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第一章 第三部
レオンツィオの悩み
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子供の話をされて珍しくマイカが焦ってるけど、さすがに姉の前では恥ずかしいのかな?
「それにしてもマイカが惚れるだけのことはあるわねえ。こんな美しいお嫁さんが五人もだなんて」
「ん? ああ、ワシは違うぞ」
「そうでしたか。でも四人ですものね。あなたも頑張ってくださいね」
「ああ、分かった……」
やっぱり殿下の顔色がちょっと悪い気がする。ひょっとして子供を求められてるとか? でもあのお酒がるあなら、すぐにできるはずだよね。
殿下たちは結婚後、お披露目で直轄領の二重都市群を回り、それからこの離宮に引っ越したんだそうだ。ここに住み始めて一年くらいらしい。
今日は天気もいいので庭で立食で軽い食事でもということになった。さっきから殿下がチラチラとこちらを見ているような気がするんだよね。いっそのこと声をかけてみようか。身分の上下は大丈夫だろう。
「殿下、少し話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、ケネス殿。私にはエルフの年齢はよく分からないが、どうやら年もそれほど変わらなさそうだし、もう少しくだけた話し方にしてもらってもいいか? 殿下もなしでいい」
「ではレオンツィオ殿でいいでしょうか」
「ああ、それくらいでいい。ところで少し話を聞いてほしいのだが……まあ昼間からこういう話をするのも考えものだが、少し力になってほしい。はっきり意見を言ってもらってかまわない」
「そちらの話でしたか。まあ私にできることなら。では少し場所を変えましょうか」
料理と酒を手に持って、端の会話用のテーブルへと移動する。会話はもちろん小声だ。
「ケネス殿がエルフだということが関係あるかどうかは分からないが、四人の女性を相手にして元気でいられる秘訣が何かあるのかと思ってな」
「秘訣ですか……僕自身が何かをしているわけではありませんが、心当たりはあります。その前に一つお聞きしますが、レオンツィオ殿は子供が欲しいわけではないのですか?」
「それはロシータが言った『頑張って』のことだな。いや、子供を作りたいのではないのだ。それならいくらでも方法はある。そのための酒もあるわけだからな」
なるほど。子供が欲しいのではないと。
「最初は少し話がずれるが、私が王位継承権をすでに放棄していることは聞いているか?」
「いえ、初めて聞きました」
「うむ、私は第三王子だから普通なら王位継承順位は低い。上に二人の兄がいて、それぞれに子供もいるからな。そもそも国王になれるとは思っていなかった。そして自分で言うのもなんだが、国王になれるほどの才能があるとも思わなかった」
「少し自己評価が低い気がしますが」
「こうやって身内と話をしている間はいいさ。だが有力貴族と舌戦を繰り広げられるだけの器用さはない。それは兄たちを見ていても分かる。国王というのは自分以外の全てを捨ててでも国のために尽くす、それくらいできなければ務まらん。結局のところ自分を奮い立たせることができないのが私の欠点なのだが、こればかりはいまさら直らんのだ」
「最初から一歩引いてしまっていたわけですね」
「そう言うことだ。だが、この国の王位継承順位は他の国と少し違うというのは聞いているか?」
「いえ、それも初めて聞きますね。普通なら国王の長男、長男の息子、となりますよね」
「普通ならな。この国では国王の長子だからと言って必ずしも次期国王ということにはならない。初代国王の次の国王は息子を飛び越して孫の一人が選ばれた。簡単に言えば、国王が王家の中から次期国王に相応しい者を選ぶことになっている。私が普通なら王位継承順位が低いと言ったのは、他の国なら国王になれないような位置だったということだ」
「なるほど。生まれではなく才能で選ぶというのはある意味では理にかなっていますね」
「そうだ。国としては無能な国王が上に立つより、有能な国王が選ばれる方が好ましい」
「それはよく分かります」
国民としても臣下としても、愚王よりも賢王の方がいいだろう。でもそれでもおそらく……。
「そこで王位継承権の放棄の話になる。私は人当たりはそれほど悪くはないと思う。気が弱いところがあるが頭は悪くないと思っている。そのような無難な人間を担ぎ上げたい勢力が一定数いるのだ。これまでにもいたし、今でもいる。そして次期国王に人物を選ぶように王に圧力をかけるわけだ。国王の長子でなくても国王になれるということは、そのようなことも起こりえるのだ」
「その勢力に担ぎ上げられそうになった、もしくは担ぎ上げられた、ということですね」
「ああ、担ぎ上げられかけた、というところだ。担ぎ上げられれば実質的には人質だ。そしてその勢力から妻を押し付けられ、生まれてくる子供も人質になる。だから私は王になりたいとは思わなかったし、彼女は王妃にならなかった。このことはロシータも理解してくれている。だから彼女のような女性と結婚したいと思ったのだがな」
「ここまでの話は分かります」
「すまない、前置きが長くなりすぎた。だから継承権を放棄することでそのような勢力とは距離を取ることにしたわけだ。そしてしばらく子供を作らなければ彼らも諦めてくれるだろうと。私は継承権を放棄したが、生まれてくる子供はそうではないからな。ロシータにもそれは了承してもらった」
「それならレオンツィオ殿を担ぎ上げようとした勢力はもう問題ないのでは?」
「そちらはな。だがそれはそれとして……」
急に声のトーンが下がった。
「毎夜毎夜ロシータに求められるが、それに応じないわけにはいかないだろう。『あなたの愛情はそれだけなのですか?』と言われたらどう答えたらいい……」
「それは本当によく分かります」
男同士の固い握手。一瞬前までの真面目な話は何だったのかと思うけど。
いやあ、ねえ、エルフは一〇〇歳くらいまでは子供がほとんどできないらしいんだよ。でも最近はもう子供ができてもいいかなと思えてきたくらい。うちの女性陣はみんな積極的だから。
「子供ができればしばらくそれは避けられるだろう。だがロシータは『王位継承が関係なくなるのでしたら、いつまでも新婚気分でイチャイチャしたいですわ。当分の間は子供はいりませんので、二人の生活を目一杯楽しみましょう』と言っていてな、逆に子供を作らせてもらえないのだ。もしこっそり酒を使ってできたとして、それがバレるようなことになれば、おそらく二度と口を利いてもらえなくなるだろう」
「ご愁傷様です」
「何とかならないだろうか?」
捨てられた子犬のような目で見られてもねえ……でもある程度は殿下に頑張ってもらうしかないよねえ。
「レオンツィオ殿はそちらの方は嫌いではないのですよね?」
「嫌いではないが、ここに住むようになってから連日ではさすがにな。彼女が積極的すぎて体がもたんのだ」
「では頑張ってもらうのは頑張ってもらうとして、苦痛でなくなるようにしましょうか」
「できるのか?」
ロシータさんに求められ過ぎてきついというレオンツィオ殿下。もちろんある程度は殿下に頑張ってもらうしかないのは仕方がないとは言っても、ここは薬か魔法か、それとも両方か。
大森林からこちら、役に立つ薬草などは見つければ採取している。森に入らなくてもそのあたりに生えていたりするので、手に入る量は多い。種類は大森林の方が多かったけどね。その他にも魔獣の肝など、薬に使えるものは保存してある。
日本でよく聞いたのはオットセイ、マムシ、スッポン、ニンニク、マカ、ガラナあたりだろうか。もちろんこちらの世界に同じものがあるわけではないので、各種ミネラルをバランスよく含むサプリを作っておいた。そちら用と言うよりも栄養剤に近いかな。だからサプリメント。
もう一つはやはり魔道具だろうか。念のために言うけど、怪しい大人の道具じゃないよ。回復用のアクセサリーね。ロシータさんの意図を汲んで、子供のできやすさには影響がなく、あくまでお互いの体の回復のためのものだとすれば、ロシータさんも納得してくれるだろう。
「レオンツィオ殿、この話はこっそりするのではなく、ロシータさんも入れて話し合う方が問題が少ないと思いますよ。納得してもらう必要がありますから」
「やはりそうか。彼女にも話すべきだとは思っているのだが、なかなか踏ん切りがつかなくてな。私のわがままに巻き込んだ形だから。分かった、ロシータを呼んでくるから、細かなところは説明してくれるだろうか」
「分かりました」
殿下はすぐにロシータさんを呼んで来た。みんなが何かあったのかとこっちを見てきたけど、何もないと手を振っておいた。
「男性二人で何を企んでいらっしゃるのかと思えば、そういうことでしたか」
「ええ、僕も男ですからレオンツィオ殿のことは理解できますよ。それを相手に話しづらいということも」
「もちろん夫のためであれば嫌とは言いませんわ。ケネスさん、よろしくお願いします。それにしてもあなた、辛いならそう言ってくださればよろしかったのに」
「言ってもよかったのか?」
「ええ、言うのは自由ですわ、言うのはね。それと、その回復用の魔道具は、もちろん私にも作ってくださいますよね? きちんと支払いますから」
「はっはっはっ……ケネス殿、ロシータの分も頼めるかな? 私には特に強力なのを頼む!」
「はい。ちゃちゃっと作りますね」
殿下が離れている間にデザインは考えていた。ゴツくならないように五連の指輪にし、パーツごとに術式を書き込んでいく。宝石を埋め込めば王族が身に着けていてもおかしくないデザインになるだろう。宝石の色とサイズ以外はほぼ同じになった。
殿下の指輪には[体力回復(特)][精力回復(特)][精神回復(特)][物理耐性(特)][魔法耐性(特)][毒耐性(特)]、そして[使用者限定(レオンツィオ)]を付ける。
ロシータさん用は[体力回復(小)][精力回復(小)][精神回復(特)][物理耐性(特)][魔法耐性(特)][毒耐性(特)]、そして[使用者限定(ロシータ)]を付ける。
(特)と(小)の違いはお察しください。二人には隠しておいたけど。
体と心を回復させること、身を守るために物理、魔法、毒に対する耐性を付けたこと、使用者限定なので他の人が付けても意味がないことなどは説明した。
「ケネス殿、本当に助かる」
「ええ、ケネスさん、本当にありがとう。これで私も全力を出せますわ」
「え?」
「あらあなた、あれでもだいぶ抑えていましたのよ。ここのところは持て余し気味で」
「そ、そうか、それは楽しみだな……ケネス殿! この指輪の効果は間違いないよな? 信じてるぞ?」
「それは保証します。何があっても死にません。それでも無理そうならこの錠剤を飲んでください。毎晩一錠です」
そこはほら、もう二人で話し合ってくださいよ。それにしても、これまで知り合った女性はみんな強くて個性的だね。そういうことにしておこう。
「それにしてもマイカが惚れるだけのことはあるわねえ。こんな美しいお嫁さんが五人もだなんて」
「ん? ああ、ワシは違うぞ」
「そうでしたか。でも四人ですものね。あなたも頑張ってくださいね」
「ああ、分かった……」
やっぱり殿下の顔色がちょっと悪い気がする。ひょっとして子供を求められてるとか? でもあのお酒がるあなら、すぐにできるはずだよね。
殿下たちは結婚後、お披露目で直轄領の二重都市群を回り、それからこの離宮に引っ越したんだそうだ。ここに住み始めて一年くらいらしい。
今日は天気もいいので庭で立食で軽い食事でもということになった。さっきから殿下がチラチラとこちらを見ているような気がするんだよね。いっそのこと声をかけてみようか。身分の上下は大丈夫だろう。
「殿下、少し話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、ケネス殿。私にはエルフの年齢はよく分からないが、どうやら年もそれほど変わらなさそうだし、もう少しくだけた話し方にしてもらってもいいか? 殿下もなしでいい」
「ではレオンツィオ殿でいいでしょうか」
「ああ、それくらいでいい。ところで少し話を聞いてほしいのだが……まあ昼間からこういう話をするのも考えものだが、少し力になってほしい。はっきり意見を言ってもらってかまわない」
「そちらの話でしたか。まあ私にできることなら。では少し場所を変えましょうか」
料理と酒を手に持って、端の会話用のテーブルへと移動する。会話はもちろん小声だ。
「ケネス殿がエルフだということが関係あるかどうかは分からないが、四人の女性を相手にして元気でいられる秘訣が何かあるのかと思ってな」
「秘訣ですか……僕自身が何かをしているわけではありませんが、心当たりはあります。その前に一つお聞きしますが、レオンツィオ殿は子供が欲しいわけではないのですか?」
「それはロシータが言った『頑張って』のことだな。いや、子供を作りたいのではないのだ。それならいくらでも方法はある。そのための酒もあるわけだからな」
なるほど。子供が欲しいのではないと。
「最初は少し話がずれるが、私が王位継承権をすでに放棄していることは聞いているか?」
「いえ、初めて聞きました」
「うむ、私は第三王子だから普通なら王位継承順位は低い。上に二人の兄がいて、それぞれに子供もいるからな。そもそも国王になれるとは思っていなかった。そして自分で言うのもなんだが、国王になれるほどの才能があるとも思わなかった」
「少し自己評価が低い気がしますが」
「こうやって身内と話をしている間はいいさ。だが有力貴族と舌戦を繰り広げられるだけの器用さはない。それは兄たちを見ていても分かる。国王というのは自分以外の全てを捨ててでも国のために尽くす、それくらいできなければ務まらん。結局のところ自分を奮い立たせることができないのが私の欠点なのだが、こればかりはいまさら直らんのだ」
「最初から一歩引いてしまっていたわけですね」
「そう言うことだ。だが、この国の王位継承順位は他の国と少し違うというのは聞いているか?」
「いえ、それも初めて聞きますね。普通なら国王の長男、長男の息子、となりますよね」
「普通ならな。この国では国王の長子だからと言って必ずしも次期国王ということにはならない。初代国王の次の国王は息子を飛び越して孫の一人が選ばれた。簡単に言えば、国王が王家の中から次期国王に相応しい者を選ぶことになっている。私が普通なら王位継承順位が低いと言ったのは、他の国なら国王になれないような位置だったということだ」
「なるほど。生まれではなく才能で選ぶというのはある意味では理にかなっていますね」
「そうだ。国としては無能な国王が上に立つより、有能な国王が選ばれる方が好ましい」
「それはよく分かります」
国民としても臣下としても、愚王よりも賢王の方がいいだろう。でもそれでもおそらく……。
「そこで王位継承権の放棄の話になる。私は人当たりはそれほど悪くはないと思う。気が弱いところがあるが頭は悪くないと思っている。そのような無難な人間を担ぎ上げたい勢力が一定数いるのだ。これまでにもいたし、今でもいる。そして次期国王に人物を選ぶように王に圧力をかけるわけだ。国王の長子でなくても国王になれるということは、そのようなことも起こりえるのだ」
「その勢力に担ぎ上げられそうになった、もしくは担ぎ上げられた、ということですね」
「ああ、担ぎ上げられかけた、というところだ。担ぎ上げられれば実質的には人質だ。そしてその勢力から妻を押し付けられ、生まれてくる子供も人質になる。だから私は王になりたいとは思わなかったし、彼女は王妃にならなかった。このことはロシータも理解してくれている。だから彼女のような女性と結婚したいと思ったのだがな」
「ここまでの話は分かります」
「すまない、前置きが長くなりすぎた。だから継承権を放棄することでそのような勢力とは距離を取ることにしたわけだ。そしてしばらく子供を作らなければ彼らも諦めてくれるだろうと。私は継承権を放棄したが、生まれてくる子供はそうではないからな。ロシータにもそれは了承してもらった」
「それならレオンツィオ殿を担ぎ上げようとした勢力はもう問題ないのでは?」
「そちらはな。だがそれはそれとして……」
急に声のトーンが下がった。
「毎夜毎夜ロシータに求められるが、それに応じないわけにはいかないだろう。『あなたの愛情はそれだけなのですか?』と言われたらどう答えたらいい……」
「それは本当によく分かります」
男同士の固い握手。一瞬前までの真面目な話は何だったのかと思うけど。
いやあ、ねえ、エルフは一〇〇歳くらいまでは子供がほとんどできないらしいんだよ。でも最近はもう子供ができてもいいかなと思えてきたくらい。うちの女性陣はみんな積極的だから。
「子供ができればしばらくそれは避けられるだろう。だがロシータは『王位継承が関係なくなるのでしたら、いつまでも新婚気分でイチャイチャしたいですわ。当分の間は子供はいりませんので、二人の生活を目一杯楽しみましょう』と言っていてな、逆に子供を作らせてもらえないのだ。もしこっそり酒を使ってできたとして、それがバレるようなことになれば、おそらく二度と口を利いてもらえなくなるだろう」
「ご愁傷様です」
「何とかならないだろうか?」
捨てられた子犬のような目で見られてもねえ……でもある程度は殿下に頑張ってもらうしかないよねえ。
「レオンツィオ殿はそちらの方は嫌いではないのですよね?」
「嫌いではないが、ここに住むようになってから連日ではさすがにな。彼女が積極的すぎて体がもたんのだ」
「では頑張ってもらうのは頑張ってもらうとして、苦痛でなくなるようにしましょうか」
「できるのか?」
ロシータさんに求められ過ぎてきついというレオンツィオ殿下。もちろんある程度は殿下に頑張ってもらうしかないのは仕方がないとは言っても、ここは薬か魔法か、それとも両方か。
大森林からこちら、役に立つ薬草などは見つければ採取している。森に入らなくてもそのあたりに生えていたりするので、手に入る量は多い。種類は大森林の方が多かったけどね。その他にも魔獣の肝など、薬に使えるものは保存してある。
日本でよく聞いたのはオットセイ、マムシ、スッポン、ニンニク、マカ、ガラナあたりだろうか。もちろんこちらの世界に同じものがあるわけではないので、各種ミネラルをバランスよく含むサプリを作っておいた。そちら用と言うよりも栄養剤に近いかな。だからサプリメント。
もう一つはやはり魔道具だろうか。念のために言うけど、怪しい大人の道具じゃないよ。回復用のアクセサリーね。ロシータさんの意図を汲んで、子供のできやすさには影響がなく、あくまでお互いの体の回復のためのものだとすれば、ロシータさんも納得してくれるだろう。
「レオンツィオ殿、この話はこっそりするのではなく、ロシータさんも入れて話し合う方が問題が少ないと思いますよ。納得してもらう必要がありますから」
「やはりそうか。彼女にも話すべきだとは思っているのだが、なかなか踏ん切りがつかなくてな。私のわがままに巻き込んだ形だから。分かった、ロシータを呼んでくるから、細かなところは説明してくれるだろうか」
「分かりました」
殿下はすぐにロシータさんを呼んで来た。みんなが何かあったのかとこっちを見てきたけど、何もないと手を振っておいた。
「男性二人で何を企んでいらっしゃるのかと思えば、そういうことでしたか」
「ええ、僕も男ですからレオンツィオ殿のことは理解できますよ。それを相手に話しづらいということも」
「もちろん夫のためであれば嫌とは言いませんわ。ケネスさん、よろしくお願いします。それにしてもあなた、辛いならそう言ってくださればよろしかったのに」
「言ってもよかったのか?」
「ええ、言うのは自由ですわ、言うのはね。それと、その回復用の魔道具は、もちろん私にも作ってくださいますよね? きちんと支払いますから」
「はっはっはっ……ケネス殿、ロシータの分も頼めるかな? 私には特に強力なのを頼む!」
「はい。ちゃちゃっと作りますね」
殿下が離れている間にデザインは考えていた。ゴツくならないように五連の指輪にし、パーツごとに術式を書き込んでいく。宝石を埋め込めば王族が身に着けていてもおかしくないデザインになるだろう。宝石の色とサイズ以外はほぼ同じになった。
殿下の指輪には[体力回復(特)][精力回復(特)][精神回復(特)][物理耐性(特)][魔法耐性(特)][毒耐性(特)]、そして[使用者限定(レオンツィオ)]を付ける。
ロシータさん用は[体力回復(小)][精力回復(小)][精神回復(特)][物理耐性(特)][魔法耐性(特)][毒耐性(特)]、そして[使用者限定(ロシータ)]を付ける。
(特)と(小)の違いはお察しください。二人には隠しておいたけど。
体と心を回復させること、身を守るために物理、魔法、毒に対する耐性を付けたこと、使用者限定なので他の人が付けても意味がないことなどは説明した。
「ケネス殿、本当に助かる」
「ええ、ケネスさん、本当にありがとう。これで私も全力を出せますわ」
「え?」
「あらあなた、あれでもだいぶ抑えていましたのよ。ここのところは持て余し気味で」
「そ、そうか、それは楽しみだな……ケネス殿! この指輪の効果は間違いないよな? 信じてるぞ?」
「それは保証します。何があっても死にません。それでも無理そうならこの錠剤を飲んでください。毎晩一錠です」
そこはほら、もう二人で話し合ってくださいよ。それにしても、これまで知り合った女性はみんな強くて個性的だね。そういうことにしておこう。
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