元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十四部:それぞれの思惑

誰かのために(二)

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 俺の話を聞くうちにクローディーヌの顔色はどんどん悪くなった。最初はどこでどう言い返そうかと思ったはずだけど、俺の手元にある情報は一〇〇パーセント正確だ。
 じっと話を聞いていたタイスは、しっかりとした口調で母親に問いかけた。
「お母様、シュウジ様の言ったことは本当のことなのですね?」
「……本当です」
 問い詰められたクローディーヌは生気のない声で答えた。
「お母様、私もそろそろ独り立ちをしてもいい年齢です。ミラベルと一緒に先にここを出ます」
「タイス……」
「今後はお会いすることはないでしょう。シュウジ様、行きましょう。ミラベル、行きますよ」
「はい、姉様」
 がっくりと肩を落としたクローディーヌから目を離すと、俺はタイスとミラベルを連れて応接室を出た。部屋の中には俺たちだけじゃなくて使用人たちもいた。わざと話を聞かせるために用意したんだろう。俺がクローディーヌに手を貸すと思い込んで。そのせいで屋敷の中には一瞬で話が伝わるだろうな。俺を上手く利用しようとしたらしいけど、そう簡単に乗せられる俺じゃないからな。
 俺は女を抱くのは好きだけど押し売りは嫌いだ。しかも打算が絡むとなれば尚更だ。ジゼルのように生活が苦しい実家の役に立ちたいというのならまだ話は分かる。でも単なるサイフになるつもりはないし、勇者や公爵という立場を上手く利用されるのも面白くない。だから先手を打った。
 実はこの話は昨日のうちにタイスに伝えてある。エミール殿の娘じゃないと聞かされるのは残酷な話だろうけどな。それでもどこかのタイミングで言わなければいけないのは間違いないし、それならクローディーヌと揉める前の方がいいと判断した。タイスがそれほど驚かなかったのはそういうことだ。
 そもそも今回俺が動いたのは、クローディーヌとタイスの連名で届いた手紙とは別に、タイスからもう一通別の手紙が届いたからだった。
 タイスはいくつかの出来事がきっかけで、どうも自分は親が違うのではないかと疑問を持ってしまった。子供の頃には父親は愛情を注いでくれた気がする。でもある時から急によそよそしくなったように感じた。大人になったから感じ方が変わったのかもしれないと思ったけど、ミラベルに対してもよそよそしいようだから何かがあったんじゃないかと。
 そして領地に行った時、たまたまエミール殿が酒に酔って「お前の実の父親が」と小さな声で言ったことがあったそうだ。それを聞いてモヤモヤしていたところ、リュシエンヌが俺の所に来たのをきっかけに俺を頼ってみようと思ったそうだ。
 ああ、今回の件でエミール殿、つまり侯爵本人からも依頼があった。一番後だったけどな。もし妻の不貞がハッキリしたら離縁するから娘の後見を頼むと。血の繋がりがあればそのまま面倒を見ることはできても、そうでなければ無理だと。
 そうだろうなあ。自分の子供と思って育てていて、いずれは侯爵家の跡取りと思っていたら他の男の子供だったと。分かってしまえば跡取りにはできないし、ルルーの家名を名乗らせることにも抵抗がある。そうなったらエミール殿の男としての度量がどうだとかいう話じゃないだろう。
 俺はフランにクローディーヌの不貞の証拠を掴んでもらい、それをエミール殿に報告してもらった。その結果としてタイスとミラベルは侯爵家から籍を抜いて平民扱いになってから俺の所に来ることに決まった。

 二人の荷物をストレージに入れて屋敷を出る。元々追い出される予定だったからか、荷物はある程度まとめてあったようだ。使用人たちが微妙な顔をしているけど、まあなあ。これからしばらくクローディーヌをどう扱うべきか、そこは悩みどころだろう。
 俺はタイスとミラベルを連れて馬車に乗り込む。うちの屋敷まで一〇分くらいのものだ。
「ところでですね」
 馬車が動き出すとすぐにタイスが微笑みながら俺に体を寄せてきた。うむ、年齢のわりに背が高めで、全体的に肉付きがいい。リュシエンヌよりも年下なのに、体はエミリアに近い。
「何だ?」
「シュウジ様は男児と女児とどちらが欲しいですか?」
「俺はどっちでもいいぞ。元気に育ってくれればな。贅沢なんて言わないさ」
 両親がいてくれればそれでいいとすら思えるからな。
「私も産みます!」
 ミラベルが元気よく手を挙げるけど、さすがに七歳に何かしようという気は全く起きない。
「ミラベルはまだまだ先だな。もっと大きくなってからな」
「ぶー」
「ふふっ」
 ミラベルが頬を膨らませてタイスが笑う。
「ミラベルは一〇年くらい先だな」
 日本人時代ならそれでも若すぎるくらいだけどな。
「あら、シュウジ様の側にはジゼルという名前のメイドがいると聞きましたが」
「……」
 タイスの言葉にどう返したらいいか困った。後悔してるわけじゃないけど、ジゼルに手を出したせいで年齢で断るのに無理が出るようになってしまった。

 ◆◆◆

 タイスとミラベルを連れて屋敷に戻った。クローディーヌ? さあ、どうするんだろうな。一番いいのは救貧院に身を寄せることだろうか。でもプライドがそれを許さないだろう。これまでに頼った男のところに転がり込むか、それとも実家に戻るか。どうするにせよ、あの屋敷には長くはいられないだろうし、いても視線が痛いだけだろう。早々に立ち去るのがいいのは間違いないはずだ。
 とりあえず居間に入ると、家族の多くがそこで寛いでした。
「あなた様、結局そうなりましたか」
「これもフランのおかげと言えばいいのかな?」
 エミール殿から頼まれたけど、リュシエンヌの名前を出されたから俺には断りようがない。引きこもる前からの仲だからな。
「タイス・コワレです」
「ミラベル・コワレです」
「気が早い」
 勝手に挨拶をしたタイスの頭にチョップを入れる。タイスがペロッと舌を出した。この子は茶目っ気がある。
「タイスさん、大変だったと思いますが、何とかなったようでわたくしも安心いたしました」
 リュシエンヌがタイスを抱きしめるけど、どう見ても妹が姉に抱きついているようにしか思えない。
「リュシエンヌさんにはご心配をおかけしました」
 タイスがリュシエンヌに謝るけど、顔は晴れ晴れとしていた。

「ところでシュウジ様、いつからお務めを果たせばいいのですか?」
 しばらくリュシエンヌと話をしていたタイスの口からそんな言葉が聞こえた。
「お務め?」
 使用人じゃあるまいし、無理に何かをさせるって……夜の方か?
「リュシエンヌから何を聞いたんだ?」
 答えは想像できるけど、どの程度まで話をしたのかは気になる。
「声をかけられたらいつでもお務めを果たせるようにしなければならないと。それもあって充実した日々を送っていると書いてありました」
「リュシエンヌ?」
 リュシエンヌの方を見ると、特に悪びれた感じもなく、俺の視線を真正面から受け止めていた。
「シュウジ様の愛情をお腹の奥で受け止めることこそ妻の果たすべきこと。さらにわたくしの創作意欲が掻き立てられるとなれば、何を躊躇ためらうことがありますか?」
 真顔で返された。創作意欲ってエロ小説のな。最近王都で人気が出ている新人作家にリューという名前の人物がいるらしい。誰なんだろうな?
「まあまあ可愛いわねー。うちのシュウジの奥さんになってくれるのね?」
 いきなり現れた母さんがミラベルに抱きついた。
「母さん、話がややこしくなるから静かにしてくれ」
「ちぇー」
 母さんを見たタイスが目をパチクリして俺の顔を見た。
「シュウジ様は召喚されたのでは?」
「亡くなった母がこっちで生まれ変わってたんだ。まさかの話だけどな」
「勇者様とは何でもありなのですね」
「勇者様だから凄い」
 ミラベルには意味は分かっていないだろう。
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