元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十一部:家族がいるということ

パエリアと雇用問題

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「修道女を辞めます」
 近くにいたサンドラという子がパエリアを食べながらそんなことを言った。
「どうしたんだ?」
「母の料理よりも美味しいです」
 サンドラの親はクロド王国の出身らしい。クロド王国のイメージはイタリアやギリシャのような南欧だ。暖かいから米も魚介類も多い。この国は米の生産をしてないから全て輸入だ。
「たまたま口に合ったんだろう」
 俺としてはそうとしか言えないよな。俺は別に料理人じゃないけど、【調理】というスキルも付いたから並以上の腕前になった。それでも絶品かといえばそうでもない。
「実家はトラットリアをしています。でもこれは見たことがありません。それにこんな複雑な味は初めてです」
「……」
 国によって飲食店の呼び方は若干変わる。トラットリアはこの国のビストロに近い。いわゆる大衆食堂だ。
 俺の腕が特に優れてるわけでもないから、食材や調味料のせいもあるかもしれない。コンロに魔道具を使ったから、それのせいかもしれない。ここの厨房もそうだけど、薪を使うと火力が安定しない。どうしてもムラができる。火を通しすぎてもダメだからな。
「それでこの料理を広めたいんです」
「パエリアをか? 別に俺のオリジナルじゃないからそれはかまわないけど、どうやって広めるんだ?」
「そこは……これから?」
 サンドラは首を傾げた。やりたいことは分かるけど、後先を考えないのは問題だぞ。何をしたいかじゃなく、これをすればどうなるかをまず考えろと教わった。二手先、三手先、さらにその先を常に考えろと将棋好きのオーナーにはよく言われた。それができたかどうかは別だけど、意識としては身に付いたか?

 俺がサンドラと話していると母さんが戻ってきた。
「どうした?」
「店をやったら?」
「店って飲食店か?」
「そう。高級店から庶民的な店まで、やろうと思えばできるでしょ?」
「まあな。商会で米も扱い始めたからな」
 問題は米が高いことなんだよな。国内で作れる麦と違って何倍もする。この国でも育たないことはないと思うけど、放っておいても育つ麦とは違うからな。それにライ麦さえ食べていれば死なないってのがあるから、他の穀物にはあまり興味がないんだろうな。だからあまり売れない。米そのものには味があまりないからな。麦も似たようなものだけど。
「社会政策大臣っていうのなら、雇用問題も関係してるんじゃないの?」
「してるなあ。二進にっち三進さっちもいかないけど」
 この国は根本的な部分に問題がある。ぶっ壊して作り変えた方が早いけど、それはしたくない。だから三歩進んで二歩下がるだ。あ、それなら進んでるな。
「ほら、店だけじゃなくて米の栽培」
「いや、米って田植えや稲刈りの時期には人が必要だけど、そこまで……ああ、普段は米じゃなくていいのか」
「そうそう、畑でもいいでしょ?」
「それなら……できなくはないか」
 米農家だって米しか作ってないわけじゃない。畑だってあるだろう。それなら米の合間に他のものを作ればいい。
「できそう?」
「検討してみよう。保証はできないけどな」
「はい、サンドラ。料理人として仕事が見つかったよ」
「おい、そっちも決まりなのか?」
 料理人って言われても、店はまだないし予定もない。うちの屋敷にもそんなに必要ないからな。
「この子は料理が上手だから。ここにいるのがもったいないくらいよ」
「公爵様、お世話になります」
「「「お世話になります」」」
「おい、増えてるぞ、母さん」
 なぜかサンドラ以外に五人ほどが集まっていた。
「チェーン展開したら?」
「まだ計画も何もないのにか?」
 母さん、行動力があるのはいいけど、少々ありすぎだ。
「一応言っとくけど、飲食店をする計画はまだないし、計画をしても用意するには時間がかかる。当分先になるぞ」
「それでもかまいません。どうせしばらくは修道院にいますので」
「どうせってなあ……」
 割り切った考え方だなあ。
「シュウジ、修道院って色々な理由で入るわけ。シスターもそうだけど、信仰のためにここに入る人数なんて少ないわよ」
「……そうか」
 でも信仰的にそれはどうなんだ?
「子供が多すぎて食べさせられないから預けられることもあれば、親から虐待されそうになって逃げ込む子もいる。金持ちのボンボンに狙われそうになって入る子もいるからね」
「そう聞くと孤児院と変わりないな」
「みんながみんなそうじゃないけどね」
 修道女になれば外の世界とは切り離される。そうやって彼女たちを守るのも修道院の役目だそうだ。
「シスターの方はそこまで深刻じゃない子たちが慈善活動をしてるわけ。親が見にくることもあるからね」
 母さんが内情をバラしまくってると、母さんよりも少し下くらいの女性がやって来た。さっきまではいなかったな。客じゃないよな?
「マリー=テレーズさんは相変わらず少し話しすぎですね」
「あ、セヴリーヌ。来たの?」
「教会の方で打ち合わせもありましたからね。言われた通りに釘を刺しておきましたよ」
「あの子たちはヤンチャをするからね」
「……マリー=テレーズさん、話し方が変わりましたか?」
「これがの私。後は任せるよ。シュウジ、これが次の院長のセヴリーヌ。セブリーヌ、こっちが息子のシュウジ」
 ああ、次の院長か。母さんよりは真面目そうだな。
「話は本当だったのですね」
 俺を紹介した母さんを見て、セブリーヌさんが腑に落ちた顔をした。
「嘘を言ってどうするの?」
「いえ、マリー=テレーズさんならそういう冗談くらい口にすると思いまして」
「……」
 母さんが黙った。ここの修道院の中では真面目な院長で通してたみたいだけど、知ってる人は知ってたってことか。
「まあそれは冗談ですけどね」
「……なかなか言うようになったわね、セブリーヌ」
 なるほど、セブリーヌさんなりの小粋なジョークってとこか。なかなか癖のある性格だな。

 その後は新旧の院長のやり取りを中心に送別会は盛り上がった。
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