新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第一章 第三部

初めての遭遇

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「ちょっと面倒なことになるかもしれないね」

 僕は[地図]を見ながら赤い点の場所を確認した。そちらを[遠見]でじっと見る。

「面倒なことですか?」
「うん。それで少しややこしいことになりそうだから、リゼッタは一度家に戻って待機しててくれるかな? それでみんなに今日は遅くなるか、もしかしたら戻れないと伝えて欲しい」
「分かりました。それで大丈夫なのですか?」
「カロリッタがいるから大丈夫だよ。危険はないとみんなには言っておいてね。それと、リゼッタ」
「はい」
「ユーヴィ市の宿で買ってた、あのお酒を置いてって。使うことになるかもしれないから」
「バレていましたか」
「そりゃね。もう必要ないでしょ。カロリッタも持ってるよね」
「こちらもバレてましたか~」

 リゼッタはマジックバッグから、カロリッタは異空間から、それぞれ酒瓶を五本ずつ取り出して僕に渡した。

「カロリッタは……仕方がないか。僕の頭に入っててくれる? 念話の方が話しやすいから」
「ああ~ん、入っちゃいます~」
「はい、おとなしく入って」

 リゼッタが家に帰ると、僕はカロリッタを掴んで頭に入れた。リュックをウェストバッグに入れ、代わりに偽装用の木箱を括り付けた背負子しょいこを出して背負う。これは内部の空間を少しだけ広げた下級のマジックバッグ。

 マジックバッグと呼ぶには野暮ったいけど機能はまあまあ。内部の容量は縦横高さは、棒を突っ込んだ限りではそれぞれ三メートルくらいだから、四畳半の部屋よりも少し広いくらいかな。[重量軽減]と[時間遅延]を付けている。酒瓶もそこに入れた。これは撒き餌だね。



《マスター、左から近付いてくるあの集団ですね~》
「そうそう。商人のふりをしてるね」
《対処はどうしますか~》
「あえて近付いてしばらくは様子を見るよ。カロリッタは警戒をお願い。ここからは全て念話で話すね」
《分かりました~》

 二頭立ての荷馬車が二台、森の向こうからやってきた。どちらも御者台には人の良さそうな男性が座っていて、周りには護衛の冒険者がいる。こちらから護衛の一人に話しかけてみる。

「こんにちは」
「お、おう、兄ちゃん一人か?」
「ええ、王都に向かう途中ですね。ちょっと木陰で休憩でもしようかと」
「俺らもそろそろかな。旦那あ、休憩はまだですかい?」

 御者の人が手を挙げると、荷馬車が街道を外れて森の木陰の方へと向かった。

「兄ちゃん、いいタイミングで来てくれたなあ。おかげでうちも休憩だ」
「いえいえ、もう少ししたら陽が陰ってきますしね、今日は町までは辿り着けそうにないから、早めに野営でもしようかと思ってたところです」
「よければ合流するか?」
「そちらがよろしければ是非」

 荷馬車二台に御者席に座っている商人が二人、護衛が男性が四人、女性が三人、それ以外はなし。周囲には他には誰もいない。こちらは一人。

 僕は二人の商人に挨拶して、みんなから少し離れたところに背負子を下ろすと、木箱の中から次々と野営道具を取り出した。その瞬間に向こうの空気が変わった。あれは金になると。

 僕はテントを立てるとその中に適当に荷物を出し、木箱を持って荷馬車の方へ向かった。これは椅子にもなるからね。いかにも森から出てきたばかりで世馴れない商人を装って、向こうの商人に話しかけた。

「いや~、一人旅というのはなかなか寂しいもので、こういう機会はありがたいですね」
「そういうのは持ちつ持たれつというものですよ。私も若い頃はそうでしたから」

 僕も食材を提供して食事に入れてもらうフリをする。

《カロリッタ、みんなの反応はどう?》
《マスターの箱に釘付けですね~》
《なら今から始めようか》



 目の前の料理には毒や薬が入っていないのは魔法で確認済み。仮に入っていたとしても、僕には毒は効かないしね。ちなみにあのお酒は毒じゃないから僕にも効いたんだよね。そのお酒をみんなに振る舞う。

「故郷の酒です。お世話になってますので是非どうぞ。さあ、いくらでもありますので」
「おう、悪いなあ」
「へえ、美味しいわね」
「こりゃうめえな」

 口当たりは最高。おかしな癖もない。でもしばらくしたら効果が現れる。さあ、ぐいぐいやってもらおう。

「みなさん普段は何をされてるんですか?」
「近くを通る馬車を襲ったりとか追い剥ぎをしたりとか、金になることなら何でもな」
「なら殺しとかも?」
「そりゃ当然だろ。バレたら捕まるからな。奪ったら殺す。女は遊んでからだがな」
「身代金とかを要求することは?」
「うまく受け取れたとしても、跡をつけられたら根城がバレだろ」
「みなさんの根城は近くですか?」
「あの岩山の向こう側だ。こっちからは見えづらくなってるし、いざとなれば入口は隠せるからな。知らなきゃまず分からないぜ」
「お仲間は全部で何人ですか?」
「お頭も入れて三五だな。なかなかの規模だろ」
「ええ、かなり稼いでそうですね」
「おうよ。パーっと稼いでパーっと使ってるけどな」
「有力者と繋がりはないのですな?」
「聞いた範囲ではないはずだな。うまく行ってる間はそれでいいけどよ、向こうの都合が悪くなったら切られるだろ。下手なコネは作らない方がいいぞ」

 さて、聞くべきことは聞いたかな。[睡眠]でまとめて眠らせる。【特徴】に[殺人犯]だの[強姦魔]だの、ひどいのが一人あたり五つも六つも付いてたから、これは乗りかかった船かな。むしろこっちから船に乗り込んだ形かな。この周辺に何かがあるとラクヴィ市にも影響があるかもしれないからね、少し掃除をしておこう。

 眠った盗賊たちの両手両足に手錠をかけ、新しく作った異空間に放り込む。馬と荷馬車もとりあえず一緒に入れておくか。馬は餌と水をあげるのを忘れないようにしよう。

《カロリッタ、先行お願い》
《了解です~》
《リゼッタ、今大丈夫?》
《はい、大丈夫です》
《これから一仕事頼むから出てきてくれる?》
《すぐ行きます》

 異空間から出てきたリゼッタに事情を説明。これからこの森の向こうまで盗賊の捕縛に出かける。先行したカロリッタも入れて三人で方針を決める。

《基本的には殺さない方向で。眠らせて捕縛ね》
《分かりました》
《現地に着いたら見張っておきます~》
《よろしく》

 全力じゃないけどかなり速い。[身体強化]が効いてるのかな。一時間ほどで森の向こうの山の裏まで辿り着けた。ここからは[隠密]を使って身を隠しながら進む。

《入り口は閉じられていますね~》
《内部の人数は分かる?》
《二六です~。他にはいません~》
《じゃあ全員いるみたいだね。カロリッタ、全員眠らせることはできる?》
《お任せです~》
《眠らせたら入り口を開けてくれるかな?》
《了解です~》
《リゼッタ、カロリッタが入り口を開けてくれたら中に入るね》
《分かりました》



 カロリッタに先行してもらった方へ向かう。僕の[地図]は便利なんだけど、密集していると細かい位置が分からないんだよね。[盗賊✕二六]って表示されるだけ。

 洞窟っぽい入り口が開いていたのでリゼッタと中に――



 ⁉



 くさっ‼



 リゼッタも顔をしかめてる。耐えられない臭いじゃないけど、なんとも言えない臭い。単純に臭い。カロリッタと合流して[消臭]で周囲の匂いを消しつつ、見つけた盗賊を手錠を付けては異空間に放り込む。内部にある物は全て回収しよう。物によっては領主に引き渡した方がいいものもあるよね。

 何人かずつの雑魚寝だったんだろうね、部屋が汚い汚い。色んなものがこびり付いた毛布とか、ほとんど洗ったことないんじゃないかな? 床の上にもゴミだの何だの落ちてるし。リゼッタとカロリッタには申し訳ないけど、もうしばらく耐えてもらおう。大したものはないけど、それでも銅貨や銀貨があった。

 他の部屋ほど臭くないこの部屋は、やはり他の部屋よりも片付いてるね。盗賊には女性もいたから女性の部屋なんだろうか。棚に置いてあるものなどをどんどん回収する。

 それにしても外にいた盗賊たちがそれほど臭く感じなかったのは、やっぱりどこかで臭いを落としてから仕事をしてたんだろうか。見た目は人が良さそうなのに異様に臭い商人っていかにも怪しいからね。偽護衛の中には女性もいたのは警戒されにくいからだろうか。

 奥の方にあるのがお頭の部屋かな。ドアをこじ開けて中に入る。中でお頭らしき太った人物が寝てたから、同じように手錠をかけて異空間に放り込む。よく見たら馬たちが迷惑そうな顔をしていたので、もう一つ異空間を作って馬たちにはそちらにいてもらうことにした。さっきまではごめんね、臭くて。移動させたらホッとした顔をしてたね。表情が豊かな馬たちだなあ。

 お頭の部屋には金庫っぽいものと、カゴ? カゴの中には何やら白い塊が……ケサランパサラン?

「何ですか、あれは?」
「ケサランパサランでしょうか~」
「いや、ウサギだね。ちゃんと顔がある。アンゴラウサギっぽいよ」

 真っ白なもふもふ。ウサギの手と耳もあるけど、長い毛に埋もれてもふもふの玉にしか見えない。元気がなさそうだから[回復]と[浄化]と[消臭]をかけておこうか。それとエサかな。家に帰ったら庭に放せばいいと思うけど、とりあえずミックスベジタブルと水を用意して与えておく。その間に部屋の中を探すか。

 とりあえずお頭の部屋にある物も一通り[浄化]と[消臭]をかけてからマジックバッグに入れていった。ウサギは食べ終わったら満足そうにこっちを見ているので持ち上げてみた。もふもふだから大きく見えるけど、体そのものはウサギにしては小さいし、まだ子供かな。肩に乗った瞬間、リゼッタとカロリッタがキッとこっちを向いた。ウサギと張り合ってどうするの。

 もう一つ、食料庫か倉庫かという場所があったけど、こんなところにあるものを食べてお腹を壊したくないし、そのままにしておいた。貴重な食材とかもなさそうだし。

 とりあえず汚くてたまらなかったけど、目を背けたくなるような物はなったので、それだけはよかった。奪った後は殺したと言ってたけど、どこかに埋めたんだろう。そこは領主に丸投げしようか。

 持ち出すべき物を持ち出したら用はないからさっさと出る。体に[浄化]と[消臭]を使ったけどまだ気になるから、家に帰ったらお風呂でしっかり洗おう。
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