元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第五部:勉強と試験

引きこもりの理由

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「お分かりだとは思いますが、わたくしの前世は日本人でございます」
「その外見ならそうだろうなあ」
 リュシエンヌは黒い髪に黒い目。やや目鼻立ちのハッキリした大和撫子だ。でも実はかなりエロい。見た目が幼いのにエロい。
「母が茶色い髪ですので、特におかしいとは思われませんでしたが」
「なるほどな。それでリュシエンヌが生きていたのはどのあたりの時代だったんだ? 少し古風な言葉遣いから、俺よりも前だとは思うが」
「はい、明治の終わり頃から昭和の頭にかけてと言えばお分かりでしょうか?」
「ああ、なるほど。俺は昭和のもう一つ後だ」
「そうなのですね」
「ああ、平成という時代でな、昭和の終わりから平成の初めにかけて、日本はかつてない好景気になった。そして景気が一気に落ち込んだ。俺が生まれたのはそんな時代だ。俺の同世代は景気がいい時代のことはほとんど知らないだろう」
 俺は彼女に、昭和がそれからどうなったのかをざっくりと説明した。
「俺の父は不況で仕事をなくした挙げ句に外で女を作って、それで俺が幼い頃に両親は離婚した。俺は母に育てられたけど、離婚から何年か経って今度は母が蒸発。そのせいで金の苦労があって、結局就いたのが夜の仕事だった」
 生活費を稼ぐために、学校が終わればバイトだった。日によっては朝まで働いてたから、その頃から体を壊しかけてたのかもしれないな。
「安心いたしました」
「何がだ?」
「勇者様でもそのように辛い時期もある普通の人なのだと分かったことがです」
「普通ではないと思うけどな」
 父親の浮気、両親の離婚、未成年で深夜バイト。これが普通なら日本は終わりだろう。
「実はわたくしは、自分のことについては実は何も覚えていないのです」
「ん? 明治から昭和にかけてと言ってなかったか?」
「はい。自分以外のことはよく覚えております。ですが、家族構成がどうだったか、自分に恋人がいたかどうか、結婚していたかどうか、子供がいたかどうか、何歳まで生きていたか、そのようなことが全然記憶にございません」
「時代背景は覚えているのに個人的なことはかなり曖昧になっているっていうことか?」
「はい、そうなります」
 転生はそうなるのか? 聞いてどうなるものでもないけど、気にはなるな。
(ミレーヌ、今いいか?)
(はい、大丈夫ですよ)
(転生者って記憶をなくすのか?)
(なくすこともです。記憶を持ったまま生まれ変わると、過去の諸々を思い出した瞬間に混乱したり発狂したりすることがありますから)
(ああ、前世の辛いことを思い出してか)
(そんな感じです。いい思い出ばかりとは限りませんから。体は新しくなっても、記憶が残っていれば辛いこともあります。最終的には転生を担当する神次第ですけど、何を消して何を残したいかを本人に確認することがほとんどですね)
(てことは、個人的なことを覚えていないリュシエンヌは、記憶を残さないことを選んだかもしれない可能性もあるってことだな?)
(そうなりますね)
(サンキュー)
 それからリュシエンヌはこのフレージュ王国で生まれ変わってからのことを教えてくれた。彼女は三つの頃から徐々に記憶が戻り始めたそうだ。そして社交が始まる八歳の頃にはすでに記憶を取り戻していたらしい。
「八歳って早くないか?」
 俺が持ってる貴族についての知識は、やたらとヨーロッパの貴族文化について熱く語ってくれたマダムから得たものだ。付き合ってコスプレのようなことをしたこともある。あの時は「夫のいない時に愛人を連れ込むことは一種のステータスだったそうですね」などと言われ、本当かどうかは知らないけどそれを実践させられた。いい小遣い稼ぎになったけどな。
「早婚化のせいで、わたくしが生まれたあたりから社交は八歳からになっていたと聞いています」
「早婚化か。全く逆だな」
 貴族の結婚は一〇歳から一五歳らしい。だから八歳で相手を見つけて婚約、一〇歳で結婚、というのも普通にあると。中世か? それでも子供を作るのはさすがに一〇歳では珍しいそうだ。体への負担が大きいからな。
 貴族なら治癒魔法を使える術者を雇ったりできるから、珍しいけど実際にあることはあるらしい。でもそこに金がかけられない平民は文字通り命がけになるから無理はしないそうだ。だから平民は処女率が高いらしい。いや、俺はそこにこだわりはない。
 社交の話に戻すと、八歳という年齢は当然人としては幼い。だから周りも同じような年齢の少女が集まり、話題は年齢相応のものに限られている。でもお茶会を繰り返すうちに知り合いも増え、そうすると自分より年上も参加するようになる。
「年頃の女性が集まって話をするとなると、出てくる話題は主に殿方のことになります」
 貴族にとっての年頃は八歳から一五歳くらいらいい。
「一〇で結婚ならそうなるんだろうなあ」
 リュシエンヌが持っていた知識や道徳観は日本人時代のやや古風なものだった。それが彼女の社交に大きな影響を与えてしまった。
 日本できちんとした女子教育が行われるようになったのは、リュシエンヌが生まれる前の江戸時代から。明治に入ると文明開花でさらに女子教育に力が入れられ、国は良妻賢母を育てる方向に進んだ。さらに時代が大正に入ると、日本は近代化が進んで著しい経済発展を経験するようになる。その時代になると専業主婦であることが推奨され、男は外で働き、女は家で子供を育てることが求められた。これは昭和の高度経済成長の時期でも同じだろう。
「どうもわたくし日本では結婚するまでは接吻すらしてはいけないと教わっていたようです。それが二つ三つ上だけのご令嬢たちが、誰と同衾したとかどのような対位でしたとか、そのような話をさも当然のように口にしているのを聞いてしまい、あまりの違いに驚いてしまいました」
 妊娠の話と同じでという条件は付くけど、結婚するまでは清らかな体でいるという考えはこの国にはないそうだ。望んでいないのに子供ができるという問題は、【避妊】があるから起きないから。そんなことを聞いた真面目なリュシエンヌは、少し年上の少女たちがヤりまくってるという話にショックを受けて混乱してしまった。泣いて帰ってきたのはそのせいだったらしい。
「自分はいかにこの国で遅れているかと感じ、その遅れを取り返そうと思いました。そうは言いましても、それを親に相談するのも恥ずかしく、艶本えんぽんを頑張って入手しまして、それを繰り返して読むことで勉強を続けてきました」
「それを伯爵たちは勘違いしたんだな?」
「勉強をすると伝えたはずなのですが」
 親としても娘がエロ本を買い込んで引きこもるとは思わないだろう。結局それから何年間もエロ本を買うためだけにしか外出せず、エロの勉強をしてようやく自信が付いたのがつい先日のこと。
 元々天才だったリュシエンヌがさらに閉じこもって勉強しているという話はよく知られていたそうだ。その彼女があの場に来ていたのを見て、ルブラン侯爵公爵は俺の家庭教師にいいだろうと考えたそうだ。
 侯爵の親戚筋に当たるそうだから、もし俺がリュシエンヌを気に入ればラッキーとでも思った可能性はある。実際にしっかり手を出したからな。
 しかしまあ、一〇歳で取っ替え引っ替えか……。もしかしたら、リュシエンヌに話をした子たちは、実は耳年増だった、ということはないか? 自分はを演じたかっただけって可能性はある。男だってそうだろう。ちょっと見栄を張りたい年頃ってあるもんだ。
 そんなことを考えたけど、その子が誰かとかは分からないから調べようがないな。
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