新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

文字の大きさ
58 / 278
第一章 第三部

レオンツィオの悩み

しおりを挟む
 子供の話をされて珍しくマイカが焦ってるけど、さすがに姉の前では恥ずかしいのかな?

「それにしてもマイカが惚れるだけのことはあるわねえ。こんな美しいお嫁さんが五人もだなんて」
「ん? ああ、ワシは違うぞ」
「そうでしたか。でも四人ですものね。あなたもくださいね」
「ああ、分かった……」

 やっぱり殿下の顔色がちょっと悪い気がする。ひょっとして子供を求められてるとか? でもあのお酒がるあなら、すぐにできるはずだよね。

 殿下たちは結婚後、お披露目で直轄領の二重都市群を回り、それからこの離宮に引っ越したんだそうだ。ここに住み始めて一年くらいらしい。

 今日は天気もいいので庭で立食で軽い食事でもということになった。さっきから殿下がチラチラとこちらを見ているような気がするんだよね。いっそのこと声をかけてみようか。身分の上下は大丈夫だろう。

「殿下、少し話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、ケネス殿。私にはエルフの年齢はよく分からないが、どうやら年もそれほど変わらなさそうだし、もう少しくだけた話し方にしてもらってもいいか? 殿下もなしでいい」
「ではレオンツィオ殿でいいでしょうか」
「ああ、それくらいでいい。ところで少し話を聞いてほしいのだが……まあ昼間からこういう話をするのも考えものだが、少し力になってほしい。はっきり意見を言ってもらってかまわない」
の話でしたか。まあ私にできることなら。では少し場所を変えましょうか」

 料理と酒を手に持って、端の会話用のテーブルへと移動する。会話はもちろん小声だ。

「ケネス殿がエルフだということが関係あるかどうかは分からないが、四人の女性を相手にして元気でいられる秘訣が何かあるのかと思ってな」
「秘訣ですか……僕自身が何かをしているわけではありませんが、心当たりはあります。その前に一つお聞きしますが、レオンツィオ殿は子供が欲しいわけではないのですか?」
「それはロシータが言った『頑張って』のことだな。いや、子供を作りたいのではないのだ。それならいくらでも方法はある。そのための酒もあるわけだからな」

 なるほど。子供が欲しいのではないと。

「最初は少し話がずれるが、私が王位継承権をすでに放棄していることは聞いているか?」
「いえ、初めて聞きました」
「うむ、私は第三王子だから普通なら王位継承順位は低い。上に二人の兄がいて、それぞれに子供もいるからな。そもそも国王になれるとは思っていなかった。そして自分で言うのもなんだが、国王になれるほどの才能があるとも思わなかった」
「少し自己評価が低い気がしますが」
「こうやって身内と話をしている間はいいさ。だが有力貴族と舌戦を繰り広げられるだけの器用さはない。それは兄たちを見ていても分かる。国王というのは自分以外の全てを捨ててでも国のために尽くす、それくらいできなければ務まらん。結局のところ自分を奮い立たせることができないのが私の欠点なのだが、こればかりはいまさら直らんのだ」
「最初から一歩引いてしまっていたわけですね」
「そう言うことだ。だが、この国の王位継承順位は他の国と少し違うというのは聞いているか?」
「いえ、それも初めて聞きますね。普通なら国王の長男、長男の息子、となりますよね」
「普通ならな。この国では国王の長子だからと言って必ずしも次期国王ということにはならない。初代国王の次の国王は息子を飛び越して孫の一人が選ばれた。簡単に言えば、国王が王家の中から次期国王に相応しい者を選ぶことになっている。私が普通なら王位継承順位が低いと言ったのは、他の国なら国王になれないような位置だったということだ」
「なるほど。生まれではなく才能で選ぶというのはある意味では理にかなっていますね」
「そうだ。国としては無能な国王が上に立つより、有能な国王が選ばれる方が好ましい」
「それはよく分かります」

 国民としても臣下としても、愚王よりも賢王の方がいいだろう。でもそれでもおそらく……。

「そこで王位継承権の放棄の話になる。私は人当たりはそれほど悪くはないと思う。気が弱いところがあるが頭は悪くないと思っている。そのような無難な人間を担ぎ上げたい勢力が一定数いるのだ。これまでにもいたし、今でもいる。そして次期国王に人物を選ぶように王に圧力をかけるわけだ。国王の長子でなくても国王になれるということは、そのようなことも起こりえるのだ」
「その勢力に担ぎ上げられそうになった、もしくは担ぎ上げられた、ということですね」
「ああ、担ぎ上げられかけた、というところだ。担ぎ上げられれば実質的には人質だ。そしてその勢力から妻を押し付けられ、生まれてくる子供も人質になる。だから私は王になりたいとは思わなかったし、彼女は王妃にならなかった。このことはロシータも理解してくれている。だから彼女のような女性と結婚したいと思ったのだがな」
「ここまでの話は分かります」
「すまない、前置きが長くなりすぎた。だから継承権を放棄することでそのような勢力とは距離を取ることにしたわけだ。そしてしばらく子供を作らなければ彼らも諦めてくれるだろうと。私は継承権を放棄したが、生まれてくる子供はそうではないからな。ロシータにもそれは了承してもらった」
「それならレオンツィオ殿を担ぎ上げようとした勢力はもう問題ないのでは?」
「そちらはな。だがそれはそれとして……」

 急に声のトーンが下がった。

「毎夜毎夜ロシータに求められるが、それに応じないわけにはいかないだろう。『あなたの愛情はそれだけなのですか?』と言われたらどう答えたらいい……」
「それは本当によく分かります」

 男同士の固い握手。一瞬前までの真面目な話は何だったのかと思うけど。

 いやあ、ねえ、エルフは一〇〇歳くらいまでは子供がほとんどできないらしいんだよ。でも最近はもう子供ができてもいいかなと思えてきたくらい。うちの女性陣はみんな積極的だから。

「子供ができればしばらくそれは避けられるだろう。だがロシータは『王位継承が関係なくなるのでしたら、いつまでも新婚気分でイチャイチャしたいですわ。当分の間は子供はいりませんので、二人の生活を目一杯楽しみましょう』と言っていてな、逆に子供を作らせてもらえないのだ。もしこっそりを使ってできたとして、それがバレるようなことになれば、おそらく二度と口を利いてもらえなくなるだろう」
「ご愁傷様です」
「何とかならないだろうか?」

 捨てられた子犬のような目で見られてもねえ……でもある程度は殿下に頑張ってもらうしかないよねえ。

「レオンツィオ殿はの方は嫌いではないのですよね?」
「嫌いではないが、ここに住むようになってから連日ではさすがにな。彼女が積極的すぎて体がもたんのだ」
「では頑張ってもらうのは頑張ってもらうとして、苦痛でなくなるようにしましょうか」
「できるのか?」

 ロシータさんに求められ過ぎてきついというレオンツィオ殿下。もちろんある程度は殿下に頑張ってもらうしかないのは仕方がないとは言っても、ここは薬か魔法か、それとも両方か。

 大森林からこちら、役に立つ薬草などは見つければ採取している。森に入らなくてもそのあたりに生えていたりするので、手に入る量は多い。種類は大森林の方が多かったけどね。その他にも魔獣の肝など、薬に使えるものは保存してある。

 日本でよく聞いたのはオットセイ、マムシ、スッポン、ニンニク、マカ、ガラナあたりだろうか。もちろんこちらの世界に同じものがあるわけではないので、各種ミネラルをバランスよく含むサプリを作っておいた。と言うよりも栄養剤に近いかな。だからサプリメント。

 もう一つはやはり魔道具だろうか。念のために言うけど、怪しい大人の道具じゃないよ。回復用のアクセサリーね。ロシータさんの意図を汲んで、子供のできやすさには影響がなく、あくまでお互いの体の回復のためのものだとすれば、ロシータさんも納得してくれるだろう。

「レオンツィオ殿、この話はこっそりするのではなく、ロシータさんも入れて話し合う方が問題が少ないと思いますよ。納得してもらう必要がありますから」
「やはりそうか。彼女にも話すべきだとは思っているのだが、なかなか踏ん切りがつかなくてな。私のわがままに巻き込んだ形だから。分かった、ロシータを呼んでくるから、細かなところは説明してくれるだろうか」
「分かりました」

 殿下はすぐにロシータさんを呼んで来た。みんなが何かあったのかとこっちを見てきたけど、何もないと手を振っておいた。



「男性二人で何を企んでいらっしゃるのかと思えば、そういうことでしたか」
「ええ、僕も男ですからレオンツィオ殿のことは理解できますよ。それを相手に話しづらいということも」
「もちろん夫のためであれば嫌とは言いませんわ。ケネスさん、よろしくお願いします。それにしてもあなた、辛いならそう言ってくださればよろしかったのに」
「言ってもよかったのか?」
「ええ、言うのは自由ですわ、言うのはね。それと、その回復用の魔道具は、もちろん作ってくださいますよね? きちんと支払いますから」
「はっはっはっ……ケネス殿、ロシータの分も頼めるかな? 私には特に強力なのを頼む!」
「はい。ちゃちゃっと作りますね」

 殿下が離れている間にデザインは考えていた。ゴツくならないように五連の指輪にし、パーツごとに術式を書き込んでいく。宝石を埋め込めば王族が身に着けていてもおかしくないデザインになるだろう。宝石の色とサイズ以外はほぼ同じになった。

 殿下の指輪には[体力回復(特)][精力回復(特)][精神回復(特)][物理耐性(特)][魔法耐性(特)][毒耐性(特)]、そして[使用者限定(レオンツィオ)]を付ける。

 ロシータさん用は[体力回復(小)][精力回復(小)][精神回復(特)][物理耐性(特)][魔法耐性(特)][毒耐性(特)]、そして[使用者限定(ロシータ)]を付ける。

 (特)と(小)の違いはお察しください。二人には隠しておいたけど。

 体と心を回復させること、身を守るために物理、魔法、毒に対する耐性を付けたこと、使用者限定なので他の人が付けても意味がないことなどは説明した。

「ケネス殿、本当に助かる」
「ええ、ケネスさん、本当にありがとう。これで私も全力を出せますわ」
「え?」
「あらあなた、あれでもだいぶいましたのよ。ここのところはで」
「そ、そうか、それは楽しみだな……ケネス殿! この指輪の効果は間違いないよな? 信じてるぞ?」
「それは保証します。何があっても死にません。それでも無理そうならこの錠剤を飲んでください。毎晩一錠です」

 そこはほら、もう二人で話し合ってくださいよ。それにしても、これまで知り合った女性はみんな強くて個性的だね。そういうことにしておこう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...