元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第三部:勇者デビュー

人それぞれに歴史がある

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 スナックのママっぽくなった修道院長からここの話を聞いていると、向こうからエミリアがカゴを抱えてやって来た。
「シュウジ様、遅くなって申し訳ありません」
「いやいや、俺の国には『立っている者は親でも使え』という言葉がある。使えるスキルは活用したらいい」
「勇者様、『立っているモノは親のモノでも使え』とは、異世界は退廃的ね。羨ましいこと。むしろ親なら子の元気なモノを味わいたいわ」
 ボトッ……
「え? 院長?」
 修道院長がいきなり下ネタを口にしたからか、エミリアがカゴを落とした。さっきから急に話が俗っぽくなったぞ。話をすぐに下ネタに持っていくママがいたな。そんな感じだ。
「急に性格を変えたらエミリアがビックリするだろ。何があった?」
「隠す必要がないから元に戻しただけよ」
「隠す必要ね……。何者だ?」
「若い頃は高級娼婦をしていました。これでも店のナンバーワンでしたのよ。懐かしいですね」
 単なるエロ修道女じゃなくて元本職だった。そりゃ話をするのが上手なわけだ。
「勇者様には近いものを感じますね」
 院長はそう言いながら目を細めた。夜の世界という点では近いか。でも俺は男娼じゃないからな。
「ちょっと違うな。俺は女性が飲みにくる高級店にいたことがある、と言えば通じるか? 一本で中銀貨以上の酒がバンバン出るような。たまに大銀貨や小金貨も舞った。そういう店の店員だったことがあるというだけだ」
「こちらにはそのようなお店はありませんね。男性が遊ぶ場所は多いですが、女性は少し窮屈ですから」
「王都にならあってもよさそうだけどな」
 王都に高級飲食店がないって事はないだろう。
「庶民の生活はそこまで悪くはありませんが、女性がお金を稼ぐ方法は限られています。家が商いをしていないのなら奉公に出るか、それとも体を売るか」
「中間がないな」
「田舎なら畑を耕すのもありますけどね。そもそも独身の女性が一人で外出をすることはあまり誉められたものではないというのが根っ子にあります。ああ、それは貴族でしたか」
「貴族なら介添えシャペロンが必ずいるわけか」
「そうですね。まあ庶民でも若い娘が一人で飲みにいけばいい顔はされないでしょう」
「そういう社会なら仕方ないな」
 貴族社会で、庶民の暮らしはそこまで悪くはない。でも女性の社会的地位は低めか。貴族はどうとか平民はどうとか、男はどうとか女はどうとか、そういうのが強そうだ。アドニス王にも言ったけど、俺はそこを無理やり変えるつもりはない。そんなことをしてもロクなことにならないだろう。せいぜい平民の暮らしを良くするくらいか。
「私の客には貴族の方もたくさんいらっしゃいました。貴族ではありませんが、そこの今の一番上もそうでしたね」
 修道院長がと言って指で差したのが隣の教会の塔だった。エミリアも修道院長も教会って呼んでたけど、そこって多分この国一番の大聖堂だよな。教皇とか総大司教とかいるような。
「生臭坊主ばっかりか?」
「坊主とはそういうものでしょう。娼婦は彼らが若い頃にやったも私たちはよく知っています。私はエミリアがここに来るのに合わせて、お目付役として先王陛下にここに呼ばれました。聖職者はたまにハメを外しますから。ですので元高級娼婦もそこそこいるわけです」
 司教たちからすると、「隣でお前たちの過去のやんちゃを知ってるのが見てるから仕事はちゃんとしろよ」って言われるようなもんだろう。そりゃ真面目にやるしかないな。娼館でのアレコレをバラされちゃ困るからな。アブノーマルなプレイが好きとかバラされたら、威厳も何もあったもんじゃない。次の日から性職者扱いだな。
「てことは、先王陛下も客だったのか」
「ええ、私は先王陛下から今の陛下のをお願いされました。当時は社交を始めるのに王太子になったばかりでした。真っ赤な顔をされて初々ういういしかったですね。もう二〇年以上前の話ですが」
 女の抱き方を教えさせるって文化があるのか。世継ぎができなければ困るからだろうなあ。二〇年以上前の修道院長なら……一番脂が乗っていた頃か。俺の視線に気づいたのか、舌を出して唇の端をペロリと舐めた。ナンバーワンだったって自分で言うだけのことはある。年は取っても色気は落ちてないんだろうな。隠してただけで。
「私は今の陛下のお祖父様、先々代の陛下の頃から王族の方々にお世話になっていました。どなたもお顔と支払いに関しては文句の付けようがございませんでした」
 てことはアレとテクニックはもう一つだったってことか?
 俺と修道院長だけ喋ってエミリアが静かだと思ったら固まっていた。
「エミリア、大丈夫か?」
「え? あ、は、はい、大丈夫ですが……私が聞いてもよかったのでしょうか?」
 恐る恐るという感じでエミリアが口を開いた。ヤバそうな裏事情もポロポロと出たからなあ。ていうか、修道院長も王族の裏事情を勝手に喋ってもいいのか? でも守秘義務なんてないんだろうなあ。おそらく俺が喋ることはないと思って話してくれたんだろうけど。
「エミリア、あなたがここに残るのなら全て隠しましたけどね。それに腰回りの色気がさらに増したようですので、こんな話をしても大丈夫でしょう」
 修道院長はそう言いながらエミリアの腰をポンと叩いた。セクハラか。
「連日しっかり抱いてるからな。こんな腰は滅多にないな。人としての最高傑作だ」
 俺もエミリアの腰を叩く。
「シュ、シュウジ様あ⁉」
 夜の生活を喋られてエミリアが声を上げた。
「でしょうね。あの時はまだ五歳でしたが、それでも歩く際の腰つきを見ると、どれほど禁欲的な男でも襲いかかってしまいそうな妖艶さがありました」
「ええっ⁉ 妖艶⁉」
 エミリアがショックを受けている。自分の後ろ姿なんて分からないだろうからな。しかも五歳の時からか。素質ありまくりだったんだな。
「教会での奉仕中に手を出されないように護衛を付けるほどでした」
「えっ⁉」
 エミリアには初めての話ばかりのようだ。
「あそこから見ているデジレとキトリーには、護衛のためにいつも側にいるように言っていました」
「たしかに、二人はいつも面倒を見てくれましたが……」
 エミリアがまた固まった。心当たりがありすぎるんだろう。
 名前が挙がった二人は少し離れた場所から俺たちを見ていた。二人とも二〇代後半くらいだろうか。エミリアに姉のように接しながら、実は周囲に気を配っていた様子が頭に浮かぶ。エミリアは少し鈍いところがあるから、多分気がつかなかったんだろう。

 それからもう少し他愛もない話をしてから帰ることにした。
「マリー=テレーズ殿、話ができてよかった。またこちらに来させてもらおう。これは俺からの寄進ということで」
「ありがとうございます。ぜひまた二人で来てください」
「ああ、ではお互いにそれまで元気で。エミリア、もういいか?」
「はい。院長、これまでお世話になりました」
 寄進と呼ぶには多めの中金貨を一枚渡し、それからエミリアの手を引いて王宮の方へ戻ることにした。後ろから「頑張りなさいよ」と修道院長の声が聞こえたけど、それはエミリアに対してものもか、それとも俺に対してのものか。
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