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第三部:勇者デビュー
挨拶
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「シュウジ様、これから荷物をまとめに一度戻ります」
「ああ、教会の方か」
「その向こうにある修道院です。寝泊まりはそこでしたので」
俺の知ってる教会と修道院とは少し違うのか? 教会ではシスターが奉仕活動をして、修道院は修道士や修道女が禁欲的な生活を送るんじゃなかったか? まあ異世界だから同じというわけじゃないか。
「それなら俺が荷物持ちをしよう」
「え? いえ、そんなお手を煩わせるわけには」
「荷物なら【ストレージ】に入れてしまえばいい。どれだけでも入るぞ」
「……シュウジ様がよろしいのであれば」
エミリアの世話をしていた人たちに挨拶をしておきたいというのもある。彼女を気に入って引き止めていたけど、本来は召喚の後は戻っていたはずだ。
◆◆◆
王宮の敷地の横には門があり、そこから教会の敷地に抜けられるようになっていた。教会というか大聖堂だな。その敷地を横切ると、さらにその向こう側に修道院があった。境界なのか柵があって『関係者以外立ち入り禁止』と書かれていた。
修道院は白い壁をした綺麗な建物で、作りはかなり質素なようだ。
「ここがシスターや修道女が寝泊まりする建物です」
「かなり大きいな」
「全部で四〇〇人ほどいますので。修道女が五〇人ほどで、残りがシスターです」
教会も修道院もかなり大きいからなあ。特にあの大聖堂での奉仕活動ってかなり人数が必要そうだから、これくらいは必要なんだろうな。
でもシスターって募集するのか? それとも預けられるのか?
「なあ、ここまで付いてきたけど、男の俺が入ったらマズいんじゃないか?」
修道院って普通は男女別になってるだろう。そもそも入ったことなんてないからイメージだけな。
「シュウジ様なら問題ありません! むしろみなさん光栄に思いますよ‼」
「そ、そうか?」
その言葉を信じることにするか。
「ただいま戻りました」
エミリアがそう言いながら修道院の建物に入る。俺はその二歩くらい後ろに立っている。
「エミリアさん、お帰りなさい。話は聞いていますよ」
出迎えたのはエミリアよりも年下っぽいシスター。彼女がエミリア越しに俺を見て、もう一度エミリアを見て、また俺を見て目が合うと、ゆっくりと目を大きく開いて両手を口に当てた。
「キャーーーーーッ‼」
そして叫びながら奥へ走っていった。石造りの建物だからメチャクチャ響くな。
「おい、エミリア、叫ばれたぞ。ヤバいんじゃないか?」
「そ、そんなことはないと思いますよお?」
そうは言うけど、エミリアも少し声が震えていた。そのうちバタバタドタドタと足音がいっぱい聞こえてきた。
「勇者様よ、勇者様!」「わー、本当に勇者様よ!」「本物?」「決まってるじゃない!」
おそらく俺より年下のシスターたちがキャーキャーと俺を取り囲んだ。
「勇者様、握手しください」
「あ、私もお願いします」
「私も!」
これはひょっとして俺のファンか? 日報紙を見たな。
「握手くらいならいいぞ」
「「「お願いします!」」」
即席握手会になった。握手をした子から「私もうこの手を洗わない」なんて聞こえるけど、洗った方がいいぞ。腹を壊すぞ。
パンパン
「はいはい、それくらいになさい」
「あ、院長」
「すみません」
二〇人くらいと握手をして場が落ち着くと、同じ修道服を着た年配のシスターがパンパンと手を叩きながらやって来た。院長と呼ばれているなら修道院長か。手の先と顔くらいしか見えないから分かりにくいけど、五〇代だろうな。何となく高貴な雰囲気がするご婦人だ。
俺の知り合いはみんな化粧をしてたから、年齢不詳が多かった。それでも首を見れば大体どの世代かくらいは分かる。人にはどうしても年齢を隠せない部分がある。老けて見えないようにするのにスカーフとかで隠すわけだ。
「エミリア、ご苦労様でした」
「はい」
「そして勇者様ですね。この修道院で院長をしているマリー=テレーズと申します。少し庭で話でもいかがでしょうか?」
「ああ、構わない。俺はエミリアの荷物の片付けに同行しただけだ」
「ではこちらからどうぞ。エミリアは準備をなさい」
「はい、では失礼します」
エミリアが奥へ向かうと、俺は修道院長に続いて庭に出た。庭は教会とは反対側にある。周りは高い垣根で囲われていて外はほぼ見えない。王宮と教会が垣根越しに見えるだけだ。
ベンチのようなものがあったので、院長と二人でそこに座った。
「勇者様、エミリアをよろしくお願いします」
「何の連絡もせずに決めてしまって申し訳ない」
頭を下げる院長に向かって俺も正直に謝る。側に置きたいというのは俺のワガママだからな。
「いえ、あの子の嬉しそうな顔を見れば、居場所が見つかってよかったと思います」
「大切にするので安心してほしい」
「おそらくこの国で最も安全な場所でしょう。安心しております」
「最善を尽くすよ」
最善どころか最優先だけどな。ミレーヌは自分の身を守れるようだから、守るとしたらエミリアの方だ。
「あの子はシスターとして一〇年以上ここで暮らしてきましたが、外に出た方が幸せになると思っていました」
「エミリアはシスターか。修道女とシスターの違いはあるのか?」
「ああ、そうですね。今では違いは小さくなりましたね。どちらも聖職者ではなくて信徒です。修道女にとっては修道院とこの礼拝堂、そしてこの庭が世界の全てです。普段は教会の方に行くことはありませんので、礼拝に来る信徒たちとの交流もありません。日々信仰に全てを捧げて暮らします」
「それならシスターは奉仕活動か」
エミリアはそう言った活動をしていると言っていたはずだ。
「ええ。シスターは教会の清掃、祈りに来る信徒たちとの交流、寄付金の呼びかけ、救貧院や孤児院の世話、貧しい人たちのための炊き出し、そのようなことを普段は行っています。先ほど騒がしくしていたのは建物の掃除をしていた若いシスターたちです」
「思っていたのと違いはなさそうだ」
「本来修道院と教会は別ですので修道女とシスターも全く違う存在なのです。ここは教会の敷地の隣に修道院があるという独特な形になっていまして、シスターは教会ではなく修道院の方で修道女と一緒に生活をします。ザックリとした言い方ですが、昼間に教会の仕事をするか修道院の礼拝堂で祈りを捧げるかの違いくらいしかありません。同じ修道服を着ていますので、特に違いが分からなくなっています」
修道服は同じようだ。
「それにしても……まさか勇者様をこの目で見られる日が来るとは……。いつ天に召されてもいいと思っていましたが、長生きはしてみるものです」
遠いところを見るような表情で院長はそう言った。
「そこまで高齢でもないだろう。人生これからじゃないか?」
「あら、嬉しいお言葉ね。もう一五でも二〇でも若ければ、勇者様を銜え込めたかもしれないのにねえ……」
おいおい、いきなり俗っぽい発言が出たぞ。口調も怪しくなったな。科を作るなよ。俺の二の腕を撫でるその手は何だ?
「信仰に全てを捧げるんじゃなかったのか?」
「勇者様は神の使い。それなら私たちがこの身を捧げてもおかしくはない……とは思いません?」
「いや、思わないだろ、普通は。修道女って独身を貫くんじゃないのか?」
「結婚しなければいいだけで、肉体的に清らかである必要は全くありません。ここには夫や子供を亡くしてから信仰の道に入った者もかなりおります」
「それはそうだろうけど、さっきのは詭弁っぽく聞こえるぞ」
修道院で修道女を抱くって、想像すればワクワクするけど、勇者としてそれははやっちゃダメだろう。俺でも女を抱く場所くらいは選ぶぞ。騎士の訓練所で女性騎士を抱かなかったからな。
どうやら院長は何となく高貴な雰囲気のする少しエロっぽいマダムのようだ。結婚してないからマダムじゃないけど、たしかフランスでは公的にマドモワゼルを使わなくなってマダムに統一されたとか。言葉狩りって面倒くさいよな。
「ああ、教会の方か」
「その向こうにある修道院です。寝泊まりはそこでしたので」
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「それなら俺が荷物持ちをしよう」
「え? いえ、そんなお手を煩わせるわけには」
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「……シュウジ様がよろしいのであれば」
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修道院は白い壁をした綺麗な建物で、作りはかなり質素なようだ。
「ここがシスターや修道女が寝泊まりする建物です」
「かなり大きいな」
「全部で四〇〇人ほどいますので。修道女が五〇人ほどで、残りがシスターです」
教会も修道院もかなり大きいからなあ。特にあの大聖堂での奉仕活動ってかなり人数が必要そうだから、これくらいは必要なんだろうな。
でもシスターって募集するのか? それとも預けられるのか?
「なあ、ここまで付いてきたけど、男の俺が入ったらマズいんじゃないか?」
修道院って普通は男女別になってるだろう。そもそも入ったことなんてないからイメージだけな。
「シュウジ様なら問題ありません! むしろみなさん光栄に思いますよ‼」
「そ、そうか?」
その言葉を信じることにするか。
「ただいま戻りました」
エミリアがそう言いながら修道院の建物に入る。俺はその二歩くらい後ろに立っている。
「エミリアさん、お帰りなさい。話は聞いていますよ」
出迎えたのはエミリアよりも年下っぽいシスター。彼女がエミリア越しに俺を見て、もう一度エミリアを見て、また俺を見て目が合うと、ゆっくりと目を大きく開いて両手を口に当てた。
「キャーーーーーッ‼」
そして叫びながら奥へ走っていった。石造りの建物だからメチャクチャ響くな。
「おい、エミリア、叫ばれたぞ。ヤバいんじゃないか?」
「そ、そんなことはないと思いますよお?」
そうは言うけど、エミリアも少し声が震えていた。そのうちバタバタドタドタと足音がいっぱい聞こえてきた。
「勇者様よ、勇者様!」「わー、本当に勇者様よ!」「本物?」「決まってるじゃない!」
おそらく俺より年下のシスターたちがキャーキャーと俺を取り囲んだ。
「勇者様、握手しください」
「あ、私もお願いします」
「私も!」
これはひょっとして俺のファンか? 日報紙を見たな。
「握手くらいならいいぞ」
「「「お願いします!」」」
即席握手会になった。握手をした子から「私もうこの手を洗わない」なんて聞こえるけど、洗った方がいいぞ。腹を壊すぞ。
パンパン
「はいはい、それくらいになさい」
「あ、院長」
「すみません」
二〇人くらいと握手をして場が落ち着くと、同じ修道服を着た年配のシスターがパンパンと手を叩きながらやって来た。院長と呼ばれているなら修道院長か。手の先と顔くらいしか見えないから分かりにくいけど、五〇代だろうな。何となく高貴な雰囲気がするご婦人だ。
俺の知り合いはみんな化粧をしてたから、年齢不詳が多かった。それでも首を見れば大体どの世代かくらいは分かる。人にはどうしても年齢を隠せない部分がある。老けて見えないようにするのにスカーフとかで隠すわけだ。
「エミリア、ご苦労様でした」
「はい」
「そして勇者様ですね。この修道院で院長をしているマリー=テレーズと申します。少し庭で話でもいかがでしょうか?」
「ああ、構わない。俺はエミリアの荷物の片付けに同行しただけだ」
「ではこちらからどうぞ。エミリアは準備をなさい」
「はい、では失礼します」
エミリアが奥へ向かうと、俺は修道院長に続いて庭に出た。庭は教会とは反対側にある。周りは高い垣根で囲われていて外はほぼ見えない。王宮と教会が垣根越しに見えるだけだ。
ベンチのようなものがあったので、院長と二人でそこに座った。
「勇者様、エミリアをよろしくお願いします」
「何の連絡もせずに決めてしまって申し訳ない」
頭を下げる院長に向かって俺も正直に謝る。側に置きたいというのは俺のワガママだからな。
「いえ、あの子の嬉しそうな顔を見れば、居場所が見つかってよかったと思います」
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「ああ、そうですね。今では違いは小さくなりましたね。どちらも聖職者ではなくて信徒です。修道女にとっては修道院とこの礼拝堂、そしてこの庭が世界の全てです。普段は教会の方に行くことはありませんので、礼拝に来る信徒たちとの交流もありません。日々信仰に全てを捧げて暮らします」
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「ええ。シスターは教会の清掃、祈りに来る信徒たちとの交流、寄付金の呼びかけ、救貧院や孤児院の世話、貧しい人たちのための炊き出し、そのようなことを普段は行っています。先ほど騒がしくしていたのは建物の掃除をしていた若いシスターたちです」
「思っていたのと違いはなさそうだ」
「本来修道院と教会は別ですので修道女とシスターも全く違う存在なのです。ここは教会の敷地の隣に修道院があるという独特な形になっていまして、シスターは教会ではなく修道院の方で修道女と一緒に生活をします。ザックリとした言い方ですが、昼間に教会の仕事をするか修道院の礼拝堂で祈りを捧げるかの違いくらいしかありません。同じ修道服を着ていますので、特に違いが分からなくなっています」
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おいおい、いきなり俗っぽい発言が出たぞ。口調も怪しくなったな。科を作るなよ。俺の二の腕を撫でるその手は何だ?
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「それはそうだろうけど、さっきのは詭弁っぽく聞こえるぞ」
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