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第一章 第一部
初めての町と冒険者ギルド、そして初依頼
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向こうに見えてきたのがユーヴィ市か。ナルヴァ村よりも明らかに大きい。元々ここが一番西だったけど、もっと西に大規模な穀倉地帯にできそうな場所があったので勝手に人が集まって開拓した場所、それがナルヴァ村。確かに土は良かった。野菜も美味しかったし。
城門の前には少し列ができている。列の最後に並んでしばらく待つ。僕らの順番になるまでそれほど時間はかからなかった。
「二人とも、身分証はあるか?」
「いえ、持っていません」
「それならそこの小屋で手続きするから来てくれ。ちなみに金はあるか? 一人一〇フローリンだ」
「大丈夫です」
城門のすぐ横には小さな小屋というか東屋。名前と種族を書いてお金を渡す。書類に担当した衛兵が自分の名前と日付を書く。
この世界にはデュオという種族はいないらしいので、リゼッタは人間として登録することになった。お金を払って仮許可証を発行してもらった。
「よし、これで手続は終わりだ。この城壁の中ではこれが身分証になる。期限は一か月。その間にどこかのギルドに登録すれば、すでに払った一〇フローリンはギルドの登録料から差し引かれる。これはどのキルドでも同じだ。仮許可証は一度町を出れば無効になるから注意してくれ」
ガイドがいるとは言え、この世界の常識が僕の思っている事と違う場合もあるかもしれない。もちろん話はきちんと聞く。
「一度どこかのギルドで登録すれば、次からはギルド証が身分証になる。町に入るには毎回手続きは必要だが、ギルド証を見せれば無料になる。冒険者ギルドなら町の中央よりやや西寄りだ。中央通りを歩いていけば左に見えるぞ」
「分かりました。ありがとうございました」
このあたりはファンタジーでよく聞く話だな。
「あれは入市税ってやつだよね。この国の税金ってどういう感じ?」
「あまり厳しくありませんね。ヘルプさんの説明でエトヴィンという名前が出たと言っていましたよね。この惑星に転生して商人になり、無駄な税はできる限りなくすべきだと主張しました。結果としてこの国の経済はかなり活性化しました」
「フローリンを持ち込んだ人だよね?」
そんなエトヴィンさんの話をしているうちに冒険者ギルドに着いた。目の前には白い壁のきれいな建物。これが冒険者ギルド? 何か違和感がある。
「ものすごく綺麗な建物だね」
「公的機関ですから、当然中も綺麗ですよ」
「入った途端に新入りに対する洗礼があったりとかしないの? 『よう新入り、可愛い子を連れてるじゃねえか、その子を置いてとっとと帰れ、ぎゃっはっは』とか」
「ここは冒険者の派遣会社のようなものです。そんな中で暴れたらどうなると思いますか?」
「そりゃそうだね」
「それに、もし何かが起きても守ってくれますよね?」
「そりゃもちろん。可愛い恋人ですから」
リゼッタが照れた。
中に入ると、そこに見えたのは役所のようなカウンター。受付に座っているのは三人。こちらから見て左が人間の女性、中央が牛耳の女性、右がむさ苦しいおっさん。牛耳のお姉さんがこっちを凝視している。ちょっと怖いので空いてるおっさんの席へ向かう。
「……ようこそ冒険者ギルドへ。真っ先に俺の方に来るやつは滅多にいねえんだが、変わってんな、お前ら」
「登録するだけなら相手が誰でも同じじゃないですか」
「くくっ、誰でも同じなら話す相手は美人の方がいいと普通は思うがな」
受付のおっさんは苦笑しながら相手をしてくれた。
「まあそんな可愛い子を連れてりゃ、他の女には興味が出ねえのかもな。まあそれは置いといて、二人とも仮許可証はあるか?」
「「はい」」
「登録料はそれぞれ一〇フローリンずつ差し引いて、二人で八〇フローリンだ。じゃあこの仮許可証はこちらで回収するぞ」
「お願いします」
「エルフのケネスと人間のリゼッタな。少し待ってくれ。すぐにカードを用意するから」
そう言ったおっさんは、後ろの机の中からカードを取り出した。そこに僕の名前と種族を書き、裏返すと今日の日付、そして一番下ににユーヴィ市冒険者ギルド・ギルド長ルボルと書き込んだ。
「ギルド長でしたか」
「普段はここには座らねえんだがな、今日は人が足りなくてな。俺が座っても誰も近寄らねえが、席を埋めるくらいにはなる」
そう言いながらリゼッタのカードにも同じように書き込んだ。そして二枚のカードに何かを塗って軽く振った。
「何を塗ったんですか?」
「最近使われるようになったんだが、特定のスライムの死体と何かの薬品を混ぜて、何かの処理をしたものらしい。俺も詳しくは知らん。錬金術師ギルドに行けば詳しいことが分かると思うぞ。まあそれを薄く塗ると、表面が固まって字が消えねえんだ。カードも傷みにくくなるしな」
「それで早く乾かすために振ったんですね」
「ああ」
ラミネート加工みたいなものだった。紙にインクだけではすぐにボロボロになるだろうしね。
「ギルドの決まりは色々あるが、細かいことを言っても誰も覚えねえから、その壁のところに大事なことだけ書いてある。二人とも、必ず読んでくれ。それと、できれば町にいる間に依頼を受けてくれ。特にさいしゅけいは助かる。向こうの壁に依頼票が貼ってあるから」
「分かりました。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
とりあえずギルドの決まりが書いてあるという壁を見る。
一つ、ギルドの建物内で争わない。
一つ、ギルド員同士で争わない。
一つ、他のギルドと争わない。
一つ、依頼はきちんと終わらせる。
一つ、依頼の終了後に文句を言わない。
「「……」」
思わずルボルさんの方を見てしまった。
「さっきも言ったが、冒険者なんて細かいことを言っても誰も覚えねえからな。それくらいでいいんだよ。それすら守れねえヤツは町から放り出す」
「それもそうですね」
では依頼を見てみますか。
「受ける受けないはともかく、一度依頼票を見ておこうか」
「はい」
依頼票は木の板にピンで留められている。これを取ってカウンターに持っていけば手続きをしてくれる。依頼の内容によって大まかに分けてあるようだ。
こっちは労働系。大工仕事の手伝いとか配達とか。特に技術がなくても身一つでなんとかなるものばかり。基本的には町の中での仕事だね。
このあたりは採取系。薬草とか野草とか。薬などの材料が多いのかな。この依頼は町の外へ出なければならないし、それに必ず見つけられるとは限らないからハードルが上がる。森で木を切ってくるのもここにある。採取というか伐採か。
それで一番端が魔獣や野獣など素材系。毛皮や牙などが多いのか。肉の依頼はあまりないけど、まあ普通は腐るよね。冒険者でマジックバッグを持っている人がどれくらいいるのか分からないけど。
こうやって見ると、鉱物系の依頼がないな。ありふれているとか?
「リゼッタ、鉱物は採取としてはメジャーじゃないの?」
「鉱物なんてツルハシで適当に掘って出てくるものではありません。金なんて金鉱で一トン掘り出しても一グラムあればいい方ですし、目で見て判別できるものでもありません。鉱山で働く労働者は別にいますので、冒険者が採掘に手を出すのはやめた方がいいですよ。金なら川で砂金を探す方がよっぽど楽です」
なるほど。
「素材の依頼が多いのかな。手持ちの物が使えれば、今日はそれでもいいかな」
「難しい依頼を受ける必要もありませんし、別にノルマもありませんしね」
「じゃあこれにしよう」
依頼票を一枚取ってルボルさんのところへ持っていく。
「ルボルさん」
「おう、受けてくれるのか?」
「はい、これなんですが、実はすでに手持ちにありまして」
「これがあるのか……じゃあ受付と完了とまとめて済ますか」
「「お願いします」」
「で、どれだけ出せる?」
「できる限り多くとしか書かれていないので、どれだけ必要なのかと思いまして」
「その口ぶりだといくらでも出てきそうだな。正直いくらあってもいいんだ。領主からの依頼だからな。できれば二〇から三〇くらいは欲しいな」
「ではとりあえず五〇出しましょうか」
「おう、じゃあそこに少しずつ出してくれるか?」
そう言うとルボルさんは自分の受付の横、『引き渡し』と書かれた、少しカウンターが広くなった窓口を指差した。
「いや、首を落としてそのままマジックバッグに入れていますので、血で汚れますよ」
「頭ごとかよ! ちょっと待て。横のドアから裏へ回ってくれ」
◆ ◆ ◆
依頼票の内容は『ホーンラビットの角』。あの角は金属鎧も軽々と貫通するので、武器として、主に槍の穂先に使うそうだ。実は角だけ切り離すのが面倒だったので、落とした頭ごとマジックバッグに入れていた。血で汚れるというのはその話。普通は荷物を減らすために角だけ切り落とすからね。
裏へ回ると部屋の一つへと案内された。大きなタライのような桶を二つ用意してくれた。
「よし、じゃあこの中に頼む」
「はい」
角を持って次々と放り込む。頭の一つ一つが直径二〇センチはあって、一段では入り切らなかったので上にも積む。その桶が二つ。
二つに割った雲丹の断面を下にして並べたと思ってほしい。控えめに言っても気持ち悪い。ルボルさんもなんとも言えない顔をしていた。
「これだけ一度に見たのは初めてだな」
「僕たちも初めてですよ。狩ったらすぐに収納していましたし、ね、リゼッタ」
「そうですね。これだけまとめて見ると気が滅入りますね」
「まあマジックバッグを持ってればそうだよな。しかもまだあるんだろ? そもそも冒険者登録もしてなかったのに、これだけどこで狩ったんだ? 言いたくなければいいんだが」
「西の大森林です。あそこを通って来たので」
「あっちか! あそこを抜けた話なんて初めて聞いたが、それならこれくらいは出てくるわな」
「五分に一度くらい、何かしらの魔獣が出てきましたね。兎の他には猪とか熊とか蛇とか。さすがにうんざりしましたね」
「俺も若い頃は冒険者としてあの森に入ったこともあったが、あの蛇がな……あれはトラウマになるわ」
やっぱりか。
「あの時は僧侶が噛まれてな。命は助かったが、あれがきっかけで冒険者をやめて王都に行ったはずだ」
兎の頭を五〇個、全部で五〇〇〇フローリン。一つが一〇〇フローリンなので、高いのか安いのかは分からないけど、これで当面の資金はできた。今のところ角は持っていても使い道がないからね。兎は肉と毛皮だけで十分。
「無理は言えねえが、他に売ってもいいものがあったら売ってくれ。やはり大都市ほど人が来なくてな」
「分かりました。すぐにここを発つつもりもありませんので、また来ます」
「ああ、頼む」
「あ、そうだ、近くにいい宿屋はありませんか? 食事が美味しいところがいいんですが」
「あるぞ。ここを右へ出て少し歩くと、右方向に北広場が見える。その広場の向こう側、東側だな、そこに門前宿がある。屋根まで白い建物で、名前は『白い宿木亭』だ。見た目で分かる。少し高いが綺麗だし、料理の評判もいいぞ」
「ありがとうございます。一度覗いてみます」
お勧めの宿屋の情報も聞けたのでギルドを出ることにした。妙に視線が突き刺さる気がしたけど、恨みを持たれる覚えはないよ?
◆ ◆ ◆
僕とリゼッタはお礼を言ってギルドを出た。通りを眺めながら宿屋を目指す。午後のそれほど遅くない時間、買い物をしている人もちらほらいる。
北門近くの広場では朝市が開かれているらしいけど、食材などの露店は、多くが昼前には売り切って撤収するらしい。もちろんその後にやって来て夕方まで開ける露店もあるらしいけど。
「まだまだ露店は多いね」
「そうですね。この時間は食材は少ないみたいですが、装飾品などは多いようですね」
「西門以外は朝市があるそうだから、明日から順番に回ろうか。リゼッタに似合いそうなアクセサリーがあったら贈るね」
「ありがとうございます」
可愛い。そこまで嬉しそうにされると探し甲斐がある。
白い屋根と壁の宿屋が見えてきた。他にも宿屋はあったけど、確かに綺麗な外観は少し高そう。白い屋根はほとんどないのですごく目立つ。材質は何だろう? 漆喰? 屋根に漆喰はないかな。
看板には『白い宿木亭』と書いてある。評判はいいとルボルさんも言っていたので迷わずに入ろう。
「いらっしゃいませ」
受付はできる感じのお姉さん。お辞儀がものすごくきれい。
「冒険者ギルドのルボルさんから聞いてきました。部屋はありますか?」
「二人部屋でよろしいでしょうか?」
「「はい」」
「朝食付きで一泊二〇〇フローリンです。朝食はこの奥にある食堂です。夜まで開いていますが、朝食以外は別料金になります。何泊されますか?」
「しばらくいるだろうから、とりあえず五泊にしようか、リゼッタ?」
「はい。必要があれば延長すればいいと思います」
「では五泊でお願いします。延長もできますよね」
「はい、もちろんできますよ」
「紹介者ありということで、朝食に一皿おつけします」
「ありがとうございます」
一〇〇〇フローリンを払って鍵を受け取った。部屋は最上階、四階の一番端。眺めのいい部屋にしてくれたのかな?
「高いだけあっていい部屋ですね」
「ナルヴァ村と二桁ちがうからね。眺めもいいなあ」
ユーヴィ市の領主はキヴィオ子爵で、この町は代官が治めている。代官の屋敷やギルド、教会、軍関係の施設などは町の中央に近く、平民の家は城壁に近い。東西南北の城門の近くには広場や宿屋、商店などがあり、広場の一角では朝市も開かれる。
公的な施設を除けば、町中の建物の多くはそれほど高くはない。この町は市を名乗っている中では小さい方。領地の端に近いしね。
大きな建物は少ないけど、宿屋は多くの客を泊めるため三階建てや四階建ても珍しくはない。この『白い宿木亭』もその一つで、このあたりでは高級宿。
ここは眺めが一番いい最上階。もっとも窓から町の外を見ても山か森しか見えない。でも逆に、ああ異世界に来たのか、という気分にしてくれる。
リゼッタの頭を撫でながら、窓の外を眺めていた。
城門の前には少し列ができている。列の最後に並んでしばらく待つ。僕らの順番になるまでそれほど時間はかからなかった。
「二人とも、身分証はあるか?」
「いえ、持っていません」
「それならそこの小屋で手続きするから来てくれ。ちなみに金はあるか? 一人一〇フローリンだ」
「大丈夫です」
城門のすぐ横には小さな小屋というか東屋。名前と種族を書いてお金を渡す。書類に担当した衛兵が自分の名前と日付を書く。
この世界にはデュオという種族はいないらしいので、リゼッタは人間として登録することになった。お金を払って仮許可証を発行してもらった。
「よし、これで手続は終わりだ。この城壁の中ではこれが身分証になる。期限は一か月。その間にどこかのギルドに登録すれば、すでに払った一〇フローリンはギルドの登録料から差し引かれる。これはどのキルドでも同じだ。仮許可証は一度町を出れば無効になるから注意してくれ」
ガイドがいるとは言え、この世界の常識が僕の思っている事と違う場合もあるかもしれない。もちろん話はきちんと聞く。
「一度どこかのギルドで登録すれば、次からはギルド証が身分証になる。町に入るには毎回手続きは必要だが、ギルド証を見せれば無料になる。冒険者ギルドなら町の中央よりやや西寄りだ。中央通りを歩いていけば左に見えるぞ」
「分かりました。ありがとうございました」
このあたりはファンタジーでよく聞く話だな。
「あれは入市税ってやつだよね。この国の税金ってどういう感じ?」
「あまり厳しくありませんね。ヘルプさんの説明でエトヴィンという名前が出たと言っていましたよね。この惑星に転生して商人になり、無駄な税はできる限りなくすべきだと主張しました。結果としてこの国の経済はかなり活性化しました」
「フローリンを持ち込んだ人だよね?」
そんなエトヴィンさんの話をしているうちに冒険者ギルドに着いた。目の前には白い壁のきれいな建物。これが冒険者ギルド? 何か違和感がある。
「ものすごく綺麗な建物だね」
「公的機関ですから、当然中も綺麗ですよ」
「入った途端に新入りに対する洗礼があったりとかしないの? 『よう新入り、可愛い子を連れてるじゃねえか、その子を置いてとっとと帰れ、ぎゃっはっは』とか」
「ここは冒険者の派遣会社のようなものです。そんな中で暴れたらどうなると思いますか?」
「そりゃそうだね」
「それに、もし何かが起きても守ってくれますよね?」
「そりゃもちろん。可愛い恋人ですから」
リゼッタが照れた。
中に入ると、そこに見えたのは役所のようなカウンター。受付に座っているのは三人。こちらから見て左が人間の女性、中央が牛耳の女性、右がむさ苦しいおっさん。牛耳のお姉さんがこっちを凝視している。ちょっと怖いので空いてるおっさんの席へ向かう。
「……ようこそ冒険者ギルドへ。真っ先に俺の方に来るやつは滅多にいねえんだが、変わってんな、お前ら」
「登録するだけなら相手が誰でも同じじゃないですか」
「くくっ、誰でも同じなら話す相手は美人の方がいいと普通は思うがな」
受付のおっさんは苦笑しながら相手をしてくれた。
「まあそんな可愛い子を連れてりゃ、他の女には興味が出ねえのかもな。まあそれは置いといて、二人とも仮許可証はあるか?」
「「はい」」
「登録料はそれぞれ一〇フローリンずつ差し引いて、二人で八〇フローリンだ。じゃあこの仮許可証はこちらで回収するぞ」
「お願いします」
「エルフのケネスと人間のリゼッタな。少し待ってくれ。すぐにカードを用意するから」
そう言ったおっさんは、後ろの机の中からカードを取り出した。そこに僕の名前と種族を書き、裏返すと今日の日付、そして一番下ににユーヴィ市冒険者ギルド・ギルド長ルボルと書き込んだ。
「ギルド長でしたか」
「普段はここには座らねえんだがな、今日は人が足りなくてな。俺が座っても誰も近寄らねえが、席を埋めるくらいにはなる」
そう言いながらリゼッタのカードにも同じように書き込んだ。そして二枚のカードに何かを塗って軽く振った。
「何を塗ったんですか?」
「最近使われるようになったんだが、特定のスライムの死体と何かの薬品を混ぜて、何かの処理をしたものらしい。俺も詳しくは知らん。錬金術師ギルドに行けば詳しいことが分かると思うぞ。まあそれを薄く塗ると、表面が固まって字が消えねえんだ。カードも傷みにくくなるしな」
「それで早く乾かすために振ったんですね」
「ああ」
ラミネート加工みたいなものだった。紙にインクだけではすぐにボロボロになるだろうしね。
「ギルドの決まりは色々あるが、細かいことを言っても誰も覚えねえから、その壁のところに大事なことだけ書いてある。二人とも、必ず読んでくれ。それと、できれば町にいる間に依頼を受けてくれ。特にさいしゅけいは助かる。向こうの壁に依頼票が貼ってあるから」
「分かりました。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
とりあえずギルドの決まりが書いてあるという壁を見る。
一つ、ギルドの建物内で争わない。
一つ、ギルド員同士で争わない。
一つ、他のギルドと争わない。
一つ、依頼はきちんと終わらせる。
一つ、依頼の終了後に文句を言わない。
「「……」」
思わずルボルさんの方を見てしまった。
「さっきも言ったが、冒険者なんて細かいことを言っても誰も覚えねえからな。それくらいでいいんだよ。それすら守れねえヤツは町から放り出す」
「それもそうですね」
では依頼を見てみますか。
「受ける受けないはともかく、一度依頼票を見ておこうか」
「はい」
依頼票は木の板にピンで留められている。これを取ってカウンターに持っていけば手続きをしてくれる。依頼の内容によって大まかに分けてあるようだ。
こっちは労働系。大工仕事の手伝いとか配達とか。特に技術がなくても身一つでなんとかなるものばかり。基本的には町の中での仕事だね。
このあたりは採取系。薬草とか野草とか。薬などの材料が多いのかな。この依頼は町の外へ出なければならないし、それに必ず見つけられるとは限らないからハードルが上がる。森で木を切ってくるのもここにある。採取というか伐採か。
それで一番端が魔獣や野獣など素材系。毛皮や牙などが多いのか。肉の依頼はあまりないけど、まあ普通は腐るよね。冒険者でマジックバッグを持っている人がどれくらいいるのか分からないけど。
こうやって見ると、鉱物系の依頼がないな。ありふれているとか?
「リゼッタ、鉱物は採取としてはメジャーじゃないの?」
「鉱物なんてツルハシで適当に掘って出てくるものではありません。金なんて金鉱で一トン掘り出しても一グラムあればいい方ですし、目で見て判別できるものでもありません。鉱山で働く労働者は別にいますので、冒険者が採掘に手を出すのはやめた方がいいですよ。金なら川で砂金を探す方がよっぽど楽です」
なるほど。
「素材の依頼が多いのかな。手持ちの物が使えれば、今日はそれでもいいかな」
「難しい依頼を受ける必要もありませんし、別にノルマもありませんしね」
「じゃあこれにしよう」
依頼票を一枚取ってルボルさんのところへ持っていく。
「ルボルさん」
「おう、受けてくれるのか?」
「はい、これなんですが、実はすでに手持ちにありまして」
「これがあるのか……じゃあ受付と完了とまとめて済ますか」
「「お願いします」」
「で、どれだけ出せる?」
「できる限り多くとしか書かれていないので、どれだけ必要なのかと思いまして」
「その口ぶりだといくらでも出てきそうだな。正直いくらあってもいいんだ。領主からの依頼だからな。できれば二〇から三〇くらいは欲しいな」
「ではとりあえず五〇出しましょうか」
「おう、じゃあそこに少しずつ出してくれるか?」
そう言うとルボルさんは自分の受付の横、『引き渡し』と書かれた、少しカウンターが広くなった窓口を指差した。
「いや、首を落としてそのままマジックバッグに入れていますので、血で汚れますよ」
「頭ごとかよ! ちょっと待て。横のドアから裏へ回ってくれ」
◆ ◆ ◆
依頼票の内容は『ホーンラビットの角』。あの角は金属鎧も軽々と貫通するので、武器として、主に槍の穂先に使うそうだ。実は角だけ切り離すのが面倒だったので、落とした頭ごとマジックバッグに入れていた。血で汚れるというのはその話。普通は荷物を減らすために角だけ切り落とすからね。
裏へ回ると部屋の一つへと案内された。大きなタライのような桶を二つ用意してくれた。
「よし、じゃあこの中に頼む」
「はい」
角を持って次々と放り込む。頭の一つ一つが直径二〇センチはあって、一段では入り切らなかったので上にも積む。その桶が二つ。
二つに割った雲丹の断面を下にして並べたと思ってほしい。控えめに言っても気持ち悪い。ルボルさんもなんとも言えない顔をしていた。
「これだけ一度に見たのは初めてだな」
「僕たちも初めてですよ。狩ったらすぐに収納していましたし、ね、リゼッタ」
「そうですね。これだけまとめて見ると気が滅入りますね」
「まあマジックバッグを持ってればそうだよな。しかもまだあるんだろ? そもそも冒険者登録もしてなかったのに、これだけどこで狩ったんだ? 言いたくなければいいんだが」
「西の大森林です。あそこを通って来たので」
「あっちか! あそこを抜けた話なんて初めて聞いたが、それならこれくらいは出てくるわな」
「五分に一度くらい、何かしらの魔獣が出てきましたね。兎の他には猪とか熊とか蛇とか。さすがにうんざりしましたね」
「俺も若い頃は冒険者としてあの森に入ったこともあったが、あの蛇がな……あれはトラウマになるわ」
やっぱりか。
「あの時は僧侶が噛まれてな。命は助かったが、あれがきっかけで冒険者をやめて王都に行ったはずだ」
兎の頭を五〇個、全部で五〇〇〇フローリン。一つが一〇〇フローリンなので、高いのか安いのかは分からないけど、これで当面の資金はできた。今のところ角は持っていても使い道がないからね。兎は肉と毛皮だけで十分。
「無理は言えねえが、他に売ってもいいものがあったら売ってくれ。やはり大都市ほど人が来なくてな」
「分かりました。すぐにここを発つつもりもありませんので、また来ます」
「ああ、頼む」
「あ、そうだ、近くにいい宿屋はありませんか? 食事が美味しいところがいいんですが」
「あるぞ。ここを右へ出て少し歩くと、右方向に北広場が見える。その広場の向こう側、東側だな、そこに門前宿がある。屋根まで白い建物で、名前は『白い宿木亭』だ。見た目で分かる。少し高いが綺麗だし、料理の評判もいいぞ」
「ありがとうございます。一度覗いてみます」
お勧めの宿屋の情報も聞けたのでギルドを出ることにした。妙に視線が突き刺さる気がしたけど、恨みを持たれる覚えはないよ?
◆ ◆ ◆
僕とリゼッタはお礼を言ってギルドを出た。通りを眺めながら宿屋を目指す。午後のそれほど遅くない時間、買い物をしている人もちらほらいる。
北門近くの広場では朝市が開かれているらしいけど、食材などの露店は、多くが昼前には売り切って撤収するらしい。もちろんその後にやって来て夕方まで開ける露店もあるらしいけど。
「まだまだ露店は多いね」
「そうですね。この時間は食材は少ないみたいですが、装飾品などは多いようですね」
「西門以外は朝市があるそうだから、明日から順番に回ろうか。リゼッタに似合いそうなアクセサリーがあったら贈るね」
「ありがとうございます」
可愛い。そこまで嬉しそうにされると探し甲斐がある。
白い屋根と壁の宿屋が見えてきた。他にも宿屋はあったけど、確かに綺麗な外観は少し高そう。白い屋根はほとんどないのですごく目立つ。材質は何だろう? 漆喰? 屋根に漆喰はないかな。
看板には『白い宿木亭』と書いてある。評判はいいとルボルさんも言っていたので迷わずに入ろう。
「いらっしゃいませ」
受付はできる感じのお姉さん。お辞儀がものすごくきれい。
「冒険者ギルドのルボルさんから聞いてきました。部屋はありますか?」
「二人部屋でよろしいでしょうか?」
「「はい」」
「朝食付きで一泊二〇〇フローリンです。朝食はこの奥にある食堂です。夜まで開いていますが、朝食以外は別料金になります。何泊されますか?」
「しばらくいるだろうから、とりあえず五泊にしようか、リゼッタ?」
「はい。必要があれば延長すればいいと思います」
「では五泊でお願いします。延長もできますよね」
「はい、もちろんできますよ」
「紹介者ありということで、朝食に一皿おつけします」
「ありがとうございます」
一〇〇〇フローリンを払って鍵を受け取った。部屋は最上階、四階の一番端。眺めのいい部屋にしてくれたのかな?
「高いだけあっていい部屋ですね」
「ナルヴァ村と二桁ちがうからね。眺めもいいなあ」
ユーヴィ市の領主はキヴィオ子爵で、この町は代官が治めている。代官の屋敷やギルド、教会、軍関係の施設などは町の中央に近く、平民の家は城壁に近い。東西南北の城門の近くには広場や宿屋、商店などがあり、広場の一角では朝市も開かれる。
公的な施設を除けば、町中の建物の多くはそれほど高くはない。この町は市を名乗っている中では小さい方。領地の端に近いしね。
大きな建物は少ないけど、宿屋は多くの客を泊めるため三階建てや四階建ても珍しくはない。この『白い宿木亭』もその一つで、このあたりでは高級宿。
ここは眺めが一番いい最上階。もっとも窓から町の外を見ても山か森しか見えない。でも逆に、ああ異世界に来たのか、という気分にしてくれる。
リゼッタの頭を撫でながら、窓の外を眺めていた。
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クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
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酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
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異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
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