60 / 278
第一章 第三部
お菓子作りと相談
しおりを挟む
「あ、旦那様、お早いお戻りですね」
エリーがそう言うと、厨房にいた料理人たちが一斉に僕に向かって頭を下げた。
どうもエリー主催の料理教室のようになっているみたいだから、僕がエリーに料理を教えていると聞いたんだろうか。料理人たちがエリーの指示で下拵えをしている横で、ミシェルもピーラーで野菜の皮を剥いたりしてるね。最近は料理のお手伝いもするようになったからね。
「少し予定が変わってね。何か手伝える?」
「ではデザート類をお願いできますか?」
「了解」
デザートね。何がいいかな。
この世界でもデザート類はある。日本でよく見たようなものもあるし、食べ物なのかどうか怪しいものもある。ただしそこまでお金がかけられないので、ほとんどは上流階級の楽しみ止まりらしい。しかもパイなどの焼いたものばかりで、生菓子はほとんどない。
「なにをつくるの?」
皮むきが終わらせたミシェルが寄ってきた。
「ミシェルはどんなのがいい?」
「あのちょっとにがいのがいい」
ティラミスかな。ミシェルは全然好き嫌いはないけど、ただ甘いだけよりも酸味や苦味が利いたものが好きなんだよね。意外に味覚は大人に近いかな。
王族なら手に入る材料が多いと思うけど、似たような材料があるかどうか、料理人に確認しないとね。料理長はあの男性かな?
「ティラミスというケーキは聞いたことがありますか?」
「いえ、ありません。どのようなケーキでしょうか?」
「このケーキは焼きません。コーヒーやクリームチーズなどを使った冷やしたケーキです」
「焼かないのですか?」
「はい」
「ちなみにクリームチーズはありますか? ミルクから水分を抜いてから発酵させたものです」
「何種類かあります。パンなどに塗って食べたり、料理に使ったりすることが多いですね。少し酸味があります」
「種類がいくつかあるのなら、硬すぎず柔らかすぎずというものを使いたいのですが」
「では用意します」
この世界にはコーヒーとココアもある。高級な嗜好品らしく、あまり一般的ではないけど。おそらく南方にコーヒーの木やカカオの木もあるんだろう。
エスプレッソは今回は直火式のモカポットを使うことにする。マキネッタとか呼ばれることもあるね。形はそれだけど、中の圧力がかなり高くなるように魔道具化してある。
型の中にエスプレッソを染み込ませておいたビスケットを敷き、その上にクリームを流し入れる。これを二回か三回繰り返して層にする。冷やして固まったら上にココアパウダーを振りかける。以上。
クリームの名前は覚えていないけどカスタードの一種。卵黄に砂糖を入れて温めながら泡立て、そこにワインを入れる。それからクリームチーズを加えてよく混ぜる。
ワインは普通のワインじゃなくて、なんとかという名前の度数の高いワインのはずだけど、普通のワインしかないからそれを使う。いざとなればブランデーやラムを足しても問題ないんじゃないかな? それに近い蒸留酒もあるみたいだし。
完成したので型から外してみんなで試食する。料理人たちにも試食してもらった。
「このほろ苦いのがいいですな」
「クリームチーズの酸味が利いてさっぱりしていますね。これなら甘いのが苦手な方でも大丈夫そうですね」
「膨らませる必要がないので、かなり失敗が少ないのでは?」
なかなか好評のようだ。僕は甘すぎるのはそこまで得意じゃないから、クリームチーズを使ったのが好きなんだよね。
「まずコーヒーは濃くすること。先ほどのモカポットを使ってもいいですし、粉を多くした濃いコーヒーでも構いません。ビスケットはなるべく柔らかいものを使ってください。それと日持ちがしません。時間の止まる保存庫がなければ作った日と翌日くらいです。それくらい注意すれば大丈夫ですよ」
好評だったようなのでレシピを書いて渡した。もちろん材料や分量は適当に調整してくださいと伝えた。モカポットは市販品の改造品なので、そのまま料理長に譲った。魔石くらいはなんとかなるだろう。
もう一つはマカロンにしようか。材料が手に入りやすいけど普通に作ると少し時間がかかる。色を変えれば見た目は華やかになる。今回はプレーンなマカロンを作ることにした。
材料は本体が卵白、砂糖、粉糖、アーモンドパウダー、バタークリームが卵黄、砂糖、バターくらいのものだ。
卵白を泡立てたら砂糖を入れてひたすら混ぜ、硬いメレンゲができたら粉糖とアーモンドを入れてさっくり混ぜる。メレンゲが潰れないように混ぜて艶が出てきたら口金を付けた絞り器に入れてクッキングシートの上に丸く絞り出す。
表面が乾くのに三〇分から一時間、長ければ数時間はかかるけど、今回は魔法で乾燥させる。
まずは一五〇度から一六〇度くらいの温度で予熱してから焼き始め、足がぷつぷつと出てきたら一度開けて温度を下げてから少し低めの温度で焼くと焦げにくい。全部で一五分くらいかな。
中のクリームは卵黄を泡立てて、砂糖をお湯に溶かしたシロップを少しずつ加え、さらにバターを混ぜる。混ぜたら絞り器で絞って挟む。
「これは独特な食感ですな」
「もっとさっくりしているのかと思えば、意外ともっちりしていますね」
「色を変えれば見た目にも楽しくなりますね」
本体に色を付けたければ乾燥させた果物を細かく刻んで入れればいい。バタークリームに味を付けるのもいい。そのあたりのアドバイスも含め、これもレシピを渡した。
最後はゼリー。お菓子作りにあると便利なのがゼラチン。
ゼラチンは牛や豚の皮、魚の皮や鱗をきれいにしてから煮込めば出てくる。要するにコラーゲン。それを漉してきれいにして固めれば板ゼラチンになる。ただ手間はかかるし、自分で作れば臭いが気になる。煮込んで取り出す手法は教えたけど、実際は魔道具で抽出した。
いつものように樽を改造して[加熱][抽出][浄化][消臭][乾燥]を使って粉末のコラーゲンが取り出せるようにした。本来は捨てる部分を使えるから無駄がないし、この樽を使えば臭いが出ないから骨を入れても大丈夫。自分で骨を煮込んだことがある人は分かると思うけど、すごい臭いがするんだよね。特に豚骨は。
ゼラチンはお湯の中に溶かし入れるだけだからレシピも何もないけど、色々なバリエーションがあるということを伝えた。
今回作ったのはシンプルな柑橘果汁のゼリーだけど、フルーツゼリーやコーヒーゼリー、他にもババロアなどが作れるし、食欲がない時にはスープをゼラチンで固めれば食べやすくなる。何も味をつけないゼリーを作って、好きなシロップをかける食べ方もある。
作ったのはその三つだけど、料理長が焼かないお菓子を聞きたがったので教えることにした。
ゼラチンは使わないけどムースもレシピを渡した。
よく似た食材として寒天も教えたけど、このあたりでは見ないらしいから、そういう物があると参考までに教えるだけにした。
僕はプロじゃないから趣味で作っていただけなんだけど、生クリームがあるとお菓子は作りやすい。この世界では牛や山羊など、ミルクが採れる動物はいるし、この別邸にもいるのでそれは困らないらしい。生クリームも作られていたしね。
それでもやはり焼かないお菓子は珍しいらしい。カスタードに近いものはあるけどあくまでパンやクラッカーに塗るスプレッドのような使い方らしい。それ自体を食べるという発想がなかったらしい。
「でもこういう発想って、つまみ食いとかしているうちに気付きそうなものですけどね」
そう言ったら主に女性の料理人二人が目をそらした。この二人はなんとなく気付いてたね。
今日の夕食は殿下とロシータさんも同席することになった。親族の饗応役を務めるということで面倒なパーティーから逃げたらしい。
「いや、この料理と比べると、これまで食べていたパーティーの料理が単調な味付けに思えてくるな」
「そうですね。実家でマイカが作ってくれた料理も美味しかったけど、これはそれ以上ね。普段からこんな美味しいものを食べているのかと思うと羨ましいわ」
「ありがとうございます。レシピは料理長に渡していますので、また作ってもらってください」
「そうしてもらおう。でもレシピを渡していいのか? 普通は隠すものだが」
「僕は貴族でもなんでもありませんし、誰かと競うつもりもありませんから」
「そう言ってもらえるのは嬉しいが……」
「やはり家ごとに秘蔵のレシピのようなものがあるんですか?」
「あるなあ……パーティーではその家の『とっておき』を出す感じだな。『うちの料理人はこんな物まで作れるんだ』と自慢するのが普通だ。それを食べた者は何を使っているかを舌で覚えておき、その味を料理人たち伝えて再現させる。そして次に自分のところでパーティーをする時には、その再現した料理を出してあっと言わせる、こういう流れだな」
殿下は少し疲れたような口調でそう言った。
「レシピが広がって、それはそれでいいんじゃないですか?」
「それが美味しければ問題ないが、必ずしもそうとは言えないからな。『こんな貴重な食材を使っています』と出された高級な料理が、例えば辛いだけとか苦いだけとか酸っぱいだけのこともある。立場的に主賓として招かれることが多いので、残すわけにもいかない。もし下級貴族のパーティーでそういうことがあれば、有力貴族が一通り作り終えるまでまそれが続くことになる。無駄に対抗心があるからな」
「ああ、それは大変ですね」
有力貴族が満足するまで高級で不味い料理が続くこともあるとか。地獄だね。
食後は居間に移動すると、先ほどのマカロンと紅茶が出てきた。
「あらこれは」
「食感が不思議だな」
お二人の口にも合ったようだ。食後のお茶をしながら、ここでリゼッタたちの意見も聞くことにした。
「午後にレオンツィオ殿とロシータさん、それにマイカとは話したんだけど、みんなの意見も聞きたくて」
そう前置きしてから話を始めた。
「たまたまパルツィ子爵の運営する教会と孤児院を見つけたら、そこが潰れかけでね、もう残ってるのが若いシスター見習い一人と小さな女の子一人で、その女の子を引き取らないかとそのシスター見習いに言われてね」
「どうしてケネスに聞いたのかは分かりませんが、そのシスター見習いは人を見る目がありますね」
「マリアンさんの時もそうでしたが~マスターは引きが強いですから~。引き取ればいいことがありますって~。この~光源氏~」
「いや、そんな口調で言われてもね」
「子供の世話ならお任せください。一人が二人になっても大して違いはありませんし、ミシェルに年の近い友達ができれば安心ですから」
「なかよくできる!」
「居候のワシが言うのもなんじゃが、今さら一人や二人くらい増えても変わらんじゃろ。そもそも、お前様はこんな話をする時点で引き取るつもりなんじゃろ?」
僕が断ると誰も考えてないよね。その通りなんだけどね。
「まあみんなならそう言うよね。うん、明日もう一度確認して、本人が来たいと言えば連れて来ようと思う。今日はこっちを見てるだけで何も喋らなかったから、直接聞いてからにするよ」
「ケネス殿は懐が深いな」
「いえ、断りきれないだけですよ」
「ケネスさん、それができるということは経済的にも精神的にも余裕があるということですわ。余裕がなければ他人のことを考えることなどできませんから」
みんなに背中を押してもらった。それで心が定まった。キラ本人が来たいと言えば引き取る。本人は何も言ってなかったからね。ちゃんと本人の考えを聞かないと。
エリーがそう言うと、厨房にいた料理人たちが一斉に僕に向かって頭を下げた。
どうもエリー主催の料理教室のようになっているみたいだから、僕がエリーに料理を教えていると聞いたんだろうか。料理人たちがエリーの指示で下拵えをしている横で、ミシェルもピーラーで野菜の皮を剥いたりしてるね。最近は料理のお手伝いもするようになったからね。
「少し予定が変わってね。何か手伝える?」
「ではデザート類をお願いできますか?」
「了解」
デザートね。何がいいかな。
この世界でもデザート類はある。日本でよく見たようなものもあるし、食べ物なのかどうか怪しいものもある。ただしそこまでお金がかけられないので、ほとんどは上流階級の楽しみ止まりらしい。しかもパイなどの焼いたものばかりで、生菓子はほとんどない。
「なにをつくるの?」
皮むきが終わらせたミシェルが寄ってきた。
「ミシェルはどんなのがいい?」
「あのちょっとにがいのがいい」
ティラミスかな。ミシェルは全然好き嫌いはないけど、ただ甘いだけよりも酸味や苦味が利いたものが好きなんだよね。意外に味覚は大人に近いかな。
王族なら手に入る材料が多いと思うけど、似たような材料があるかどうか、料理人に確認しないとね。料理長はあの男性かな?
「ティラミスというケーキは聞いたことがありますか?」
「いえ、ありません。どのようなケーキでしょうか?」
「このケーキは焼きません。コーヒーやクリームチーズなどを使った冷やしたケーキです」
「焼かないのですか?」
「はい」
「ちなみにクリームチーズはありますか? ミルクから水分を抜いてから発酵させたものです」
「何種類かあります。パンなどに塗って食べたり、料理に使ったりすることが多いですね。少し酸味があります」
「種類がいくつかあるのなら、硬すぎず柔らかすぎずというものを使いたいのですが」
「では用意します」
この世界にはコーヒーとココアもある。高級な嗜好品らしく、あまり一般的ではないけど。おそらく南方にコーヒーの木やカカオの木もあるんだろう。
エスプレッソは今回は直火式のモカポットを使うことにする。マキネッタとか呼ばれることもあるね。形はそれだけど、中の圧力がかなり高くなるように魔道具化してある。
型の中にエスプレッソを染み込ませておいたビスケットを敷き、その上にクリームを流し入れる。これを二回か三回繰り返して層にする。冷やして固まったら上にココアパウダーを振りかける。以上。
クリームの名前は覚えていないけどカスタードの一種。卵黄に砂糖を入れて温めながら泡立て、そこにワインを入れる。それからクリームチーズを加えてよく混ぜる。
ワインは普通のワインじゃなくて、なんとかという名前の度数の高いワインのはずだけど、普通のワインしかないからそれを使う。いざとなればブランデーやラムを足しても問題ないんじゃないかな? それに近い蒸留酒もあるみたいだし。
完成したので型から外してみんなで試食する。料理人たちにも試食してもらった。
「このほろ苦いのがいいですな」
「クリームチーズの酸味が利いてさっぱりしていますね。これなら甘いのが苦手な方でも大丈夫そうですね」
「膨らませる必要がないので、かなり失敗が少ないのでは?」
なかなか好評のようだ。僕は甘すぎるのはそこまで得意じゃないから、クリームチーズを使ったのが好きなんだよね。
「まずコーヒーは濃くすること。先ほどのモカポットを使ってもいいですし、粉を多くした濃いコーヒーでも構いません。ビスケットはなるべく柔らかいものを使ってください。それと日持ちがしません。時間の止まる保存庫がなければ作った日と翌日くらいです。それくらい注意すれば大丈夫ですよ」
好評だったようなのでレシピを書いて渡した。もちろん材料や分量は適当に調整してくださいと伝えた。モカポットは市販品の改造品なので、そのまま料理長に譲った。魔石くらいはなんとかなるだろう。
もう一つはマカロンにしようか。材料が手に入りやすいけど普通に作ると少し時間がかかる。色を変えれば見た目は華やかになる。今回はプレーンなマカロンを作ることにした。
材料は本体が卵白、砂糖、粉糖、アーモンドパウダー、バタークリームが卵黄、砂糖、バターくらいのものだ。
卵白を泡立てたら砂糖を入れてひたすら混ぜ、硬いメレンゲができたら粉糖とアーモンドを入れてさっくり混ぜる。メレンゲが潰れないように混ぜて艶が出てきたら口金を付けた絞り器に入れてクッキングシートの上に丸く絞り出す。
表面が乾くのに三〇分から一時間、長ければ数時間はかかるけど、今回は魔法で乾燥させる。
まずは一五〇度から一六〇度くらいの温度で予熱してから焼き始め、足がぷつぷつと出てきたら一度開けて温度を下げてから少し低めの温度で焼くと焦げにくい。全部で一五分くらいかな。
中のクリームは卵黄を泡立てて、砂糖をお湯に溶かしたシロップを少しずつ加え、さらにバターを混ぜる。混ぜたら絞り器で絞って挟む。
「これは独特な食感ですな」
「もっとさっくりしているのかと思えば、意外ともっちりしていますね」
「色を変えれば見た目にも楽しくなりますね」
本体に色を付けたければ乾燥させた果物を細かく刻んで入れればいい。バタークリームに味を付けるのもいい。そのあたりのアドバイスも含め、これもレシピを渡した。
最後はゼリー。お菓子作りにあると便利なのがゼラチン。
ゼラチンは牛や豚の皮、魚の皮や鱗をきれいにしてから煮込めば出てくる。要するにコラーゲン。それを漉してきれいにして固めれば板ゼラチンになる。ただ手間はかかるし、自分で作れば臭いが気になる。煮込んで取り出す手法は教えたけど、実際は魔道具で抽出した。
いつものように樽を改造して[加熱][抽出][浄化][消臭][乾燥]を使って粉末のコラーゲンが取り出せるようにした。本来は捨てる部分を使えるから無駄がないし、この樽を使えば臭いが出ないから骨を入れても大丈夫。自分で骨を煮込んだことがある人は分かると思うけど、すごい臭いがするんだよね。特に豚骨は。
ゼラチンはお湯の中に溶かし入れるだけだからレシピも何もないけど、色々なバリエーションがあるということを伝えた。
今回作ったのはシンプルな柑橘果汁のゼリーだけど、フルーツゼリーやコーヒーゼリー、他にもババロアなどが作れるし、食欲がない時にはスープをゼラチンで固めれば食べやすくなる。何も味をつけないゼリーを作って、好きなシロップをかける食べ方もある。
作ったのはその三つだけど、料理長が焼かないお菓子を聞きたがったので教えることにした。
ゼラチンは使わないけどムースもレシピを渡した。
よく似た食材として寒天も教えたけど、このあたりでは見ないらしいから、そういう物があると参考までに教えるだけにした。
僕はプロじゃないから趣味で作っていただけなんだけど、生クリームがあるとお菓子は作りやすい。この世界では牛や山羊など、ミルクが採れる動物はいるし、この別邸にもいるのでそれは困らないらしい。生クリームも作られていたしね。
それでもやはり焼かないお菓子は珍しいらしい。カスタードに近いものはあるけどあくまでパンやクラッカーに塗るスプレッドのような使い方らしい。それ自体を食べるという発想がなかったらしい。
「でもこういう発想って、つまみ食いとかしているうちに気付きそうなものですけどね」
そう言ったら主に女性の料理人二人が目をそらした。この二人はなんとなく気付いてたね。
今日の夕食は殿下とロシータさんも同席することになった。親族の饗応役を務めるということで面倒なパーティーから逃げたらしい。
「いや、この料理と比べると、これまで食べていたパーティーの料理が単調な味付けに思えてくるな」
「そうですね。実家でマイカが作ってくれた料理も美味しかったけど、これはそれ以上ね。普段からこんな美味しいものを食べているのかと思うと羨ましいわ」
「ありがとうございます。レシピは料理長に渡していますので、また作ってもらってください」
「そうしてもらおう。でもレシピを渡していいのか? 普通は隠すものだが」
「僕は貴族でもなんでもありませんし、誰かと競うつもりもありませんから」
「そう言ってもらえるのは嬉しいが……」
「やはり家ごとに秘蔵のレシピのようなものがあるんですか?」
「あるなあ……パーティーではその家の『とっておき』を出す感じだな。『うちの料理人はこんな物まで作れるんだ』と自慢するのが普通だ。それを食べた者は何を使っているかを舌で覚えておき、その味を料理人たち伝えて再現させる。そして次に自分のところでパーティーをする時には、その再現した料理を出してあっと言わせる、こういう流れだな」
殿下は少し疲れたような口調でそう言った。
「レシピが広がって、それはそれでいいんじゃないですか?」
「それが美味しければ問題ないが、必ずしもそうとは言えないからな。『こんな貴重な食材を使っています』と出された高級な料理が、例えば辛いだけとか苦いだけとか酸っぱいだけのこともある。立場的に主賓として招かれることが多いので、残すわけにもいかない。もし下級貴族のパーティーでそういうことがあれば、有力貴族が一通り作り終えるまでまそれが続くことになる。無駄に対抗心があるからな」
「ああ、それは大変ですね」
有力貴族が満足するまで高級で不味い料理が続くこともあるとか。地獄だね。
食後は居間に移動すると、先ほどのマカロンと紅茶が出てきた。
「あらこれは」
「食感が不思議だな」
お二人の口にも合ったようだ。食後のお茶をしながら、ここでリゼッタたちの意見も聞くことにした。
「午後にレオンツィオ殿とロシータさん、それにマイカとは話したんだけど、みんなの意見も聞きたくて」
そう前置きしてから話を始めた。
「たまたまパルツィ子爵の運営する教会と孤児院を見つけたら、そこが潰れかけでね、もう残ってるのが若いシスター見習い一人と小さな女の子一人で、その女の子を引き取らないかとそのシスター見習いに言われてね」
「どうしてケネスに聞いたのかは分かりませんが、そのシスター見習いは人を見る目がありますね」
「マリアンさんの時もそうでしたが~マスターは引きが強いですから~。引き取ればいいことがありますって~。この~光源氏~」
「いや、そんな口調で言われてもね」
「子供の世話ならお任せください。一人が二人になっても大して違いはありませんし、ミシェルに年の近い友達ができれば安心ですから」
「なかよくできる!」
「居候のワシが言うのもなんじゃが、今さら一人や二人くらい増えても変わらんじゃろ。そもそも、お前様はこんな話をする時点で引き取るつもりなんじゃろ?」
僕が断ると誰も考えてないよね。その通りなんだけどね。
「まあみんなならそう言うよね。うん、明日もう一度確認して、本人が来たいと言えば連れて来ようと思う。今日はこっちを見てるだけで何も喋らなかったから、直接聞いてからにするよ」
「ケネス殿は懐が深いな」
「いえ、断りきれないだけですよ」
「ケネスさん、それができるということは経済的にも精神的にも余裕があるということですわ。余裕がなければ他人のことを考えることなどできませんから」
みんなに背中を押してもらった。それで心が定まった。キラ本人が来たいと言えば引き取る。本人は何も言ってなかったからね。ちゃんと本人の考えを聞かないと。
1
あなたにおすすめの小説
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる