新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

文字の大きさ
25 / 278
第一章 第二部

二人のこと

しおりを挟む
 エリーとミシェルがこの家で暮らすにあたって、まずは部屋を用意することになった。最初に二人を寝かせていた部屋をそのまま使うことになったけど、元が空き部屋にベッドを入れただけだったので、他に必要な物をエリーに聞きながら並べていく。

 棚、タンス、机、椅子などの家具は僕が作ったものがかなり多い。器用さが最初からかなり高いからスキルが身に付きやすく、早いうちからかなりのものが作れた。もちろん失敗作もあったけど。でもさすがにガラスまでは作れないから鏡は買ってきたものだ。

 ミシェルにはお絵描き用の黒板とチョークもあげる。チョークは青、赤、黄、緑も。ミシェルはさっそく絵を描き始めた。

「ミシェル、床はだめ床はだめ。いい子だからこの黒板だけにしようね」
「わかったー」

 消すことはできるけど、器用だからそのうち壁や天井まで使って大作を描き始めるかもしれない。

 この二人も人間からエルフになったんだよね。それは僕と同じだけど、二人は薬で無理やり変えられたからおかしなことになっていなければいいんだけどね。僕と違いはあるのかな。気になることもあったので、念のためにステータスを見せてもらおう。

「エリー、ここにいる三人は人間からエルフになったんだけど、二人と僕の違いを見せてもらっていいかな?」
「それは構いませんが……娘が見ていてはさすがに落ち着きませんので、隣の部屋でよろしいでしょうか? あるいは夜までお待ちいただければ、一晩中お相手をさせていただきますが」
「ごめん、今のは言い方が悪かった。そういうのじゃないから」



 三人分を並べて表示するようにする。細かな能力はいらないので、スキル周辺を重点的に、戦闘系は減らして、[鑑定]。


【名前:[ケネス]】
【名前:[エリー]】
【名前:[ミシェル]】

【種族:[エルフ?]】
【種族:[エルフ(元人間)]】
【種族:[エルフ(元人間)]】

【年齢:[二三]】
【年齢:[二一]】
【年齢:[五]】

【スキル:[念話][不老][地図(管理者用)][鑑定(管理者用)]】
【スキル:[料理(小)][計算(中)][交渉(中)][念話][精霊魔法(微)]】
【スキル:[木登り(大)][念話][精霊魔法(微)]】

【特徴:[リゼッタの恋人][カロリッタの恋人][エリーの想い人][カローラの想い人]】
【特徴:[ケネスの愛人][積極的][愛嬌]】
【特徴:[前向き][愛嬌]】

 二人とも種族が[エルフ(元人間)]か。僕は[エルフ?]だから微妙に違う。特徴にまた変なのがある……。



「ええとね。僕はこういうことを隠すのは苦手だから、正直に言うね」
「はい」
「もしかしたら意味が分からないかもしれないけど、僕は人がどんな能力を持っているのか分かる力があるんだ。その力で調べたら、二人はまだ弱いけど精霊魔法が使えるようになってるね。それと念話も」
「え? 精霊魔法ですか?」
「そう。エルフになったからだろうね。おそらく念話もそうだね」

 精霊魔法は精霊と念話で意思疎通をするからセットになってるんだろうね。でもエルフになったといえ元が人間だから、使いこなすには時間がかかるかもしれない。そのあたりも説明をした。

「ミシェルはものすごく木登りが得意になってるよ」
「あの子は外で遊ぶのが好きでしたから。あそこまで飛び回ることはありませんでしたけど」
「それは絶対エルフになった影響だね」

 エルフは森で暮らしているので樹木や草花とは相性がいい。とはいえミシェルはちょっと特殊かな。いきなり[木登り(大)]だし。

「エリーの方は、商人をしていたからか、計算や交渉が得意だね。それと料理も」
「料理はミシェルに食べさせるくらいでしたので腕の方は大したことはありませんが、昔からずっと続けていました。計算や交渉などは仕事で必要でしたから必死に覚えました」
「最後に、少々ややこしいのがあるんだけど……」
「何かおかしなことですか?」
「どちらかというと、僕にとっての覚悟かな。あー……」
「何を聞いても驚きませんので」
「……うん、分かった。ええと、エリーの、これは能力じゃなくて、あくまで特徴なんだけど、[ケネスの愛人]って出てるね。僕の方には[エリーの想い人]っていうのがある。これ絶対さっきのミシェルとのやりとりだよね」
「あ、ミシェルに話しながら、そうなったらいいなとは思っていましたが……」
「思ったよりも積極的そうだし」
「惚れた行商人を追いかけて、なし崩し的に結婚して子供を作りました。夫は行商ばかりでほとんど家にいませんでした。ミシェルが生まれて一年ほどで亡くなりましたので、私の中の女が少々うずいています」
「いきなりぶっちゃけた!」
「すみません、少し冗談が過ぎました。ですが隠しておいてもいずれ分かるのなら、最初から言っておいてもいいかと思いして。少しは意識していただけるかと」

 いきなり死角からズバッと来た。やはり話術が得意なのか。

「こんな話を始めておいて今さらだけど、みさおとかは?」
「それが不思議なのですが……夫のことは心から愛していましたし、以前は彼以外に触れられたいとは思いませんでした。彼が亡くなって寂しくしていたのも間違いありません。ですが、どうも目が覚めて旦那様の顔を見ていたら、私の中からふっと彼が抜けていったように思えまして。もちろん隣のベッドに寝ていたミシェルは大切な自分の娘だと分かりましたし、夫のことも忘れてはいないのですが」
「僕とは違った形でエルフになったからね。やっぱり体が変わったのとかも影響してるかもしれないし。あの薬を作った人に確認してみるね」

 うずくだの何だのはエリーの冗談みたいだけど、絶対にあの薬の影響はあるよなあ。急にテンションが変わるしね。

 他には、エルフになるだけなら一万歩譲って仕方ないとしても、まあできれば同じ種族のまま生き返らせたかったけど、夫のことが少し引っかかったかな。頭から抜けていったって言ってたから。あの薬を作ったのはカローラさんだろうし、何か仕込んでいてもおかしくないよなあ。

 こんなことを聞く相手はカローラさんしかいないよね。すごく嫌な予感がするけど。



◆ ◆ ◆



 カローラさん、ご無沙汰していますがお元気でしょうか。あれから一か月ほど経ち、こちらの世界にもようやく慣れてきたところです。

 お忙しいところ申し訳ありませんが、マジックバッグに入れていただいた蘇生薬の件で少し確認したいことがあります。

 たまたま見つけた母娘おやこにその蘇生薬を使ったところ、無事に生き返りましたが、母親の方に精神的な変化があったようです。

 具体的には、娘のことは大切に思ったままなのに、以前に亡くした夫のことが頭から抜けていったと言っています。記憶としては残っているようなので、全てを忘れてしまったわけではないようです。あの蘇生薬を使ったことで、何か内面に変化が起きたように思えるのですが、何か心当たりはないでしょうか?

 カロリッタ経由で大まかな事情は把握されていると思いますので、蘇生薬の製作者だと思われるカローラさんの意見を聞きたくてこの手紙を書いています。何か思い当たることがありましたら、お手隙の時にでも連絡ください。

 ケネス



 追伸

 この薬がなければ二人を助けることはできませんでした。ありがとうございました。後日あらためてお礼を贈ります。



◆ ◆ ◆



 職場の先輩に送るメールのような、敬語なのか何なのかよく分からない微妙な感じになった。まあいいか。いつ返事が返ってくるかは分からないけど、とりあえずこれをマジックバッグに入れておこう。

 !

 手紙が引っ張られた? え? もう持っていかれた? 入れた瞬間だったけど……もしかしてもう読んでるとか?

 待っていたら返事が来るかもしれないけど、そろそろ夕食を作らないとね。カローラさんには申し訳ないけど下へ行くか。マジックバッグに『離席中』とメモを入れておこう。

「ミシェル、一度お絵かきはやめようか。下へ戻るよ」
「はーい」

 エリーとミシェルの部屋を整えてから下へ降りた。外を見ると、もうそれなりの時間かな。

「そろそろ夕食を作ろうか。エリーもキッチンのどこに何があるか確認しながら手伝ってくれる?」
「はい」

 ミシェルはリゼッタとカロリッタが相手をしてくれている。お菓子を食べるのはいいけど、食べすぎると夕食が入らないよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

処理中です...