元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十五部:勇者の活躍

ダンジョンと魔物

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 三〇階でアラクネC、そしてここ四〇階でアラクネDも加わり、総勢一〇人で休憩中だ。休憩中の話題はダンジョン。俺の持つゲーム内のダンジョンのイメージを伝えていた。
「ゲームなら宝箱くらいあるはずなんだけどな」
「宝箱って何ですか?」
 アルベルティーヌの質問は意外だった。宝箱って知らないのか。
「これくらいの大きさのコフルのような箱で、その中に金やら宝石やら武器や防具やら、まあ金目のものが入っている、そういうものだ」
 コフルってのは衣服や貴重品などを入れておく木の箱のことで、元は大箱って意味だ。日本語なら櫃、英語ならチェストになる。蝶番ちょうつがいがあって上部が開くようになっていることが多く、貴重品用はほとんどが鍵がかかるようになっている。
「それを魔物が運んでるんですか?」
「ゲームだとそうだな。普通宝箱というのは宝物庫に置くものだけど、宝箱のある場所にたまたま魔物がいたのか、それとも宝箱を魔物が守っていたのか」
「その魔物が宝物庫から盗んできたんですか?」
 スキュラたちが入れ替わり立ち替わり質問してくる。でも俺も魔物の生態に詳しいわけじゃないからな。しかもゲームのことだ。知り合いにゴブリンがいるわけじゃない。
「元々ダンジョンっていうのは地下牢って意味だから、普通は城の地下にあるんだ。だから宝物庫などに魔物が棲みついたってのが最初のイメージなんだろうな。そこから魔物を倒すと宝箱があるってイメージなんじゃないかと思う」
 今のゲームじゃダンジョンは地下迷宮ラビリンスを表すし、単なる洞窟を表すこともある。しかしあらためて考えると魔物を倒すと金やアイテムが手に入る理由が分からない。
「そのゴブリンがお金を集めて自分で宝箱に入れていた可能性はないのでしょうか?」
 今度はアラクネDの質問だ。
「あいつらは光るものを集めるそうだから可能性はあるな。でも宝箱は持ち歩かないだろう。適当な袋にでも入れるはずだ」
 魔物が金を持っていることはある。もちろんサイフとかを持ち歩くことはないから、適当な布きれや葉っぱなんかで包んで懐に入れておくことがほとんどだ。たまに冒険者が持っていた財布を奪って使っていることもあるそうだ。

「一つお聞きしますが、マスターがご存じのアラクネというのはどのような魔物なのでしょうか?」
 これはアラクネAの質問だ。俺がこの四人を普通のアラクネとは違うと言ったからだろうな。
「元々は神話に出てくる織り手の名前だ」

 アラクネは優れた機織りの腕を持っていたが高慢な部分があり、美や知恵や工芸などを司っているアテナよりも自分の方が優れていると常々口にしていた。周囲の者たちはそれがアテナの耳に入らないか心配していたが、ある日それが現実のものとなってしまう。アテナは老婆に姿を変え、アラクネの思い上がりをたしなめようと彼女のところに向かうが、アラクネは聞く耳を持たなかった。呆れたアテナは姿を戻してアラクネと勝負をすることになった。
 アラクネが織り上げた布はアテナも驚くほどの出来映えだったが、その絵柄は神々を侮辱する内容だった。それを見たアテナは激怒して手にしていたで何度もアラクネを殴りつけた。ようやく自分の犯した過ちに気づいたアラクネは絶望して首を吊ってしまう。哀れに思ったアテナはアラクネをクモに変え、その罪を許した。

「こんな感じの内容だ。だからアラクネって魔物じゃないんだ。クモになった女性だな」
「……それでしたらどうして魔物になったのでしょう?」
「ああ、それは神話を元にしていくつも話が作られる中で作られたイメージだろうな。二本の腕と六本の足があるとか、人間に腕が六本あって背中にクモの足が生えていたりとか、人間とクモを合わせた姿なら何でもありだな、多分」
 俺がそう説明していると、今度はスキュラたちが前のめりになった。
「マスター、それならスキュラはどうだったんですか?」
「スキュラは下半身が犬だったり魚だったりタコだったり、いくつも話があってややこしい。俺が知ってる中では精霊であるニンフの一人だったという話が姿が近いな」

 美しい姿のスキュラには多くの男が求婚していたが彼女は常に断っていた。そんなある時、海の神であるグラウコスが彼女に求婚した。彼の長い髪や魚の下半身にスキュラは驚いた。グラウコスは自分は魔物ではないと説明するが、その姿を恐れてスキュラは逃げてしまった。
 スキュラを諦めきれないグラウコスは魔女キルケに相談をする。だが相談されたキルケ自身がグラウコスに惚れてしまった。キルケはスキュラを諦めて自分を選ぶようにと勧めたがグラウコスは聞き入れない。そのうちキルケはスキュラを恨むようになってしまった。
 キルケは自分の持つ魔法や薬草の知識で毒薬を作り、スキュラが普段からよく訪れる水辺に流し込んだ。やって来たスキュラが腰まで水に浸かると、水の中から獰猛な犬が現れて彼女の腰に巻き付いた。慌てたスキュラはその場から逃げようとするが犬たちは離れない。よく見ると自分の足がなくなってそこから犬が生えていることに気づいた。グラウコスはそのことを知って悲しみ、スキュラに対する仕打ちからキルケとの縁を絶った。

「うーん、毒と魔法で足が犬に変わるってことがあるんですか?」
 デルフィーヌの疑問はもっともだけど、ここは剣と魔法の世界だ。
「それを言ったらお前たちだって【人化】を使えば足が生えるだろ?」
「「「⁉⁉⁉⁉⁉」」」
 五人が一斉に驚いた顔をした。今さらながらに自分たちが姿を変えられることに気づいたらしい。
「別の時代に作られた話の中では、スキュラはメガラという都市国家の王女になっている。敵に恋をして父親を裏切ったために最後は鳥か魚になったという話だ」
 父親であるメガラのニーソス王を裏切って、メガラを攻めてきたクレタ島のミノス王に取り入ろうとした。でもあまりにも急だったからミノス王が思わず引いてしまったって話だったはずだ。
「鳥と魚って全然違うと思うんですが」
「色々と説はあるそうだけど、ラテン語では羽根と鱗はよく似た綴りだったそうだ。そしてギリシャ語では全く同じだったらしい。だから羽根に覆われた魔物と考えるか鱗に覆われた魔物と考えるかで鳥か魚かゴチャゴチャになったんだろうな。同じようにセイレーンにも鳥の翼を持つ姿と下半身が魚の二つのパターンがある。翼があって下半身が魚というパターンもあるな」
 このあたりはワンコの知識だ。
「私たちの知っているセイレーンさんたちは下半身が魚でした。翼はなかったですね」
「そうか。そっちの方が新しいイメージらしい」
 アラクネたちが里と呼ぶ村というか集落では、亜人と魔物が一緒に暮らしていたようだ。種族の区別はあったけど、亜人か魔物かという区別はなかったらしい。フレージュ王国では手足や顔が人間と同じなら人、そうでなければ亜人になる。言葉が通じなくて人を襲うなら魔物だ。でもうちの子たちは言葉が通じるし人は襲わない。当時スキュラAだったアルベルティーヌはボスという設定だったからか口上を述べ始めたけど、結局戦わなかった。犬を餌付けしたからな。
「ただスキュラの五人はこの国で知られているスキュラとはちょっと違うらしい。だからアラクネたちも違う可能性がある」
 うちの子たちは亜人と呼んでもおかしくないけど、一般的にはスキュラは魔物ということになっているから申し訳ないけど魔物ということにしておいてほしいと頼まれた。彼女たちはどっちでもいいそうだ。
 とりあえず俺の従魔であることを証明している髪飾りを嬉しそうに付けてくれるから、調子に乗って何種類も渡した。それを嬉しそうに話すからワンコたちも欲しがって、結局みんなに作るというパターンが出来上がっている。アラクネたちにも用意しないとな。この美しい黒髪にはどういうアクセサリーが似合うか。ベタだけど白か銀だな。上半身は着物っぽいものを着たアラクネにかんざしくしは十分アリだな。
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