タイムスリップできなくなった私と一緒に居たがる王子の話

みやっこ

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私がぼっち弁当を卒業した訳

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 やり直し続けるのを諦めゆるゆる過ごしていたら。春が来た。

 いや、春というよりも、真冬に桜が狂い咲きしいてる感じだ。
 
 あの日以降。
 携帯電話を持っていない私を、先輩がほぼ毎日放課後迎えにくる。門の前で話しかけてくる女子をことごとく空気扱いしながら、私が来るのを待っている。

 おかげで私の名が学内で馳せに馳せた。

 どこへ行っても質問攻め、視線攻め。女子達の勢いが怖すぎて従兄だと嘘をついたら、今度は紹介してくれと言われまくるようになり、下手な嘘つかなきゃよかったと後悔中。
 
 青春は甘いだけじゃない。何事もマイナス要素は存在する。
 が、あまりにも日常生活が脅かされすぎて困る。
 がんばるヒロインならば自分でなんとかすべきかもしれないが、佐原先輩に協力してもらった方が速いだろう。

 と思ったものの、あなたの人気が私の生活を脅かしているのですとは言えず、二週間たってようやく、あくまでやんわりと門の前で待たれると困る旨をお伝えしてみた。

「そうか」

 佐原先輩はそっけなかった。
 対処する気ないなというのがありありの反応だった。

 まあ。そう深い付き合いでもないので、このくらいの返事が自然で、毎日迎えにくることの方が変だ。

 にしても、相手の迷惑を考えないってなんなんだろう。嫌がることはしないって言ってたのに。

「あの。そもそも毎日会うなんて聞いてない……え」

 仕方がないので、はっきり迷惑だと伝えようとしたら。言い切る前にその場から走り去られた。

 私は、ポカンと口を開けて暫しその場に立ち尽くすしかなかった。

 足。早。
 なぜ。突然去る。私何かした?

 わからん。

 けれど、少しへこんだ。

 面倒になったならそれはそれでいいんだけどね。いいんだけどねっ。

 これでいつも通りの日常が戻ってくる。ご協力感謝いたします。結局付き合ってっていうのはなんだったの? それだけは教えてって欲しいわ。今度見つけたら問い詰めようか。うん。そうしよう。それくらい許されるはず。

 なんて開き直ったフリで翌日学校へ行ったものの、やはり気になって徐々に元気を失くし……たものの、元気を失くしている気力もなくし、いつも通りのゆるさに戻ってさらっと帰ろうとしたら。

 門にいつもどおり人だかりがあった。

 私は、そんなはずないと思いながら、足早に通り過ぎようとして、腕を引っ張られ。
 またもどこぞへ連れさられた。どこぞって近所の公園だけど。

 そこで

 佐原先輩から携帯電話を渡されるという。事件が起きた。
 携帯。新品の。先輩が契約した携帯を。渡された。この瞬間の私の何とも言えない感情を誰が理解できるだろうか。もちろん嬉しいわけない。悲しくもないが……。

 きょとん。

 となったのは言うまでもない。

「うん。携帯だね」

「機種それで良かったかな」

「機種なんてよくわかりませんけど。へー……携帯かぁ」

 私は、携帯のボディを確かめ、ボタンを押したりいろいろ堪能してから、何事もなかったかのように先輩にお返しした。

 なかったことにしてあげようとした。
 
 のに。

 やはり先輩は空気を読んだ私の空気を読まなかった。

 二年契約してしまったとかあの顔で迫られ。半ば強引に鞄の中へねじ込まれた。
 もちろん、阻止しようと佐原先輩の腕を掴んだりクルクル回転して鞄の中に入れられないようにしてみたが、佐原先輩の運動神経と粘りには勝てず、しかも途中からとっても嬉しそうに笑いながら戯れてきたもんで、私は駄目になった。そう。駄目になった。

「普通に使っていいから」

「普通……」

 ではない。
 
 私ごとき恋愛……いや人付き合い初心者がこんなことを言うのはおこがましいが。
 先輩は、ちょっと……いやかなり重い……のではないかと思う。

 今を改善したいとは思うけれど、この付き合い方は無理だ。

 気力をすっかり時空のかなたに置いてきた私でなくとも荷が重すぎる案件のはず。
 正直言うと、今更待ち合わせ場所を変えようが、普段まったく話しかけてこない女子達の紹介して攻撃と、ときどき話していた女子達が逆に話してくれなくなったのもストレスだ。

 ぼっちがどうのとか青春がどうのとか無気力を嘆いていたけれど。それが自分に甘いだけでなく他人に甘えているのだと身をもって思い知った。
 私がみんなから離れていたのではない。みんなが私との距離を推し量り、接してくれていただけなのだ。

 本当にこのままではいけないということがわかった。わかったけれども。

 もう毎日がいっぱいいっぱいで筋肉痛ならぬ気持ち痛なんです。リハビリが強すぎるんです。明日から……なんてもう言わないけど、ゆっくり進めたいんです。

 それなのに携帯には、先輩からのメールがひっきりなしに届くんです。

『今日は駅の裏で待ってる。用事があるなら言ってくれればそっちに行くから』

 なんだろうこの。白馬の王子様が迎えに来てくれたけど、白馬に乗り損ねて、尻尾あたりに引っ掛かってグルングルン振り回されてる感じは。
 
 なぜ。頷いた私。

 わからない。何もわからない。一生懸命考えなければいけないことしかわからない。

 もう出来ればどなたかにご意見を伺いたい。この状況が何なのか、他の人に聞きたい。
 といっても妹やおばあちゃんになんて無理だ。恥ずかしすぎて死ねる。おじいちゃんにならいくらでも話せるけれど 「西の角の饅頭屋にある甘酒が丁度いい塩梅だ」 という答えしか返ってこなかった。西の角ってどこだと思って携帯で調べたが、わからなかった。

 誰とでもいい塩梅でお付き合いしていきたいと思ってたんだよおじいちゃん。でもそれじゃ駄目だってのも前々の前の前から思ってたんだよ。

 思いながらも……明日でいいかって……何十年も……逃げて来た。

 人付き合いをする。

 怖いけれど。少しだけ、現状打破のために。やるしかない。のかもしれない。
 となると最初はやはり。

 友達……。

 作ろうと思って作れるものではない。
 すごく仲のいい子が居たこともあるけれど、何度も同じ時を繰り返すうちに段々と一緒に行動しなくなった。

 友達。友達。

 人見知りが激しいわけではない。普通に笑い話くらいならする。朝笑顔で挨拶もする。けれど、その関係に名前をつけようとするだけで、なぜかものすごい壁を感じる。
 別につけなくてもいいんだろうけれど。私にとってはその線引きが……結構重要になってしまっている。

 不自然な生き方の代償なのだろうか。
 
 いやでも。まだ逃げの選択肢はある。
 佐原先輩にきっぱり。もうお付き合いはやめましょうとお伝えすることだ。

 考えてみる。
 想像してみる。
 佐原先輩にどうやってそれを伝えるか。
 
 私の想像する佐原先輩はいつも笑顔で。
 とても嬉しそうだ。
 先輩と呼ぶだけで、にこにこしている。

 あの笑顔が……どうなってしまうのか……想像しようとするだけで胸の奥の奥のどこだかわからない個所がわさわさ落ち着かない。

 駄目だ。とてもじゃないけれど、言えない。
 言葉がまったく浮かんでこない。
 
 やっぱりなんとかするしかない。何か他の方法でなんとか。なんとか。なん……。

 私は、昼休み、誰かとお昼を食べるため出陣することにした。ついにぼっち飯を卒業するべく重い腰を上げた。

 もうすぐ冬休みというこの時期に、新たにグループ参戦しようなどという強者はいないだろう。 
 今日だけ一緒に食べるというのならば、私は声をかけられる。今までもグループで活動してください系の行事は、そんな感じでのりきってきた。けれど、今後もという意気込みでいる今、心臓のバクバクがおさまらない。

 考えるな。今後もとか。今日だけとか。友情は小さな積み重ねだ。
 さあ。声をかけよう。いつものごとく気軽に。ささっと。適当に。

「っ……駄目だ」

 私は、自分のクラスの子を誘えず、ふらふらうろうろしたあげく廊下へ出てしまった。この時点でもう駄目な気がしてきた。

 もう誰でもいい。
 違うクラスでも学年でも先生でも犬でも猫でも鳥でも。

 投げやりな気持ちになりつつ歩いていたら。

「あ」

「あ」

 この間佐原先輩が門の前で待っていると教えてくれた前髪パッツン美人の子と、薄化粧のおしゃれな子と鉢合わせた。

 二人共私と同じお弁当携えスタイル。

 それぞれどこかへ行こうとしてる。けれど。目は合ってる。

 これは、チャンスだ。チャン……チャンス? まあチャンス!

 この間呼びに来てくれたお礼なりなんなり、適当に理由を付けて誘え私。

「あの……あのあれ。えっとあの、アレ……」

 私は、弁当をクイっと持ち上げ、笑顔を作った。

 仕事終わりに一杯どう? って感じだ。

 ここまでアクションしてなぜ、お弁当一緒に食べてくれませんかという言葉が出ないのか、自分で自分が情けない。
 ひきつりそうな頬に力を入れ、言葉を探していると。
 パッツン前髪の子が、ちょっとあたふたして不器用なウィンクを返してきた。

 なんか通じた。

 嬉しくなってもう一人の薄化粧おしゃれ女子を見たら、口をへの字にして冷めた顔だった。

「あのっ」

 私は一人に通じたという自信で、なんとか一言。

「お昼一緒にどうすか」

 またもおっさんのような誘い方をしてしまったが。
 薄化粧おしゃれ女子は、ほんの少し目線を逸らし、つまらなさそうな顔のまま 「まあいいけど」 と了承してくれた。

 グループが出来た。

 私やりました佐原先輩。やりとげました。
 小さくガッツポーズ……はせず、心の中だけで勝利の余韻に浸りながら平静を装う。

「じゃあ……どこで食べようか。二人はどこに行こうとしてたの?」

 二人はそれぞれ、違う方向を指さした。
 
 黒髪パッツン美人さんは……トイレ……どう見てもトイレの方を指さしている。
 薄化粧おしゃれ女子は、天井……。

「屋上?」

「は締め切られてるから、屋上に出る扉の前。あそこ人来ないから」

 薄化粧おしゃれ女子は、さっさと階段の方へ歩き出してしまった。そりゃトイレは却下だけども、黒髪パッツンさんは、ちょっと恥ずかしそうな顔でそれに続き、私も二人の後を追いかけた。

 二人共一人飯の常連なのだろうか。てっきり友達同士なのだと思っていたが。
 ご飯は一人派かそれとも何かしらに事情ありきなのか。

 そこはまあいいとして。誘った手前話題を捻りだして場を盛り上げるべし。

 私は気合を入れた。

 あれやこれやのおもしろ話を思い出そうとした。最近みたバラエティーを引っ張りだそうとした。ゲームや音楽や映画のタイトルを脳内の引き出しから取り出そうとした。
 
 のに。目的地へたどり着き、薄暗い空間に三人しゃがんで弁当を広げ、これと言って何を言うでもなくもくもくと食べ始め、気が付くと半分ほど平らげていた。
 
 うん。何か違う。これ。

 私は、箸を止めて気合を入れなお……そうとして。

 何が好きで何が嫌いかもわからない人に何の話題を振るべきかわからない。普段は出来ているはずなのに。いや出来ていないかもしれない。合わせてただけかもしれない。

 思えば私は高校入ってからずっと指示待ち人間……話題提供者に甘んじて会話してきた。
 何十年前か。クラス替えや入学時は、自分からコミュニケーションを取っていたはずだが。
 
 思い出せない。考えれば考えるほどわからなくなる。

 自己紹介……。

 ふと佐原先輩と出会ったときのことを思い出した私は、軽く息を吸い。

「あの。私、一年二組の水元理子です」

 大きくハッキリした声で宣言した。

「知ってる」

 おしゃれ女子にそっけなく返された。

「入学してすぐの合宿で班一緒だった。波原ゆり。五組」

 クラスごちゃまぜの班ってことは登山班のことだろう。十人くらい居て、後ろの方をぽてぽて歩いたから、ちゃんと顔を見ていなかった。

「ごめん。波原さん。私覚えてなくて」

 おしゃれ女子波原さんは、特に気にした様子もなく、二度頷いてまた弁当を食べ始めた。
 
「私は、文化祭の準備のとき水元さんに手伝って貰ったよ。佐々木香穂子です。一組の」

 黒髪パッツン佐々木さんは、照れたように笑った。最近前のめり肉食女子ばかり相手にしているせいだからなのか、その可愛らしさに私まで照れた。
 
「あ。えっと、衣装かな……」

「ううん。看板。いいよいいよ。水元さん忙しそうだったしいろいろやってたもんね」

 文化祭の準備は、確かに忙しくしていた。
 アイデアが全然ないし、これといって意欲もない代わりに体を動かさねばと思い、雑用を延々やっていて……他のクラスまで手伝っただろうか。

「ほんとごめん。記憶力なくて」

「いいって」「いいよ」

 二人の声が重なり、二人共がそっぽ向いてふっと笑った。

 途端に、緊張がふわふわしたものに変わった気がした。
 この感覚は覚えがある。この間佐原先輩とゲームセンターに行ったときのと似ている。

「明日もいいかな。ここでご飯」

 私は、何も考えずにそう言えた。
 すると、二人共黙って頷いた。
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