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第一章 第一部
やさぐれヘルプさん
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《A>いいですねえ~。高級宿で恋人としっぽり~。ベッドはしっとり~。恋人ができれば~私なんて放ったらかしなんですね~》
! いきなり出てきた?
《Q>……やさぐれてるし。それに質問してないんだけど》
《A>こちらから話しかけてはいけない~という決まりもありません~》
《Q>……そうなんだ》
《A>はい~。私はマスターに宿っていますので~いつでも頭の中を読めますし~空気も読めますので~リゼッタさんとイチャイチャ~ベタベタ~している時は~じ~っと耳をすませて~出しゃばらないようにしているだけです~。もうお熱いったら~ありゃしないですね~。まあそれでも~そろそろ出しゃばろうかな~っと思っていたところですが~》
《Q>ちょっ、ちょっとそこもう少し詳しく》
《A>仕方ありませんねえ~。話が少しややこしくなりますので~リゼッタさんも一緒でいいですか~?》
《Q>できるの?》
《A>このままでは無理ですので~、そちらに行きますね~》
そう言うと、頭から何かが『ぬるっ』と出た気がした。目の前には銀色の髪を肩の下くらいまで伸ばし、背中に羽のある小さな可愛い妖精。二〇センチくらいだろうか。リゼッタは目をまん丸にしている。
「現実世界では初めまして~。マスターの~快適な異世界生活を応援するサポート役~カロリッタです~。見ての通り~守護妖精です~」
「あ、どうも」
「リゼッタさんも~よろしくお願いしますね~」
「あっ、はいっ」
「え~っとまず~私がこの時期に出てきた理由は~マスターとリゼッタさんの仲が~かな~り安定してきたからです~」
「「安定?」」
「しっかりやることはやってますよね~このこの~」
「~~~~~」
「面と向かってそう言われると恥ずかしいけど、それがどういう関係?」
「はい~。私の名前は~『小さなカローラ』という意味で~カローラ様によって~即席で作られた存在です~」
「「即席で……」」
「思い付きで~とも言えますね~。カローラ様は~次から次へと仕事を片付けて~一段落したかと思えば~部下が大問題を起こしかけて~少々やさぐれていました~」
「お詫びのしようもございません……」
リゼッタが壁に向かって土下座した。そっちの方向にカローラさんがいるんだろうか。
「カローラ様は~その状態で~マスターの魂を修復しました~。それから肉体を復元させると~これがまた自分の好みに~あま~りにも~ピッタリ、ビックリ、思わず、ガッツリ!」
なにそのリズム感? ガッツリ?
「マスターが初めてカローラ様を見た時~かなり申し訳なさそうにしていたのを覚えてますか~?」
「ものすごく頭を下げられたね。机に頭をぶつけてたし」
「実はあれ~まだ意識の戻ってないマスターを相手に一晩中全力でヒャッハーしてしまって~せっかく再生した肉体から~魂が抜けそうになって~オロオロワタワタした後です~。うっかり夜のことを思い出して~『すごかったですよ』な~んて口にしちゃって~顔を赤くしてましたよね~。すごかったんでしょうね~」
「「……」」
「それと~リゼッタさんがカローラ様の執務室に行った時~カローラ様はかな~り硬い表情と言葉遣いをしていたのを~覚えてますか~?」
「てっきりクビになると思っていました」
「あれは~リゼッタさんに腹を立ててたわけじゃないんですよ~。あれはですね~形だけでも~リゼッタさんを叱責する必要があるのに~自分はピーーーした後ですからね~。かな~り気まずくて~顔がひきつったり~声が裏返ったりするのを~無理やり抑え込んでいた感じですね~。カローラ様も~実は真面目に見えて~かなり抜けてるんですよね~。それで~どことな~く似たところがあるリゼッタさんのことを~実はかな~り気にかけてたんですよ~」
「「……」」
「ま、まあ、事情というか情事というか、正直全然聞きたくなかったけど。それでカロリッタが出てきたことと、それがどう関係?」
「はい~。リゼッタさんは~普段から自分の気持ちをかな~り抑えてましたよね~? カローラ様がすでにマスターとチョメチョメしていて~さらには~ぞっこんだと分かれば~身を引くんじゃないかと思いました~。だから~マスターとリゼッタさんがそういう関係になるまでは~出てきてチクるのを待ってたわけです~。ほら~妖精ですよ~風に乗りますよ~空気が読めるでしょ~?」
「「……」」
「私は~カローラ様の知識と力と~それと妄執とが混ざってでき上がりました~。だから~私の好みも~カローラ様と実は同じなんですよ~。カローラ様は~仕事があるのでこっちには来るのは無理ですが~私には関係ありませんので~マスターにはこれからどんどんアピールして~私のことを好きになっていただきたい~、むしろいただかれたいと思います~」
なんとも言えない気分になり、リゼッタと顔を見合わせる。守護妖精なのに中身はおっさん。親父ギャグというかダジャレというか下ネタというか、この間延びした口調で言われると返しにくいな。
いや、そっちの方はリゼッタだけで十分なんだけど。
「とりあえず間に合ってるから。正直そっちの欲はあまりないんだよね、ゼロじゃないけど。リゼッタがいてくれれば十分だから」
これは本心。横でリゼッタが真っ赤になっている。初々しくて可愛い。ついつい頭を撫でる。
以前は性欲も人並みにあったと思う。もちろん彼女がいたこともあるし、そのころはすることはしていたし。やっぱり定石通りにエルフって寿命が長いから性欲があまりないのだろうか。
「それなら大丈夫ですよ~。徐々に戻ってきてますから~」
「戻る?」
「はい~。最近は~リゼッタさんといたしてますよね~。マスターの新しい肉体は~完成直後から色々あったので~軽く枯れた感じになっていたようですね~。リゼッタさんとできるということは~徐々に戻ってきてるんですよ~。そのうちガンガンいけますよ~。お待ちしてます~」
「「……」」
どうしてあちこち強調するのか。
「! あの、カロリッタさんではサイズ的にはそもそもケネスとするのは無理ではありませんか?」
慌てたようにリゼッタがまくし立てた。
「なるほど~その方向から攻めてきますか~。受けて立ちますよ~。ちなみに~私はカローラ様が急いで作ったために~規制だの規格だのがやや甘くなってます~。体のサイズを変えることなんて~ほら~」
リゼッタくらいの身長になった。
「羽も消そうと思えばいつでも消せますし~体もこれくらいまでなら大きくできます~。しかも体重もあまり変わりません~。一日に一回とかの制限もないんですよ~」
「あ、ホントだ、すごく軽い」
「重くしようと思えばできますよ~。リゼッタさんくらいになると思います~」
カロリッタが抱きついてきたから試しに持ち上げたらめちゃくちゃ軽かった。投げたら飛んできそう。あ、自力で飛べるか。重くしてもらったら確かにリゼッタくらい。
重いって言われてリゼッタの顔に縦線が入ってるけど、リゼッタは重くないよ。むしろ軽いよ。リゼッタくらいの重さって意味だからね。言葉って難しい。
「そもそもなんで知ってるの? カロリッタが作られる前の話でしょ?」
「私は~カローラ様の知識の一部を受け継いでいます~。つまり~あのはっちゃけた記憶も~知識として受け継いでいます~。いつものうっかりだと思いますが~今ごろ気付いて~恥ずかしさで転げ回っていると思いますよ~。マスターの前では全力で~できる女性を演じようとしていましたから~。時々ボロが出てましたけど~」
「それ、ぶっちゃけて大丈夫?」
「さあ~、どうでしょう~?」
◆ ◆ ◆
某所にて
「あ~~~ど~してわたしは~よけ~なものを~いれてしまったのでしょ~か~」
ベッドの中で顔を枕に押し付けてゴロゴロ転がっているのは、ちょうど話に出たばかりのカローラだった。温和だが仕事については厳しい、というのが周囲の評価だった。
上級管理者は、企業に例えるなら本社の幹部、つまりエリートである。それがこのような状態になっている原因は、彼女が魂の修復と肉体の再生を行ったケネスだった。
当時の名前はまだカミカワだったが、彼の肉体の再生が終わると、あまりにも彼女好みの外見となってしまった。もちろん狙ってそうしたわけではないはず。おそらく。
彼女はエルフであり、人間から見れば絶世の美女と言えるだろうが、エルフの中では彼女くらいの容姿なら標準的と言える。つまり管理者になる前は目立った存在ではなかった。控えめな性格であり、地味めな格好をしていたので、異性にモテた経験がなかった。そこにきてこれである。
まだ目覚めていない、生まれ変わって生まれたままの姿の彼を見た瞬間、彼女の頭の中に一つの考えが浮かんでしまった。
《これはひょっとして、頑張っている私へのご褒美では?》
努めて真面目な表情と落ち着いた動作で処置室の外に出て振り返った。ドアの表示が『入室禁止』となったままであることをしっかり指差確認。それから処置室の中に戻り、きっちりとドアに鍵をかけ、誰も入れないことも指差確認。[結界]と[防音]の魔法をそれぞれ二重にかけ、内部の様子が絶対に分からないようにした。
そしてゆっくりと彼の方を向いた。
翌朝目が覚めて、仮設ベッドのあまりの惨状にアワアワしたり、うっかり立ち上がったら腰が抜けていて足に力が入らずに転がり落ちたり、ケネスの魂が体から抜けかけているのに気付いて慌てて押し込んだり、水を飲んで落ち着こうとしたらテーブルの角に膝をぶつけて蹲ったり。それでもなんとか気を落ち着けて、自分とケネスの体をきれいにしてから、これから彼をどうするべきかと考えた。
思い付いたのは、惚れてしまった彼のために守護妖精を付けて見守ることだった。実際には覗き見ると表現する方が近いかもしれないが。
『小さなカローラ』を意味する『カロリッタ』と名付けると、その妖精は彼の中に消えていった。だが、カロリッタを作り出す際に、ケネスの方にチラッと顔を向けてニヤニヤしてしまったのがいけなかった。
この時彼女は気付いていなかった、単に力や知識だけではなく、昨晩の記憶やこれまでの拗れた妄想など一緒に入ってしまったことに。それによって妙に濃い守護妖精ができあがったことに。
◆ ◆ ◆
カロリッタは僕の中には戻らず、実体化したまま一緒にいることになった。頭の中にいると僕の考えたことや見たものが全部分かるらしい。しかもそれがカローラさんにも伝わると。密着二四時間どころではなく筒抜け。うん、むしろ常に外にいてもらいたい。勝手に覗いちゃダメ。
リゼッタは少し複雑な顔をしてた。これまでのことを全部見られてたと分かればね。
その前に、宿屋の人にまず連絡かな。さすがに無断宿泊はだめだろう。そう思って受付の人にカロリッタのことを伝えると、ベッドを増やさないなら朝食代の追加だけでいいと。だからお礼を言って追加の朝食代を払ったらそのまま食堂に向かった。高い部屋だし、細かいことで文句は言わないのだろう。
食堂でカロリッタが大きくなったら店員さんがびっくりして皿を割っていた。驚かせてすみません。
妖精は体を大きくするスキルを持っているけど、使うのはどうしても必要がある場合だけらしい。要するに、妖精以外と交際や結婚や子作りをする時。でも体の大きさを変えるのは体に負担がかかるから、本来はそんなにポンポンと使えるものじゃないらしい。カロリッタが『一日に一回とかの制限』と言ったのもこれが理由。
妖精は体が小さい。だから小型の魔道具制作などで大活躍する。人間では細かい作業に限界があるからね。それに戦いの場では、すばしっこくて的が小さくて魔法が得意という、非常に戦いたくない相手になる。
体を大きくすれば食費がかかるし、戦いの場では的が大きくなる上に敏捷さも下がる。つまり体を大きくした妖精は、魔法が得意という以外はメリットがほとんどない。あるとすれば『私には妖精ではない恋人や配偶者がいます』というアピールくらいだ。
それを聞いたのは食事が終わって部屋に戻ってからだった。そういう大事なことは早めに言ってほしい。カロリッタが腕を組んできたのを宿屋の人たちが微笑ましく見てたよね。というか、これからカロリッタが大きくなっている時はそう見られるってことだよね。
カロリッタは大きくなって食べていたけど、食後に小さくなったらやっぱり軽かった。食べた分だけ重くなるんじゃないらしい。食べた物の重さはどこへ行くのか。この世界にいると質量保存の法則が裸足で逃げ出しそう。ものすごく興味深い。謎だ。あの料理はどこへ消えたのか。リゼッタでも人とリスの状態で同じようなことが起きるんだけどね。
「マスター、そん~なにじっと見るなんて~やっぱり私に興味があるんじゃないですか~。いいですよ~。私はマスターのものですから~。はいどうぞ~」
「いや、そういう意味の興味じゃないから」
カロリッタばかり相手にするわけにもいかないから、リゼッタも撫でたり抱きしめたりしてるよ。カロリッタは子供みたいに喜んでるけど、リゼッタは毎回真っ赤になって初々しくて可愛い。
こんな言葉のじゃれ合いはあるけど、カロリッタが寝る前に何かをしてくることはなかった。最後に見た時には小さくなって僕の枕の横で大の字で寝ていた。おっさんだよね。
! いきなり出てきた?
《Q>……やさぐれてるし。それに質問してないんだけど》
《A>こちらから話しかけてはいけない~という決まりもありません~》
《Q>……そうなんだ》
《A>はい~。私はマスターに宿っていますので~いつでも頭の中を読めますし~空気も読めますので~リゼッタさんとイチャイチャ~ベタベタ~している時は~じ~っと耳をすませて~出しゃばらないようにしているだけです~。もうお熱いったら~ありゃしないですね~。まあそれでも~そろそろ出しゃばろうかな~っと思っていたところですが~》
《Q>ちょっ、ちょっとそこもう少し詳しく》
《A>仕方ありませんねえ~。話が少しややこしくなりますので~リゼッタさんも一緒でいいですか~?》
《Q>できるの?》
《A>このままでは無理ですので~、そちらに行きますね~》
そう言うと、頭から何かが『ぬるっ』と出た気がした。目の前には銀色の髪を肩の下くらいまで伸ばし、背中に羽のある小さな可愛い妖精。二〇センチくらいだろうか。リゼッタは目をまん丸にしている。
「現実世界では初めまして~。マスターの~快適な異世界生活を応援するサポート役~カロリッタです~。見ての通り~守護妖精です~」
「あ、どうも」
「リゼッタさんも~よろしくお願いしますね~」
「あっ、はいっ」
「え~っとまず~私がこの時期に出てきた理由は~マスターとリゼッタさんの仲が~かな~り安定してきたからです~」
「「安定?」」
「しっかりやることはやってますよね~このこの~」
「~~~~~」
「面と向かってそう言われると恥ずかしいけど、それがどういう関係?」
「はい~。私の名前は~『小さなカローラ』という意味で~カローラ様によって~即席で作られた存在です~」
「「即席で……」」
「思い付きで~とも言えますね~。カローラ様は~次から次へと仕事を片付けて~一段落したかと思えば~部下が大問題を起こしかけて~少々やさぐれていました~」
「お詫びのしようもございません……」
リゼッタが壁に向かって土下座した。そっちの方向にカローラさんがいるんだろうか。
「カローラ様は~その状態で~マスターの魂を修復しました~。それから肉体を復元させると~これがまた自分の好みに~あま~りにも~ピッタリ、ビックリ、思わず、ガッツリ!」
なにそのリズム感? ガッツリ?
「マスターが初めてカローラ様を見た時~かなり申し訳なさそうにしていたのを覚えてますか~?」
「ものすごく頭を下げられたね。机に頭をぶつけてたし」
「実はあれ~まだ意識の戻ってないマスターを相手に一晩中全力でヒャッハーしてしまって~せっかく再生した肉体から~魂が抜けそうになって~オロオロワタワタした後です~。うっかり夜のことを思い出して~『すごかったですよ』な~んて口にしちゃって~顔を赤くしてましたよね~。すごかったんでしょうね~」
「「……」」
「それと~リゼッタさんがカローラ様の執務室に行った時~カローラ様はかな~り硬い表情と言葉遣いをしていたのを~覚えてますか~?」
「てっきりクビになると思っていました」
「あれは~リゼッタさんに腹を立ててたわけじゃないんですよ~。あれはですね~形だけでも~リゼッタさんを叱責する必要があるのに~自分はピーーーした後ですからね~。かな~り気まずくて~顔がひきつったり~声が裏返ったりするのを~無理やり抑え込んでいた感じですね~。カローラ様も~実は真面目に見えて~かなり抜けてるんですよね~。それで~どことな~く似たところがあるリゼッタさんのことを~実はかな~り気にかけてたんですよ~」
「「……」」
「ま、まあ、事情というか情事というか、正直全然聞きたくなかったけど。それでカロリッタが出てきたことと、それがどう関係?」
「はい~。リゼッタさんは~普段から自分の気持ちをかな~り抑えてましたよね~? カローラ様がすでにマスターとチョメチョメしていて~さらには~ぞっこんだと分かれば~身を引くんじゃないかと思いました~。だから~マスターとリゼッタさんがそういう関係になるまでは~出てきてチクるのを待ってたわけです~。ほら~妖精ですよ~風に乗りますよ~空気が読めるでしょ~?」
「「……」」
「私は~カローラ様の知識と力と~それと妄執とが混ざってでき上がりました~。だから~私の好みも~カローラ様と実は同じなんですよ~。カローラ様は~仕事があるのでこっちには来るのは無理ですが~私には関係ありませんので~マスターにはこれからどんどんアピールして~私のことを好きになっていただきたい~、むしろいただかれたいと思います~」
なんとも言えない気分になり、リゼッタと顔を見合わせる。守護妖精なのに中身はおっさん。親父ギャグというかダジャレというか下ネタというか、この間延びした口調で言われると返しにくいな。
いや、そっちの方はリゼッタだけで十分なんだけど。
「とりあえず間に合ってるから。正直そっちの欲はあまりないんだよね、ゼロじゃないけど。リゼッタがいてくれれば十分だから」
これは本心。横でリゼッタが真っ赤になっている。初々しくて可愛い。ついつい頭を撫でる。
以前は性欲も人並みにあったと思う。もちろん彼女がいたこともあるし、そのころはすることはしていたし。やっぱり定石通りにエルフって寿命が長いから性欲があまりないのだろうか。
「それなら大丈夫ですよ~。徐々に戻ってきてますから~」
「戻る?」
「はい~。最近は~リゼッタさんといたしてますよね~。マスターの新しい肉体は~完成直後から色々あったので~軽く枯れた感じになっていたようですね~。リゼッタさんとできるということは~徐々に戻ってきてるんですよ~。そのうちガンガンいけますよ~。お待ちしてます~」
「「……」」
どうしてあちこち強調するのか。
「! あの、カロリッタさんではサイズ的にはそもそもケネスとするのは無理ではありませんか?」
慌てたようにリゼッタがまくし立てた。
「なるほど~その方向から攻めてきますか~。受けて立ちますよ~。ちなみに~私はカローラ様が急いで作ったために~規制だの規格だのがやや甘くなってます~。体のサイズを変えることなんて~ほら~」
リゼッタくらいの身長になった。
「羽も消そうと思えばいつでも消せますし~体もこれくらいまでなら大きくできます~。しかも体重もあまり変わりません~。一日に一回とかの制限もないんですよ~」
「あ、ホントだ、すごく軽い」
「重くしようと思えばできますよ~。リゼッタさんくらいになると思います~」
カロリッタが抱きついてきたから試しに持ち上げたらめちゃくちゃ軽かった。投げたら飛んできそう。あ、自力で飛べるか。重くしてもらったら確かにリゼッタくらい。
重いって言われてリゼッタの顔に縦線が入ってるけど、リゼッタは重くないよ。むしろ軽いよ。リゼッタくらいの重さって意味だからね。言葉って難しい。
「そもそもなんで知ってるの? カロリッタが作られる前の話でしょ?」
「私は~カローラ様の知識の一部を受け継いでいます~。つまり~あのはっちゃけた記憶も~知識として受け継いでいます~。いつものうっかりだと思いますが~今ごろ気付いて~恥ずかしさで転げ回っていると思いますよ~。マスターの前では全力で~できる女性を演じようとしていましたから~。時々ボロが出てましたけど~」
「それ、ぶっちゃけて大丈夫?」
「さあ~、どうでしょう~?」
◆ ◆ ◆
某所にて
「あ~~~ど~してわたしは~よけ~なものを~いれてしまったのでしょ~か~」
ベッドの中で顔を枕に押し付けてゴロゴロ転がっているのは、ちょうど話に出たばかりのカローラだった。温和だが仕事については厳しい、というのが周囲の評価だった。
上級管理者は、企業に例えるなら本社の幹部、つまりエリートである。それがこのような状態になっている原因は、彼女が魂の修復と肉体の再生を行ったケネスだった。
当時の名前はまだカミカワだったが、彼の肉体の再生が終わると、あまりにも彼女好みの外見となってしまった。もちろん狙ってそうしたわけではないはず。おそらく。
彼女はエルフであり、人間から見れば絶世の美女と言えるだろうが、エルフの中では彼女くらいの容姿なら標準的と言える。つまり管理者になる前は目立った存在ではなかった。控えめな性格であり、地味めな格好をしていたので、異性にモテた経験がなかった。そこにきてこれである。
まだ目覚めていない、生まれ変わって生まれたままの姿の彼を見た瞬間、彼女の頭の中に一つの考えが浮かんでしまった。
《これはひょっとして、頑張っている私へのご褒美では?》
努めて真面目な表情と落ち着いた動作で処置室の外に出て振り返った。ドアの表示が『入室禁止』となったままであることをしっかり指差確認。それから処置室の中に戻り、きっちりとドアに鍵をかけ、誰も入れないことも指差確認。[結界]と[防音]の魔法をそれぞれ二重にかけ、内部の様子が絶対に分からないようにした。
そしてゆっくりと彼の方を向いた。
翌朝目が覚めて、仮設ベッドのあまりの惨状にアワアワしたり、うっかり立ち上がったら腰が抜けていて足に力が入らずに転がり落ちたり、ケネスの魂が体から抜けかけているのに気付いて慌てて押し込んだり、水を飲んで落ち着こうとしたらテーブルの角に膝をぶつけて蹲ったり。それでもなんとか気を落ち着けて、自分とケネスの体をきれいにしてから、これから彼をどうするべきかと考えた。
思い付いたのは、惚れてしまった彼のために守護妖精を付けて見守ることだった。実際には覗き見ると表現する方が近いかもしれないが。
『小さなカローラ』を意味する『カロリッタ』と名付けると、その妖精は彼の中に消えていった。だが、カロリッタを作り出す際に、ケネスの方にチラッと顔を向けてニヤニヤしてしまったのがいけなかった。
この時彼女は気付いていなかった、単に力や知識だけではなく、昨晩の記憶やこれまでの拗れた妄想など一緒に入ってしまったことに。それによって妙に濃い守護妖精ができあがったことに。
◆ ◆ ◆
カロリッタは僕の中には戻らず、実体化したまま一緒にいることになった。頭の中にいると僕の考えたことや見たものが全部分かるらしい。しかもそれがカローラさんにも伝わると。密着二四時間どころではなく筒抜け。うん、むしろ常に外にいてもらいたい。勝手に覗いちゃダメ。
リゼッタは少し複雑な顔をしてた。これまでのことを全部見られてたと分かればね。
その前に、宿屋の人にまず連絡かな。さすがに無断宿泊はだめだろう。そう思って受付の人にカロリッタのことを伝えると、ベッドを増やさないなら朝食代の追加だけでいいと。だからお礼を言って追加の朝食代を払ったらそのまま食堂に向かった。高い部屋だし、細かいことで文句は言わないのだろう。
食堂でカロリッタが大きくなったら店員さんがびっくりして皿を割っていた。驚かせてすみません。
妖精は体を大きくするスキルを持っているけど、使うのはどうしても必要がある場合だけらしい。要するに、妖精以外と交際や結婚や子作りをする時。でも体の大きさを変えるのは体に負担がかかるから、本来はそんなにポンポンと使えるものじゃないらしい。カロリッタが『一日に一回とかの制限』と言ったのもこれが理由。
妖精は体が小さい。だから小型の魔道具制作などで大活躍する。人間では細かい作業に限界があるからね。それに戦いの場では、すばしっこくて的が小さくて魔法が得意という、非常に戦いたくない相手になる。
体を大きくすれば食費がかかるし、戦いの場では的が大きくなる上に敏捷さも下がる。つまり体を大きくした妖精は、魔法が得意という以外はメリットがほとんどない。あるとすれば『私には妖精ではない恋人や配偶者がいます』というアピールくらいだ。
それを聞いたのは食事が終わって部屋に戻ってからだった。そういう大事なことは早めに言ってほしい。カロリッタが腕を組んできたのを宿屋の人たちが微笑ましく見てたよね。というか、これからカロリッタが大きくなっている時はそう見られるってことだよね。
カロリッタは大きくなって食べていたけど、食後に小さくなったらやっぱり軽かった。食べた分だけ重くなるんじゃないらしい。食べた物の重さはどこへ行くのか。この世界にいると質量保存の法則が裸足で逃げ出しそう。ものすごく興味深い。謎だ。あの料理はどこへ消えたのか。リゼッタでも人とリスの状態で同じようなことが起きるんだけどね。
「マスター、そん~なにじっと見るなんて~やっぱり私に興味があるんじゃないですか~。いいですよ~。私はマスターのものですから~。はいどうぞ~」
「いや、そういう意味の興味じゃないから」
カロリッタばかり相手にするわけにもいかないから、リゼッタも撫でたり抱きしめたりしてるよ。カロリッタは子供みたいに喜んでるけど、リゼッタは毎回真っ赤になって初々しくて可愛い。
こんな言葉のじゃれ合いはあるけど、カロリッタが寝る前に何かをしてくることはなかった。最後に見た時には小さくなって僕の枕の横で大の字で寝ていた。おっさんだよね。
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