元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

文字の大きさ
248 / 273
第十六部:領主になること

領地の使用人たちとの顔合わせ(二)

しおりを挟む
 俺は食事をしながらここにいる使用人たちに今後の予定を説明していた。
 俺の横ではララとロラの二人が横笛と竪琴でBGMを流している。二人はパパッと食事を済ませると、今度はもてなす側に回った。味わわなくてもいつでも食べられるからな。
 逆にエルネスト以外の使用人たちは、まるでこれが最後の晩餐であるかのように貪り食っていた。マナー的にどうかは今日のところは気にしない。それはエルネストにも言ってある。好きに食べさせろと。仕込みの段階で何となく気づいていたからだ。
「二、三日こちらにいるが、また王都に戻る。年が明けて結婚式が終わったら、中途半端な時期だがこちらで暮らすことになる」
 貴族なら冬から春にかけては王都で過ごすのが普通だ。そこでコネを作って情報を交換し、子供の結婚相手を探す。子供たちも社交に出て友人を作り、結婚相手を探す。
 貴族に恋人というのはほとんど存在しない。友人の次が婚約者で、その先に進めば夫婦になる。友人の段階で体を重ね、婚約者として相応しいかどうかを確かめることも多いそうだ。体の相性というのも大切だからな。リュシエンヌが引きこもる前に耳にしてしまったのはそういうヒソヒソ話だ。
 俺の場合は一月半ばという中途半端な時期に召喚された。それは新年の挨拶も落ち着いたあたりで召喚するという決まりなので仕方ないけど、ちょうど召喚から一年後に結婚式が行われる。
 結婚式が終われば俺は領地へ移動し、そのまま領地の方で活動する予定だ。ただ王都の方も放っておくことはできないので、異空間を利用して王都に移動することは決めている。妻たちも結婚式が終わってから順次こちらに引っ越す。
 使用人に関しては、上級使用人は基本的に今の場所で働いてもらうとして、下級使用人については必要に応じて職場を変えてもらう。
「全員一度は王都の屋敷を見てもらうつもりだ。それから必要に応じて行ったり来たりして働いてもらうことになる」
「旦那様、それは私たちも王都に行けるということですか?」
 唐揚げを口いっぱいに詰め込んだメイド長のクラリスがそう質問した。メイド長なのはメイドの中で年上だからで、そのための教育を受けているとかそういうことではなかった。エルネストがまとめ役として仮のメイド長にしただけで、正式なメイド長ではなかった。
 口に入れたまま喋るのは行儀が悪いけど、今日のところは何も言わない。いずれブランシュに叩き直してもらえばいいだろう。
「そうだ。向こうの方が人数が多い。だから基本は向こうの使用人をこちらに連れてくることになる。ただ王都の方が人が多くて華やかなのは間違いないので不満が出ることもあるだろう。だから下級使用人に関しては定期的に入れ替えを行うつもりだ」
「あの~メイド長は~」
「上級か下級かなら下級だろう。だが当初メイド長がいるならそのまま家政婦長になってもらうつもりだった。なりたいか?」
「か、家政婦長ですかあ⁉」
 少々お行儀はよくないけど、クラリスはメイドの中で一番年長だ。それでもまだ一〇代後半。他が行儀見習いのような一〇代前半の少女ばかりだから、エルネストはとりあえずクラリスをメイド長にしたということだった。
 メイド長はあくまでメイドのまとめ役でしかない。今は女性使用人はほぼメイドしかいないからいいけど、正直なところクラリスには荷が重いだろう。家政婦長になれば女性使用人を取り仕切る必要がある。女性使用人の誰をクビにするか、あるいは誰を新しく雇うか、そういうことをエルネストに提案するのも家政婦長の仕事だ。
「まあ実際クラリスがどういう仕事になるかは向こうの家政婦長に会わせてからでもいい。それに上級使用人だからって王都に連れていかないわけじゃない。ある程度は交流を持たせるつもりだ」
「分かりました。仕事についてはお任せします」
 実際に彼女たちを働かせるのは俺じゃない。王都の方で家政婦長になるセリアの判断を仰ぐのが一番いいだろう。ただ年齢を考えればスティルルームメイドのデジレかキトリーをこちらの家政婦長にするのもアリだと思っている。どうせエミリアと一緒にこっちに来るのは間違いないから。
「そのあたりは一度家令スチュワードのエルネストと向こうにいる執事ブティエのダヴィドで話し合いをしてもらうつもりだ。エルネスト、ダヴィドとは顔見知りだったんだな?」
「はい、財務省で働く前に仕事の基礎を教えていただきました」
 ミレーヌ経由でダヴィドに手紙を渡して確認したところ、王宮で一緒に働いていたと書いてあった。真面目な男なので信用できると。
「それなら話もしやすいだろう。こことは距離があるが、短時間で移動できる方法がある。使用人をどう融通するか、そのあたりをダヴィドを交えて話をしよう」
「承知いたしました」
 数日すれば俺は向こうに戻るけど、その時に複体を一人こちらに残し、その後は王都と領地を異空間で繋げばいい。危険な道中も全てショートカットできる。
 ただし移動の途中で金を落とすというのは貴族にとっての務めの一つなのは間違いない。それに自分の領地かそうでないかに関係なく、馬車で移動して途中の領地にいる領主なり代官なりと会うのは礼儀だ。だからいずれはそれもするつもりだ。
 俺が領地にいる時には王都の屋敷には複体を置く。俺はどちらにもいるつもりだ。さすがに大臣をする余裕はないけど。そして時期によってはその間を分身に移動させる。つまり俺三人体制だ。そうやって世間体を気にしつつもできる限り楽をする。そのつもりでいる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

処理中です...