元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第六部:公爵邸披露パーティー

おもてなしの準備

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「では旦那様、よろしくお願いします」
「ああ、任せてくれ」
 俺はオーブリーとジスランが作った料理を【ストレージ】に入れる。二人には空いた時間にパーティー用の料理を作ってもらっている。
 普通の貴族が晩餐会にゲストを呼ぶ時は一度に二、三〇程度らしい。でも屋敷を新しくした時などは大々的にやることが多い。ケントさんもやったそうだ。ただし彼の場合は二回に分け、一回目に上級貴族だけの少人数でやって慣らしておいて、二回目に子爵以下を呼んだそうだ。そういうやり方もあったのかと思ったけど、負担を考えれば一度の方がいいかもな。
 屋敷のお披露目パーティーは、この国の大規模パーティーでよくあるシッティング・ビュッフェ形式で行う。会場のあちこちに料理を載せるビュッフェボードをいくつも並べる。その近くにゲストのテーブルを並べる。ゲストの座席は固定で、好きなものを取りにいって席に戻って食べる形だ。
「オーブリー、ジスラン、パーティーの際に何かこう……あっと言わせるような出し物はないか?」
「出し物ですか……」
「誰にさせるのですか?」
 俺がするって発想はないのか。ないだろうな。
「俺がもてなしのためにやろうと思ったんだけど、問題があるか?」
「普通なら主人は挨拶くらいだと思いますが」
「小規模な晩餐会なら料理の取り分けることはあります」
「ピトル伯爵もそんなことを言ってたな」
 やっぱりその程度か。でも単なるパーティーなら面白みがなあ。いや、面白ければいいというわけじゃないけど、わざわざ何百人も呼んで普通に食事をするのも芸がないというか面白みがないというか……。
「オーブリー、主人が料理を取り分けるのは問題ないんだよな?」
「はい。例えば七面鳥などの丸焼きを切り分けるのはよくあることです」
 七面鳥を切り分けるのがアリなら、料理を切り分けても問題ないだろう。
「よし、それなら俺は料理を切り分けて配るパフォーマンスをしよう」
「切り分けて配るのを出し物に、ですか。それでしたら問題はないと思いますが、どのような形になさるのですか?」
「例えばだな、これをこうやって切って、このように盛り付けて、こう持って渡すわけだ」
 俺は適当な果物をナイフでササッと切って皿に盛り、その皿を左手に三枚、右手に一枚持った。
「だ、旦那様、それはどのような指の使い方なのですか?」
「これか? 皿がなければこうだ。四枚持ちという持ち方だ」
 四枚持ちはホテルとかで見かける、左手に三枚、右手に一枚持ってテーブルに並べるやり方のことだ。ソースが偏らないように上手くバランスを取るには少々コツがいる。使う皿にもよるから、どんな皿でもできる技じゃない。
 もちろん最初から上手く持てるわけじゃない。最初は左手に三枚持つだけでいっぱいいっぱいだ。指が攣りそうになるから。そしておかしな力が入ると皿が傾く。皿で皿を固定する必要もある。
 三枚持てるようになれば、次はソースが偏らないようにする訓練だ。一番のポイントは脇を開かないことだ。脇が開くと不安定になる。ソースが偏ると皿の中の見た目が微妙になる。
 ちなみにこれは夜の仕事の方じゃなくてレストランで身に付いた技術だ。それでも夜の仕事の方でも意外にウケた。『芸は身を助く』だ。
「この国ではカートで運ぶことが多いだろうから、この持ち方はあまり使わないだろうな」
「そうですね。カート自体が料理が冷めないようにする魔道具ですから、そのまま運ぶのが一般的です」
「ならこれはアリだな」
 他には……料理をカートから出して切っても面白くないな。どうやって出す? 東南アジアのどこかの国で、パフォーマンスとして料理を投げるのがあるそうだ。俺は見たことがないから詳しくは知らないけど、そういう見た目重視のパフォーマンスであっと言わせたい。でも食べ物で遊んでいると受け取られる可能性もあるからな。
 料理を出す……。隠しておいて出す。【ストレージ】か。
「旦那様、トレイで何をなさるのですか?」
「それがパフォーマンスですか?」
 俺が左腕の上に巨大なトレイを乗せて考えたのを見て二人が首をかしげた。
「……これでいいか。ジスラン、そこの大きめの布を取ってくれ」
「はい、これですか?」
 渡された風呂敷サイズの布をトレイに被せる。当日までには立派なクロッシュを用意しておこう。クロッシュってのは料理に被せる丸い蓋のことだ。銀色のが一般的だけど、素材は色々とある。今は布で代用する。
「それをこうトレイに被せて、真ん中を摘んで膨らませて、サッとどけると」
「「えっ⁉」」
 二人の目がトレイに釘付けになった。今トレイの上にはワインボトルが乗っている。料理を出す必要はないからな。
「それはひょっとして、料理を収納しているスキルを逆に使っているのですか?」
「そうだ。入れることができるなら出すこともできる。実際にはこういう丸い蓋を被せて、それをどけたら料理が乗っているというのをやろうと思う。インパクトはあるだろう」
「それはたしかに驚きます」
「パッと見てスキルだとは思わないでしょう」
「よし。俺はこうやって取り出した料理をビュッフェボードに置いて切り分け、皿に盛って、それからさっきの持ち方で渡す。主人が肉を切り分けるのがアリなら、これくらいはアリだろう」

 ◆◆◆

 料理とパフォーマンスの方は目処が立った。問題はこの屋敷の庭だ。さすがに複数の造園家や花屋にも庭に入ってもらっているとはいえ、このままでは庭の整備が終わらない。そこで俺の出番になった。
「それくらいでしたら問題ございません」
「ああ、働いているように見えないようにしよう」
 ダヴィドは俺が庭で片付けをするのを貴族らしくないと思うそうだから、片付けに見えなければいい。だから魔法やスキルをこっそりと使う。
 この庭は荒れ果てていた。俺が来た時にはそれなりに片付けられていたけど、勝手に生えた木が育って大木になったりしていたようだ。
 兵士たちが木を切り倒し草を刈り、庭を広くしてくれたけど、切り株や根っこが残ってたりする。まだ花壇の整備も終わっていない。人を呼んで作業をさせても、さすがに東京ドームのグラウンド一〇倍ほどの敷地じゃパーティーまでに整えるのは難しい。
 俺の持つスキルには、勇者らしくないものもある。一般的なスキルなら練習すれば身に付くそうだから、活用しない理由がない。
 とりあえず足元を見て切り株を踏みつけつつ、それを【腐敗】で腐らせる。しばらくするとフカフカになった。弱い【土の玉】を穴に撃ち込んで固める。
「地面を見て手を伸ばしたくらいだろう」
「そうですね。これくらいであれば誰に見られてもおかしくはないでしょう」
「それならこういう感じで庭の散歩をしつつ均していく」
 ダヴィドからOKが出た。土魔法で石のブロックを作って花壇の整備ができるようにする。さすがにレンガは焼かないと無理そうだ。俺はできる限り庭を平らにし、あちこちにブロックを積んで、庭造りの作業のサポートをすることにした。
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