元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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最終部:領主であること

アイデンティティー

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「エルシーデ~ス。よろしくお願いしマ~ス」
 なぜに片言?
「なんで訛るんだ? もう治っただろ?」
 ヤッてる最中から言葉が滑らかになり、終わった時には完全に普通に喋れたはずだ。
「ジャパニーズカルチャーを愛するステイツの人間として~、カタコトで話すのは当然デ~ス。これがアイデンティティーデ~ス」
 エルシーが立派な胸に手をやりながら言い切った。どうやらを演じているみたいだ。その感性はよく分からない。ただエルシーはとにかく形から入る。日本に来たら日本のファッションを取り入れ、ガチガチのロリータファッションを身に着けていた。最初は日本語はほとんど話せなかったけど、いつの間にかペラペラと喋っていた。でも片言で話すことがなんだそうだ。意味が分からないけどそういうことらしい。
 ちなみに彼女が着ているのはクラシカルなロリータファッションで、白とワインレッドをベースにしている。メチャクチャ似合う。貴族のドレスに近いけど、それよりももっとフリフリだ。今この部屋は多国籍なのか無国籍なのか分からないけど、多種多様だ。
 いつも通りに着物姿のリュシエンヌがいる。タイスとミラベルはリュシエンヌから着付けを教わって着物を着るようになったけど、袴を穿くことが多い。ミラベルは座敷わらしだな。タイスは背が高めだから袴にブーツがよく似合う。はいからさんだ。
 ベラのドレスは胸元やスカートの部分などに植物のモチーフが入るエルフの民族衣装になっている。ワンコとオリエはなぜかアンミラ風。でもスカートは長めだ。そこは貴族の妻としてあまり脚を見せるべきではないというのがある。夜はミニスカートも多いけど。
 王都の商会では女性用の衣服やアクセサリーを作っているけど、せっかく領地の方にも商会作るんだから、こっちのファッションは王都以上に独自色を出すことにした。
 まずは着物と浴衣。これは王都でも販売していた。正式なものは高くなるので、簡易的なワンタッチ帯を使って気軽に着れるようにした。そして袴も販売する。素材に関しても、この領地はフレージュ王国の中ではかなり暖かい方だから、夏場は麻などを使った涼しげなものも用意することにしている。
「エルシーには商会のファッション部門のデザイナーになってもらう」
 リュシエンヌは着物を中心とした和装部門、ワンコとオリエにはこの屋敷の料理人たちにレシピを伝えるとともに、日本でよく見かけたアクセサリーや服などをデザインしてもらう。エルシーにはアメリカやヨーロッパでよく見かけたデザインを広めてもらうことにした。
 ワンコやオリエは海外には行ったことは少ないはずだ。エルシーは日本好きだけどヨーロッパに行くことも多く、おそらくその途中で飛行機が落ちたのではないかということだ。外国文化という点ではエルシーが一番精通しているはずだ。
 母さんは世代的には海外に行ってそうだけど、経済的に無理だったはずだ。俺も生まれたからな。
 そうこうしている間に、エルシーがみんなに囲まれた。
「エルシーさん、胸を大きくするコツなどございますか?」
「大きなバストは才能ネ」
 言い切られてリュシエンヌが半目になる。言い方は悪いけど、ちょっとやそっとの努力ではどうしようもないのが才能というものだ。
 芸術でも勉強でも料理でも、何もしなくても他人よりも優れた部分がある人がいる。そこに努力が加わり、さらに発想が上乗せされれば、もう並の人間では太刀打ちできない。それが才能というものだろう。
「デモ育乳なら可能デ~ス。一緒にやりまショウ。目指せロケットおっぱいデ~ス」
 エルシーが胸を突き出す。立派なロケットおっぱいだ。でもあれは遺伝じゃないか?
 エルシーがさっそく講義を始めた。胸を大きくするには筋肉がなければならない。ほとんどが脂肪でできているとしても、その胸を支えているのは筋肉だからだ。ハリが出るし垂れにくくなる。それに筋トレで体幹を鍛えれば姿勢が良くなる。そうすれば胸を張るようになるので自然と胸が大きく見える。一番ダメなのが猫背でになること。見た目がカップ一つ二つ小さくなるそうだ。
「まずはプッシュアップ腕立て伏せデ~ス。無理なら膝を床につけても問題ありまセ~ン」
 全員それなりにステータスが上がっているので、腕立て伏せくらいは軽々とこなしている。体をぴんと伸ばしたまま腕を曲げ、ギリギリのところで三秒耐えてから腕を伸ばす。上で休憩せず、そのまままた腕を曲げて体を下ろす。一〇回で一セット。休憩を挟んで一回二セット。これを朝昼晩それぞれ行う。
「でも筋トレばっかりすると胸が小さくなりマ~ス。栄養はしっかりと摂りましょうネ。しっかり食べてしっかり運動。これでバインバインデ~ス」
 これでバインバインになったら苦労しないが、何もしなければ何も変わらない。リュシエンヌだけでなく、ベラとメイドが何人か、エルシーの指導で育乳をすることになった。その結果がどうなるかは、まあもう少し先になるだろう。
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