タイムスリップできなくなった私と一緒に居たがる王子の話

みやっこ

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私のモンブランが変身した訳

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 一回ぶつかって。それからまた……ぶつか……。

 ん?

 あれ?

 突発事故。
 後に事件。

 一瞬で混乱が一周した。三百六十度回って元に戻った私は、遊園地の地図を眺めながら話す佐々木さんと波原さんの間に割り込んで、二人の腕に絡みついた。

「あと何分かな」

 誰ともなく問いかけたのだが、一秒もしないうちに、自分が何を言ったのか忘れてしまった。

「もうちょっとだって」

 ん。何がもうちょっと……?

「これ終わったら次は空いてそうなとこ行って、それからお昼しようか」

 友野さんの爽やかな笑顔が眩しい。
 高校生の男女で遊園地に来ているのだという実感が沸く。沸いている。沸きすぎて火傷しそうになって心頭滅却すれば火もまた涼し……。

 再び混乱。が一周。からの通常運転。

「俺がっつり食べたい」

 滝本さんが食べ物欄を指さした。
 
 そんな声なんだぁ。
 と私は思った。

「いやいやここは女子の意見優先でしょ」

「いいですよがっつりで。でもこのカップが貰えるとこがいいです」

 佐々木さんが目を輝かせている。
 カップ欲しいな。
 と私も思った。

「いやそれデザートの店じゃん。誰がデザートがっつり食べたいっていったよ」

 波原さんがいつも通りつっこむ。
 私も……私は……。

「じゃあこっち行ったあとでそこ行こうか」

 会話に混じりたいが。なかなかどうして言葉が出ない。普通のはずなのに、全然普通でいられない。

「みずもっちゃんと佐原もそれでいいよな」

 みずも……。

「いいよ。そっち行くならコレ乗れるんじゃないか?」

 佐原先輩の空気が和らいでいる。しかも普通に四人の会話に混じっていった。
 私を置いて。
 こちとら先輩のせいで弾き出されたのに……いや……先輩のせいっていうか。

「水元さんどうしたの? 大丈夫? お手洗い行くんだったら私も抜けるよ?」

 佐々木さんが心配そうに声をかけてくれたが、私はふるふる首を振った。

 幸い。四人とも見ていないようだ。

 さっきの事件を……事件……。 

 今。私。どういう状態なのでしょうか。わからない。遊園地楽しみたい。けれどどうやって楽しむのかわからない。

 私は……

 とにかく笑った。みんなが笑ったら笑う。みんなが歩きだしたらついて行く。そういうシステムを作り出して、ポップな屋根とカラフルな石畳と着ぐるみをスルーした。

 次のアトラクションは並ばず乗れたようだが記憶がない。
 ときどき寄り道しながらお昼ご飯まで順調に進んだらしいが覚えがない。

 みんなと同じにしているはずなのに、私だけが楽しめていないこの状況はなんとする。
 こんなところでもいつものごとく取り残されるなんて。
 いつものといっても、時間の中にという感覚ではなくて。先輩……に取り残され……囚われて……。

 いやいや。誰も囚われてないよ。自由です。自由。

「で? 二人はどこでどう出会ったの?」

 友野さんが可愛らしいカップ片手にさらっと聞いてきた。

 ここは……可愛い耳付カップが貰えるキャラクター喫茶のようだ。それぞれの頼んだデザートが目の前に置かれている。
 私の前に置いてあるモンブランは私が頼んだものなのだろうか。無意識にでも好きな食べ物を選ぶ私すごい。 

「ああ」

 私は、店内を忙しなく動くフリフリピンク衣装を着た店員さんを目で追うフリで、返事をした佐原先輩をチラ見した。

 佐原先輩は少し面倒くさそうに、私との出会いを説明した。

 あまりの眠さでベンチに腰を下ろしたら隣に私が居て、ついつい肩を借りて眠ってしまった……と。

 腰をおろしたベンチが我が校にあるベンチで、しかも昼休みだった、という奇妙な部分はきちんと省いている。
 いっつもおかしなことばかり言うくせに、おかしい個所は認識しているらしい。

 いっそのこと天然で片づけられたらこんなに悩まないのに。わかっててやってる感じのとき多いから、何か裏があるんじゃないかって、他の思惑があるんだろうなって思っちゃうんだよね。
 さっきのアレも何かあるんだろうなって……いや何があるんだアレに。あの行為に。

「佐原の一目ぼれか」

 滝本さんの言葉に、佐原先輩は肩で答えた。
 どうとでも取ってくれと言いたげなその動きがやたら格好良くて、フリフリピンクの店員さんが立ち止まって見惚れている。

「好きなんですよね水元……理子のこと」

 波原さんが、ドストレートに攻撃をしかけたため。
 私は口の端から紅茶を零した。

 佐々木さんがささっとフキンで私の口元を拭きつつ、友野さんと目を合わせ、滝本さんが不自然な態度でコーヒーを飲む。

 これは……。

 みんなに合わせようシステムに支配されたぼんやり脳でも勘付くほどの連携ミスだった。
 会話の持って行き方、ぶっこむ位置、すべてがギクシャクしている。

 まさか。さっき列に並んでいるときに打ち合わせでもした?

 急に四人が仲良くなったのは、佐原先輩の本音を聞きだすという目的で団結したからなのでは。

 そうでなければ、男子苦手と言っていた佐々木さんがすんなり馴染めるはず……いやまあ苦手って言ってただけかもしれないけど。

 私がぼっち感に苛まれていたのは、さっきの佐原先輩の謎行為のせいだけではなく、四人の計画によるもの?

 にしてもこの計画……付け焼刃すぎやしないか。相手は武士王子だぞ。例え四人がかりだろうと切れない刀で太刀打ち出来るはずが……。

 息を飲む面々を前に、佐原先輩は優雅に紅茶を一口飲んで、私に視線を送った。

「好きなの?」

 秘技質問回し。
 これは自分への質問を隣近所にポイってする、余裕がなければ出来ない上から目線の技である。

 まったく事情をしらない友野さん滝本さんは、なんのこっちゃかわからんという様子だが、友人二人の方は、少しばかり険しい表情になった。

 私はもう……なんとも言いようがなくて、佐原先輩のショートケーキのイチゴを食い入るように見た。

 すると佐原先輩は何を思ったのか、そのイチゴをフォークですくいあげて、私のモンブランの頂点にのせようと四苦八苦しだした。

「あっぶな」

 モンブランから転げ落ちそうになったイチゴを、滝本さんが素早く皿を斜めにして事なきを得る。
 突然イチゴのお引越しをし始めた佐原先輩に、滝本さん以外全員の思考が止まった。
 と思われる。

 騒がしい遊園地の音に耳を傾けるという、無駄な時間が過ぎゆく中、一番に正気に戻った友野さんが
 
「いやいやなんで水元さんが答える感じになってるんだよ」

 フォローしようとして。

「俺答えたくないから。理子も言いたくないなら言わなくていいよ」

 佐原先輩にばっさりやられた。

「おまえっその言い方っ」

 声を荒げかけ、口を閉ざす友野さん。
 好きかどうか聞いた波原さんが、申し訳なさそうな顔で私を見ている。

「……」

 なんだろう。この感じは。

 傷ついたような、そうでもないような。
 悔しいような、何か違うような。

 でもこのまま私が何も答えなければ、せっかくの遊園地が台無しになってしまう。いつも強気な波原さんがどんどん青ざめていく。佐々木さんが気を使いすぎて、カップのキャラクターの生い立ちを早口に捲し立て始めたが、誰も聞いていない。

 友野さんは、佐原先輩へのイラつきを抑えようとしてか、黙り込んでいる。

 私のせいだ。みんな私のためにいろいろ考えてくれたのに。私……何かこう。答えよう。さらっと。想いのまま。そう。素直に。

「嫌ではなかった!」

 私の口めがっ。
 勝手にそう発言した。

 佐原先輩が、私のモンブランにイチゴをめり込ませた。地底深くおもいっきり。

「あ……」

 滝本さんが小さく声を上げ、全員が無残なモンブランを凝視する。

 モンブランってさ。こう見えてそんなに柔らかくないと思うんだ。全部がクリームじゃないし。固い層もあるはずなんだ。栗も居るし。
 でも、すべてを突き抜けてイチゴもちょっと潰れてるし、うん、佐原先輩すごい力入れてめり込ませたね。

 そういえばさっきも結構な力で引き寄せられて唇を奪われ……。

「水元さん」

 滝本さんが、自分の皿に乗っていたまだ手つかずのチョコレートアイスを私の皿にのせてくれた。
 それとほぼ同時に、友野さんがチーズケーキ一口分、波原さんがシフォンケーキの生クリームをどっさり私のコーヒーに突っ込み、佐々木さんはチョコレートケーキのキャラクタープレートをモンブランに差した。

「これは……一体……」

 モンブラン変身したわ。

 真ん中にめり込んだイチゴ。側面にチョコプレート。皿の端にチョコレートアイスとチーズケーキが居て、コーヒーはクリームで真っ白。 

「ナイス連携プレーっ」

 友野さんが明るくそう言うと、滝本さんがフォークを口にくわえて両手を上げ、両端に居た波原さんと友野さんがハイタッチをした。佐々木さんは、手直しなのかなんなのか、チョコレートアイスとチーズケーキが触れあわないようにフォークでそっと距離を空け、遅ればせながら片手をおずおずとテーブルの真ん中に出した。

「……あ」

 三人共手を引っ込めたばかりで出遅れたので、私が慌てて手を出し、タッチする。

「へへっ」

 佐々木さんが嬉しそうに手を引っ込めた。

「……」「…………」

 なにがなんだか、まったくもってわからないけれど。四人共下を向いて恥ずかしそうにケーキをつつきだした。

 確かに。ナイス連携プレーだった……ような、違うような。
 でも……なんだかすごく和らいだ。

 ところで

「すみません。モンブランひと……」

 私は、空気を読まずに追加注文しようとした先輩の口を塞いだ。
 手のひらに当たる柔らかな感触に声を上げそうになって、すぐに離したけれど。

「佐原。おまえのヤキモチひくわ」

 友野さんがコソっと佐原先輩に言った言葉は実のところばっちり聞こえたけれど、まったくもって意味がわからなかった。本当に。

 どこがだよ教えてくれ!

 と叫びたいぐらい。

 佐原先輩のことがわからない。
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