49 / 52
終結編
第48話 終わりと始まり
しおりを挟む
天界の雲の、闇の大穴を見下ろす空洞のところまでたどり着いたアイラとレイラは、傍らにある三種の神器の一つ――――白銀の弓を見る。
「これが、最後の三種の神器……」
「そうです。手に取ってみなさい、アイラ」
レイラに促され、アイラは置いてあった弓を手に持つ。なかなかの大きさで、子供のアイラには少し重たく感じる。
「結構重いね。わたしの力でこの弓……ちゃんと引けるのかな」
「大丈夫よ。先程も言ったでしょう? 三種の神器が揃うと……聖なる力が最大限に発揮される、ってね。さあ、コンパスをはめた退魔の剣も一緒に持ってみなさい」
「あ、そうだった!」
アイラはレイラの言葉を聞いて、コンパスを柄にはめている、退魔の剣を取り出す。そして、剣を鞘から引き抜く。
ピカッ! と剣が眩い光を発する。そして、その光は剣だけに収まらず――アイラの体全体と、持っている弓をも包み込む。
「私もここで、残りわずかな力を全てあなたに託すわ。アイラ、きっと大丈夫よ。あなたなら……!」
レイラがそう言って、アイラに向って両手を突き出し――後ろからアイラに聖なる力を送る。
聖なる力のエネルギーが満ち溢れ、ぶわっと前方から風が吹いて――――アイラの髪の毛が一本残らず逆立つ。そしてアイラの体と弓を包むその光が集まって、アイラの後ろに大きな金色の光のオーラが広がり……そのオーラが弓を持つアイラの姿を形作る。
まるで、金色の巨大なアイラが立っているようなそのオーラの姿は……まさに、神といった様相を呈していた。
(体の奥から力が漲る……。これが、三種の神器が揃った時の、聖なる力……!)
アイラは漲る力を感じながら、自分の記憶の中にあるこれからすべきことを思い出し――――雲に開いている穴から、弓を地上の大穴に向ける。
そして、光り輝く退魔の剣を矢の代わりに用い、大穴に狙いを定める。
(ちゃんと命中させなきゃ……! これを外したら、剣とコンパスはまた地上に戻って、闇の大穴は閉じられなくて……これまでの旅の意味がなくなってしまう)
そう思うと、アイラはこれからする動作が恐ろしくなる。
(できるだけ、大穴の中心に命中させなきゃ……! その方が、闇の世界の魔王に痛手を与えられて、長年にわたって闇の大穴を封印できるから……!)
そう思って、地上の闇の大穴をよく見ようと覗き込んだ時――――アイラは手元にある、コンパスをはめた退魔の剣に目がとまる。
(メリス島でミンスさんからもらった時から、ずっと一緒のこのコンパス……そしてオルクさんにもらって、アンとラビに手伝ってもらって天界の泉に行って、光を取り戻したこの剣……。今までずっと一緒だったけど、思えば、ここでお別れなんだ)
アイラはコンパスを見る。剣の柄にはめられたコンパスはくるくると元気よく回り――今にも自分の役割を全うしようとしているようだった。
(ここまでわたしを導いてくれたコンパスは、この場所でいいって言ってくれてる……! 大丈夫……やれる!)
アイラは剣を離し――――大穴めがけて光り輝く退魔の剣を放つ。そして、アイラの後ろの巨大なアイラの気も少し遅れて同じ動作をし、剣を型取ったオーラを放つ。
光る剣が闇の大穴に吸い込まれてゆく。そこから一秒ほど遅れて、アイラの気が放った剣も大穴めがけて落ちてゆき――――その光が、大穴のど真ん中に突き刺さる。
カッ‼
剣の形をした気の白く輝く光の柱が闇の大穴の中心に刺さると、その光の柱の眩しさで、空全体がパアッと真っ白に輝く。
そして海に広がった闇の大穴は――――周りの渦も含め、全てが光に包まれた。
グオオオオオオオオオ‼
闇の大穴のそのさらに奥底の――――闇の世界の方から、何かのうめき声が聞こえてくる。その凄まじい大きさの声が轟き、地上界全体を震わせる。
アイラと別れて洞窟から去り、宝を船の後ろに積んで、オルクの待つ東の果ての島に向けて航海をしていたサルマは、アイラの放った光の柱を船から呆然とした様子で眺めていたが――――やがてポツリと呟く。
「アイラ、オマエ……すげーこと、やり遂げたんだな」
サルマは空を見上げる。遠く空の彼方には――――アイラたちが渡ってきた虹がまだ消えずに、かすかに残っていた。
東の果ての島にいるオルクは、洞窟にいるアイラたちと会話を終えた後も、森の中の水盆が置いてある場所に座って待機していたが――――轟くようなうめき声が聞こえると、ハッとして立ち上がる。
そして何が起こったのか確認しようと、急ぎ足で森の外へ出ると――――遠い空に、光の柱が見えた。
「アイラちゃん……レイラ……! 本当に、よくやってくれた……!」
オルクの目から、温かな涙が流れ落ちる。
闇の大穴付近では、警備戦士の船、闇の賊の船、そして海賊船まで――多数の船が浮かんでいて、大きく開いた大穴からの闇の賊の侵入を防ぐ、激しい戦いが先程まで繰り広げられていた。
そんな中、突如光の柱が現れ、闇の大穴全体を眩く照らし――――皆は、あまりの眩しさに目を閉じる。
「ぐっ……なんだ、あの光は……」
警備戦士の隊を率いて闇の賊と戦っていたシルロは、周りの状況を把握しようと、なんとか薄目を開けて付近の様子を見る。
すると、先程まで戦っていた闇の賊が――うめき声一つ洩らすことなく一瞬で消滅し、塵のようになっていた。そればかりでなく、闇の賊の乗っていた黒色の大型帆船までもが、風化したようにサラサラと砂のようになって散っていくのを目撃する。
そして海の奥底の方からは――――とてつもなく大きなうめき声が轟いている。
「一体何なのよ、この声は……!」
キャビルノがあまりの音の大きさに両耳を塞ぐ。アルゴの海賊船も、つい最近捕まった警備戦士の船が近くにあるにも関わらず、大穴付近での戦いに加勢するために馳せ参じていた。そしてその隣には、ケーウッド海賊団の船もあった。
「見なよ、闇の大穴を……! 光に紛れて、心なしかだんだん小さくなっていないかい?」
ケーウッドが大穴の方を指さす。
「これ……あの時、黒い山に飛ばされた時の……アイラちゃんの持つ剣の光で、山が崩れた時に似てないっすか……?」
デルヒスがぽつりとこぼす。
「本当だ! ってことは、これって……もしかして、闇の大穴が消滅するってこと⁉」
キャビルノがキラキラした目でアルゴを見上げる。アルゴは頷き、ぼそりと呟く。
「……ああ。アイラとサルマの二人が、何かしらやり遂げたのかもな……」
ディール島のアンとラビは、空に光の柱を確認すると、宮殿内からすぐさま飛び出し――アンの大絨毯に乗って、高い位置からその様子を眺める。
「我が国の近くまできていた闇の大穴の渦が……消えておる。アイラ、神に剣を渡せたのだな……」
アンが呟く。その目の奥にはかすかに涙が光っている。
「よかったね……。これで、あの二人のコンパスの旅は終わったのかな。だとしたら……」
ラビは光の柱を見ながら、ポツリとこぼす。
「きっと、また会いに来てくれるよね」
アンはラビを見て、ゆっくりと頷く。
「……ああ。その時は、どのようなことがあったのか……詳しく聞いてみたいものだな」
天界では、アイラとレイラが闇の大穴が消えゆく様子を見守っている。
やがて大穴は完全に閉じ――――禍々しい闇の気を全く感じなくなっていた。
そして、役目を終えた光の柱も跡形もなく消え――――世界は何事もなかったかのように、元の姿に戻った。
(闇の大穴がなくなって……まるで、この世界が生まれ変わったみたい。これからは、新しい世界が始まるんだ……)
アイラはふいに、そんなことを思う。
「よくやったわね、アイラ」
レイラがアイラに微笑みかける。天界にいるアイラの元には、三種の神器の白銀の弓と、退魔の剣の鞘だけが残されている。
「剣の鞘は、こちらに残したままでは剣を収められないから……機を見て下界に投げ込むといいわ」
大仕事をやり遂げ、白銀の弓を握りしめたまま呆然としているアイラに、レイラが声をかける。
「そうしたら、退魔の剣の本体と一緒に、オルク……いえ、サルマがきっと探し出してくれるはずよ。そのために与えられた、神の気を感じる能力でもあるのだから」
「じゃあ、コンパスも……サルマさんが剣と一緒に拾ってくれるのかな」
アイラがふとレイラに尋ねる。レイラは首を振る。
「コンパスは……剣とは違い、神の子を探し出す本能のようなものがあるの。地上に落ちた時には剣から離れ、然るべき時に、神の子の元へ行くようになっているのよ。そしてコンパスは神の子を、退魔の剣を持つ者の元へ連れてゆく……。だから、アイラが次の神の子を探し出して、その子が旅を始める時までは、人知れずどこかに潜んでいるのでしょうね」
「そうなんだ……」
(わたしの時は、ミンスさんが持ってて、そのミンスさんは旅の人にもらったって言ってたっけ。今落としたコンパスは、どんな風に旅をして、またここに戻ってくるのかな……)
コンパスのその後に思いを馳せたアイラは、地上から天界に視線を戻す。すると、レイラの体に異変が起こっていることに気が付く。
「あれ、母さま、体が……!」
レイラの体の右肩あたりの一部分が、サラサラと砂のように風化して、キラキラと輝き……天に舞っている。
「アイラ、私は……もう力を使い果たしてしまった。あなたとは、ここでお別れのようね」
そう言ってレイラは切なげに微笑む。
「私が消滅したら、ここには私の羽衣が残ります。私の記憶の全てがここに入っていて、神として何をすべきか、ヒントもあるでしょうから……今すぐにではなくても構いません、必ず一度、羽織っておくのですよ」
「そんな、母さま……!」
「あなた一人ここに残していくことは心苦しいけれど……あなたには地上に味方がたくさんいるし、私を含め……歴代の神の加護も授かっている。きっとやれるわ」
レイラはそう言いながらも、その体は右側から順にサラサラと風化し、半分以上は消えている。
「アイラ……あなたの親になれて良かった。あとは、頼みましたよ……この世界を守って――――――」
レイラの顔はついに見えなくなり、そこで言葉が途切れる。そして数分もしない間にレイラの体は消滅して――――キラキラと天に舞ってゆき、跡形もなくなった。
アイラは遺されたレイラの形見の羽衣を手に取る。しかし、そこで途端に張りつめていた気が緩んだのか、アイラは天界の雲の上に背中からバタリと倒れる。ふわふわの雲がアイラの体を受け止める。
「全部……終わったんだ…………」
アイラは雲に体を預け、一人呟く。
「旅の疲れかな……それとも、わたしも今ので力を使ったからかな……。なんだか、とっても疲れちゃった…………」
アイラはレイラの羽衣を手に持ったまま――――天界の雲に包まれて、眠りに落ちる。
「これが、最後の三種の神器……」
「そうです。手に取ってみなさい、アイラ」
レイラに促され、アイラは置いてあった弓を手に持つ。なかなかの大きさで、子供のアイラには少し重たく感じる。
「結構重いね。わたしの力でこの弓……ちゃんと引けるのかな」
「大丈夫よ。先程も言ったでしょう? 三種の神器が揃うと……聖なる力が最大限に発揮される、ってね。さあ、コンパスをはめた退魔の剣も一緒に持ってみなさい」
「あ、そうだった!」
アイラはレイラの言葉を聞いて、コンパスを柄にはめている、退魔の剣を取り出す。そして、剣を鞘から引き抜く。
ピカッ! と剣が眩い光を発する。そして、その光は剣だけに収まらず――アイラの体全体と、持っている弓をも包み込む。
「私もここで、残りわずかな力を全てあなたに託すわ。アイラ、きっと大丈夫よ。あなたなら……!」
レイラがそう言って、アイラに向って両手を突き出し――後ろからアイラに聖なる力を送る。
聖なる力のエネルギーが満ち溢れ、ぶわっと前方から風が吹いて――――アイラの髪の毛が一本残らず逆立つ。そしてアイラの体と弓を包むその光が集まって、アイラの後ろに大きな金色の光のオーラが広がり……そのオーラが弓を持つアイラの姿を形作る。
まるで、金色の巨大なアイラが立っているようなそのオーラの姿は……まさに、神といった様相を呈していた。
(体の奥から力が漲る……。これが、三種の神器が揃った時の、聖なる力……!)
アイラは漲る力を感じながら、自分の記憶の中にあるこれからすべきことを思い出し――――雲に開いている穴から、弓を地上の大穴に向ける。
そして、光り輝く退魔の剣を矢の代わりに用い、大穴に狙いを定める。
(ちゃんと命中させなきゃ……! これを外したら、剣とコンパスはまた地上に戻って、闇の大穴は閉じられなくて……これまでの旅の意味がなくなってしまう)
そう思うと、アイラはこれからする動作が恐ろしくなる。
(できるだけ、大穴の中心に命中させなきゃ……! その方が、闇の世界の魔王に痛手を与えられて、長年にわたって闇の大穴を封印できるから……!)
そう思って、地上の闇の大穴をよく見ようと覗き込んだ時――――アイラは手元にある、コンパスをはめた退魔の剣に目がとまる。
(メリス島でミンスさんからもらった時から、ずっと一緒のこのコンパス……そしてオルクさんにもらって、アンとラビに手伝ってもらって天界の泉に行って、光を取り戻したこの剣……。今までずっと一緒だったけど、思えば、ここでお別れなんだ)
アイラはコンパスを見る。剣の柄にはめられたコンパスはくるくると元気よく回り――今にも自分の役割を全うしようとしているようだった。
(ここまでわたしを導いてくれたコンパスは、この場所でいいって言ってくれてる……! 大丈夫……やれる!)
アイラは剣を離し――――大穴めがけて光り輝く退魔の剣を放つ。そして、アイラの後ろの巨大なアイラの気も少し遅れて同じ動作をし、剣を型取ったオーラを放つ。
光る剣が闇の大穴に吸い込まれてゆく。そこから一秒ほど遅れて、アイラの気が放った剣も大穴めがけて落ちてゆき――――その光が、大穴のど真ん中に突き刺さる。
カッ‼
剣の形をした気の白く輝く光の柱が闇の大穴の中心に刺さると、その光の柱の眩しさで、空全体がパアッと真っ白に輝く。
そして海に広がった闇の大穴は――――周りの渦も含め、全てが光に包まれた。
グオオオオオオオオオ‼
闇の大穴のそのさらに奥底の――――闇の世界の方から、何かのうめき声が聞こえてくる。その凄まじい大きさの声が轟き、地上界全体を震わせる。
アイラと別れて洞窟から去り、宝を船の後ろに積んで、オルクの待つ東の果ての島に向けて航海をしていたサルマは、アイラの放った光の柱を船から呆然とした様子で眺めていたが――――やがてポツリと呟く。
「アイラ、オマエ……すげーこと、やり遂げたんだな」
サルマは空を見上げる。遠く空の彼方には――――アイラたちが渡ってきた虹がまだ消えずに、かすかに残っていた。
東の果ての島にいるオルクは、洞窟にいるアイラたちと会話を終えた後も、森の中の水盆が置いてある場所に座って待機していたが――――轟くようなうめき声が聞こえると、ハッとして立ち上がる。
そして何が起こったのか確認しようと、急ぎ足で森の外へ出ると――――遠い空に、光の柱が見えた。
「アイラちゃん……レイラ……! 本当に、よくやってくれた……!」
オルクの目から、温かな涙が流れ落ちる。
闇の大穴付近では、警備戦士の船、闇の賊の船、そして海賊船まで――多数の船が浮かんでいて、大きく開いた大穴からの闇の賊の侵入を防ぐ、激しい戦いが先程まで繰り広げられていた。
そんな中、突如光の柱が現れ、闇の大穴全体を眩く照らし――――皆は、あまりの眩しさに目を閉じる。
「ぐっ……なんだ、あの光は……」
警備戦士の隊を率いて闇の賊と戦っていたシルロは、周りの状況を把握しようと、なんとか薄目を開けて付近の様子を見る。
すると、先程まで戦っていた闇の賊が――うめき声一つ洩らすことなく一瞬で消滅し、塵のようになっていた。そればかりでなく、闇の賊の乗っていた黒色の大型帆船までもが、風化したようにサラサラと砂のようになって散っていくのを目撃する。
そして海の奥底の方からは――――とてつもなく大きなうめき声が轟いている。
「一体何なのよ、この声は……!」
キャビルノがあまりの音の大きさに両耳を塞ぐ。アルゴの海賊船も、つい最近捕まった警備戦士の船が近くにあるにも関わらず、大穴付近での戦いに加勢するために馳せ参じていた。そしてその隣には、ケーウッド海賊団の船もあった。
「見なよ、闇の大穴を……! 光に紛れて、心なしかだんだん小さくなっていないかい?」
ケーウッドが大穴の方を指さす。
「これ……あの時、黒い山に飛ばされた時の……アイラちゃんの持つ剣の光で、山が崩れた時に似てないっすか……?」
デルヒスがぽつりとこぼす。
「本当だ! ってことは、これって……もしかして、闇の大穴が消滅するってこと⁉」
キャビルノがキラキラした目でアルゴを見上げる。アルゴは頷き、ぼそりと呟く。
「……ああ。アイラとサルマの二人が、何かしらやり遂げたのかもな……」
ディール島のアンとラビは、空に光の柱を確認すると、宮殿内からすぐさま飛び出し――アンの大絨毯に乗って、高い位置からその様子を眺める。
「我が国の近くまできていた闇の大穴の渦が……消えておる。アイラ、神に剣を渡せたのだな……」
アンが呟く。その目の奥にはかすかに涙が光っている。
「よかったね……。これで、あの二人のコンパスの旅は終わったのかな。だとしたら……」
ラビは光の柱を見ながら、ポツリとこぼす。
「きっと、また会いに来てくれるよね」
アンはラビを見て、ゆっくりと頷く。
「……ああ。その時は、どのようなことがあったのか……詳しく聞いてみたいものだな」
天界では、アイラとレイラが闇の大穴が消えゆく様子を見守っている。
やがて大穴は完全に閉じ――――禍々しい闇の気を全く感じなくなっていた。
そして、役目を終えた光の柱も跡形もなく消え――――世界は何事もなかったかのように、元の姿に戻った。
(闇の大穴がなくなって……まるで、この世界が生まれ変わったみたい。これからは、新しい世界が始まるんだ……)
アイラはふいに、そんなことを思う。
「よくやったわね、アイラ」
レイラがアイラに微笑みかける。天界にいるアイラの元には、三種の神器の白銀の弓と、退魔の剣の鞘だけが残されている。
「剣の鞘は、こちらに残したままでは剣を収められないから……機を見て下界に投げ込むといいわ」
大仕事をやり遂げ、白銀の弓を握りしめたまま呆然としているアイラに、レイラが声をかける。
「そうしたら、退魔の剣の本体と一緒に、オルク……いえ、サルマがきっと探し出してくれるはずよ。そのために与えられた、神の気を感じる能力でもあるのだから」
「じゃあ、コンパスも……サルマさんが剣と一緒に拾ってくれるのかな」
アイラがふとレイラに尋ねる。レイラは首を振る。
「コンパスは……剣とは違い、神の子を探し出す本能のようなものがあるの。地上に落ちた時には剣から離れ、然るべき時に、神の子の元へ行くようになっているのよ。そしてコンパスは神の子を、退魔の剣を持つ者の元へ連れてゆく……。だから、アイラが次の神の子を探し出して、その子が旅を始める時までは、人知れずどこかに潜んでいるのでしょうね」
「そうなんだ……」
(わたしの時は、ミンスさんが持ってて、そのミンスさんは旅の人にもらったって言ってたっけ。今落としたコンパスは、どんな風に旅をして、またここに戻ってくるのかな……)
コンパスのその後に思いを馳せたアイラは、地上から天界に視線を戻す。すると、レイラの体に異変が起こっていることに気が付く。
「あれ、母さま、体が……!」
レイラの体の右肩あたりの一部分が、サラサラと砂のように風化して、キラキラと輝き……天に舞っている。
「アイラ、私は……もう力を使い果たしてしまった。あなたとは、ここでお別れのようね」
そう言ってレイラは切なげに微笑む。
「私が消滅したら、ここには私の羽衣が残ります。私の記憶の全てがここに入っていて、神として何をすべきか、ヒントもあるでしょうから……今すぐにではなくても構いません、必ず一度、羽織っておくのですよ」
「そんな、母さま……!」
「あなた一人ここに残していくことは心苦しいけれど……あなたには地上に味方がたくさんいるし、私を含め……歴代の神の加護も授かっている。きっとやれるわ」
レイラはそう言いながらも、その体は右側から順にサラサラと風化し、半分以上は消えている。
「アイラ……あなたの親になれて良かった。あとは、頼みましたよ……この世界を守って――――――」
レイラの顔はついに見えなくなり、そこで言葉が途切れる。そして数分もしない間にレイラの体は消滅して――――キラキラと天に舞ってゆき、跡形もなくなった。
アイラは遺されたレイラの形見の羽衣を手に取る。しかし、そこで途端に張りつめていた気が緩んだのか、アイラは天界の雲の上に背中からバタリと倒れる。ふわふわの雲がアイラの体を受け止める。
「全部……終わったんだ…………」
アイラは雲に体を預け、一人呟く。
「旅の疲れかな……それとも、わたしも今ので力を使ったからかな……。なんだか、とっても疲れちゃった…………」
アイラはレイラの羽衣を手に持ったまま――――天界の雲に包まれて、眠りに落ちる。
0
あなたにおすすめの小説
【運命】と言われて困っています
桜 花音
児童書・童話
小6のはじまり。
遠山彩花のクラスである6年1組に転校生がやってきた。
男の子なのに、透き通るようにきれいな肌と、お人形さんみたいに、パッチリした茶色い瞳。
あまりにキレイすぎて、思わず教室のみんな、彼に視線が釘付けになった。
そんな彼が彩花にささやいた。
「やっと会えたね」
初めましてだと思うんだけど?
戸惑う彩花に彼はさらに秘密を教えてくれる。
彼は自らの中に“守護石”というものを宿していて、それがあると精霊と関われるようになるんだとか。
しかも、その彼の守護石の欠片を、なぜか彩花が持っているという。
どういうこと⁉
未来スコープ ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―
米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」
平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。
それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。
恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題──
彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。
未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。
誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。
夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。
この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。
感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。
読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP
じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】
悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。
「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。
いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――
クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる