元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十五部:勇者の活躍

セイレーンたちと【人化】

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「基本生活は水辺なのよ」
「そうだろうなあ」
 オレの目の前には五つの樽。そしてそこに入った五人のセイレーン。樽の縁に手をかけて頭だけを出している。はたから見ると面白い図だろうな。
「とりあえず一日二日だけでもここを使わせてもらう。せっかく立派ながあるんだからな」
 代官の屋敷の敷地はそれなりに広い。そして端に池があるので、それに少し手を入れてセイレーンたちが手足を伸ばせる場所を作ろうとしていた。一度水を抜いて奥の方を深くする。逆に岸に近い一部は浅めにする。
 最近は土や石をいじることが増えたから、【石工】のレベルが上がってきた。それで削るだけじゃなくて固めることもできるようになった。それでもガチガチに硬くするのは無理で、せいぜい普通の石くらいまでだ。つまり叩いたら割れる。それにまだまだ範囲も狭いな。
 今のところ一度に広範囲を加工するのは無理で、左官がコテを使うように少しずつしか削ったり固めたりできない。それでも一人で【石の玉】や【石の壁】を使って石を出し、それを加工することもできるから、一人で土建屋ができそうだ。
 手入れが適当だったのでかなり藻が増えていた。それを一度減らして簡単に掃除してから水を張り直す。セイレーンに限らず海や湖、池、川などの水辺で暮らす種族は多い。だからプールのように消毒する必要はない。だから視界が確保できればいい。
「とりあえずこんな感じでどうだ?」
「いい感じ」
「あ、水から出やすそう」
「こっち側は浅くて平らにしてある。少し進むと傾斜になるぞ」
 池に入る部分は膝上くらいの深さで、そこから三メートルほどで三〇度の傾斜になっている。元が池だからそこまで深くはできない。でも一番深い部分で三メートルくらいはあるだろうか。奥のあたりから出入りはしないだろうから、近づいて落ちないように柵でも作っておくか。
「マスター、入っていい?」
「いいぞ。でもあまり深くないから頭をぶつけるなよ」
「「「はーい!」」」
 俺はセイレーンたちの樽を池の中に横倒しにすると、彼女たちを池の中に流し込んだ。

 しばらく泳いでいたセイレーンたちが水面から頭を出した。
「「「マスターもどう?」」」
「俺もか? じゃあ水着を着てくるから少し待っててくれ」
 俺は異空間に入って水着を取り出した。この世界には水着はある。でも現代のような水着じゃない。男は短パンだけのことも多い。女性はしっかりした素材でできたTシャツと短パンの組み合わせだ。
 女性は肌を隠さないのかって? そんなことをしたら溺れるだろう。手足を動かしやすいようにそこは自由にして、胴体部分はしっかりと保護することを考えたらこの形になったそうだ。
 ちなみに川や海で泳ぐのは平民のみで、貴族はそんなことはしないそうだ。でも一部の貴族は屋敷の中庭などにプールを用意している。建前上は噴水ということになってるけど、貴族は人前で肌を見せるということはしないという建前だから、泳ぐ場所ではないらしい。面倒だな。
 俺は公爵だけどそんなどうでもいい建前なんて気にしない。目の前に池があれば泳ぐだろう。というわけで短パンのような水着を穿いて池に入る。この短パンは池の整備を始めた時にアリエーナに作ってもらったものだ。
 俺は泳ぐのは嫌いじゃない。でも学校を出たら泳ぐ機会ってグッと減るだろう。それに体を壊したから遊びに出ることも少なかった。こうやって体を動かせるのはいいな。
「マスター、上手」
「そうか? ほ~ら~、順番に捕まえるぞ」
「「「いや~ん」」」

 さすがに水の中の追いかけっこで俺がセイレーンたちに敵うわけがない。俺はヘトヘトになって水から上がった。

 ◆◆◆

 その夜、俺はセイレーンたちに呼ばれてまた池に来ていた。
「夜の水の中ってのもオツなもんでしょ?」
「普通は夜の水って怖いけどな」
 夜の海や夜の川には引き込まれそうな怖さがある。
「そう言えば、お前たち人の姿なのか?」
 水に入ったけど、足を元の姿に戻していない。
「マスターに抱かれるなら最初は水の中かなって思って。ここでいい?」
「夜だから音が丸聞こえだぞ」
「そこは結界を張れば大丈夫だってアルベルたちが言ってたけど」
 アルベルってのはアルベルティーヌのことかと思ったらやっぱりそうだった。残り四人はブラン、クレマン、デル、エグランらしい。
「水の中って動きにくいんだけどな」
「でもその言い方だとマスターには経験があるのよね?」
「ああ、あるぞ」
 海って開放的になるよなあ。でも見つかったら公衆わいせつ罪でアウトだからな。あの時は俺もワンコも若かった。「他人の視線? 見たけりゃ見たら?」って感じだった。もちろん場所はきちんと選んだ上での話だけど。
 膝までしか水がなくても、水の中というのは体が動かしにくい。思ったように動かないからもどかしい。体全体が水の中ならなおさらだ。だけどそれが逆に俺の戦う心に火をつけることにもなる。俺は化身アバターと複体を出た。さらに分身たちにはスキュラとアラクネたちのところに向かわせる。従魔たちはできる限り平等に扱いたちと思う。

 一通り楽しんだ俺たちは水から出て、池の側に設置したハンモックで寛いでいた。セイレーンたちが下半身を魚に戻してハンモックで寝転がると、網にかかった魚みたいに見える。
「あれ? 潤ってる?」
「何がだ?」
「鱗。水から出てもあんまり乾かない」
「いつもなら外にいると少しずつヒリヒリしてくるんだけど」
 セイレーンたちが鱗の変化を訴えてきた。この子たちはよく「乾く」と口にしている。喉が渇くんじゃなくて鱗が乾くそうだ。
 水から出るとすぐに鱗の表面が乾き始めるそうだ。それから鱗の中心部分までどんどん水分が抜けていって、完全に乾いてしまうとダンジョンで倒れていた時のようにパリパリに割れる。
「やっぱりマスターのおかげ?」
「どうだろうな? でもアラクネたちは糸に変化があったぞ」
 以前よりも伸縮性が上がった。おかげで日本で販売しても問題ないくらい薄くて丈夫なストッキングが完成した。かなり無理をしても破れない。俺でもかなり引っ張らないと破れない。せっかくアラクネたちが作ったものを破るつもりはないけど、ストッキングを破るという行為にはドキドキ感があるのは間違いない。
 でもさすがアラクネたちだ。俺がそんなことを言ったら部分的に強度を落としたストッキングを作ってくれた。落とす部分がどこかはお分かりだろう。そうやって楽しんだ後で上部は切り落とし、残った部分がニーハイソックスのように加工された。もったいない精神だろうか。
「スキュラたちは?」
「特に変化はなかったな。俺もあの子たちも気づいていないだけかもしれないけどな。しばらく様子を見て、何かあったら報告してくれ」
「「「は~い」」」

 ◆◆◆

「乾かないわけじゃないけど、かなりマシになったみたい」
「それなら少しくらいは出歩けそうか?」
 ずっと水の中というのはなかなか大変だ。屋敷に池を作ってそのにいるというのはできるだろうけと、どうしても行動範囲が狭くなる。
「前は一日でかなり乾いたけど、今なら大丈夫そう」
「ダンジョンのあれは命の危険を感じたわ」
「お前たちみんな干からびかけてたからな」
 あの時はそれぞれが部屋の中で倒れていて、鱗がカサカサのパリパリになっていた。乾燥がひどいと割れるんだそうだ。人間ならみたいなものかもしれない。割れた鱗はぽろっと取れて、また生えてくるらしい。
「どうやって暮らすかは向こうに行ってから考えるか。歩く練習もしてくれよ」
「できる限り頑張る」
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