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第一章 第三部
同志、そして居候
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マイカの蔵書は二万冊を超えていた。それを収納するのに書庫を作ろうと思ったけど、どうやっても部屋に入れるのが無理だと分かったから、カロリッタのアドバイス通りに部屋の空間を広げた。それがこの図書室。
とにかく広さだけはあるから、本棚はミシェルが手に届く高さまでにしている。本棚の上には物も置けるし、机と椅子、ソファとテーブル、床には座布団と座椅子もあるから飲み物を持ってきてゆっくり本が読める。
マイカは「これでいくらでも追加できますね」と喜んでたけど、それは僕のコスプレ写真が代金になってるだけだからね。「パパ、いっしょにしゃしんとろ?」ってミシェルが敵に回れば、僕はどうやっても勝てないの。お嬢様と執事とか、近世フランス国王と王妃とか、はいからさんと少尉とか、一通りさせられたね。その衣装が衣装室に飾ってあるわけ。
「ほほう、エリー殿が作ったドレスもなかなか立派じゃのう。しかしその部分はどうなっておるのじゃ?」
「マリアン様のドレスはボタンと紐で固定するようになっていますが、その場合は一人で脱ぎ着するのが難しくなるでしょう。私はこのファスナーで開閉できるようにしています。そして、あまり締め付けは強くありません」
「ほう、なるほどのう。ワシは魔力を指のように伸ばして背中のボタンを留めておるが、なるほど、そのようなやり方がのう」
ファスナーを作るには、同じパーツを大量に作らなければいけないから、この世界にはまだないんだよね。うちにあるのはカローラさんからエリーに渡されたもの。
そう、いつの間にかエリーもマジックバッグを持ってた。こちらはマイカ経由で渡されたそうだ。カローラさんから布や素材を渡されて、服などを作って送り返すんだそうだ。
「はい。そして目立たないようにするのも大切です。テープの色も布地に合わせ、さらにはファスナー全体が隠れるようにデザインしています」
「ほほほう、細かな部分まで一切手抜きなしじゃな。このファスナーというものを見せてくれぬか? 難しいかもしれぬが、できれば同じようなものを作りたい。よいかの?」
「ええ。もちろんです。衣装室に置いてあります。これからいかがでしょうか?」
「もちろん見せてもらおう。ケネス殿、この図書室はまた後でも見せてもらえるかの?」
「いつでもいいよ」
「うむ、では衣装室を見せてもらう」
「あーっはっはっは! 同志はここにおったか!」
衣装室に入った途端、マリアンが笑い出した。
部屋の片側には裁縫用のスペースと試着室が、もう片側には衣装の掛かったハンガーラックとこちらにも試着室がある。うん、あらためて見ると異常だね。
「マリアン様は私と背格好が同じくらいですので、あのあたりは問題なく着られると思います」
「ほうほうほう、一通り見せてもらってもよいか?」
「もちろんです。お時間があれば試着もどうぞ」
エリーはマリアンと一緒に奥へと向かった。
「カロリッタさんも言っていた通りですが、これがケネスの引きの強さでしょうね。ここまでエリーさんと相性のいい人を見つけるとは」
「あれは完全にお互いを認め合った表情ですね~」
「ママがたのしそう」
「これは沼に引きずり込んだ甲斐があったというものですよ。カローラさんの助力があってこそですけど」
「ところでみんな、いつまでその格好をしてるの?」
「いつまでというわけではありませんが、今日はこれでいいのではないでしょうか」
「こうやって~みんなでするのが楽しいんじゃないですか~」
「たのしーよ」
「むしろ先輩だけ浮いている感じがしますから、すぐに着替えたらどうですか?」
「そのカメラは何? それにその格好だと、廊下ですれ違うのも大変でしょ? さっきマリアンはあちこち擦っていたからね。頭もつっかえてたし」
そんな話をしていると、マリアンがすごい勢いで戻ってきた。
「ケネス殿! いや、お前様、ワシもこの家に厄介になってもよいか? いや、置いてくだされ! あの手触り! あのデザイン! エリー殿の発想はワシをはるかに超えておる!」
お前様って何? 胸ぐらを掴まないで!
「すまぬ。少し興奮してもうた。で、どうじゃ?」
「え、住むの? 遊びに来るとかじゃなくて?」
「うむ、一度戻って家を片付けてくる。お前様に迷惑はかけぬし、この家が無理なら横に自分で小屋でも建て住むのでもよい。どうじゃ? 頼む」
「えーと……」
周りを見る。みんな一斉に首を縦に振る。
「いいよ。じゃあその間に部屋を用意しておくから」
「よろしゅう頼む。では明日また来る。お前様、出口を開けてくれるか?」
「慌ただしいなあ。明日は朝から東へ向かって進むから、近くまで来たら声をかけてよ。まだ異空間にいるなら入り口を開けるから」
「承知した。ではまた明日」
そう言うと走って家から出ていった。台風みたいだな。
「マリアン様も立派な衣装をたくさんお持ちだということでした。私もあの方から着想が得られそうです。楽しみですね、ふふっ」
向こうを片付けて戻ってきたエリーが楽しそうにしていた。
「エリー、さっきはマリアンに何を見せたの?」
「インナーウェア全般です。加工前の素材もお見せしました。さすがに夜伽用まではお見せしていませんが、一般的なものは一通りですね」
「よかった……それくらいの判断はあって……」
「マリアン様も妻にということでしたら、いかなる手段を用いてでも引きずり込みますが」
「それはいいから。そんな配慮はいらないから」
とりあえずマリアンの部屋を用意した。用意するとは言っても、彼女が何を持ってくるか分からないから、ベッドなどが必要ならすぐに出せるようにしただけなんだけど。
一部屋で足りるよね?
◆ ◆ ◆
翌朝、朝食の終わりごろにマリアンから念話が届いた。彼女もさすがに朝食は向こうで取ったそうなので、一緒にお茶をしながら話を聞いた。
「あまり早くても迷惑がかかるかと思うての」
「部屋だけは用意したけどね。用意とは言っても空き部屋があるだけだから、必要なものがあれば言ってよ。みんなの部屋にあるようなものはすぐに用意できるし」
「向こうのものは全て持ってきたからのう、部屋さえあれば問題ない。お前様、しばらく世話になる」
「その『お前様』って言い方はもう決まり?」
「居候の身じゃ。主人にそう呼びかけるのは普通じゃろう」
「分かった。じゃあそれでいいよ。これからよろしくね」
マリアンは、リゼッタ殿、カロリッタ殿、エリー殿、マイカ殿、ミシェルという呼び方をするそうだ。同じ家で世話になるかららしい。ミシェルは「ミシェルでいい」と言っていた。
それと、今日のマリアンは昨日に比べればかなり普通のドレスだった。昨日に比べればね。スカートも比較的普通だし、髪は綺麗な黒髪を下ろしてるし、こっちの方がずっといいと思うよ。お嬢様っぽくて。昨日あちこち擦って引っかけたのが気になったんだろうね。頭がつっかえた時は首を痛めそうだったしね。
「物を動かしたりするのに手伝いが必要なら言ってね」
「それは大丈夫じゃが、お前様、すまぬが部屋をもう少し広げてもらってもよいのかのう。特に上に」
「上?」
「ベッドがつっかえるからのう」
頼まれた通りに部屋を少し広げた。四方だけではなく上下も。
マリアンはベッドや机、姿見、タンス、飾り棚などを次々と異空間から出していった。やっぱりピンクと黄色とベージュを主体としたロココ調だ。どれもこれも質がいいのは見ただけで分かる。ちなみにベッドは天蓋付きだ。こういうのは初めて見た。たしかに部屋がそのままだったらに天井につっかえてたね。
「ところで、前に住んでたところはどうしたの?」
「入口は塞いだたけじゃから、中は伽藍堂じゃのう。今となってはわざわざ来る者もおるまいが、来ても無駄足じゃな。洒落で『不在』と貼っておいたが」
「かなり上なんだよね。徒労感がすごそう。って、これだけあれば他に必要なものはないかな?」
「そうじゃのう。これでほとんど元の部屋のままじゃし。必要になったらその時に頼もうかのう」
「それでいいよ。それじゃ僕はそろそろ出かけるから、何かあったらエリーに頼むか僕に念話を送ってね」
「うむ、承知した」
僕はエリーとマイカにマリアンのことをお願いすると、リゼッタとカロリッタに声をかけて外へ出た。
《マリアンさんの部屋はすごかったですね。お嬢様という感じで》
「乙女全開でしたね~」
「乙女っぽいと言えば乙女っぽいんだけど、あの部屋の主がマリアンだと思うと、なんというか乙女とかお嬢様とかいう言葉が合わないというか、何かが噛み合っていないというか。何かがおかしいように感じるんだよね」
《そうですか? 私は特に何も感じませんが》
「おそらくですが~マスターの感覚であの部屋と見た目なら~語尾は『ですわ』の方が~合うんじゃないでしょうか~」
「あ、それだ」
お昼になったらみんなが出てきて、街道から少し離れたところで昼食。今日からはマリアンも加わる。
「お前様の旅というものがよう分かったわ。これは散歩とピクニックと呼ぶものじゃろう」
「まあそうとも言うね。旅くらいのんびりしたいじゃない」
「そのために私とカロリッタさんがいるわけですからね」
「そうですよ~、ガイド兼話し相手兼夜の相手です~。マリアンさんもいかがですか~」
「……お前様、ひょっとしてワシもそういう目で見とったのかの?」
「いや、見てないよ。カロリッタの言うことは気にしないで」
「今のところ、そういう気分にはなれんのう。お前様が嫌いというわけではないが、これだけ長く生きると番を作るという気もしなくなるし、そもそもワシは『人』には入らんからのう」
この場所からマリアンのいた山が見える。ラクヴィ伯爵領の北北東、王家直轄領の北北西、その方向にはシムーナ子爵領があるが、その北側にはいくつも山があり、その中でも一番険しい山に彼女の家があった。
竜の住処なので、竜の姿のままでも入れるように入り口も通路も部屋も広い。ただし、ある程度知恵を得た竜は人の姿になることもでき、そうすると大きな姿は非効率的だと分かってしまう。
例えば食事。食事の度に大型の魔獣を狩ること考えれば、調理に多少の手間と時間がかかるとは言え、人間の姿で食事をする方が無駄が少ない。結果として人の姿が多くなり、そのうちに住処の中に人の姿で暮らすための部屋を作り始める。
その長い人生のせいで退屈をすることも多く、人の町へ紛れ込んで暮らすこともあり、様々な文化に触れていく。竜は光り輝くものを集めるのが好きで、金貨や宝石などはもちろん、装飾品や骨董品なども蒐集する。だから竜の住処はまるで博物館のようになり、様々な時代の価値ある品々が集まっている。
一攫千金を狙って竜を狩ろうとする冒険者もいるけど、冒険者程度に狩られるのは大して知恵を持たない下級の竜だけ。知恵のある竜は決して冒険者たちに入り込まれないように、様々な罠を仕掛ける。
ちなみにマリアンは古代竜という種族で、生まれた時にはすでに知恵を持ち、人の姿にもなれたはず、と彼女は言っている。さすがに二五億年前のことは記憶にないそうだ。
そんなことをマリアンから聞きながら食事をする。マリアンも人の姿で町に行ったことは数え切れないほどあり、そんな中でマリーという女性に出会ったらしい。
昨日も名前を聞いたそのマリーという女性は、ある町で服屋を営んでいたそうだ。その店に飾ってあったのがロココ調のドレス。マリアンがそれは何かと聞いたのが始まりだったとか。もう何百年も前のことらしい。
「それで無理を言うてあのドレスを譲ってもろうての、少し手直しして着ておった。マリーの方も、時間的にも金銭的にも作れたのはそれ一つだけじゃったが、デザインだけはいくつもしとった。金を払うから作ってくれと言うたら、「自分で作ればいいじゃない」と言われてのう、デザインを全て買い取らせてもろうた。裁縫に目覚めたのはそれからじゃな」
あのドレスが友情の始まりでもあり、全ての始まりでもあり、元凶でもあるのか。
「マリーさんと出会う以前はどんな服装をしてたの?」
「エリー殿のような服装をしていたことが多いのう」
「なんで方向転換したの?」
「ワシ、何か悪いことでもしたか?」
とにかく広さだけはあるから、本棚はミシェルが手に届く高さまでにしている。本棚の上には物も置けるし、机と椅子、ソファとテーブル、床には座布団と座椅子もあるから飲み物を持ってきてゆっくり本が読める。
マイカは「これでいくらでも追加できますね」と喜んでたけど、それは僕のコスプレ写真が代金になってるだけだからね。「パパ、いっしょにしゃしんとろ?」ってミシェルが敵に回れば、僕はどうやっても勝てないの。お嬢様と執事とか、近世フランス国王と王妃とか、はいからさんと少尉とか、一通りさせられたね。その衣装が衣装室に飾ってあるわけ。
「ほほう、エリー殿が作ったドレスもなかなか立派じゃのう。しかしその部分はどうなっておるのじゃ?」
「マリアン様のドレスはボタンと紐で固定するようになっていますが、その場合は一人で脱ぎ着するのが難しくなるでしょう。私はこのファスナーで開閉できるようにしています。そして、あまり締め付けは強くありません」
「ほう、なるほどのう。ワシは魔力を指のように伸ばして背中のボタンを留めておるが、なるほど、そのようなやり方がのう」
ファスナーを作るには、同じパーツを大量に作らなければいけないから、この世界にはまだないんだよね。うちにあるのはカローラさんからエリーに渡されたもの。
そう、いつの間にかエリーもマジックバッグを持ってた。こちらはマイカ経由で渡されたそうだ。カローラさんから布や素材を渡されて、服などを作って送り返すんだそうだ。
「はい。そして目立たないようにするのも大切です。テープの色も布地に合わせ、さらにはファスナー全体が隠れるようにデザインしています」
「ほほほう、細かな部分まで一切手抜きなしじゃな。このファスナーというものを見せてくれぬか? 難しいかもしれぬが、できれば同じようなものを作りたい。よいかの?」
「ええ。もちろんです。衣装室に置いてあります。これからいかがでしょうか?」
「もちろん見せてもらおう。ケネス殿、この図書室はまた後でも見せてもらえるかの?」
「いつでもいいよ」
「うむ、では衣装室を見せてもらう」
「あーっはっはっは! 同志はここにおったか!」
衣装室に入った途端、マリアンが笑い出した。
部屋の片側には裁縫用のスペースと試着室が、もう片側には衣装の掛かったハンガーラックとこちらにも試着室がある。うん、あらためて見ると異常だね。
「マリアン様は私と背格好が同じくらいですので、あのあたりは問題なく着られると思います」
「ほうほうほう、一通り見せてもらってもよいか?」
「もちろんです。お時間があれば試着もどうぞ」
エリーはマリアンと一緒に奥へと向かった。
「カロリッタさんも言っていた通りですが、これがケネスの引きの強さでしょうね。ここまでエリーさんと相性のいい人を見つけるとは」
「あれは完全にお互いを認め合った表情ですね~」
「ママがたのしそう」
「これは沼に引きずり込んだ甲斐があったというものですよ。カローラさんの助力があってこそですけど」
「ところでみんな、いつまでその格好をしてるの?」
「いつまでというわけではありませんが、今日はこれでいいのではないでしょうか」
「こうやって~みんなでするのが楽しいんじゃないですか~」
「たのしーよ」
「むしろ先輩だけ浮いている感じがしますから、すぐに着替えたらどうですか?」
「そのカメラは何? それにその格好だと、廊下ですれ違うのも大変でしょ? さっきマリアンはあちこち擦っていたからね。頭もつっかえてたし」
そんな話をしていると、マリアンがすごい勢いで戻ってきた。
「ケネス殿! いや、お前様、ワシもこの家に厄介になってもよいか? いや、置いてくだされ! あの手触り! あのデザイン! エリー殿の発想はワシをはるかに超えておる!」
お前様って何? 胸ぐらを掴まないで!
「すまぬ。少し興奮してもうた。で、どうじゃ?」
「え、住むの? 遊びに来るとかじゃなくて?」
「うむ、一度戻って家を片付けてくる。お前様に迷惑はかけぬし、この家が無理なら横に自分で小屋でも建て住むのでもよい。どうじゃ? 頼む」
「えーと……」
周りを見る。みんな一斉に首を縦に振る。
「いいよ。じゃあその間に部屋を用意しておくから」
「よろしゅう頼む。では明日また来る。お前様、出口を開けてくれるか?」
「慌ただしいなあ。明日は朝から東へ向かって進むから、近くまで来たら声をかけてよ。まだ異空間にいるなら入り口を開けるから」
「承知した。ではまた明日」
そう言うと走って家から出ていった。台風みたいだな。
「マリアン様も立派な衣装をたくさんお持ちだということでした。私もあの方から着想が得られそうです。楽しみですね、ふふっ」
向こうを片付けて戻ってきたエリーが楽しそうにしていた。
「エリー、さっきはマリアンに何を見せたの?」
「インナーウェア全般です。加工前の素材もお見せしました。さすがに夜伽用まではお見せしていませんが、一般的なものは一通りですね」
「よかった……それくらいの判断はあって……」
「マリアン様も妻にということでしたら、いかなる手段を用いてでも引きずり込みますが」
「それはいいから。そんな配慮はいらないから」
とりあえずマリアンの部屋を用意した。用意するとは言っても、彼女が何を持ってくるか分からないから、ベッドなどが必要ならすぐに出せるようにしただけなんだけど。
一部屋で足りるよね?
◆ ◆ ◆
翌朝、朝食の終わりごろにマリアンから念話が届いた。彼女もさすがに朝食は向こうで取ったそうなので、一緒にお茶をしながら話を聞いた。
「あまり早くても迷惑がかかるかと思うての」
「部屋だけは用意したけどね。用意とは言っても空き部屋があるだけだから、必要なものがあれば言ってよ。みんなの部屋にあるようなものはすぐに用意できるし」
「向こうのものは全て持ってきたからのう、部屋さえあれば問題ない。お前様、しばらく世話になる」
「その『お前様』って言い方はもう決まり?」
「居候の身じゃ。主人にそう呼びかけるのは普通じゃろう」
「分かった。じゃあそれでいいよ。これからよろしくね」
マリアンは、リゼッタ殿、カロリッタ殿、エリー殿、マイカ殿、ミシェルという呼び方をするそうだ。同じ家で世話になるかららしい。ミシェルは「ミシェルでいい」と言っていた。
それと、今日のマリアンは昨日に比べればかなり普通のドレスだった。昨日に比べればね。スカートも比較的普通だし、髪は綺麗な黒髪を下ろしてるし、こっちの方がずっといいと思うよ。お嬢様っぽくて。昨日あちこち擦って引っかけたのが気になったんだろうね。頭がつっかえた時は首を痛めそうだったしね。
「物を動かしたりするのに手伝いが必要なら言ってね」
「それは大丈夫じゃが、お前様、すまぬが部屋をもう少し広げてもらってもよいのかのう。特に上に」
「上?」
「ベッドがつっかえるからのう」
頼まれた通りに部屋を少し広げた。四方だけではなく上下も。
マリアンはベッドや机、姿見、タンス、飾り棚などを次々と異空間から出していった。やっぱりピンクと黄色とベージュを主体としたロココ調だ。どれもこれも質がいいのは見ただけで分かる。ちなみにベッドは天蓋付きだ。こういうのは初めて見た。たしかに部屋がそのままだったらに天井につっかえてたね。
「ところで、前に住んでたところはどうしたの?」
「入口は塞いだたけじゃから、中は伽藍堂じゃのう。今となってはわざわざ来る者もおるまいが、来ても無駄足じゃな。洒落で『不在』と貼っておいたが」
「かなり上なんだよね。徒労感がすごそう。って、これだけあれば他に必要なものはないかな?」
「そうじゃのう。これでほとんど元の部屋のままじゃし。必要になったらその時に頼もうかのう」
「それでいいよ。それじゃ僕はそろそろ出かけるから、何かあったらエリーに頼むか僕に念話を送ってね」
「うむ、承知した」
僕はエリーとマイカにマリアンのことをお願いすると、リゼッタとカロリッタに声をかけて外へ出た。
《マリアンさんの部屋はすごかったですね。お嬢様という感じで》
「乙女全開でしたね~」
「乙女っぽいと言えば乙女っぽいんだけど、あの部屋の主がマリアンだと思うと、なんというか乙女とかお嬢様とかいう言葉が合わないというか、何かが噛み合っていないというか。何かがおかしいように感じるんだよね」
《そうですか? 私は特に何も感じませんが》
「おそらくですが~マスターの感覚であの部屋と見た目なら~語尾は『ですわ』の方が~合うんじゃないでしょうか~」
「あ、それだ」
お昼になったらみんなが出てきて、街道から少し離れたところで昼食。今日からはマリアンも加わる。
「お前様の旅というものがよう分かったわ。これは散歩とピクニックと呼ぶものじゃろう」
「まあそうとも言うね。旅くらいのんびりしたいじゃない」
「そのために私とカロリッタさんがいるわけですからね」
「そうですよ~、ガイド兼話し相手兼夜の相手です~。マリアンさんもいかがですか~」
「……お前様、ひょっとしてワシもそういう目で見とったのかの?」
「いや、見てないよ。カロリッタの言うことは気にしないで」
「今のところ、そういう気分にはなれんのう。お前様が嫌いというわけではないが、これだけ長く生きると番を作るという気もしなくなるし、そもそもワシは『人』には入らんからのう」
この場所からマリアンのいた山が見える。ラクヴィ伯爵領の北北東、王家直轄領の北北西、その方向にはシムーナ子爵領があるが、その北側にはいくつも山があり、その中でも一番険しい山に彼女の家があった。
竜の住処なので、竜の姿のままでも入れるように入り口も通路も部屋も広い。ただし、ある程度知恵を得た竜は人の姿になることもでき、そうすると大きな姿は非効率的だと分かってしまう。
例えば食事。食事の度に大型の魔獣を狩ること考えれば、調理に多少の手間と時間がかかるとは言え、人間の姿で食事をする方が無駄が少ない。結果として人の姿が多くなり、そのうちに住処の中に人の姿で暮らすための部屋を作り始める。
その長い人生のせいで退屈をすることも多く、人の町へ紛れ込んで暮らすこともあり、様々な文化に触れていく。竜は光り輝くものを集めるのが好きで、金貨や宝石などはもちろん、装飾品や骨董品なども蒐集する。だから竜の住処はまるで博物館のようになり、様々な時代の価値ある品々が集まっている。
一攫千金を狙って竜を狩ろうとする冒険者もいるけど、冒険者程度に狩られるのは大して知恵を持たない下級の竜だけ。知恵のある竜は決して冒険者たちに入り込まれないように、様々な罠を仕掛ける。
ちなみにマリアンは古代竜という種族で、生まれた時にはすでに知恵を持ち、人の姿にもなれたはず、と彼女は言っている。さすがに二五億年前のことは記憶にないそうだ。
そんなことをマリアンから聞きながら食事をする。マリアンも人の姿で町に行ったことは数え切れないほどあり、そんな中でマリーという女性に出会ったらしい。
昨日も名前を聞いたそのマリーという女性は、ある町で服屋を営んでいたそうだ。その店に飾ってあったのがロココ調のドレス。マリアンがそれは何かと聞いたのが始まりだったとか。もう何百年も前のことらしい。
「それで無理を言うてあのドレスを譲ってもろうての、少し手直しして着ておった。マリーの方も、時間的にも金銭的にも作れたのはそれ一つだけじゃったが、デザインだけはいくつもしとった。金を払うから作ってくれと言うたら、「自分で作ればいいじゃない」と言われてのう、デザインを全て買い取らせてもろうた。裁縫に目覚めたのはそれからじゃな」
あのドレスが友情の始まりでもあり、全ての始まりでもあり、元凶でもあるのか。
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