元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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最終部:領主であること

極秘視察

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 醸造所だけの話じゃなく、領地の現実を知るには自分の目で見るのが一番。だから王都と同じように町のあちこちを歩いている。しかも複数人で。いつものように化身アバターと複体と分身を活用する。それぞれ別人に扮装している。
 ララとロラに町中で情報を仕入れてもらってるけど、それはまた別だ。俺の場合は街角を見て回ったり買い物をしたり、市民生活を調べている。それでちょっと休憩で屋台で飲み物でもと思ったら、不思議な飲み物を売っている屋台があった。
「旦那、一杯どうっすか?」
「それは初めて見たんだが、何という飲み物なんだ?」
「てことは旦那はこのあたりは初めてですかい?」
「ああ、北の方から来た。珍しい色だな」
「これは青茶テ・ブルーという花びらを使った茶で、このあたりじゃ庶民の一般的な飲み物っすね。北ではあまり見ないっすよ」
青茶テ・ブルーか」
 紅茶じゃなくて青茶か。鍋の中が青い、青いぞ。南の海の青い水とも違う。青い絵の具を水に溶かしたような色だ。近いのはブルーハワイか? でもあれよりもずっと濃い。あんなに透き通っていない。飲み物っぽく見えないけど飲み物なんだよな?
「まあ一杯頼む」
「あいよ」
 中銅貨を一枚渡すと、店主はお玉で木の器に注いで渡してくれた。器の色のせいもあってさらに色が分かりにくい。どう見ても飲み物には見えないな。
 匂いは……紅茶に似ているか。キームンっぽいフローラルさがある。花びらを使っているからそりゃそうだな。恐る恐る口に含んでみるとそれほど悪くない。問題は色だ。
「どうっすか?」
「味は悪くないな。香りもいい。だが色がな」
「慣れればどうってことはないんすけどね」
「そうだな。慣れれば大丈夫なんだろうな」
 俺は器を返すと広場を離れた。

 先ほどの青茶は店で売っているのかいないのか。庶民の飲み物だと言っていたから高級店にはないだろう。そうするとあのあたりにある庶民向けの食料品店か。
「いらっしゃい」
 愛想のよさそうな男が店番をしていた。
「ここでは青茶テ・ブルーは扱っているのか?」
「ええ、ありますよ。ここの棚です」
 指を差した方を見ると、そこには木箱があった。なるほど、その中か。
 店主は木箱を空けると紙の包みを取り出した。包みの大きさはリンゴ一個分くらいだろうか。
「すまないが、このあたりに来たのは初めてで値段が分からない。これでどれだけの量になる?」
 俺は小銀貨を一枚取り出して見せた。
「大銅貨でこの包みが一つですので、これが一〇個になります」
「では一〇個分貰おうか」
 俺は小銀貨を渡しながら言った。
「もしよろしければ半分紫茶テ・ヴィヨレにすることもできますが」
「それは色が紫なのか?」
「はい。味は緑茶テ・ヴェールに近いと言われています。どちらも花びらから作られる茶葉になります」
「なるほど。それなら半分ずつにしてくれ」
「はい」
 俺は五個ずつ用意してもらうとそれを鞄に入れた。
「今さらだが、どのように淹れたらいいんだ?」
「紅茶や緑茶を飲まれたことがあるなら淹れ方はそれほど変わりません。お湯を注いで待つだけです。茶葉の量はお好みで調節してください」
「分かった。ありがとう」
 店を出たら裏路地に入り、そこから異空間の特別室に移動。青茶と紫茶を淹れてみる。
 茶葉の量は紅茶と同じなので、カップ二杯分を出すのにティースプーン二杯、およそ五グラムでやってみる。
 青茶……とにかく青い。紫茶……濃い青紫と呼ぶべきか、青にグレーを混ぜたような色と呼べばいいのか……。飲み物には思えない。青系の飲み物って、向こうが見えるくらい薄い色なら清涼感があっていいけど、何も見えないくらい濃い色だと食欲がなくなるというか。こんなのはヴィレッジ〇ァンガードにだって売ってないだろう。そういう色の飲み物だ。
「味は悪くないんだよな」
 青茶は紅茶、紫茶は緑茶に近い。近いだけで同じじゃないけど、雰囲気は分かる。まあそんな飲み物だ。
「しかし、もう一つ二つ見ておきたいな」
 わざわざ外出してこれだけじゃもったいない。もう少し……ここは薬草か。

「いらっしゃいませ」
「ちょっと見せてもらうよ」
 店員の挨拶に返事をして店内を見る。薬草というよりも……お香?
「これは焚くのか?」
「ええ、虫除けです。暖かくなると虫がよく出ますからね。春の終わりから秋の初めごろまでは必需品ですよ」
「そっちか」
 虫というか蚊だろうな。夏は多いらしいからな。王都あたりは夏でもそこまで暑くなかったけど、さすが南部地域だ。かなり蒸し暑くなるんだろう。夏は熱病による死者が多いとは聞いた。
「お客さんは北からですか?」
「ああ。このあたりは初めてなんだ」
「そうですか。五月から九月あたりはこれを焚いた匂いがあちこちからしますよ。外で仕事をする人はもっと早くから使いますね。虫刺されが原因で亡くなる人が多いんですよ、このあたりでは」
「それは災難だな。俺も気をつけるとしよう。一〇日分くらいもらえるか?」
「はい。お包みします」
 店を出るとまた裏路地に入り、そこからまた特別室に移動する。そしてこの虫除けに火を付ける。独特な香りが広がるが、粉末なのですぐに燃え尽きた。持続時間が短いのがな。
 調べてみると、成分としてはほとんどがハーブだ。匂いとしてはアウトドア用のスプレーで自然由来の成分一〇〇パーセントをうたっているものと同じ匂いだ。ハッカ、ユーカリ、レモングラスを使ったやつだな。もちろんあれと同じではないとは思うけど、レモングラスっぽい匂いがした。
「これは検討の余地があるな」
 蚊のせいで死者が出るのなら、蚊による死者を減らせば領地全体の死者がかなり減るはずだ。だがこんなわずかな時間で散ってしまうのなら効き目が薄いよな。もっと時間を延ばすには……あれしかないか。
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