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第一章 第三部
既知との遭遇
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ラクヴィ市を慌ただしく離れて早一週間、現在は王都へ向かって歩いている。多分大丈夫だとは思うんだけど、マイカのお父さんが何かを仕掛けてくる可能性があるので、伯爵領内では町に入らないようにしている。
今日はリゼッタとカロリッタ、それとマイカも外に出ている。
「結局やりたいことは見つかりそう? 無理に探さなくても、こうやって一緒に歩いてるだけでもいいよ?」
一緒に生活するようになってから、マイカは自分の立ち位置に悩み始めたらしい。だから僕の恋人になったら、とりあえずみんなと一緒になれると考えたと。
リゼッタとカロリッタは僕のガイド役だし、エリーは家政婦、ミシェルはそのお手伝いというか我が家のマスコット。マイカは僕の代わりに日本の料理をエリーに教えてるけど、そんなに一度に教えられるわけでもないしね。
「なかなかないんですよね、自分ができることって。そこそこ器用だとは思いますけど」
「こんなことを言えた義理じゃないかもしれないけど、ゆっくり考えたらいいよ」
「ありがとうございます。先輩は早く覚悟を決めてくださいね」
彼女は箱入り娘だった。性格はそうではないようだけど。あの父と兄のせいで必要がない限りは外へ出してもらえなかったと言うべきか。だからこうやってしばらくのびのびしてたらいいと思う。急いで何かをする必要もないしね。でも僕は急かさないでね。
こうやって悩んではいたけど、少女漫画を読み始めたエリーから日本語を教えてくれるようにお願いされていたので、ミシェルの先生をするのもいいかもね。
僕の方も先日彼女の告白を聞いたけど、だからと言ってすぐに、はいそうですか、と受け入れられるわけでもない。何をグダグダ言ってるのかと思うかもしれないけど、もう一人増やすって勇気がいるよ。作るだけ作ってそれでいいわけじゃないからね。一緒に生活してるんだから。
ラクヴィ市では全然ゆっくりできなかったから、どこかで少しのんびりしたい。ここまでユーヴィ市でもキヴィオ市でもそれなりにゆっくりしてたからね。
「マイカは王都へ行ったことがあるでしょ? 王都までの間で名所とかない?」
「名所ですか……ラクヴィ伯爵領と直轄領の間あたり、ちょうどこの北の方角に尖った山が見えますよね。あのあたりはシムーナ子爵領になりますけど、あの山の周辺には竜がいると言われています。町を襲ったりはしないようですけどね。さすがに見に行く許可は貰えませんでした」
「いやいや、それは名所じゃなくて警戒区域とかじゃないの? 動物園や自然保護区じゃないんだから。さすがに竜を見物に行くような度胸はないよ。そう言えば古代竜がいるとか以前に話してたよね、リゼッタ」
「はい。この惑星にもいますよ。まず人前には現れないでしょうし、力も魔力も地上最強の生物ですので、暴れたら国が滅ぶレベルですね」
「でもマスターは引きが強いですから~古代竜も向こうから寄ってきそうですよね~」
「先輩が呼びかけたら来ませんか?」
「いや、来ないでしょ。竜が来ても《呼んだかの?》
「……誰か何か言った?」
「いえ、私は何も言っていませんが」
「しゃべってませんよ~」
「私もしゃべってません」
「……まあいいか。それでその古代《無視されるのもつらいのじゃが……》
《……それは失礼しました。で、この頭に響く声の持ち主の方はどちら様ですか?》
《古代竜古代竜と言うとったじゃろ。ちょっと覗いてみようと思うたら、そこにいたのが何やら不思議な魂の持ち主じゃったからのう、ついつい声をかけてしもうた》
《では古代竜の方ですよね?》
《うむ、そちらへ行って姿を見せてもよいか?》
《できればあまり驚かない格好で現れていただきたいのですが》
《そのあたりはよう分かっとる。竜の姿でいきなり姿を見せると驚かれるのでな》
近くの草むらが一瞬揺れたかと思ったら、そこにはマリー・アントワネットのような、なんとも豪華なドレスで着飾った黒髪の女性が立っていた。
いきなり念話で話しかけてきたのは、ロココ調って言うんだっけ、フランスの宮廷衣装のようなドレスを着た古代竜だと名乗る女性。背は……髪を盛りすぎてよく分からないけど、顔の位置からするとエリーと同じくらいか、もう少し高いかな。さすがに周りもびっくりしてる。いきなり現れたから驚いたのか、それともその衣装に驚いたのか。僕はその衣装に驚いてるんだけど、話をしないことには何も始まらない。
「初めまして。ケネスと申します。先ほど不思議な魂だとおっしゃいましたが、それはどういう意味でしょうか?」
「ワシはマリアンという。人からは古代竜とか呼ばれておるのう。ちなみに古代竜とは年を取った竜という意味ではないからの。そういう種族じゃ。それでお主の魂じゃが、かなり捏ねくり回されているようでな、声も聞こえたことじゃし、顔くらい見せようかと思うたわけじゃ」
「声をかけたつもりはないのですが、何か聞こえたということでしょうか?」
「うむ、お主の念話は言葉に乗ってしもうとる。普通はそんなことはないのじゃが」
「ひょっとして丸聞こえでしたか?」
「いやいや、そんなことはないぞ。ところどころじゃ。あれでは相当に耳が良くないと聞こえないじゃろ」
他の三人も立ち直ったようだけどここで立ち話もおかしいので、一度家へと戻ることにした。マリアンさんにも来てもらうことにする。エリーには[念話]で来客の準備をするように頼んだ。彼女も最近ようやく[念話]が使えるようになったので連絡が楽になったけど、[念話]で悪戯しないように説得するのが大変だった。
マリアンは異空間に入った途端に目を見開いた。
「この広さは……ケネス殿、お主の魔力量はワシ程度ではないじゃろう。どんな魂をしとるんじゃ」
「多いのは分かるのですが、比較対象がいないので、正直なところ自分の魔力がどれくらい多いのかが分からないのですよ」
「それでその魂というわけか。なるほどのう」
マリアンは僕をじっと見ながらそう言った。
玄関の前で着物姿のエリーが出迎えてくれる。満面の笑みだね。
「ようこそいらっしゃいました」
「マリアンじゃ。すまぬな、少し寄らせてもらう」
「どうぞごゆっくりなさってください。ところでマリアン様。不躾ながらお聞きしますが、その立派なお召し物はどなたが仕立てられたのでしょうか?」
「これか? 仕立てはワシじゃが、デザインはマリーという名の女じゃな。前世の記憶を持っておると言っておったぞ。其奴がこのような形もあると教えてくれたのじゃ。名前が似とったから意気投合してのう」
「実はそのような素晴らしいドレスが出てくる少女漫画という絵物語が当家にはたくさんございまして、それを参考にしていくつか作ってみましたが、一度他の方が作ったものも見てみたいと思っておりました」
「他にも持っておるぞ。後で好きなだけ見たらよい」
「ありがとうございます。それではこちらへどうぞ」
エリーはマイカから日本語を教わって少女漫画を読み、そこに出てくるドレスを作り始めた。わざわざ日本語を学ぶのは、ドレス作りにはイメージとストーリーが最も重要なんだって。
彼女は「いくつか作った」って言ったけど、裁縫室がすぐに溢れたから衣装室に作り変えたんだよ。どんどんコスプレみたいな衣装が増えてるからね。写真館のスタジオのような機材までマイカのアイデアで作らされたからね。
マリアンさんの相手は僕が応接室ですることになった。エリーは目をギラギラさせながらお茶を出した後、キッチンの方へ戻っていった。挨拶に来たミシェルも目を見開いてキッチンへ戻っていった。
「ほう、このように靴を脱いで上がる家は初めて見たわ。これはこれでなかなか快適じゃの」
「僕が前にいた世界にあった家を再現してみました。そっくりそのままではありませんが」
「やはり異世界人で間違いなかったか。[元異世界人]というのが見えたのでな」
「ステータスが見えるのですか?」
ステータスの存在は知られてないはずだよね。
「ほう、お主にも分かるようじゃのう。人はそれぞれ独自の力を持っており、ワシにはそれが見えるのじゃ」
「はい、僕もステータスを見ることができます。それで多少は苦労もしていますが」
「そうじゃろうのう。見なくてもよいものが見えてしまうというのは疲れるものじゃ。それはそうと、もっと言葉遣いを崩すがよい。上下はないのじゃ。マリアンと呼び捨てでよいぞ。別に怒りはせぬ」
「えーと、じゃあマリアン、こんな話し方でもいい? 普段はこんな感じなんだけど」
「おお、それでよいそれでよい。お互いに気楽でよいじゃろ。それよりもケネス殿、お主にはワシの、お主はステータスと言ったか、それは見えるのじゃろ? お主が見たものを詳しく教えてくれぬか? ワシには自分のことだけはなぜかよく見えぬのじゃ。他人のものは見えるのじゃが」
「じゃあ遠慮なく。書き出したらいいかな」
【名前:[マリアン]】
【種族:[古代竜]】
【年齢:[二、五八〇、二五八、三〇六]】
【スキル:[裁縫(特)][デザイン(特)][家具製作(特)][舞踏(特)][文筆(特)][翻訳(特)][作詩(特)][作曲(特)][楽器演奏(特)][楽器製作(特)][鑑定][人物鑑定(ステータスは他者に限る)][料理(特)][食い溜め(特)][息吹][爪][尻尾][飛行][念話][転移][変化][属性魔法(火特)][耐性(全特)】
【特徴:[おしゃれ好き][手先が器用][裁縫が得意][芸術好き][踊るのが好き][文芸活動好き][料理好き][寝るのが好き][温和][聞き上手][退屈を満喫][元異世界人]】
さすがに細かなスキルが多すぎて省いたものは多いけど、彼女の特徴がよく分かるものを書き出して見せた。書くというよりも[念写]で写しただけ。[人物鑑定(ステータスは他者に限る)]って免許じゃないんだから。
「女性と年の話をするのもどうかと思うけど、生まれ変わってからさらに二五億年以上生きてきたって、すごくない?」
「うむ、さすがに前世のことはまったく覚えてはおらぬし、今世でもかなり生きてきたと思うておったが、思った以上に長生きじゃったな」
「かなり文化芸術関係が強いみたいだね」
「時間だけはいくらでもあるからのう。これでも普段は寝て過ごしておるし、数年寝っぱなしもよくあるのう。寝るのが好きじゃが、たまに起きては町へ出かけ、本屋や劇場に寄ったりしておった。ここのところは寝てばっかりじゃったが」
「ならマイカの持ってる少女漫画は気に入るんじゃないかな。マリアンが着ているようなドレスが出てくる作品もあるよ。エリーが言っていた絵物語のことね」
「ほう、では見てみるとするか。最近は着想を得るのもなかなか難しくてのう」
「それじゃあ二階へどうぞ」
「ふおおおおおおおおおお! なんじゃこれは?」
図書室にマリアンの喚声が響き渡った。
「おおうおおう、これはこれは! 次から次へと着想が湧いてくるわ! 異世界の考え方というのはすごいのう。少女漫画と言ったかの、これは素晴らしい刺激よのう」
「ほとんどがマイカのコレクションだね。エリーがこの中に出てくるようなドレスを作ってるから、後で見せてもら……いや、もう着てきたね」
ドアからドレスを着たみんなが入ってきた。ここはどこの宮殿かな?
今日はリゼッタとカロリッタ、それとマイカも外に出ている。
「結局やりたいことは見つかりそう? 無理に探さなくても、こうやって一緒に歩いてるだけでもいいよ?」
一緒に生活するようになってから、マイカは自分の立ち位置に悩み始めたらしい。だから僕の恋人になったら、とりあえずみんなと一緒になれると考えたと。
リゼッタとカロリッタは僕のガイド役だし、エリーは家政婦、ミシェルはそのお手伝いというか我が家のマスコット。マイカは僕の代わりに日本の料理をエリーに教えてるけど、そんなに一度に教えられるわけでもないしね。
「なかなかないんですよね、自分ができることって。そこそこ器用だとは思いますけど」
「こんなことを言えた義理じゃないかもしれないけど、ゆっくり考えたらいいよ」
「ありがとうございます。先輩は早く覚悟を決めてくださいね」
彼女は箱入り娘だった。性格はそうではないようだけど。あの父と兄のせいで必要がない限りは外へ出してもらえなかったと言うべきか。だからこうやってしばらくのびのびしてたらいいと思う。急いで何かをする必要もないしね。でも僕は急かさないでね。
こうやって悩んではいたけど、少女漫画を読み始めたエリーから日本語を教えてくれるようにお願いされていたので、ミシェルの先生をするのもいいかもね。
僕の方も先日彼女の告白を聞いたけど、だからと言ってすぐに、はいそうですか、と受け入れられるわけでもない。何をグダグダ言ってるのかと思うかもしれないけど、もう一人増やすって勇気がいるよ。作るだけ作ってそれでいいわけじゃないからね。一緒に生活してるんだから。
ラクヴィ市では全然ゆっくりできなかったから、どこかで少しのんびりしたい。ここまでユーヴィ市でもキヴィオ市でもそれなりにゆっくりしてたからね。
「マイカは王都へ行ったことがあるでしょ? 王都までの間で名所とかない?」
「名所ですか……ラクヴィ伯爵領と直轄領の間あたり、ちょうどこの北の方角に尖った山が見えますよね。あのあたりはシムーナ子爵領になりますけど、あの山の周辺には竜がいると言われています。町を襲ったりはしないようですけどね。さすがに見に行く許可は貰えませんでした」
「いやいや、それは名所じゃなくて警戒区域とかじゃないの? 動物園や自然保護区じゃないんだから。さすがに竜を見物に行くような度胸はないよ。そう言えば古代竜がいるとか以前に話してたよね、リゼッタ」
「はい。この惑星にもいますよ。まず人前には現れないでしょうし、力も魔力も地上最強の生物ですので、暴れたら国が滅ぶレベルですね」
「でもマスターは引きが強いですから~古代竜も向こうから寄ってきそうですよね~」
「先輩が呼びかけたら来ませんか?」
「いや、来ないでしょ。竜が来ても《呼んだかの?》
「……誰か何か言った?」
「いえ、私は何も言っていませんが」
「しゃべってませんよ~」
「私もしゃべってません」
「……まあいいか。それでその古代《無視されるのもつらいのじゃが……》
《……それは失礼しました。で、この頭に響く声の持ち主の方はどちら様ですか?》
《古代竜古代竜と言うとったじゃろ。ちょっと覗いてみようと思うたら、そこにいたのが何やら不思議な魂の持ち主じゃったからのう、ついつい声をかけてしもうた》
《では古代竜の方ですよね?》
《うむ、そちらへ行って姿を見せてもよいか?》
《できればあまり驚かない格好で現れていただきたいのですが》
《そのあたりはよう分かっとる。竜の姿でいきなり姿を見せると驚かれるのでな》
近くの草むらが一瞬揺れたかと思ったら、そこにはマリー・アントワネットのような、なんとも豪華なドレスで着飾った黒髪の女性が立っていた。
いきなり念話で話しかけてきたのは、ロココ調って言うんだっけ、フランスの宮廷衣装のようなドレスを着た古代竜だと名乗る女性。背は……髪を盛りすぎてよく分からないけど、顔の位置からするとエリーと同じくらいか、もう少し高いかな。さすがに周りもびっくりしてる。いきなり現れたから驚いたのか、それともその衣装に驚いたのか。僕はその衣装に驚いてるんだけど、話をしないことには何も始まらない。
「初めまして。ケネスと申します。先ほど不思議な魂だとおっしゃいましたが、それはどういう意味でしょうか?」
「ワシはマリアンという。人からは古代竜とか呼ばれておるのう。ちなみに古代竜とは年を取った竜という意味ではないからの。そういう種族じゃ。それでお主の魂じゃが、かなり捏ねくり回されているようでな、声も聞こえたことじゃし、顔くらい見せようかと思うたわけじゃ」
「声をかけたつもりはないのですが、何か聞こえたということでしょうか?」
「うむ、お主の念話は言葉に乗ってしもうとる。普通はそんなことはないのじゃが」
「ひょっとして丸聞こえでしたか?」
「いやいや、そんなことはないぞ。ところどころじゃ。あれでは相当に耳が良くないと聞こえないじゃろ」
他の三人も立ち直ったようだけどここで立ち話もおかしいので、一度家へと戻ることにした。マリアンさんにも来てもらうことにする。エリーには[念話]で来客の準備をするように頼んだ。彼女も最近ようやく[念話]が使えるようになったので連絡が楽になったけど、[念話]で悪戯しないように説得するのが大変だった。
マリアンは異空間に入った途端に目を見開いた。
「この広さは……ケネス殿、お主の魔力量はワシ程度ではないじゃろう。どんな魂をしとるんじゃ」
「多いのは分かるのですが、比較対象がいないので、正直なところ自分の魔力がどれくらい多いのかが分からないのですよ」
「それでその魂というわけか。なるほどのう」
マリアンは僕をじっと見ながらそう言った。
玄関の前で着物姿のエリーが出迎えてくれる。満面の笑みだね。
「ようこそいらっしゃいました」
「マリアンじゃ。すまぬな、少し寄らせてもらう」
「どうぞごゆっくりなさってください。ところでマリアン様。不躾ながらお聞きしますが、その立派なお召し物はどなたが仕立てられたのでしょうか?」
「これか? 仕立てはワシじゃが、デザインはマリーという名の女じゃな。前世の記憶を持っておると言っておったぞ。其奴がこのような形もあると教えてくれたのじゃ。名前が似とったから意気投合してのう」
「実はそのような素晴らしいドレスが出てくる少女漫画という絵物語が当家にはたくさんございまして、それを参考にしていくつか作ってみましたが、一度他の方が作ったものも見てみたいと思っておりました」
「他にも持っておるぞ。後で好きなだけ見たらよい」
「ありがとうございます。それではこちらへどうぞ」
エリーはマイカから日本語を教わって少女漫画を読み、そこに出てくるドレスを作り始めた。わざわざ日本語を学ぶのは、ドレス作りにはイメージとストーリーが最も重要なんだって。
彼女は「いくつか作った」って言ったけど、裁縫室がすぐに溢れたから衣装室に作り変えたんだよ。どんどんコスプレみたいな衣装が増えてるからね。写真館のスタジオのような機材までマイカのアイデアで作らされたからね。
マリアンさんの相手は僕が応接室ですることになった。エリーは目をギラギラさせながらお茶を出した後、キッチンの方へ戻っていった。挨拶に来たミシェルも目を見開いてキッチンへ戻っていった。
「ほう、このように靴を脱いで上がる家は初めて見たわ。これはこれでなかなか快適じゃの」
「僕が前にいた世界にあった家を再現してみました。そっくりそのままではありませんが」
「やはり異世界人で間違いなかったか。[元異世界人]というのが見えたのでな」
「ステータスが見えるのですか?」
ステータスの存在は知られてないはずだよね。
「ほう、お主にも分かるようじゃのう。人はそれぞれ独自の力を持っており、ワシにはそれが見えるのじゃ」
「はい、僕もステータスを見ることができます。それで多少は苦労もしていますが」
「そうじゃろうのう。見なくてもよいものが見えてしまうというのは疲れるものじゃ。それはそうと、もっと言葉遣いを崩すがよい。上下はないのじゃ。マリアンと呼び捨てでよいぞ。別に怒りはせぬ」
「えーと、じゃあマリアン、こんな話し方でもいい? 普段はこんな感じなんだけど」
「おお、それでよいそれでよい。お互いに気楽でよいじゃろ。それよりもケネス殿、お主にはワシの、お主はステータスと言ったか、それは見えるのじゃろ? お主が見たものを詳しく教えてくれぬか? ワシには自分のことだけはなぜかよく見えぬのじゃ。他人のものは見えるのじゃが」
「じゃあ遠慮なく。書き出したらいいかな」
【名前:[マリアン]】
【種族:[古代竜]】
【年齢:[二、五八〇、二五八、三〇六]】
【スキル:[裁縫(特)][デザイン(特)][家具製作(特)][舞踏(特)][文筆(特)][翻訳(特)][作詩(特)][作曲(特)][楽器演奏(特)][楽器製作(特)][鑑定][人物鑑定(ステータスは他者に限る)][料理(特)][食い溜め(特)][息吹][爪][尻尾][飛行][念話][転移][変化][属性魔法(火特)][耐性(全特)】
【特徴:[おしゃれ好き][手先が器用][裁縫が得意][芸術好き][踊るのが好き][文芸活動好き][料理好き][寝るのが好き][温和][聞き上手][退屈を満喫][元異世界人]】
さすがに細かなスキルが多すぎて省いたものは多いけど、彼女の特徴がよく分かるものを書き出して見せた。書くというよりも[念写]で写しただけ。[人物鑑定(ステータスは他者に限る)]って免許じゃないんだから。
「女性と年の話をするのもどうかと思うけど、生まれ変わってからさらに二五億年以上生きてきたって、すごくない?」
「うむ、さすがに前世のことはまったく覚えてはおらぬし、今世でもかなり生きてきたと思うておったが、思った以上に長生きじゃったな」
「かなり文化芸術関係が強いみたいだね」
「時間だけはいくらでもあるからのう。これでも普段は寝て過ごしておるし、数年寝っぱなしもよくあるのう。寝るのが好きじゃが、たまに起きては町へ出かけ、本屋や劇場に寄ったりしておった。ここのところは寝てばっかりじゃったが」
「ならマイカの持ってる少女漫画は気に入るんじゃないかな。マリアンが着ているようなドレスが出てくる作品もあるよ。エリーが言っていた絵物語のことね」
「ほう、では見てみるとするか。最近は着想を得るのもなかなか難しくてのう」
「それじゃあ二階へどうぞ」
「ふおおおおおおおおおお! なんじゃこれは?」
図書室にマリアンの喚声が響き渡った。
「おおうおおう、これはこれは! 次から次へと着想が湧いてくるわ! 異世界の考え方というのはすごいのう。少女漫画と言ったかの、これは素晴らしい刺激よのう」
「ほとんどがマイカのコレクションだね。エリーがこの中に出てくるようなドレスを作ってるから、後で見せてもら……いや、もう着てきたね」
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