドは得意げな表情を見せる。
「まあね、僕は世渡り上手いから。この島にもお得意様がいるんでね、また儲けさせてもらったよ。キャビルノも、寂れた海賊団にいるくらいなら僕のところに戻ってくればいいのに……」
「アルゴんとこか? 確かにあそこの海賊団はあいかわらず寂れてはいるが……キャビルノのやつは楽しそうにやってたぜ」
「……そうか、それならいいけど。僕としては、かわいい妹と一緒にいられなくて淋しいけどね」
ケーウッドは淋しげに笑い、夕焼けに染まった海を少しの間眺めた後、ゆっくりと立ち上がる。
「そろそろ船に戻ろうか。夕飯をご馳走するから、好きなだけ食べてってくれたまえよ。そんでもって、明日の朝にはヴァイキング・アイランドに向かうよ」
ケーウッドはいつもの眩しげな笑顔を見せると、自分の船に戻る。
(……妹を溺愛してるといっても、妹の人生に干渉する気はないんだな)
ケーウッドの背中を見ながら、サルマはふっと笑う。
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