元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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最終部:領主であること

結婚式

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 俺は結婚に夢を見ているわけじゃないけど人生の墓場と思っているわけでもない。以前からまあ縁があればと思っていた。それがこの世界に来てこんな有り様だ。
 ここは控室。ドレスを着た妻たちが勢揃いしている。ドレスも白無垢も民族衣装もいる。それぞれ父親と一緒に最後の段取りを確認している。まもなく式が始まる。

 ◆◆◆

「これより異世界より召喚されし勇者、シュウジ・コワレ・ラヴァル公爵の結婚式を執り行う」
 この大聖堂のトップは総大司教という立場らしい。総も大も付いているから頭の上にもの凄く大きな帽子が乗っている。ミトラって名前だったか?
 今の総大司教のロランさんは七〇は超えているようだけど、先日の打ち合わせでは俺にペコペコと頭を下げていた。それもそのはず、母さんの顔見知りだった。
 どうやら娼婦時代の上客だったそうで、人柄は悪くないそうだ。むしろ宗教関係者の中では圧倒的に善良だろうと。この人なら結婚するのもありかと一瞬思ったと言っていた。でもロランさん以外にはちょっと困った大司教や司教も多いそうで、そういう聖職者たちをシメるために母さんたちは修道院に呼ばれたそうだ。
 教会組織というのは、その立場を利用して富と権勢を我が物にしようと考える者と、ただひたすら信仰のために人生を捧げようとする者の、大きく二種類に分けられるそうだ。ロランさんは後者になる。彼は妻帯せず、たまに娼館に出かけ、母さんを抱いた後に懺悔し、十分な金を置いて立ち去ったらしい。斬新だな。

 結婚式の段取りはすでに済ませてある。俺は一人で総大司教の前に立つ。妻たちがそれぞれ父親にエスコートされて入ってくる。エコはアドニス王に、エミリアはジョスさんに、ワンコはヴィクトルさんに、オリエは父親のカンタンさんに。ミレーヌは大司教のラウルさんに、フランは司教のグレゴワールさんに、リュシエンヌはブノワ殿に、タイスはアドルフに、ベラはブレーズ殿に、オレリーはギヨーム殿に。シュザンヌは父親のジルベールさんに、アネットは父親のファビアンさんに、ジゼルはロマンさんに。
 結婚式の前に初めて会った父親もいたけど、思った通りに顔を強ばらせていた。やはり勇者で公爵の俺を前にするとそうなるらしい。それに比べると母親というのは逞しいのか、俺に握手とサインを求めてきた人もいた。
 ラウルさんとグレゴワールさんには、ミレーヌとフランのことをある程度説明した。他言無用ということにして。この二人は善良な側の聖職者だったからだ。そうしたら二人は跪いて涙を流していた。二人はそれぞれミレーヌとフランの眷属になっていたから、何かいいことがあるだろう。

 キリスト教とはセリフや流れは同じでないけど、宣言をしてから誓いのキスをするのは同じだった。でもこの国の結婚式には指輪の交換はなかった。どうも結婚指輪というのは一般的ではないようだ。だから俺から妻になる女性に指輪を贈るという儀式を今回は追加してもらった。
 この指輪は俺が作ったもので、デザインとしてはそれほど奇抜ではない三連リングになっていて、間にトゥーリアの鱗の欠片を宝石のように入れている。この鱗は魔道具になっていて、それぞれに【治療】【解毒】【殺菌】を組み込んでいる。指輪本体には【異空間】だ。結局リュシエンヌは【異空間】を身に付けられなかったから感謝された。
 ドラゴンの鱗は魔石と同じように魔素マナを溜め込む性質があるそうだ。剥がれてからもしかも少しずつだけど集める力もあるらしい。だから放っておけば自然と魔力が元に戻るそうだ。
 これを作っている時、指輪に【欺瞞:Lv九】を組み込めばステータスを隠せるかもと思ったけど、そう上手くはいかなかった。魔法と違って魔道具はあくまで道具だから、自分で使うのが前提だ。だからアクティブな魔法は問題なく使えても、パッシブな魔法は苦手なんだそうだ。たしかに勝手に魔法が発動しても困るよな。タイミングは使用者が選ばなければならない。
「ここにシュウジ・コワレ・ラヴァル公爵、そしてエコ、エミリア、マルティーヌ、オリエンヌ、ミレーヌ、フランシーヌ、リュシエンヌ、タイス、ベランジェール、オレリー、シュザンヌ、アネット、ジゼルは夫婦となった」
 総大司教が宣言すると結婚式は終わり、俺たちは外に向かって歩き出す……と思ったら大聖堂の天井が光った。それとともに背中に羽を生やした天使が舞う。舞いながら花を撒き散らした。派手だなあ。
「おおっ! これはまさしく神々の祝福!」
 総大司教はそう驚くけど、これはあれだ、絶対どこかの神が面白がってやったんだろう。
「ミレーヌ、フラン、ひょっとして知り合いか?」
「おそらく契約の神ではないでしょうか」
「おそらくそうでしょう。あの人ならやりそうですわ」
 契約の神というのもいるらしい。契約に関する神で、もちろん結婚も契約の一つになるので契約神の仕事の範疇なんだそうだ。愛の神ではないんだな。
「そのうち会うことになりそうだな」
「あまり人前には現れない方ですけどね」
 結婚式の最後の最後に派手なパフォーマンスを行って、結局姿を現すことはなかった。俺としてもできれば面倒はないほうがいい。正式な神になってから会おう。
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