元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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最終部:領主であること

引っ越しの準備

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 結婚式が終わった。契約の神とやらの派手な演出があったけど、本人は出てこなかった。あれから披露宴代わりのパーティーがあり、それが落ち着いて翌日。俺たちは今後領地でどうするかの最終的な話し合いをしていた。

「使用人を辞めてもすることがないわけじゃない。向こうは向こうで色々とあるだろう」
 そもそも領地に行けば貴族以外との付き合いが多くなる。領主だから当然だ。だから彼女たちにはしてもらうことも多い。
「それがお茶会ですか?」
「そういうことだ。貴族の間だけじゃなくて庶民にも広げたい。そのためには庶民を誘ってのお茶会をしてほしい。世間話でもすれば距離は縮まるだろう」
 どこぞの国の誰かが言った『二つの国民』じゃないけど、貴族と庶民の間が開き過ぎだ。もう少し間を詰めたい。
「おそらくそういう話は女性の方が敏感だろう」
「そうでしょうね」
 オレリー自身男爵家の生まれなので、一通りの社交は経験している。ということで再びオレリーには教師役をしてもらうことになった。
「私でよろしければどんなことでも務めされていただきます」
「無茶はさせないさ」
 オレリーにはエミリアにマナーを教えたようなことを主に平民出身の妻たち相手にしてもらうことになった。
「私たちもお手伝いします」
「はい、お任せください」
 サポートにタイスとベラが付く。
 お茶会をして身分の上下を理解させるとか、そのようなことはしない。これまでの領主が悪すぎた。新しい領主はこれまでとは違うぞと見せなければならない。だから服装もやや抑えめにする。あまりキラキラピカピカしたドレスでは逆効果になりかねない。だから見た目はシンプルにしつつ素材は上等なものを使う。それにはアラクネたちが仕立てた布がピッタリだろう。触らなければ分からないからだ。

 ◆◆◆

 引っ越しすのは間違いない。だが引っ越さないのも間違いない。言葉遊びみたいだけど、それはどういうことか。
「旦那様が一人いれば使用人たちもやる気が出ますので」
「俺としても一人残した方が便利なのは間違いないからな」
 化身アバターか複体か分身を一体、常に王都の屋敷に残すことにした。そうすることで移動が楽になるからだ。まるで抜け道かバグ技みたいだけど、俺が使っている【異空間】というスキルは、ここではないどこかに存在する異空間を自分の近くに開くことができる。それを活用することにした。
 俺が王都の屋敷で妻たちを異空間に入れる。俺がエウロードの屋敷に移動して異空間を開ければ妻たちはエウロードに移動できる。そこから先が抜け道だ。
 分身を王都に残すことにした。だからエウロードで異空間を開いて人を入れて閉じ、王都の分身が異空間を開けばそちらに出られるわけだ。本体でも化身アバターでも複体でも分身でもどれでもいい、王都と領地に一人でもいれば自由に異空間経由で移動できる。
 ただ問題もあって、俺以外は中から外へは自由に出られない。外から開けてもらうしかない。だから開ける場所に一人置かなければならない。
 そして同時に二か所は開けられない。開けるためには閉じなければならない。もっとも開けるのも閉めるのもみんな俺だから意思疎通は完璧だ。物理的な距離は関係ない。
 このシステムを利用すれば、各地にすぐに移動することができる。ただ分身は作れば作るほどステータスが下がる。魔法で強化したところでそこまでステータスが上がるわけじゃない。どうしても限度がある。そこさえ何とかできればな。そんな魔道具を作れないものか。
 とりあえず馬車はよく揺れる。振動も伝わってくる。エウロードまでトゥーリアに乗ればあっという間だけど馬車ならそれなりに日数がかかるので、けっこう体に負担がかかる。だから年に一度の仕事と思って年末から春にかけては王都に出てくる。

 妻たちは全員が領都エウロードで暮らすことになる。異空間経由で先に移動してもらう。イネスとエステルの二人は情婦扱いになるので、王都に残ることになっている。それでも今まで通りに会いにいくからそれほど問題はない。家族はそれでいい。問題は使用人たちだ。誰を連れていくかだ。
 異空間経由で移動できるから王都と領地で掛け持ちは問題なくできるけど、ある程度は担当を決めておかないとダヴィドもエルネストもやりにくいだろう。だから一定期間ごとに入れ替えるとかはするけど、今日はこっち明日は向こうのように慌ただしいやり方はしない。そして家令スチュワード執事ブティエ、料理長、家政婦長、メイド長など、上に立つ立場の者は職場を固定することにした。
 またダヴィドの妻のブランシュはこれまで家政婦長とメイド長の相談役という中途半端な立場だったのを、使用人行儀作法指導者兼介添えシャペロンとした。これまでは男性使用人に対して一切指導権限がなかったからだ。使行儀作法指導者にすることで男性使用人に対しても口を出せるようになった。以前に使用人たちの鼻にトウガラシを詰め込んだ時は、男性使用人についてはダヴィドを通していた。
 それ以外にララとロラの双子の楽士は情婦にしたから連れていって、俺の複体と一緒にもう向こうの町を回っている。
 メイドの中でセリーヌとドミニクのコンビを連れていって俺の身の回りの世話を専属でさせることにした。これまではジゼルがしていたけど、さすがに妻にさせるのは問題がある。
 もう一人、ナディアを忘れていた。この国では魔物扱いをされているサキュバスの血を引いている。だから何かの間違いで俺のになった。もはや使用人ですらない。どうするべきか考えて、ナディアには従魔たちとの間の連絡役をしてもらうことになった。頭の中で会話をする【念話】というスキルがないからだ。いずれ生えるかもしれないけど今はない。

「それで料理人の方はジスランとロズリーヌの二人でいいか?」
「よろしくお願いします」
「無理を申してすみません」
「いや、それはそれでめでたいことだ。結婚しても仕事を続ければいい。住む場所はいくらでもあるからな」
 ジスランとロズリーヌは近いうちに結婚することになった。ジスランはオーブリーの下で料理人というか副料理長を務め、ロズリーヌはキッチンメイドという料理人の下働きをしていた。指導をすれば入れ込むことはあるよな。そういうわけでこの二人は結婚してから向こうに行くことになった。
 実はオーブリーもブーランジェパン焼き助手のエーヴと仲がいいそうだ。最初からいた使用人たち全員、そして追加で来た使用人たちのうちメイド以外は王城で働いていた。だからここに来る前から顔見知りだった場合もある。
菓子職人パティシエはセザールが来てくれるんだな?」
「はい。旦那様の近くにいる方がより勉強になるだろうと師匠が言ってくれましたので」
 師匠とは最初から菓子職人パティシエとして雇っていたジョアキムだ。セザールは最初は従者をしていたけど菓子作りの方が好きそうだから菓子職人パティシエに仕事を変えてもいいと言った。貴族らしくないと言われるけど、俺には従者はあまり必要ない。それよりもやりたいことを仕事にするほうがいいだろう。
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