新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第一章 第三部

マイカの趣味

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 ラクヴィ市を出て王都を目指す。普通に歩けば一か月半はかかる。だからと言って無理に急いだりはせず、のんびりした旅は変わらない。朝に家を出て夕方になれば家に戻って食事を取る。これぞ我が旅。



「……それで、どうしてマイカはメイド服を?」
「ご主人様、似合いませんか?」

 家に帰った僕を出迎えてくれたのはメイド服を着たマイカ。白い肩くらいまでの髪と横に垂れた耳、白いしっぽ、そしてクラシックな黒いメイド服。

「似合うか似合わないかで言えば絶対的に似合うんだけど、そんなに無理して個性を出したい?」
「いえ、エリーさんが色々な服を用意してくれましたので、試しに順番に着てたんです。最後がこれだったのでそのまま着てました。セーラー服もありましたよ」
「エリーは何を始めるつもりなんだろう?」
「そうは言っても~セーラー服とかメイド服とかも~嫌いじゃないですよね~?」
「嫌う要素はないでしょ?」
「! マイカさん! そのセーラー服はどこにありますか?」
「先ほどエリーさんが持っていきましたよ」
「ありがとうございます!」

 リゼッタが走っていった。これは絶対に詳細な感想を求められるね。

 走って戻ってきたリゼッタは完璧にセーラー服を着こなしていた。コスプレ感ゼロ。「前から着ていましたよ」と言われたら、「そう言えばそうだったね」と納得しそう。

「さあケネス、どうですか?」
「うん、びっくりするくらい似合うよ。似合いすぎ。誰がどう見てもクラス委員長」

 思わず頭を撫でる。マイカも頭を差し出してきたので一緒に撫でる。

「リゼッタさん、こういう時は~……」

 カロリッタがリゼッタを引っ張っていって耳打ちを始めた。絶対ろくなことじゃないだろう……

「え? はい……えーと、ではやり直します……、似合う?」
「ぶふっ!」



 復帰にしばらく時間がかかったけど、なんとか立て直しに成功。

「えーっと、リゼッタ」
「はいっ!」
「その服装と口調は精神的なダメージが大きいから、他のにしてくれると嬉しい」
「似合わないですか?」

 捨てられた子犬みたいな表情で見てくる。

「いや逆。似合い過ぎ。似合い過ぎて怖いくらい」
「分かりました。ここぞという時にだけ使います!」
「ここぞって何?」



「ここに一日いただけなのに、もう他のところには住みたくなくなりました。もちろん出ていくつもりなんて全然ありませんけど。先輩が昼間は外にいて夕方には帰ってくるという意味がよく分かりました」

 彼女は伯爵家に生まれたから、こちらでの生活もそれほど悪くなかったとは思うけど、やはり家電を知っていると不便なことは多かっただろうね。

「快適な生活を追求するとこうなるんだよね。魔道具は作ったり買ったりして便利になったと思うけど、さすがにテレビやパソコンはないからね。どうしても娯楽の分野が足りないかな」
「娯楽ですか……う~ん……」
「何か欲しいものでもあるの?」
「あるにはあるんですけど、この世界では絶対手に入らないものですね」
「聞いてもいい?」
「実は子供の頃から少女漫画を集めるのが趣味でした」
「あー、こっちには漫画はないよね。本屋ってあったかな?」
「本屋は一応ありますけど、ほとんどが上流階級向けですね。大人用の本はほとんど文字ばかりで、説明にために挿し絵があるくらいです。ある程度絵があるのは子供向けで、教養のための絵本という感じでしょうか。日本の漫画のような物はありませんでした。昔は部屋を一つ書庫として使うくらい集めてましたけど」
「かなりの冊数になるんじゃない?」
「はい、本棚を可能な限り詰め込みました。他の場所にも本棚はありましたので全部で二万冊はあったと思います」
「耐荷重は大丈夫?」
「床が抜けなければどうということはないんですよ」



◆ ◆ ◆



 マサキ・マイカは可愛いか可愛くないかで言えば可愛い方に入っただろうが、やや消極的な性格と地味な服装のせいでモテるということはなかった。『年齢=彼氏いない歴』だったが、そもそもモテるつもりもなかったので、そんなことはまったく気にしていなかったと断言してもいい。そんな彼女の趣味は、自分を主人公に重ね合わせることができる少女漫画だった。

 彼女の好きなストーリーは昔からあるようなスタンダードなものが多く、BLなどはそれほど好きではなかったのは、誰かにとっては救いだっただろう。

 彼女は一人暮らしとしては珍しくファミリー向けマンションに住んでいたが、それは一部屋を丸々書庫にするためだった。ただ冊数が入ればそれでいい。簡単なことだった。

 本棚は全てホームセンターでスチールアングルを買ってきて自作。壁面は全て本棚にし、壁面以外にも本棚を壁のようにどんどん立てる。耐震のためにきちんと固定するのを忘れない。

 本棚の上にも板を渡し、可能な限り本を並べる。この部屋以外にも、リビングやダイニング、廊下にも厳選した愛読書を並べた本棚を置き、合計冊数は二万冊を超える。

 そんな彼女が亡くなった時、彼女の部屋にあった少女漫画は本棚ごと全てなくなっていた。まるでそこには最初から何もなかったかのように。



「あれ? なんでまたマジックバッグが?」

 僕のマジックバッグにまた斜めがけのマジックバッグが入っていた。そのすぐ横に手紙が置いてある。当たり前だけどカローラさんだね、これは。

「カローラさんからのメモがあるね。『この手紙とマジックバッグをマイカさんへ渡してください』って書いてあるよ。はい」
「ありがとうございます。ええと、一応読みますね。『マイカさんの少女漫画は全て回収してこのマジックバッグの中に入れてあります。前に会った時、漫画のことを気にしていましたよね? 部屋にあったシリーズの続刊は全て追加してあります。他に気になる作品がなどある場合は部下に探してもらってここに入れますので、この中にメモなどを入れてください。このマジックバッグはマイカさんに差し上げますので好きに使ってください。なお、本棚はもう限界のようでしたので処分しました。これまでの保管料として『一発必中』と『百発百中』を一本ずついただきました。いずれこれを使う時を楽しみにしていますね、ケネスさん。ちなみにどのパジャマとシチュエーションがお好みでしたか? あなたのカローラ』です」
「途中から手紙を書いている相手が僕に変わってるよね。それにしても少女漫画を買いに行かされる部下の人が気の毒だなあ」
「先輩、カローラさんに愛されてますね。でも『どのパジャマとシチュエーションがお好みでしたか』って、カローラさんと何をしてたんですか?」

 ジト目はやめて。でもここは黙秘。まあ写真集のことだね。一時期減ったけど、最近また増え始めたんだよね。カローラさんの名誉のために下手なことは言えないから、ここは何があっても黙秘。

 それより、あのお酒がカローラさんの手に渡ったか。そりゃマジックバッグに入ってれば分かるよね。でも他に置いておく場所もなかったし。

「まあ、それは後で聞きましょう。それより部屋は余ってますよね。みなさんにも読んでもらいたいので、書庫を作ってはだめですか?」
「いいよ。じゃあ一部屋にどれくらい入れられるか確認してみようか。本棚は薄くて頑丈なものを作るね」
「ありがとうございます」

 その直後から、うちの女性陣の間で少女漫画ブームが起きた。カローラさんへ追加購入もお願いしたらしい。

 それはいいけど、ちゃんとお金は払ってるのかな。さすがにカローラさんもタダでは買ってくれないと思うよ。で、この執事服は誰が着るのかな? そして、そのカメラは何? 写真は誰に見せるの?
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