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第一章 第二部
キヴィオ市での買い物
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さて、今回も軍資金が用意できたので、商店を見て回ろう。食材でも雑貨でも、物自体はユーヴィ市にもあったけど、種類に関しては明らかにキヴィオ市の方が多い。さすがは領都。そしてユーヴィ市では手に入らなかったものが魔道具。魔道具とは言っても戦いに使うようなものではなく、日常的に使うものが見たい。実際に買うかどうかはともかく、どういう物があるのかが知りたいんだよね。
そういうわけで、キヴィオ市の東部、まるでかっぱ橋道具街のように生活用品や厨房用品の店が連なっている区画へ。料理をするのは主に僕とエリーなので、二人で魔道具に限らず使いたいものを選んでいく。もちろんリゼッタとカロリッタも料理をしないわけではないけど、二人とも食べるほうが得意かな。一応気になるものがあれば言うようにと言ってある。
「旦那様、この裏ごし器はすごいですね」
「ムーランって名前だったかな。野菜を粉砕して裏漉しする道具だね」
「たのしそー」
「楽しそうだけど手を入れたら危ないからね」
「このでこぼこのはー?」
「たこ焼き器かな? 生地を入れてくるくる回すと丸く焼けるんだよ」
「たこ?」
「そう、タコ。足が八本ある海にいる生き物」
「これを使った『玉焼き』を屋台で売っている人もいます。具が入っていないものが多いですね」
たこ焼きは『玉焼き』と言うらしい。このあたりは海が遠いから海産物はほとんど見ないそうだ。あっても干物くらい。タコの代わりに色々な食材を入れて焼いて、具が入ってないものは単なる玉焼き、肉が入れば肉玉焼きなどと呼ぶらしい。
エリーとミシェルと話しながら見てると、意外にも日本で見たことのある道具や魔道具が多かった。たこ焼き器は作ってなかったから買っていこう。ムーランはミシェルが遊びたがるかもしれないし、買ってからちょっと形を変えるか。ミキサーは買おう。このカセットコンロも買う。鍋にいいね。さすがに炊飯器は売ってなかった。
リゼッタとカロリッタは食器を見てる。せっかく来たんだから新しいお皿を買ってもいいかな。一般的には木でできた食器が主流で。陶器や磁器のものは割れやすくて高価だから買う人は限られている。
そうやって色々と買い込んでいくうちに、一人暮らしを始めるから一式買いにきた感じになってしまった。
◆ ◆ ◆
昨日はキッチン用品を中心に見て回ったので、今日は主に食材かな。朝市はわりとどの場所でも開かれているようで、宿屋から少し行ったところでもやっていた。
ミシェルを抱っこしながらみんなで町中を歩く。肩車のが楽といえば楽だけど、ちょっと目立つしね。周りに人が多いとミシェルは前の人の背中かお尻しか見えないし危ないんだよね。
「野菜の苗とか種とかも売ってるね。どうせならうちにないやつがいいな。エリーは何か食べたいのはある?」
「そうですね。畑にないものを育てたいですね。それでしたら豆類でしょうか。野菜はかなり種類がありますけど」
「時間はかかるけど、苗木とかも買っていって植えようか。いずれは果物とかナッツとかも採れるだろうし」
「ナッツすきー」
ナッツ類はリゼッタも好きだから食材としてそれなりに買っているけど、木の実が採れる木はうちにはクリとシイくらいしかない。なぜクリとシイだけが森にあったのかは分からないけど。
うちの畑はエリーとミシェルに任せてるけど、よく育つんだよね。しかも育つのが早い。それに、最近知ったんだけど、野菜をそのまま放っておくと食べごろで成長が止まる。普通なら育ち過ぎたら固くて食べられないとか萎れるとか、そうなると思うけど、なぜか食べごろのまま止まる。
少し困るのが、あの畑では大豆が採れないこと。青々としたままの、枝豆にピッタリの状態で止まってしまう。ダイズを植えたままにして枯れさせて採ったのが大豆だからね。枯れないと大豆になってくれない。ものすごく好きなわけじゃないけど、豆腐とか油揚げとかが欲しい時もあるし、醤油と味噌もできれば作りたい。マジックバッグには入ってるけど。
他には実が大きくなった後で花が咲くニンジンやダイコンなどの根菜は種の採取ができない。実が十分成長すると、花が咲く前に止まってしまう。何かいい方法はないかと試行錯誤中。
それが分かったのも、野菜が育つのがあまりにも早くて、ミシェルが「このままだとどーなるの? もっとおーきくなるの?」と言ったから。僕も気になって畑の一部を試しに放置したら、そこからまったく変化なし。食べごろだと思って慌てて収穫してたから気付かなかったよ。
そんなわけで、無理して収穫はしない。保存庫が一杯になるからね、腐るわけじゃないけど。だから使った分の野菜を収穫して保存庫に入れるというローリングストック方式を使うことにした。加工食品じゃないけど。
「ケネス、クルミを植えてもいいでしょうか?」
「クルミは子孫繁栄ですね~」
「いえ、そういうわけ……はい、そうです」
「旦那様、ぜひ植えましょう、何本でも!」
「はいはい、じゃあ買うのはクルミとハシバミ、マカダミア、ピスタチオ、トチノキね。すみません、この五種類を五本ずつお願いします」
「おー、豪勢だね。少しおまけだ。ピーカンを一本持ってってくれ」
「ありがとうございます」
受け取った苗木をマジックバッグに入れていく。植えるなら森の近くかな。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ」
ここはキヴィオ市の南東部にある食材の問屋。麦や米などの保存が利く物が多い。他にも香辛料なども扱っているらしいというのはギルドで聞いてきた。どちらかと言えば商人ギルドの管轄かもしれないけど、もちろん冒険者ギルドでもある程度の話は聞ける。説明をしてくれたハンナさんだったので、すんなりと聞きたいことが聞けた。
それでわざわざ問屋に来たのには理由がある。もちろん商店や露店でもある程度は買えるけど、まとめて買うならここ。量も種類もぜんぜん違う。
問屋は種類が多くて割安だけど、卸だから一度に大量に買わなければならない。露店は種類は少なく割高だけど、欲しい量だけ買うことができる。町の商店はその中間くらい。家でどれだけ料理ができるかという話が関係してくる。
家にオーブンや窯があって、薪も十分にあって、いつでも自由に料理ができる家は少ない。だから家にはあまり多くの調味料や香辛料はない。ある程度量を使うものは商店で買い、あまり使わないものは露店で買う。問屋は大量に購入する必要がある飲食店などが利用することが多い。
「こちらには米がたくさんあると聞いてきたのですが」
「ええ、ございますよ。種類もそれなりに揃っております」
店の部分にはサンプルとして精米したものが少しずつ置いてあるだけで、他は倉庫にあるらしい。見せてもらったところ、馴染みのあるジャポニカ米だけでなくインディカ米などもある。色も長さも大きさも違うものがたくさんあり、ミシェルも面白そうに見ている。
「蒸して搗くと粘りが出るものはありませんか?」
「丸米ですね。こちらがそうです」
見せてもらったのは、うるち米よりも丸みがあって乳白色、いわゆるもち米。日本で見たもち米よりかなり丸い。丸米やもち米と呼ぶらしい。ジャポニカ米は米とか細米、インディカ米は長米。インディカ米とかジャポニカ米とか言われても、こちらの人には由来も分からないだろうしね。
長米も色や香りが違うものが何種類もあった。田んぼを作って植えてもいいね。いずれは自家採種したいね。
「では米と丸米、長米はこの二種類、籾殻の付いたのものと精米後のものをぞれぞれ一袋ずつお願いします。それと、この小麦も一袋お願いします」
「かしこまりました。どちらまでお運びすればよろしいでしょうか?」
「いえ、持ち帰りますので、店先に積んでください」
店先に持ってきてもらい、順番にマジックバッグに入れていく。買い物が終われば次は香辛料の問屋へ。
香辛料と言っても畑で栽培できるものは栽培している。香辛料って栽培が難しいものが多いはずなんだけど、育つんだよね、うちの畑は。水さえちゃんとやれば。でも木から採れるナツメグやシナモン、ローリエなどはさすがにまだ栽培していない。
いずれはカレーで使うスパイスをすべて自分で作ることを目標にして、今のところは一通り揃えることを考える。
◆ ◆ ◆
連日買い物に出かけていればそれなりに出費もする。でも冒険者ギルドに寄って素材を売ってお金を受け取っているから、余裕はかなりある。あのポリーナさんは相変わらずだったよ。ああいう人みたい。通路の角を直角に曲がってたし。ギルドに入る前は舞台女優をしてたとか、前世は劇団員だったとかじゃないだろうか。宝塚歌劇団出身の人って、普段の動作がお芝居っぽくなるって聞くし。
それはそうと、主にキッチンで使う道具がかなり充実してきた。異空間の僕の家は、簡単に言うと最高の水廻りをを備えた、ただの広い家。それ以外は何もなかったんだよね。
例えばエアコン、洗濯機、掃除機、食洗機、炊飯器、ハンドミキサー、ミキサー、魔力ケトル、コンポストなどはなかったから、炊飯器とミキサー以外は順番に作っていった。おそらくこの世界にないものは付いてなかったんだろうね。照明器具やオーブンが最初からあったのは、この世界にも普通にあるからだろう。温水洗浄トイレは……僕が強く希望したからかな?
だから少しずつ魔道具を作ってきたけど、コツを掴むまでが大変だった。エアコンは難しそうに見えてまだ楽な方。[送風]と[加熱]と[冷却]を使い、風量と温度を変えるだけ。掃除機も[送風]で空気を吸って細かな布の袋で漉すだけだし、洗濯機と食洗機は[浄化]と[修復]できれいにしつつ食器や衣類の傷みを治す。ハンドミキサーは[回転]で速度の調節だけ。魔力ケトルも[加熱]と[冷却]で温度を調節するだけ。コンポストは[粉砕]して[分解]するだけ。
でも炊飯器はものすごく難しい。組込みシステムがないので細かな制御はできない。日本人のお米に対する執念はすごいね。圧力IHで加熱して、真空断熱で保温、超音波や真空で水を吸わせたり、温度センサーや重量センサーで管理。これを魔道具で再現しようとしたら大変なことになるから。あきらめて鍋で炊いたらちゃんと炊けたので、悩んだ時間がもったいなかった。
それとは別にもう一つ探しているものがある。カローラさんへのお礼。エリーとミシェルの件でね。アクセサリーを続けるというのも芸がないし。
「カローラ様へのお礼ということでしたら、私に何かできればいいのですが」
「エリーができることなら……やっぱり服かな。あのチャイナドレスはなかなか立派だと思うよ」
女性陣はみんな揃ってチャイナドレス、僕は男性用の長めの旗袍を着て集まったことがあった。恥ずかしかったけど面白かったけどね。
「ええ、外出用として正式な場にも着ていけるように仕立てました。ちなみに他の服は?」
「他にも作ったの? まだ見せてもらってないけど」
「なら別の機会でしょうね。一度に見せてはもったいないでしょうから」
「じゃあ、カローラさんに服を作るのはどうだろう。僕もある程度なら裁縫もできるし」
「ではいくつかデザインを考えておきます。旦那様はその中から一つ選んでください。私も自分で一つ選びます」
それから宿屋に戻ると、エリーは一度家に戻ってからデザインを持って戻ってきた。
「先日チャイナドレスを仕立てる時に、他のデザインも考えてみました。リゼッタ様やカロリッタ様にもアイデアを出してもらいまして、今はこれくらい用意できます」
「結構な数があるね。どこかで見たことがあるような……カロリッタは僕の頭の中から抜き取ったね」
振袖は分かる。これはドイツとかオランダとかだろうか? このあたりは北欧っぽい。これはハワイ。サリーっぽいからインドかな。これはカウガール……セーラー服にメイド服にサンタ服。某国民的RPGの僧侶の服とかビキニアーマーとか、このあたり全部コスプレじゃない? そりゃまあ僕の頭の中にも色々入ってますよ……
「旦那様はパーツ数が少ない着物をお願いします。道具も揃っていますので」
「分かった。じゃあ裁縫用の部屋を一つ用意しようか?」
「よろしくお願いします」
そういうわけで、キヴィオ市の東部、まるでかっぱ橋道具街のように生活用品や厨房用品の店が連なっている区画へ。料理をするのは主に僕とエリーなので、二人で魔道具に限らず使いたいものを選んでいく。もちろんリゼッタとカロリッタも料理をしないわけではないけど、二人とも食べるほうが得意かな。一応気になるものがあれば言うようにと言ってある。
「旦那様、この裏ごし器はすごいですね」
「ムーランって名前だったかな。野菜を粉砕して裏漉しする道具だね」
「たのしそー」
「楽しそうだけど手を入れたら危ないからね」
「このでこぼこのはー?」
「たこ焼き器かな? 生地を入れてくるくる回すと丸く焼けるんだよ」
「たこ?」
「そう、タコ。足が八本ある海にいる生き物」
「これを使った『玉焼き』を屋台で売っている人もいます。具が入っていないものが多いですね」
たこ焼きは『玉焼き』と言うらしい。このあたりは海が遠いから海産物はほとんど見ないそうだ。あっても干物くらい。タコの代わりに色々な食材を入れて焼いて、具が入ってないものは単なる玉焼き、肉が入れば肉玉焼きなどと呼ぶらしい。
エリーとミシェルと話しながら見てると、意外にも日本で見たことのある道具や魔道具が多かった。たこ焼き器は作ってなかったから買っていこう。ムーランはミシェルが遊びたがるかもしれないし、買ってからちょっと形を変えるか。ミキサーは買おう。このカセットコンロも買う。鍋にいいね。さすがに炊飯器は売ってなかった。
リゼッタとカロリッタは食器を見てる。せっかく来たんだから新しいお皿を買ってもいいかな。一般的には木でできた食器が主流で。陶器や磁器のものは割れやすくて高価だから買う人は限られている。
そうやって色々と買い込んでいくうちに、一人暮らしを始めるから一式買いにきた感じになってしまった。
◆ ◆ ◆
昨日はキッチン用品を中心に見て回ったので、今日は主に食材かな。朝市はわりとどの場所でも開かれているようで、宿屋から少し行ったところでもやっていた。
ミシェルを抱っこしながらみんなで町中を歩く。肩車のが楽といえば楽だけど、ちょっと目立つしね。周りに人が多いとミシェルは前の人の背中かお尻しか見えないし危ないんだよね。
「野菜の苗とか種とかも売ってるね。どうせならうちにないやつがいいな。エリーは何か食べたいのはある?」
「そうですね。畑にないものを育てたいですね。それでしたら豆類でしょうか。野菜はかなり種類がありますけど」
「時間はかかるけど、苗木とかも買っていって植えようか。いずれは果物とかナッツとかも採れるだろうし」
「ナッツすきー」
ナッツ類はリゼッタも好きだから食材としてそれなりに買っているけど、木の実が採れる木はうちにはクリとシイくらいしかない。なぜクリとシイだけが森にあったのかは分からないけど。
うちの畑はエリーとミシェルに任せてるけど、よく育つんだよね。しかも育つのが早い。それに、最近知ったんだけど、野菜をそのまま放っておくと食べごろで成長が止まる。普通なら育ち過ぎたら固くて食べられないとか萎れるとか、そうなると思うけど、なぜか食べごろのまま止まる。
少し困るのが、あの畑では大豆が採れないこと。青々としたままの、枝豆にピッタリの状態で止まってしまう。ダイズを植えたままにして枯れさせて採ったのが大豆だからね。枯れないと大豆になってくれない。ものすごく好きなわけじゃないけど、豆腐とか油揚げとかが欲しい時もあるし、醤油と味噌もできれば作りたい。マジックバッグには入ってるけど。
他には実が大きくなった後で花が咲くニンジンやダイコンなどの根菜は種の採取ができない。実が十分成長すると、花が咲く前に止まってしまう。何かいい方法はないかと試行錯誤中。
それが分かったのも、野菜が育つのがあまりにも早くて、ミシェルが「このままだとどーなるの? もっとおーきくなるの?」と言ったから。僕も気になって畑の一部を試しに放置したら、そこからまったく変化なし。食べごろだと思って慌てて収穫してたから気付かなかったよ。
そんなわけで、無理して収穫はしない。保存庫が一杯になるからね、腐るわけじゃないけど。だから使った分の野菜を収穫して保存庫に入れるというローリングストック方式を使うことにした。加工食品じゃないけど。
「ケネス、クルミを植えてもいいでしょうか?」
「クルミは子孫繁栄ですね~」
「いえ、そういうわけ……はい、そうです」
「旦那様、ぜひ植えましょう、何本でも!」
「はいはい、じゃあ買うのはクルミとハシバミ、マカダミア、ピスタチオ、トチノキね。すみません、この五種類を五本ずつお願いします」
「おー、豪勢だね。少しおまけだ。ピーカンを一本持ってってくれ」
「ありがとうございます」
受け取った苗木をマジックバッグに入れていく。植えるなら森の近くかな。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ」
ここはキヴィオ市の南東部にある食材の問屋。麦や米などの保存が利く物が多い。他にも香辛料なども扱っているらしいというのはギルドで聞いてきた。どちらかと言えば商人ギルドの管轄かもしれないけど、もちろん冒険者ギルドでもある程度の話は聞ける。説明をしてくれたハンナさんだったので、すんなりと聞きたいことが聞けた。
それでわざわざ問屋に来たのには理由がある。もちろん商店や露店でもある程度は買えるけど、まとめて買うならここ。量も種類もぜんぜん違う。
問屋は種類が多くて割安だけど、卸だから一度に大量に買わなければならない。露店は種類は少なく割高だけど、欲しい量だけ買うことができる。町の商店はその中間くらい。家でどれだけ料理ができるかという話が関係してくる。
家にオーブンや窯があって、薪も十分にあって、いつでも自由に料理ができる家は少ない。だから家にはあまり多くの調味料や香辛料はない。ある程度量を使うものは商店で買い、あまり使わないものは露店で買う。問屋は大量に購入する必要がある飲食店などが利用することが多い。
「こちらには米がたくさんあると聞いてきたのですが」
「ええ、ございますよ。種類もそれなりに揃っております」
店の部分にはサンプルとして精米したものが少しずつ置いてあるだけで、他は倉庫にあるらしい。見せてもらったところ、馴染みのあるジャポニカ米だけでなくインディカ米などもある。色も長さも大きさも違うものがたくさんあり、ミシェルも面白そうに見ている。
「蒸して搗くと粘りが出るものはありませんか?」
「丸米ですね。こちらがそうです」
見せてもらったのは、うるち米よりも丸みがあって乳白色、いわゆるもち米。日本で見たもち米よりかなり丸い。丸米やもち米と呼ぶらしい。ジャポニカ米は米とか細米、インディカ米は長米。インディカ米とかジャポニカ米とか言われても、こちらの人には由来も分からないだろうしね。
長米も色や香りが違うものが何種類もあった。田んぼを作って植えてもいいね。いずれは自家採種したいね。
「では米と丸米、長米はこの二種類、籾殻の付いたのものと精米後のものをぞれぞれ一袋ずつお願いします。それと、この小麦も一袋お願いします」
「かしこまりました。どちらまでお運びすればよろしいでしょうか?」
「いえ、持ち帰りますので、店先に積んでください」
店先に持ってきてもらい、順番にマジックバッグに入れていく。買い物が終われば次は香辛料の問屋へ。
香辛料と言っても畑で栽培できるものは栽培している。香辛料って栽培が難しいものが多いはずなんだけど、育つんだよね、うちの畑は。水さえちゃんとやれば。でも木から採れるナツメグやシナモン、ローリエなどはさすがにまだ栽培していない。
いずれはカレーで使うスパイスをすべて自分で作ることを目標にして、今のところは一通り揃えることを考える。
◆ ◆ ◆
連日買い物に出かけていればそれなりに出費もする。でも冒険者ギルドに寄って素材を売ってお金を受け取っているから、余裕はかなりある。あのポリーナさんは相変わらずだったよ。ああいう人みたい。通路の角を直角に曲がってたし。ギルドに入る前は舞台女優をしてたとか、前世は劇団員だったとかじゃないだろうか。宝塚歌劇団出身の人って、普段の動作がお芝居っぽくなるって聞くし。
それはそうと、主にキッチンで使う道具がかなり充実してきた。異空間の僕の家は、簡単に言うと最高の水廻りをを備えた、ただの広い家。それ以外は何もなかったんだよね。
例えばエアコン、洗濯機、掃除機、食洗機、炊飯器、ハンドミキサー、ミキサー、魔力ケトル、コンポストなどはなかったから、炊飯器とミキサー以外は順番に作っていった。おそらくこの世界にないものは付いてなかったんだろうね。照明器具やオーブンが最初からあったのは、この世界にも普通にあるからだろう。温水洗浄トイレは……僕が強く希望したからかな?
だから少しずつ魔道具を作ってきたけど、コツを掴むまでが大変だった。エアコンは難しそうに見えてまだ楽な方。[送風]と[加熱]と[冷却]を使い、風量と温度を変えるだけ。掃除機も[送風]で空気を吸って細かな布の袋で漉すだけだし、洗濯機と食洗機は[浄化]と[修復]できれいにしつつ食器や衣類の傷みを治す。ハンドミキサーは[回転]で速度の調節だけ。魔力ケトルも[加熱]と[冷却]で温度を調節するだけ。コンポストは[粉砕]して[分解]するだけ。
でも炊飯器はものすごく難しい。組込みシステムがないので細かな制御はできない。日本人のお米に対する執念はすごいね。圧力IHで加熱して、真空断熱で保温、超音波や真空で水を吸わせたり、温度センサーや重量センサーで管理。これを魔道具で再現しようとしたら大変なことになるから。あきらめて鍋で炊いたらちゃんと炊けたので、悩んだ時間がもったいなかった。
それとは別にもう一つ探しているものがある。カローラさんへのお礼。エリーとミシェルの件でね。アクセサリーを続けるというのも芸がないし。
「カローラ様へのお礼ということでしたら、私に何かできればいいのですが」
「エリーができることなら……やっぱり服かな。あのチャイナドレスはなかなか立派だと思うよ」
女性陣はみんな揃ってチャイナドレス、僕は男性用の長めの旗袍を着て集まったことがあった。恥ずかしかったけど面白かったけどね。
「ええ、外出用として正式な場にも着ていけるように仕立てました。ちなみに他の服は?」
「他にも作ったの? まだ見せてもらってないけど」
「なら別の機会でしょうね。一度に見せてはもったいないでしょうから」
「じゃあ、カローラさんに服を作るのはどうだろう。僕もある程度なら裁縫もできるし」
「ではいくつかデザインを考えておきます。旦那様はその中から一つ選んでください。私も自分で一つ選びます」
それから宿屋に戻ると、エリーは一度家に戻ってからデザインを持って戻ってきた。
「先日チャイナドレスを仕立てる時に、他のデザインも考えてみました。リゼッタ様やカロリッタ様にもアイデアを出してもらいまして、今はこれくらい用意できます」
「結構な数があるね。どこかで見たことがあるような……カロリッタは僕の頭の中から抜き取ったね」
振袖は分かる。これはドイツとかオランダとかだろうか? このあたりは北欧っぽい。これはハワイ。サリーっぽいからインドかな。これはカウガール……セーラー服にメイド服にサンタ服。某国民的RPGの僧侶の服とかビキニアーマーとか、このあたり全部コスプレじゃない? そりゃまあ僕の頭の中にも色々入ってますよ……
「旦那様はパーツ数が少ない着物をお願いします。道具も揃っていますので」
「分かった。じゃあ裁縫用の部屋を一つ用意しようか?」
「よろしくお願いします」
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