10 / 278
第一章 第一部
東へ向かう、そして新しい関係
しおりを挟む
門が見えなくなったあたりでリゼッタがリスに戻った。
《人の姿で歩くのもいいですが、ケネスの肩の上が落ち着きますね》
「隣を歩くよりも肩の上にいる方が長かったからね」
今日はロゼッタのくっつき具合が強いな。やっぱりあれが理由かな。
飛んでいる鳥を矢で落としながらしばらく歩く。このあたりはちゃんと道があるし、五日ほどで隣町に着くらしい。歩けば五日、荷馬車なら三日か四日。どこの世界でもそうだけど、荷馬車はそれほど速くもなく、歩くのと同じくらいの速度。道が悪いしね。それでも歩くよりも早く着くのは休憩の回数が少ないおかげ。
太陽の具合から、そろそろお昼かな。そう言えば、呼び方は太陽でいいのかな? 太陽っぽいものとか月っぽいものはある。星もあるけど星座はぜんぜん違う。星座って、教えてもらったら確かにそのように見えるけど、まったく知らない星を見て想像するのは難しいよ。何でも十字に見えるからね。
少し道から外れ、布を広げて準備をしようとしたら、向こうから荷馬車が五台近付いててきた。あれがエーギルさんの言っていた商人かな? 思ったより多い。いっそのこと村にちゃんとした店を作ったらいいのに。そこまで必要じゃないんだろうか。
「盗賊に襲われている商人を助けるというフラグは回避できたかな?」
《変なことを気にしますよね。盗賊くらい簡単に退治できるでしょう? むしろそこから権力者に気に入られて成り上がるのはダメなのですか?》
「そこから色々なトラブルに巻き込まれる展開がありえるかなと」
《ケネスは物語の読みすぎです》
「そう言うリゼッタも詳しいよね」
他愛もない話をしながら飽きるまで歩く。暗くなる前に異空間に戻って休む。あの森を出てからはそれほど危険がないので、昼食は外で食べるようにしている。異空間にいる時間は減ったけど活用は増えている。前にも言った燻製作り。鉄を加工して燻製器を作った。
とにかく肉が多い。マジックバッグのおかげで腐りはしないけど、多すぎても使い道がないので、ベーコンなどの燻製にでもして食事のバリエーションを増やそうかと。
保存食にするならしっかり塩漬けしてから時間をかけて燻す必要があるけど、どうせ作った後はマジックバッグに入れるし、なんちゃって燻製でも実は問題ない。本来の燻製となんちゃって燻製の両方を作っておく。
普通の燻製肉以外にも香辛料や香草などを加えてソーセージやサラミ、チョリソなども作っている。途中から魔獣の血も[殺菌]してブラッドソーセージの材料にしている。実は血を[浄化]したら消えて困ったのはここだけの話だ。
サラミは乾燥熟成に時間がかかるけど、そのあたりは樽に時空間魔法の[時間加速]を付与してサラミ専用の魔道具にした。『熟成樽』と呼んでいる。エーギルさんの酒場にあった保管庫とは逆で、外よりも時間が少し早く進むようになる。危険なので生き物は入らないように設定しておいた。
これが大森林にいる時から続けている異空間での作業。スローライフなんて言う気はないけど、どうせ食べるなら美味しい方がいい。
それにしても、大森林で狩った魔獣が多すぎて解体が終わらない。最初はその日のうちに全部終わらせようと思ったけどいきなり無理で、そのうちどんどん溜まっていった。家に戻った時には解体をしているけど、それでもまだ大量に残っている。燻製もやっているし、空いた時間に少しずつ進める感じ。解体を手伝ってくれる助手でもいないかな。
◆ ◆ ◆
「いずれは王都にも行くとして、とりあえずはユーヴィ市、それから領都のキヴィオ市かな。途中に小さな村やもあるけど、寄りたい?」
《全部に寄る必要はないと思いますよ。小さな村はどこでもあまり変わりませんし。よほどの名物があれば別ですが。その前にどこかの町でギルドに登録した方がいいと思います》
「ギルドってあれ?」
《はい、おそらくそのギルドです。次に通る予定のユーヴィ市はそこそこの町ですので、いくつかギルドがありますよ》
「やはりギルドカードとかあるの?」
《ありますが、おそらくケネス思い浮かべたものとは違うと思いますよ。そのあたりの違いは私よりヘルプさんがずっと詳しいですね》
《Q>ギルドカードってどういう物?》
《A>マスターがイメージしているのは、ステータスとかスキルを記録したカードでしょうが、そんな便利な物はありません。名前、種族、発行した場所などが記入された名刺のようなものです。公的な身分証明になりますね》
《Q>やっぱりステータスとかスキルとかの概念はあるの?》
《A>管理データとしてはあります。マスターは準管理者ですので、いつでも他人のステータスが見れますよ。でも他人に見せることはできません。色々な項目がデータ化・数値化されていますが、あくまで管理者側のデータ管理のためです》
《Q>管理者側のデータ管理って?》
《A>簡単に言うと、メタデータを使った管理方法です。図書館なら書誌情報ですね。人にはそれぞれ【名前】や【種族】だけでなく、【スキル】や【特徴】など、様々なデータがあります。これらは生きている間に自動で付加され更新されます。それを検索すれば、どんな能力を持った人がどこにどれだけいるかを調べることができます』
『Q>何のためにそんなことを?』
《A>例えば、ある惑星で魔法を使える人が減ってきたと分かったとします。そのままでは魔法の技術が失われ、文明が急激に衰退するかもしれません。そこで準管理者に普通の冒険者のふりをさせ、魔法の指導のために派遣します。他の例だと、もしレベルの平均が下がってくれば、効率よく倒せる魔獣や魔物を増やして冒険者のレベルの底上げをします。文明を悪化させないためですね》
そういう意味の管理ね。でも何だろう? さっきから何か違和感が……。
《Q>スキルはどうしたら得られるの?》
《A>何かの技術を使えるようになれば自動的にステータスに現れます。例えば、[料理]がなくても料理はできますし、料理を続けて上達すれば、そのうち勝手に[料理]が現れます。スキルは与えられるものではなく、自分で生やすものです》
《Q>管理者が与えることはないの?》
《A>あることもありますが、与えてもその時点では使えません。使えるようになって初めてアクティブになります。ゲームで言うところの『実績解除』で得た『バッジ』に近い感じですね》
《Q>じゃあステータスとかスキルとかを口に出すのはおかしい?》
《A>そうですね。神官や神学者たちはなんとなく気付いていますが。まあステータスを見ることはできませんので、それで実際どうなるものでもありませんが》
《Q>了解》
《Q>ところで一つ確認があるんだけど》
《A>何ですか?》
《Q>口調がだいぶ変わってない?》
《A>マスターに気に入ってもらうには、仕事モードじゃなくてくだけた方がいいかなと思いまして。嫌ですか?》
《Q>……中の人、キャラが変わり過ぎじゃない?》
「やっぱり思っていたようなギルドカードじゃなかったよ。それで、僕はステータスが見れるらしいけど、リゼッタのも見ていい? 僕のと比べたいんだけど」
《私のをですか? はい、構いませんが》
「ありがとう。ええと……[鑑定]はほんとに検索画面だな」
プルダウンメニューやチェックボックスなどで絞り込む感じ。今は細かなステータスはガガッと非表示で。スキルを中心に、条件を絞って、戦闘用やありふれたものは表示を除外してリゼッタと並べて表示するようにして……はい。
【名前:[ケネス]】
【名前:[リゼッタ]】
間違いなくケネスに名前が変わってるね。
【種族:[エルフ?]】
【種族:[デュオ(人間/リス)]】
[エルフ?]の『?』が気になる。文字化けなのか疑問なのか。リゼッタはデュオって種族らしい。デュオって二つとか二人ってことだったね。
【年齢:[二三]】
【年齢:[一八]】
僕は一〇歳ほど若返ったね。そのままでも良かったのに。リゼッタは五つ下か。管理者の年齢ってどうなってるの? 止まるの?
【スキル:[念話][不老][地図(管理者用)][鑑定(管理者用)]】
【スキル:[委員長(特)][念話][不老][変身]】
[地図]と[鑑定]に(管理者用)って付いてるのか。(管理者用)ってことは普通ではない? 普通の[地図]や[鑑定]と管理者用の[地図]や[鑑定]があるのか、それとも[地図]や[鑑定]は管理者用しかないのか、どちらだろう。今度ヘルプさんに聞くか。[不老]はそのままかな。不死ではないと。
リゼッタの[委員長(特)]がすごい。何があっても委員長って感じで。[変身]はリスになるやつかな。
【特徴:[リゼッタの恋人][カローラのお気に入り]】
【特徴:[ケネスの恋人]】
……これはなあ……誰が付けているわけでもないんだっけ。そうなった時点で勝手に付くってヘルプさんは言ってたはず。隠しちゃだめだよね。
「……」
《何かおかしな情報でも表示されていたのですか?》
「リゼッタの種族は[デュオ]っていうの?」
《あまり種族名を口にすることはありませんが、一応そうです。[デュアル]と言われることもあります》
「僕は若返って二三歳になってた。リゼッタは一八歳だけど、管理者になった時はもっと若かったの?」
《いえ、管理者として生まれ変わると基本的には若い姿に戻って固定されます。ですが管理者になる時に希望は聞いてもらえますので、中にはもっと下がいいとかもっと上がいいとか言う人もいます。私の上司にそのような人がいました。種族はそのままだったと思います》
「スキルに[委員長(特)]っていうのがある」
《よく委員長っぽいと言われましたので、いつの間にかスキルになっていましたか。後ろについているのはランク的なものですね》
「(管理者用)ってのはそのまま?」
「はい、管理者になった時に与えられる力です。普通の人が身に付けることはあり得ません。一般用の[鑑定]もありますが、そちらは物の価値が分かる魔法です」
「リゼッタの特徴に[ケネスの恋人]ってあるけど、大丈夫?」
《! ……そ、それってこの前の、あれ、でしょうか?》
「この前の、あれ、だろうねえ……僕の方にも[リゼッタの恋人]ってあるし」
《……》
「……」
《……》
「ずっと大事にするね」
《こちらこそ、末永くよろしくお願いします》
お見合いか。
ステータスについてはヘルプさんに簡単に説明されてるけど、確認のためにリゼッタにも色々と教えてもらった。
【スキル】は身に付いた技術のことで、【特徴】は【スキル】とまでは言えないけど特徴的なもの。どちらも勝手に付くらしい。管理者が付けているわけではない。管理者が付けたからといって使いこなせるわけでもない。
ゲームとかのスキルって、神様から与えられた瞬間にいきなり強くなるイメージがあったけど、全然そういうのではないらしい。ヘルプさんの説明にあった『実績解放のバッジ』というのが言い得て妙。
もう一度自分のスキルをざっと見たら、剣術(特)、弓術(特)、料理(特)なんかがあった。確かに剣も弓矢も使ってたし料理もしてたけど、なんか強くなったよね。全然それらしい訓練は受けてないのに。
ヘルプさんによれば、僕は魂がドーピングされてるらしいよ。嫌な表現だなあ。ちなみにランクは上から順に(特)(大)(中)(小)(微)となる。(微)でもずぶの素人よりはマシらしい。
それと、【特徴】のところがむず痒い。こちらに来てからリゼッタに向かって可愛い可愛いと言って撫でてたら、いつの間にか自分もその気になってたらしい。成り行きとはいえキスもしたしね。まあ何かが変わるわけではないけど、恋人が肩に乗っているというのは微妙に気恥ずかしいな。
「そうそう、恋人同士だと分かったところで、そろそろリゼッタに言っとこうと思って。人間の姿になってもらえる?」
《分かりました》
カローラさんの手紙に書いてあったことね。
「思い出すのは嫌かもしれないけど、この世界に来ることになった件ね」
「いえ、もう吹っ切れましたので大丈夫です」
「カローラさんは僕に、リゼッタを話し相手として使ってくださいと言ってたでしょ?」
「はい。案内よりも、むしろ話し相手をするようにと言われました」
「実はカローラさんからの手紙がマジックバッグにあって、そこに書いてあったんだけど」
「はい」
真剣な表情のリゼッタに、カローラさんの手紙に書いてあったことを掻い摘んで説明した。
「『過小評価しがちで自分を抑えがちなリゼッタを、できるだけ褒めて構って愛でて撫でてください』って。『実はこれは仕事ではなく休暇を与えていることになっているので、できる限り息抜きをさせてあげてください』って。『このことは、どこかのタイミングで本人に教えてあげてください』って」
「ケネス……」
一瞬悲しそうな顔をした。『ひょっとしてあれは頼まれたからそうしてただけなのかな?』って思ったのかな? 違うからね。最後まで聞いてよね。
「リゼッタのことを可愛いと言ってたのはもちろん本心からだよ。口に出したきっかけは手紙かもしれないけどね。でもそう思い始めたらどんどん好きになってたんだよね。いつからかだったかは覚えてないけど」
「最初はやたらと構ってくる人だなと思っていて、そこからそれが気にならなくなっていって、それでなんというか、あの、私も気が付いたら好きになっていました」
「そう言えば、最近肩に乗ってる時、耳にキスしてくることが多いよね」
「! 気付いていたのですか?」
「そりゃもちろん、見えてないけど感触が違うしね」
「~~~~~」
リゼッタと恋人同士になった事が、まさかのステータスチェックによって判明。その日は家に戻ってからずっとリゼッタが離れなかったので、次の朝まで一緒だった。まあそういうことがあったということだ。次の朝に真っ赤になった彼女の顔を見たら部屋から出るのがさらに遅くなってしまった。これは僕が悪い。
だからといって家に籠もって一日中するってことがないのは、元が三〇を越えていたからか、魂と肉体がが変わったからか。リゼッタの方は根が真面目だから、昼間っからというのは抵抗があるみたなので、お互いいい感じでやれていると思う。
恋人同士になってから数日はそういう風に過ぎて行った。
《人の姿で歩くのもいいですが、ケネスの肩の上が落ち着きますね》
「隣を歩くよりも肩の上にいる方が長かったからね」
今日はロゼッタのくっつき具合が強いな。やっぱりあれが理由かな。
飛んでいる鳥を矢で落としながらしばらく歩く。このあたりはちゃんと道があるし、五日ほどで隣町に着くらしい。歩けば五日、荷馬車なら三日か四日。どこの世界でもそうだけど、荷馬車はそれほど速くもなく、歩くのと同じくらいの速度。道が悪いしね。それでも歩くよりも早く着くのは休憩の回数が少ないおかげ。
太陽の具合から、そろそろお昼かな。そう言えば、呼び方は太陽でいいのかな? 太陽っぽいものとか月っぽいものはある。星もあるけど星座はぜんぜん違う。星座って、教えてもらったら確かにそのように見えるけど、まったく知らない星を見て想像するのは難しいよ。何でも十字に見えるからね。
少し道から外れ、布を広げて準備をしようとしたら、向こうから荷馬車が五台近付いててきた。あれがエーギルさんの言っていた商人かな? 思ったより多い。いっそのこと村にちゃんとした店を作ったらいいのに。そこまで必要じゃないんだろうか。
「盗賊に襲われている商人を助けるというフラグは回避できたかな?」
《変なことを気にしますよね。盗賊くらい簡単に退治できるでしょう? むしろそこから権力者に気に入られて成り上がるのはダメなのですか?》
「そこから色々なトラブルに巻き込まれる展開がありえるかなと」
《ケネスは物語の読みすぎです》
「そう言うリゼッタも詳しいよね」
他愛もない話をしながら飽きるまで歩く。暗くなる前に異空間に戻って休む。あの森を出てからはそれほど危険がないので、昼食は外で食べるようにしている。異空間にいる時間は減ったけど活用は増えている。前にも言った燻製作り。鉄を加工して燻製器を作った。
とにかく肉が多い。マジックバッグのおかげで腐りはしないけど、多すぎても使い道がないので、ベーコンなどの燻製にでもして食事のバリエーションを増やそうかと。
保存食にするならしっかり塩漬けしてから時間をかけて燻す必要があるけど、どうせ作った後はマジックバッグに入れるし、なんちゃって燻製でも実は問題ない。本来の燻製となんちゃって燻製の両方を作っておく。
普通の燻製肉以外にも香辛料や香草などを加えてソーセージやサラミ、チョリソなども作っている。途中から魔獣の血も[殺菌]してブラッドソーセージの材料にしている。実は血を[浄化]したら消えて困ったのはここだけの話だ。
サラミは乾燥熟成に時間がかかるけど、そのあたりは樽に時空間魔法の[時間加速]を付与してサラミ専用の魔道具にした。『熟成樽』と呼んでいる。エーギルさんの酒場にあった保管庫とは逆で、外よりも時間が少し早く進むようになる。危険なので生き物は入らないように設定しておいた。
これが大森林にいる時から続けている異空間での作業。スローライフなんて言う気はないけど、どうせ食べるなら美味しい方がいい。
それにしても、大森林で狩った魔獣が多すぎて解体が終わらない。最初はその日のうちに全部終わらせようと思ったけどいきなり無理で、そのうちどんどん溜まっていった。家に戻った時には解体をしているけど、それでもまだ大量に残っている。燻製もやっているし、空いた時間に少しずつ進める感じ。解体を手伝ってくれる助手でもいないかな。
◆ ◆ ◆
「いずれは王都にも行くとして、とりあえずはユーヴィ市、それから領都のキヴィオ市かな。途中に小さな村やもあるけど、寄りたい?」
《全部に寄る必要はないと思いますよ。小さな村はどこでもあまり変わりませんし。よほどの名物があれば別ですが。その前にどこかの町でギルドに登録した方がいいと思います》
「ギルドってあれ?」
《はい、おそらくそのギルドです。次に通る予定のユーヴィ市はそこそこの町ですので、いくつかギルドがありますよ》
「やはりギルドカードとかあるの?」
《ありますが、おそらくケネス思い浮かべたものとは違うと思いますよ。そのあたりの違いは私よりヘルプさんがずっと詳しいですね》
《Q>ギルドカードってどういう物?》
《A>マスターがイメージしているのは、ステータスとかスキルを記録したカードでしょうが、そんな便利な物はありません。名前、種族、発行した場所などが記入された名刺のようなものです。公的な身分証明になりますね》
《Q>やっぱりステータスとかスキルとかの概念はあるの?》
《A>管理データとしてはあります。マスターは準管理者ですので、いつでも他人のステータスが見れますよ。でも他人に見せることはできません。色々な項目がデータ化・数値化されていますが、あくまで管理者側のデータ管理のためです》
《Q>管理者側のデータ管理って?》
《A>簡単に言うと、メタデータを使った管理方法です。図書館なら書誌情報ですね。人にはそれぞれ【名前】や【種族】だけでなく、【スキル】や【特徴】など、様々なデータがあります。これらは生きている間に自動で付加され更新されます。それを検索すれば、どんな能力を持った人がどこにどれだけいるかを調べることができます』
『Q>何のためにそんなことを?』
《A>例えば、ある惑星で魔法を使える人が減ってきたと分かったとします。そのままでは魔法の技術が失われ、文明が急激に衰退するかもしれません。そこで準管理者に普通の冒険者のふりをさせ、魔法の指導のために派遣します。他の例だと、もしレベルの平均が下がってくれば、効率よく倒せる魔獣や魔物を増やして冒険者のレベルの底上げをします。文明を悪化させないためですね》
そういう意味の管理ね。でも何だろう? さっきから何か違和感が……。
《Q>スキルはどうしたら得られるの?》
《A>何かの技術を使えるようになれば自動的にステータスに現れます。例えば、[料理]がなくても料理はできますし、料理を続けて上達すれば、そのうち勝手に[料理]が現れます。スキルは与えられるものではなく、自分で生やすものです》
《Q>管理者が与えることはないの?》
《A>あることもありますが、与えてもその時点では使えません。使えるようになって初めてアクティブになります。ゲームで言うところの『実績解除』で得た『バッジ』に近い感じですね》
《Q>じゃあステータスとかスキルとかを口に出すのはおかしい?》
《A>そうですね。神官や神学者たちはなんとなく気付いていますが。まあステータスを見ることはできませんので、それで実際どうなるものでもありませんが》
《Q>了解》
《Q>ところで一つ確認があるんだけど》
《A>何ですか?》
《Q>口調がだいぶ変わってない?》
《A>マスターに気に入ってもらうには、仕事モードじゃなくてくだけた方がいいかなと思いまして。嫌ですか?》
《Q>……中の人、キャラが変わり過ぎじゃない?》
「やっぱり思っていたようなギルドカードじゃなかったよ。それで、僕はステータスが見れるらしいけど、リゼッタのも見ていい? 僕のと比べたいんだけど」
《私のをですか? はい、構いませんが》
「ありがとう。ええと……[鑑定]はほんとに検索画面だな」
プルダウンメニューやチェックボックスなどで絞り込む感じ。今は細かなステータスはガガッと非表示で。スキルを中心に、条件を絞って、戦闘用やありふれたものは表示を除外してリゼッタと並べて表示するようにして……はい。
【名前:[ケネス]】
【名前:[リゼッタ]】
間違いなくケネスに名前が変わってるね。
【種族:[エルフ?]】
【種族:[デュオ(人間/リス)]】
[エルフ?]の『?』が気になる。文字化けなのか疑問なのか。リゼッタはデュオって種族らしい。デュオって二つとか二人ってことだったね。
【年齢:[二三]】
【年齢:[一八]】
僕は一〇歳ほど若返ったね。そのままでも良かったのに。リゼッタは五つ下か。管理者の年齢ってどうなってるの? 止まるの?
【スキル:[念話][不老][地図(管理者用)][鑑定(管理者用)]】
【スキル:[委員長(特)][念話][不老][変身]】
[地図]と[鑑定]に(管理者用)って付いてるのか。(管理者用)ってことは普通ではない? 普通の[地図]や[鑑定]と管理者用の[地図]や[鑑定]があるのか、それとも[地図]や[鑑定]は管理者用しかないのか、どちらだろう。今度ヘルプさんに聞くか。[不老]はそのままかな。不死ではないと。
リゼッタの[委員長(特)]がすごい。何があっても委員長って感じで。[変身]はリスになるやつかな。
【特徴:[リゼッタの恋人][カローラのお気に入り]】
【特徴:[ケネスの恋人]】
……これはなあ……誰が付けているわけでもないんだっけ。そうなった時点で勝手に付くってヘルプさんは言ってたはず。隠しちゃだめだよね。
「……」
《何かおかしな情報でも表示されていたのですか?》
「リゼッタの種族は[デュオ]っていうの?」
《あまり種族名を口にすることはありませんが、一応そうです。[デュアル]と言われることもあります》
「僕は若返って二三歳になってた。リゼッタは一八歳だけど、管理者になった時はもっと若かったの?」
《いえ、管理者として生まれ変わると基本的には若い姿に戻って固定されます。ですが管理者になる時に希望は聞いてもらえますので、中にはもっと下がいいとかもっと上がいいとか言う人もいます。私の上司にそのような人がいました。種族はそのままだったと思います》
「スキルに[委員長(特)]っていうのがある」
《よく委員長っぽいと言われましたので、いつの間にかスキルになっていましたか。後ろについているのはランク的なものですね》
「(管理者用)ってのはそのまま?」
「はい、管理者になった時に与えられる力です。普通の人が身に付けることはあり得ません。一般用の[鑑定]もありますが、そちらは物の価値が分かる魔法です」
「リゼッタの特徴に[ケネスの恋人]ってあるけど、大丈夫?」
《! ……そ、それってこの前の、あれ、でしょうか?》
「この前の、あれ、だろうねえ……僕の方にも[リゼッタの恋人]ってあるし」
《……》
「……」
《……》
「ずっと大事にするね」
《こちらこそ、末永くよろしくお願いします》
お見合いか。
ステータスについてはヘルプさんに簡単に説明されてるけど、確認のためにリゼッタにも色々と教えてもらった。
【スキル】は身に付いた技術のことで、【特徴】は【スキル】とまでは言えないけど特徴的なもの。どちらも勝手に付くらしい。管理者が付けているわけではない。管理者が付けたからといって使いこなせるわけでもない。
ゲームとかのスキルって、神様から与えられた瞬間にいきなり強くなるイメージがあったけど、全然そういうのではないらしい。ヘルプさんの説明にあった『実績解放のバッジ』というのが言い得て妙。
もう一度自分のスキルをざっと見たら、剣術(特)、弓術(特)、料理(特)なんかがあった。確かに剣も弓矢も使ってたし料理もしてたけど、なんか強くなったよね。全然それらしい訓練は受けてないのに。
ヘルプさんによれば、僕は魂がドーピングされてるらしいよ。嫌な表現だなあ。ちなみにランクは上から順に(特)(大)(中)(小)(微)となる。(微)でもずぶの素人よりはマシらしい。
それと、【特徴】のところがむず痒い。こちらに来てからリゼッタに向かって可愛い可愛いと言って撫でてたら、いつの間にか自分もその気になってたらしい。成り行きとはいえキスもしたしね。まあ何かが変わるわけではないけど、恋人が肩に乗っているというのは微妙に気恥ずかしいな。
「そうそう、恋人同士だと分かったところで、そろそろリゼッタに言っとこうと思って。人間の姿になってもらえる?」
《分かりました》
カローラさんの手紙に書いてあったことね。
「思い出すのは嫌かもしれないけど、この世界に来ることになった件ね」
「いえ、もう吹っ切れましたので大丈夫です」
「カローラさんは僕に、リゼッタを話し相手として使ってくださいと言ってたでしょ?」
「はい。案内よりも、むしろ話し相手をするようにと言われました」
「実はカローラさんからの手紙がマジックバッグにあって、そこに書いてあったんだけど」
「はい」
真剣な表情のリゼッタに、カローラさんの手紙に書いてあったことを掻い摘んで説明した。
「『過小評価しがちで自分を抑えがちなリゼッタを、できるだけ褒めて構って愛でて撫でてください』って。『実はこれは仕事ではなく休暇を与えていることになっているので、できる限り息抜きをさせてあげてください』って。『このことは、どこかのタイミングで本人に教えてあげてください』って」
「ケネス……」
一瞬悲しそうな顔をした。『ひょっとしてあれは頼まれたからそうしてただけなのかな?』って思ったのかな? 違うからね。最後まで聞いてよね。
「リゼッタのことを可愛いと言ってたのはもちろん本心からだよ。口に出したきっかけは手紙かもしれないけどね。でもそう思い始めたらどんどん好きになってたんだよね。いつからかだったかは覚えてないけど」
「最初はやたらと構ってくる人だなと思っていて、そこからそれが気にならなくなっていって、それでなんというか、あの、私も気が付いたら好きになっていました」
「そう言えば、最近肩に乗ってる時、耳にキスしてくることが多いよね」
「! 気付いていたのですか?」
「そりゃもちろん、見えてないけど感触が違うしね」
「~~~~~」
リゼッタと恋人同士になった事が、まさかのステータスチェックによって判明。その日は家に戻ってからずっとリゼッタが離れなかったので、次の朝まで一緒だった。まあそういうことがあったということだ。次の朝に真っ赤になった彼女の顔を見たら部屋から出るのがさらに遅くなってしまった。これは僕が悪い。
だからといって家に籠もって一日中するってことがないのは、元が三〇を越えていたからか、魂と肉体がが変わったからか。リゼッタの方は根が真面目だから、昼間っからというのは抵抗があるみたなので、お互いいい感じでやれていると思う。
恋人同士になってから数日はそういう風に過ぎて行った。
2
あなたにおすすめの小説
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる