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第三部:勇者デビュー
暇潰しと騎士の相手
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「うーん、暇すぎるのも問題だなあ」
迎賓館でゴロゴロしている。体を壊してた時はゴロゴロするのも辛かった。体が痛い時って、場合によっては起きてる方が痛みが紛れることがある。静かに横になると痛みに気づくんだよな。今は健康そのもの。でも部屋にこもりっきりはどうなんだと。
屋敷の準備が整うまでは俺にはすることがない。でも王宮では今日も役人たちが働いている。俺が何かをすれば彼らの邪魔になることだってあるはずだ。下手に近づくと荷物を置いて跪くからな。そう考えると用事もないのに王宮の中をあまりウロウロするのも考えものだ。
「散歩でもなさってはいかがでしょうか?」
「散歩か……。人が少なそうなところを歩いてもいいか。エミリアはどうだ?」
俺は一人でもいいし二人でもいい。
「今は……遠慮させていただきます」
「そうか。それじゃちょっとブラついてくる」
「はい、いってらっしゃいませ」
エミリアが遠慮したのは、山のように用意された昼食を胃袋に収めた直後だからだ。食べすぎで動けないらしい。これまで清貧を旨とする生活を送っていたエミリアは、食事を残してはいけないと教えられていた。だから朝食の後に神域に戻ったミレーヌの分も食べた。
清貧を旨としてって、それでよくあのレベルの尻に育ったと感動すら感じる。女体の神秘だ。しっかり食べるようになったらどれほどに成長するのか楽しみだ。
正直なところ、女は多少ムッチリした方が抱き心地がいいと俺は思ってるから、エミリアにもう少し肉が付いても問題ない。むしろ付けていい。付けるべき。だから「え~、これ以上食べらんな~い」とか合コンで小食をアピールする女は蹴っ飛ばしたくなる。それでも「無理して食べなくてもいいよ。俺が代わりに食べてやるから」などと言って好感度を上げ、お持ち帰りしてホテルで食べたけどな、その女を。
ミレーヌは今日と明日は神域の方だ。試験期間だけど修行も兼ねてるそうだから、あまりこっちでフラフラはできないそうだ。だから地上に来るのは二、三日おきだと。
何かあれば声は聞けるようになってるから問題はない。それにこの部屋にミレーヌもエミリアもいて上げ膳据え膳なら部屋から出たくなくなりそうだ。これくらいでちょうどいいのかもしれない。
◆◆◆
迎賓館を出て中庭を歩く。向こうには俺が召喚された建物が見える。元礼拝堂だ。覗いてみると三人ほどの魔術師がいた。
「これは勇者様、ご機嫌麗しゅう」
そう言って頭を下げたのは宮廷魔術師の一人。
「お教えいただいた通り、召喚陣に残った魔力を散らし、それから水属性が得意な術者だけで魔力を込めております。お陰様でかなり効率が良くなっているようです」
「違いが分かるほどなのか?」
「はい。召喚陣へ魔力を込める際の抵抗が下がりました。以前よりも術者への負担がかなり減っております」
「それはよかった」
どうも複数の属性の魔力が混ざると、召喚陣に吸収されにくくなるらしい。この前までは押し込んでいたのに、それが必要なくなったそうだ。
「ところでその術者という言い方は一般的なのか?」
「そうですね……内輪では、というくらいでしょうか。世間的には魔法使いという言い方の方がよく使われているでしょう。ですが勇者様のように魔法も得意な剣士の場合はさすがに魔法使いとは呼にことに無理がございます。それらの点も考えまして術者という呼称を内部では使うことが多くなります」
魔導師、魔術師、賢者、聖女、治癒師、召喚士、精霊使い、魔物使いなどが、一般的には魔法使いと呼ばれる。でも自分たちの中では術者と呼ぶことが多いと。俺はタイプ的には魔法剣士になるけど、それを魔法使いと呼ぶのは少し違和感がある。なるほど。
そのあたりは内部の事情かもしれないけど、細かなことで覚えておいたことがいいことも多そうだ。
召喚の間を出てしばらく歩くと金属を打ち合わせるような音が聞こえた。訓練所かと思って覗いてみると騎士の訓練所だった。
「これはこれはラヴァル公爵、訓練所に何かご用ですか?」
手前にいたのは近衛騎士の隊長の一人、ナタン・ロッシュ。生まれは子爵家の三男で、筋骨隆々の四〇代だ。近衛騎士なので王宮の中でも何回か顔を合わせている。
「ナタン殿、体が鈍りそうなので散歩をしていた。少し見せてもらってもいいか?」
「はっ、どうぞご自由に」
今は騎士たちが剣の訓練をしていた。フランスっぽい国だからレイピアかと思ったら違った。バスタードソードと呼ばれる片手でも両手でも使える、刺すのにも斬るのにも使える剣だった。俺も本格的に使うとすればバスタードソードだろうな。
俺がしばらく訓練を見ていると、騎士たちがチラチラとこちらを見てるのに気づいた。これは「おいおい、勇者なんて呼ばれていい気になってんのがいるぞ。ちょっとシメてやろうぜ」という視線じゃなく、俺と手合わせをしたがってるんだろう。
「俺も彼らに混じって少し体を動かしたんだが、問題ないか?」
「——! ぜひお願いいたします!」
ナタン殿の許可が貰えたので、ストレージから剣を取り出す。「あれが聖剣か!」って聞こえたけど、違うからな。普通に手に入る練習用の刃引きの剣だ。聖剣(刃引き)とか嫌すぎだろう。「勇者様、これで邪神を倒してください」と国王に頼まれて受け取ったら聖剣(刃引き)だったらどんな勇者でも床に叩きつけるぞ。
ちなみに股間には性剣があるけど、これは似て非なるものだ。連日大活躍だけどな。
それにもし聖剣を持ってたとしても、こんなところで振り回したら危ないだろう。この世界に来て最初に切ったのが近衛騎士とか大問題だな。
「しばらく剣を握っていなかったから感覚を取り戻すのに誰か付き合ってくれないか?」
俺がそう言ったら、ナタン殿を先頭に全員がサッと一列になった。全員と手合わせしろと? いや、暇だからやるけど。
◆◆◆
「「「「「ご指導ありがとうございました」」」」」
「こちらこそいい運動になった」
騎士たちに向かって手を上げて返事をすると訓練所を出た。いやいや、ホントにいい運動になった。さすがに国に仕える騎士となるとステータスは高く、男は当然のように【腕力】や【脚力】の数値が二五〇くらいある。女でも二〇〇はあった。俺は【俊敏さ】や【器用さ】の数値が三〇〇以上あるから、体には擦らせもしなかったけどな。
感触としては、目隠ししても勝てるというほどの余裕はなかった。まあ目隠し状態でも【カメラ】を使えば頭の中に俺の周囲が映るから、それを使ってチートはできるけど、そんなことをして何になるのかって話だ。女性騎士たちに「すっご~い」って言わせることができるくらいか。男が多かったけど、ある程度は女もいた。王妃や王女の護衛も必要なんだろう。
最後に女性騎士と剣を交えたけど、鍔迫り合いをしながらじっくりと顔を眺めさせてもらった。彼女とはできれば剣と剣じゃなくて腰と腰を激しくぶつけ合いたかったな。そんなことは考えても、さすがに勇者の品性を疑われるような行動はしない。元からあってないような品性だけどゼロじゃない。
真面目な話をすると、騎士たちは頑丈な甲冑を着てるから、下手に剣を避けるよりも剣に自分から当たりにいって勢いを殺すような戦い方をすることもあった。たしかに体ごとぶつかられたら剣の勢いを活かせないし体勢を崩してしまう。ただ足元がお留守になる場合もあるので、俺は何度も足を引っかけて転がしてやった。
卑怯? いやいや、戦い方が違うだけだ。勇者は最後まで立ってなきゃいけない。例え最後に勇者一人になっても敵と戦わなければいけない。勇者は死んではいけない。
近衛騎士は後ろに国王がいることが多いから逃げることはできないけど、そうじゃない場合は逃げることも大切だ。それに相手をするのが騎士なら問題なくても、例えば盗賊ならどんな汚い手を使ってでも勝とうとするだろうし、魔物はまた戦い方が違うだろう。
戦いは生き残ったやつが正しいのであって、正しいから生き残れるわけじゃない。負けても生きていればやり返せることもある。一時的な悔しさは噛み殺して次の機会を狙え。損して得取れ。勇敢さと無謀さは違うぞと。そんなことを説明した。
店にいた頃、たまに外で悲鳴や怒鳴り声や銃声が聞こえたこともあったけど、そんな時に正義感で飛び出しても文字通り痛い目に遭うだけだ。流れ弾が店に飛び込んできても当たらないように、できる限り分厚い壁の後ろ側に隠れるに限る。生き延びるのが重要だ。
さて、騎士の訓練所を出た。これからどうするか。まだ時間はある。もう戻ってエミリアと楽しむのもアリではある。そろそろ落ち着いただろうからな。でも人はステーキばかり食べれば胃もたれする。だから合間のお茶漬けが美味しく感じるわけだ。そんな何かがないものか。
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屋敷の準備が整うまでは俺にはすることがない。でも王宮では今日も役人たちが働いている。俺が何かをすれば彼らの邪魔になることだってあるはずだ。下手に近づくと荷物を置いて跪くからな。そう考えると用事もないのに王宮の中をあまりウロウロするのも考えものだ。
「散歩でもなさってはいかがでしょうか?」
「散歩か……。人が少なそうなところを歩いてもいいか。エミリアはどうだ?」
俺は一人でもいいし二人でもいい。
「今は……遠慮させていただきます」
「そうか。それじゃちょっとブラついてくる」
「はい、いってらっしゃいませ」
エミリアが遠慮したのは、山のように用意された昼食を胃袋に収めた直後だからだ。食べすぎで動けないらしい。これまで清貧を旨とする生活を送っていたエミリアは、食事を残してはいけないと教えられていた。だから朝食の後に神域に戻ったミレーヌの分も食べた。
清貧を旨としてって、それでよくあのレベルの尻に育ったと感動すら感じる。女体の神秘だ。しっかり食べるようになったらどれほどに成長するのか楽しみだ。
正直なところ、女は多少ムッチリした方が抱き心地がいいと俺は思ってるから、エミリアにもう少し肉が付いても問題ない。むしろ付けていい。付けるべき。だから「え~、これ以上食べらんな~い」とか合コンで小食をアピールする女は蹴っ飛ばしたくなる。それでも「無理して食べなくてもいいよ。俺が代わりに食べてやるから」などと言って好感度を上げ、お持ち帰りしてホテルで食べたけどな、その女を。
ミレーヌは今日と明日は神域の方だ。試験期間だけど修行も兼ねてるそうだから、あまりこっちでフラフラはできないそうだ。だから地上に来るのは二、三日おきだと。
何かあれば声は聞けるようになってるから問題はない。それにこの部屋にミレーヌもエミリアもいて上げ膳据え膳なら部屋から出たくなくなりそうだ。これくらいでちょうどいいのかもしれない。
◆◆◆
迎賓館を出て中庭を歩く。向こうには俺が召喚された建物が見える。元礼拝堂だ。覗いてみると三人ほどの魔術師がいた。
「これは勇者様、ご機嫌麗しゅう」
そう言って頭を下げたのは宮廷魔術師の一人。
「お教えいただいた通り、召喚陣に残った魔力を散らし、それから水属性が得意な術者だけで魔力を込めております。お陰様でかなり効率が良くなっているようです」
「違いが分かるほどなのか?」
「はい。召喚陣へ魔力を込める際の抵抗が下がりました。以前よりも術者への負担がかなり減っております」
「それはよかった」
どうも複数の属性の魔力が混ざると、召喚陣に吸収されにくくなるらしい。この前までは押し込んでいたのに、それが必要なくなったそうだ。
「ところでその術者という言い方は一般的なのか?」
「そうですね……内輪では、というくらいでしょうか。世間的には魔法使いという言い方の方がよく使われているでしょう。ですが勇者様のように魔法も得意な剣士の場合はさすがに魔法使いとは呼にことに無理がございます。それらの点も考えまして術者という呼称を内部では使うことが多くなります」
魔導師、魔術師、賢者、聖女、治癒師、召喚士、精霊使い、魔物使いなどが、一般的には魔法使いと呼ばれる。でも自分たちの中では術者と呼ぶことが多いと。俺はタイプ的には魔法剣士になるけど、それを魔法使いと呼ぶのは少し違和感がある。なるほど。
そのあたりは内部の事情かもしれないけど、細かなことで覚えておいたことがいいことも多そうだ。
召喚の間を出てしばらく歩くと金属を打ち合わせるような音が聞こえた。訓練所かと思って覗いてみると騎士の訓練所だった。
「これはこれはラヴァル公爵、訓練所に何かご用ですか?」
手前にいたのは近衛騎士の隊長の一人、ナタン・ロッシュ。生まれは子爵家の三男で、筋骨隆々の四〇代だ。近衛騎士なので王宮の中でも何回か顔を合わせている。
「ナタン殿、体が鈍りそうなので散歩をしていた。少し見せてもらってもいいか?」
「はっ、どうぞご自由に」
今は騎士たちが剣の訓練をしていた。フランスっぽい国だからレイピアかと思ったら違った。バスタードソードと呼ばれる片手でも両手でも使える、刺すのにも斬るのにも使える剣だった。俺も本格的に使うとすればバスタードソードだろうな。
俺がしばらく訓練を見ていると、騎士たちがチラチラとこちらを見てるのに気づいた。これは「おいおい、勇者なんて呼ばれていい気になってんのがいるぞ。ちょっとシメてやろうぜ」という視線じゃなく、俺と手合わせをしたがってるんだろう。
「俺も彼らに混じって少し体を動かしたんだが、問題ないか?」
「——! ぜひお願いいたします!」
ナタン殿の許可が貰えたので、ストレージから剣を取り出す。「あれが聖剣か!」って聞こえたけど、違うからな。普通に手に入る練習用の刃引きの剣だ。聖剣(刃引き)とか嫌すぎだろう。「勇者様、これで邪神を倒してください」と国王に頼まれて受け取ったら聖剣(刃引き)だったらどんな勇者でも床に叩きつけるぞ。
ちなみに股間には性剣があるけど、これは似て非なるものだ。連日大活躍だけどな。
それにもし聖剣を持ってたとしても、こんなところで振り回したら危ないだろう。この世界に来て最初に切ったのが近衛騎士とか大問題だな。
「しばらく剣を握っていなかったから感覚を取り戻すのに誰か付き合ってくれないか?」
俺がそう言ったら、ナタン殿を先頭に全員がサッと一列になった。全員と手合わせしろと? いや、暇だからやるけど。
◆◆◆
「「「「「ご指導ありがとうございました」」」」」
「こちらこそいい運動になった」
騎士たちに向かって手を上げて返事をすると訓練所を出た。いやいや、ホントにいい運動になった。さすがに国に仕える騎士となるとステータスは高く、男は当然のように【腕力】や【脚力】の数値が二五〇くらいある。女でも二〇〇はあった。俺は【俊敏さ】や【器用さ】の数値が三〇〇以上あるから、体には擦らせもしなかったけどな。
感触としては、目隠ししても勝てるというほどの余裕はなかった。まあ目隠し状態でも【カメラ】を使えば頭の中に俺の周囲が映るから、それを使ってチートはできるけど、そんなことをして何になるのかって話だ。女性騎士たちに「すっご~い」って言わせることができるくらいか。男が多かったけど、ある程度は女もいた。王妃や王女の護衛も必要なんだろう。
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卑怯? いやいや、戦い方が違うだけだ。勇者は最後まで立ってなきゃいけない。例え最後に勇者一人になっても敵と戦わなければいけない。勇者は死んではいけない。
近衛騎士は後ろに国王がいることが多いから逃げることはできないけど、そうじゃない場合は逃げることも大切だ。それに相手をするのが騎士なら問題なくても、例えば盗賊ならどんな汚い手を使ってでも勝とうとするだろうし、魔物はまた戦い方が違うだろう。
戦いは生き残ったやつが正しいのであって、正しいから生き残れるわけじゃない。負けても生きていればやり返せることもある。一時的な悔しさは噛み殺して次の機会を狙え。損して得取れ。勇敢さと無謀さは違うぞと。そんなことを説明した。
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さて、騎士の訓練所を出た。これからどうするか。まだ時間はある。もう戻ってエミリアと楽しむのもアリではある。そろそろ落ち着いただろうからな。でも人はステーキばかり食べれば胃もたれする。だから合間のお茶漬けが美味しく感じるわけだ。そんな何かがないものか。
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