新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

文字の大きさ
31 / 278
第一章 第二部

独白:リゼッタのマジックバッグ

しおりを挟む
 私にはケネスからマジックバッグが与えられています。斜め掛けのタイプです。元々これはカローラ様からケネスに与えられたものの一つです。ケネスは背中のリュックと腰のウェストバッグを使っていますので、これ以上はいらないからと私が使うことになりました。「正直ウェストバッグだけでもいいんだけどなあ」と言っていましたが、王侯貴族が土下座してでも欲しがるくらいの性能ですよ。

 彼には余程のことがない限り危険はないはずですが、それでも万が一に備えてリスクを分散させるために、この鞄にもしばらく生活できるだけの物資が移し替えられています。



 彼は旅の途中である母娘おやこを助けました。エリーさん、その母親のほうですが、彼女は驚くほど積極的にケネスに自分をアピールしています。私にもあれくらいの積極性があればいいのですが。もちろん夜はきちんと可愛がってもらっていますよ。

 でもケネスを入れて三人が仲良く話していると、まるで本当の家族のように思えてモヤモヤします。決して二人を嫌っているわけではないのですが。

 そのエリーさんが服を作りたいと言ったので布を渡しました。ユーヴィ市で買い込んだ物です。彼女は私より背が高くてスタイルが良いので、私の服では合いません。特に胸元が……なぜでしょう、目から汗が出てきますね……

 手先が器用なのでしょう、渡した翌日にはすでにいくつも服が完成していました。しかもケネスの住んでいた世界にもあった物です。それを見た彼は冷静なふりをしていましたが、いつも近くにいる私には分かります。嬉しさがにじみ出ていました。最近は微妙な表情の変化が分かるようになってきました。

 私とカロリッタさんの分まで作ってくれることになったので、これから彼女に追加の布を渡しに行きましょうか……

 おや? 鞄の中に見慣れない大きな包みが入っていますね。そしてこれは手紙でしょうか。

 ええと、『リゼッタへ このマネキンに合うドレスも作ってくれるようにエリーさんに頼んでください。様々な種類の布を入れておきました。全て好きに使ってもらって構いません。足りないようならいくらでも追加しますので手紙で連絡してください。裁縫に使う魔道具や下着にピッタリな布や素材なども入れてありますので、全て彼女に渡してください。できあがったドレスは包んでこの鞄に入れておいてください。 カローラ』と書かれていました。

 まさかのカローラ様からの依頼でした。布を取り出してみると、表面が滑らかで手触りが素晴らしい布が多いですね。このあたりはレースですね。うっとりするようなデザインです。もちろん魔道具も布も全てエリーさんに渡しました。彼女はその魔道具自体は使ったことはないそうですが、使い方は分かるので問題ないと言っていました。



 エリーさんに布を渡した翌日、仕事が早いですね、ドレスが完成したと言ってエリーさんが荷物を抱えて部屋にやってきました。いつの間に作ったのでしょうか。

 長さや素材が違う四着のドレスが手渡されました。チャイナドレスとか旗袍チイパオとか呼ばれるものです。先日彼女が着ていたものですね。

 まずは柔らかいながらもしっかりとした布で作られた、デザインの違うチャイナドレスが二着ありました。この二着は外出用だそうです。彼女の故郷では貴族のパーティー用の衣装としても着られるものだそうです。裾から太ももあたりまでスリットが入っていますね。これは足を長く見せる効果があるそうです。

 それ以外に薄手でサラサラした手触りのよいドレスがデザイン違いで二着。これらは裾の短いで、布は限りなく薄く、下着や肌が透けそうですね。そしてスリットと言うより、わきから裾までが完全に開いています。前と後ろにしか布がありません。そして横は紐で編むような形ですね。何がとはあえて言いませんが、隠せてませんよね。

 さらには様々な下着。これやこれなどは下着というか、もはや紐とか網とか言うものでは? これで何か隠せるものがありますか? 着ける意味がありますか? 着ける方が恥ずかしくなりそうですね。

 私の分だけではなく、カローラ様のマネキンに合わせた物も渡してもらいました。一応説明を聞きましたが、私が受け取ったものとサイズ意外はほとんど同じです。ただしなので水垢離みずごりをして心身を清めてから取り掛かったそうです。清める意味はあるのでしょうか? むしろこのドレスと下着がけがれの象徴では?

 エリーさんはこれからカロリッタさんにも渡しに行くそうです。

 カローラ様の分として渡された物は連絡の手紙とともに鞄に入れておきました。後日ドレスの代わりに大量の布や魔道具が追加されていて驚きました。お褒めの言葉が書かれた手紙もいただきました。もちろんまたエリーさんに全て渡しました。



 この時からエリーさんは、私とカロリッタさんにとって戦友ともとなりました。正妻の座を譲るつもりはありませんが、彼女が私を排除しようと思わない限り、彼女がここにいることについて私は決して文句は言いません。

 それにしてもこのドレスは……下着は……彼女の発想は……神はここに御座おわしましたか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

処理中です...