元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十五部:勇者の活躍

最下層

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「この先はないんだな?」
「はい。調べても何もなさそうです」
 アラクネEは壁を触りながらそう言った。たった今彼女は俺の従魔になったばかりだ。ここは地下五〇階のボス部屋。地図上では行き止まりだ。土魔法で使って床に穴を掘ってみたけど下には何もなさそうだ。前に落ちたトラウマというか何というか、あれがな。
 地下一〇階でアラクネAを従魔にしてからはここまで急げるだけ急いだ。ノンビリ攻略しても何もいいことはなさそうだからだ。魔物は相変わらず散発的に襲ってくるけどスキュラたちが倒してしまう。それならさっさと下に向かって進むだけ。そういうことでこの五〇階までは食事休憩のみとし、ここで仮眠を取ってから上に戻ることにしている。
 ダンジョンなら一瞬で戻れる装置でもあればいいんだけど、残念ながらここにはそういうのはないようだ。下りたらその分だけ上がらないといけない。けっこう面倒なんだよな。俺みたいに収納系のスキルがあれば問題ないけど、何もなければみんなで全部抱えて移動するか、運び人を雇わなければいけない。もちろん運び人が危険に晒されることもあるから、自分たちだけを守っていればいいわけじゃない。手間も増えるし金もかかる。でも自分たちだけでは長く潜るのは不可能なこともある。普通はダンジョンってそうやって潜る。俺が変なだけだ。
「それじゃ、とりあえず食事にするか」
「「「わー」」」
「「「楽しみです」」」
 ストレージからテーブルと椅子を出して食事にする。
「それが食事ですか?」
 大騒ぎをしてるのはスキュラたち、慎みを持って喜んでるのはアラクネAからDの四人。アラクネEはよく分かっていない。
 アラクネたちもスキュラたちと同じく料理というのをほとんどしたことがなかった。彼女たちは雑食だけど、基本は森にある果物などを食べることが多かったらしい。そちらの方が味があるからだ。
 今回出したのはスペイン風オムレツとペペロンチーノ。なぜその組み合わせかというとスキュラたちが好きだからだ。スペイン風オムレツはベーコン、ジャガイモとタマネギとパプリカ、トマトを使った定番のレシピで作っている。野菜などは集落の近くで採れることもあったそうだけど、こうやって組み合わせることはしなかったそうだ。そしてペペロンチーノは使う食材はそこまで多くないのに美味い。それがツボにはまったらしい。
「あらためて考えると、私たちの暮らしていた場所には調味料というものがほとんどなかったのですね」
「ゼロじゃないんだろうけど、そのまま使えるのは少ないだろうな」
 栽培は全くしていなかったそうだ。だから米や麦を育てて収穫したこともない。芋はあれば食べたそうだ。魚や肉も食べるけど、焼くだけのことが多く、味付けも適当に近くにあるハーブなどを使うだけだったから薄味だった。もっと海が近ければ海水を煮詰めて塩を作ることもできたかもしれないけど、そういうことはしてなかったみたいだな。
「この塩というものは偉大ですね」
「塩がないと料理は難しいよな」
 料理で使う塩ってほんの少量だ。でもそれがないと味が締まらない。例えばパスタは茹でる段階で下味を付ける。水だけで茹でるとパスタとソースの味が分かれてしまう。パスタ一〇〇グラムに対して水一リットルと塩小さじ一が基本で、さらに茹で汁はソースにも使う。料理はまず塩だ。
「この子たちも最近は調理済みのものが好きになったみたいです」
「「「ばうっ!」」」
 アルベルティーヌの言葉を聞いた犬たちが元気に返事をする。最初は生の骨付き塊肉をバリバリと食べてたけど、最近は表面を軽くローストしてソースをかけた塊肉を食べさせている。薄切りにしていないローストビーフだ。ビーフじゃないけど。
 骨は好きみたいだから、それは別で与えている。【ストレージ】に解体機能が増えたのはいいんだけど、それだと一体丸々解体されてしまうから、骨付き肉は自分で切らないといけないんだよな。だから肉と骨を別々に用意することになった。
 スキュラたちの犬は森で散歩をしつつ獣を狩ってそれを食べていたと聞いている。あらためてそういう話を聞いて、彼女たちがいた場所を想像してみる。
 森を出てすぐのところに平坦な場所があって、そこに家を建てて暮らしていた。近くには湖があって魚も捕れた。そこから川を下ると海があったらしい。ここにいる一〇人は海を見たことがないそうだけど。そうだな、今度海を見せてやるか。
 森はそのまま山に繋がっていたので、食材として使える獣は多かったそうだ。山と湖となると、猪苗代湖、琵琶湖、十和田湖、洞爺湖、そんな感じか? のどかでいいな。でも塩がないのか。
 塩って少ないと物足りなくて、多いと一瞬で料理をダメにする不思議な調味料だ。砂糖なら少し多くても「ちょっと甘かったか」で済むけど、塩を入れすぎたら全体量を増やして薄めるしかない。薄めきれないならどうしようもない。特に煮込みで完全に味が染みた時とかな。それなら作り直した方が早い。
「マスターは料理がお上手なのですね」
「若い頃から作ってたからな。包丁を握り始めてからもう一五年以上になるなあ」
 俺が小学校に上がる頃、母さんが仕事に復帰した。だから自分のことは自分でした。料理に洗濯に掃除。金は貰ってたから外食もできたけど、毎回出るのも面倒だったんだよな。それで作り始めた。
 それで料理って一人分だけ作るのが難しくて母さんの分まで作って冷蔵庫に入れておいたら喜ばれた。あの頃の俺はまだ素直だったんだろうな。それが嬉しくて作り置きの料理を冷蔵庫と冷凍庫に溜めるようになった。
「このホクホクしたものと赤い輪っかがいいですね」
「その白いのはニンニクを潰したもの、赤いのはトウガラシを切ったものだ。無理に食べなくてもいいぞ」
 ニンニクはスライスすることが多いけど、俺は包丁の腹で潰して丸ごと使うこともよくある。そのまま多めのオリーブオイルでじっくりと火を通して香りを移す。イタリアンに関して言えば、塩とオリーブオイルとニンニクはケチっちゃダメだ。

 ◆◆◆

「よし、アラクネたちに名前を付けようか」
「お願いいたします」
 食後に紅茶で口の中をサッパリさせてから名付けを行うことになった。上がってからでもいいけど、もう決めてあるから付けてもいいだろうと。
 名前は考えておいた。でも俺の語彙にも限度がある。スキュラたちの名前はフランス人の女性の名前として存在するものを選んだ。でも五人で同じような感じというとなかなか見つからない。しかも頭文字がABCDE縛りとなるとなおさらだ。だから今回はイタリアやスペインにありそうな名前にした。あるかどうかは知らない。
「アラクネAはアリエーナ、アラクネBはビエターナ、アラクネCはカロリーナ、アラクネDはディディアーナ、アラクネEはエルカーナ。従魔としてのきちんとした飾りは後で渡すから、とりあえずこれを付けてくれ」
「「「ありがとうございます」」」
 スキュラたちと違って大人しいアラクネたちだけど、嬉しいのが表情に現れている。アリエーナとディディアーナの距離がさっきよりも少し近くなった。足がちょんちょんと俺に触れている。
 アラクネたちの髪はサラサラのロング。しかも真っ黒。クモだから黒ってのもベタかもしれないけど、文字通り漆黒だ。正直なところ、リボンで縛るのがもったいない。でもそのままリボンってのも何か違う気がする。だから少しだけアレンジだ。
 耳の上あたりで左右に三つ編みを作ってその先端を後ろでまとめる。そして耳の少し後ろに大きな白いリボンを付ける。とりあえず今はこれくらいだな。
「「「大人っぽい!」」」
 まあスキュラたちは可愛い、アラクネたちは美人。それぞれ個性があっていい。服装も自分がしたいようにしたらいいと思うけど似合っているかどうかはまた別問題だ。スキュラは何となく大人っぽくなりたいという感じだけど、無理して背伸びはしなくてもいいと俺は思う。そのうち大人っぽい服装も似合うようになるだろう。
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