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第一章 第三部
食事の重要性
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「こんなに食べるのは久しぶりです」
「久しぶり」
「だろうね」
セラとキラの横にあるテーブルに積まれているのは、山のようになった空の器。ここは回転寿司じゃないんだけどね。
「しっかり食べないと力が出ないですよ?」
「食べないと動けなくなる」
「ワシと同じじゃな」
「[食い溜め]だろうね」
マリアンとセラとキラには[食い溜め]というスキルがある。ある程度まとめて食べれば何回か食事を抜いても大丈夫になるという名前そのままのもので、さらには溜め込んだエネルギーを瞬間的に爆発させることでとんでもない力が出すこともできる。だから頻繁に使うとすぐにお腹が減ってしまう。
もちろん彼女たちはそんなスキルを知っていたわけじゃないけど、経験からそのようなことができると気付いていたらしい。
「ふえうはい、はえば、ひおうはい、はいえふ」
「いっひょう、ふいへいふ」
「誰も取らないからゆっくり食べなさい。チャーハンは飲み物じゃないんだから。ほらほらこぼれてる」
バーベキューって半日以上じっくり焼くものだから、ここでするのは単なるグリルというか焼肉パーティーになるのかな。大きめのバーベキュー・グリルを四つと鉄板四つを並べ、離宮の使用人たちにも交代で参加してもらうことになった。
食材はマジックバッグに入っていた熊肉や猪肉、蛇肉、別で買っておいた牛肉や鶏モモ肉など。常に下処理はしてあるからすぐに使える。
他にはカローラさんが入れておいてくれたカニやエビ、イカなど。それと自家製ソーセージ各種。もちろん肉だけじゃなくて野菜も用意した。サツマイモはホイルで包んで焼き芋にする。アルミはないから銅を薄く伸ばして代わりに使った。
タレは自作の醤油ベースの焼肉のタレ、焙煎ごまダレ、ピリ辛ダレ、ポン酢、バーベキューソースなど色々用意した。このあたりは魚介類は多くないのでかなり珍しがられたけど、すみません、それはこの世界にはいないかもしれません。ソースなら教えられますよ。
そしてこの庭で一番注目を集めたのがセラとキラの二人。肉は飲み物と言わんばかりに次から次へと口へ放り込む。慌てて別で肉野菜炒めを作ったり、でっかいステーキを焼いたり、それすら追いつかないからマジックバッグに入れていた唐揚げやチャーシューを与えたら、それも飲み物のように口に入れ始めた。あまりのペースに殿下と執事のシモンさんと料理長が顔を引きつらせている。
危険だと思って途中からは鉄板一つを少し離れた場所に移動させてこの二人専用にした。そうしないと食べ尽くされるからね。マジックバッグからおにぎりとチャーハンを出し、そしてひたすらステーキを焼いていく。
「他のものが食べたいならそれは置きなさい。こっちに顔だけ向けてもダメ。鳥のヒナじゃないんだから」
両手でおにぎりを掴みながら交互に口に入れているセラ。チャーハンの入った容器から直接スプーンで食べているキラ。二人とも横着して僕に肉を食べさせてもらおうと、チラチラこちらを見てくる。だから肉を食べたいなら手を止めなさいって。
「先生、デザートはまだですか?」
「デザート」
「まだ食べるの?」
バーベキューに合うかどうかは分からないけど、作り置きの白玉ぜんざいがある。でも二人に食べ尽くされるわけにはいかないので、きちんと器に盛って渡す。彼女たちの頭くらいある丼だけど。
大量に作ってあったのがこれだけだった。それに白玉は意外とお腹に溜まるよ。もち米と砂糖と小豆だし。
「これで最後ね」
「分かりました」
「分かった」
揃って白玉ぜんざいをモゴモゴと食べる二人。この様子だけ見たらまるで子供だけどね。
結局この二人は最初から最後までひたすら食べ続けた。
「ケネスはちゃんと食べられましたか?」
「一応食べたよ。この二人が食べるのを見てたらすぐにお腹いっぱいになったけど」
「見てるだけで~胸焼けがしそうでした~」
「たべるのすごかった!」
「すごかったけど真似しちゃダメだからね、ミシェル」
「旦那様、ある程度は食事のマナーを教える必要がありますね」
「普段からあのような食べ方なら少し問題がありますよね」
「マイカ殿、おそらく一度満足すれば余程でなければ大丈夫じゃろ。ワシにも同じような経験がある」
そんなことを言っていたら、殿下が簡単なテーブルマナーを教えてくれることになった。実際に指導してくれるのは執事のシモンさん。執事は主人の側に控えているイメージがあったけど、それは従者の仕事らしい。執事は家の管理だとか。従者がいない家では執事が従者の仕事もするらしい。この離宮は使用人が多いから、みんなそれぞれ仕事があるのだとか。
この国の貴族について言えば、屋敷の中にいて使用人をまとめるのが家令や執事、主人に同行して馬車に乗り込んで身の回りの世話をするのが従者や近侍、馬車の前を歩いて先導するのが従僕と呼ばれるのだとか。僕は馬車の側を歩いていたから、最初は従僕だと思われたらしい。馬車の外を歩いていたエルフが伯爵家令嬢の恋人だとは思わないよね。ややこしくてすみません。
午後の軽食の時間、つまりおやつの時間を使ってみんなでテーブルマナーを勉強することにした。貴族のパーティーに呼ばれたらという設定にしてもらったけど、教えてもらうのは基本的なことだけだし、参加する側はそこまで厳密でなくてもいいらしい。マナーの内容はフランス料理に近いようだけど少し違った。
フォークやナイフは料理ごと出てきて、食事中に置く場合はハの字に置く。食べ終わったら揃えて置く。種族によって体格が違ったりするから、客に合わせて用意するのがホスト側のマナーだとか。
ナプキンは襟元に入れてもいいし、膝の上に二つ折りにしてもいい。貴族は太った人が多いし、やはり種族によって体型が違う。膝の上にナプキンを置いても意味がないことがあるから、襟元に入れてもいいらしい。なるほどね。
中座する時はナプキンを軽く畳んで椅子の座面に置く。テーブルに置くと食事を終えたという合図になるらしい。
食事中の会話は国によっても微妙に違うそうだけど、この国では話をしながら食べることが多い。でも口に入れながら話すのはダメ。他にはなるべくフォークとナイフの音を立てないとか、食べる時にすすらないとか、それくらいかな。
こういったことはマイカは当然知っているけど、僕は日本のレストラン程度のマナーしか知らない。リゼッタやカロリッタだって貴族のテーブルマナーの細かな部分まではさすがに知らないし、マリアンはそもそも気にしない。ミシェルはエリーと一緒に一生懸命覚えようとしていた。
やっぱり苦労していたのがセラとキラ。それでもバーベキューの時のような食べ方はしていなかったから、あれは緊急事態だったんだろう。
マナー講座が終わったらセラとキラがぐったりしていた。頭から煙が出そうだ。
「先生、頭が栄養を欲しています」
「補給を」
「五分前に食べたのは何?」
◆ ◆ ◆
もう数日ほどお世話になることにして、あらためて買い出しに出かけることにした。僕のお供はリゼッタとカロリッタ、セラとキラ。
エリーはミシェルと一緒に離宮にある本を読ませてもらうらしい。貴族向けの物語とかもあるし、エリーはミシェルに読み聞かせをするのだとか。
マリアンはマイカと一緒に殿下やロシータさんと話をするらしい。殿下は高祖父の写真ことでマリアンがあの山に住む竜だと知り、この国の昔のことなどを聞きたがったみたい。生きた資料館みたいなものだしね。
そういうわけで僕は四人と一緒に商業地区の一つに向かっている。途中でセラとキラのいた教会の横を通ると、ものの見事に崩れていた。
「セラさんの教会はこんなところにあったのですね」
「豪快に崩れてますね~」
「ギリギリだったんだね。敷地はパルツィ子爵のものだよね。いずれ建て替えるとして、片付けた方がいいかな?」
「石は売れるので持っていきます」
「鉄も売れる」
神父が去り際に「もう君の教会だ」とか「売るも壊すも立て直すも自由だ」などと言ったらしく、言葉通り好きに扱っていたらしい。そのあたりを殿下に聞いたところ、土地は子爵のもの、教会や孤児院の建物そのものは責任者である神父に寄付されたものだと見なされるから、責任者の責任で処分してもいいらしい。つまり神父がセラに全てを譲ったと考えてもいいと。
責任者が教会をきちんと管理していれば、当然ながら領主の評価は上がる。逆に責任者が管理できないのなら、領主の評価は下がる。教会が崩れ去れば評価も何もないだろう。
「先生、そこのお茶の木を引っこ抜いて持って行くといいですよ。ここで飲んでいたものですが、なかなか美味しいです」
セラの言う通りにお茶の木を根っこから掘り起こし、石材や金属類と一緒に収納していく。門まで取ったけどいいのかな?
「これだけあればお昼代になります」
「明日の分もある」
セラがいいと言うのだからいいんだろう。石を売るのは建築に関わる人たちが多い地区。そういうところにはドワーフが多いのだとか。だからといって特別扱いはしてくれない。仕事は仕事と割り切るのだそうだ。
ある商店まで行くと、背は一六〇そこそこの男の人たちがたくさんいた。あの人たちがドワーフの男性なのか。髭を生やしている人が多いけど、それほど人間と変わらない。少しがっしりして見えるかな。それと髪が少し多い。
「おう、セラ。今日も石か?」
「今日で最後です。まとめて持って来ました。ついでに鉄もあります」
「じゃそのあたりに積んでくれ」
「先生、そこにお願いできます?」
崩れた教会から持ってきた石材を全て出していく。ありったけ持ってきたからそれなりに量がある。
「結構な量があるな。教会は大丈夫か?」
「崩れたけど大丈夫です。もう閉めましたので。新しい居場所はここです」
そう言うと、二人は左右から僕の腕をポンポンと叩いた。
「ほう、二人まとめて永久就職というやつか。エルフの兄ちゃん、同じ種族としてよろしく頼むわ」
「いやいや、永久就職じゃないですよ? あくまで面倒を見るだけです」
「これからずっと衣食住の面倒を見てくれるそうです」
「その代わりに尽くす」
「やっぱり永久就職じゃねえか」
「居候ですって」
代金を受け取ったらその足で食材や魔道具を扱っている店を探す。探す間もなくいくつも見つかったので順番に見ていくことにした。
「ケネス、何を探しているのですか? うちのキッチンには一通り揃ってきたと思いますが」
「暮らしていくだけなら何もいらないけどね。他にどういう食材があってどういう道具が使われているのかが見たいだけかな」
「いわゆる~異文化体験のようなことですよね~」
「そうだね」
「うちのキッチンとはどこの家のことです?」
「旅人では?」
「二人にはまだ見せてなかったね。異空間魔法で作った空間に家があるから、夜にでも見る?」
「ぜひお願いです」
「約束」
家で使う道具や魔道具はかなり揃ってきた。キッチンはもう魔道具だらけになっている。エリーも使いこなせるようになったしね。武器としての魔道具は一つもないけど。
欲しい魔道具は見当たらなかった。でもアイデアはあった。こうすればもっと効率よくなるとか。うちにある魔道具の改良ができそう。
食材も朝市ではないから新鮮なものは少ないけど。とりあえずコーヒーの実とカカオを見つけたから、買って植えることにした。おそらく育つだろう。お茶の種類も多いね。
コーヒーはこれまで生豆を買っていたけど、ようやく実のままのものが手に入った。コーヒーの実はコーヒーチェリーと呼ばれ、多くは赤い色をしている。果肉を取り除くとパーチメントと呼ばれる硬い殻に覆われた種が向かい合って入っている。この殻から中身を取り出したものがコーヒー豆。これを焙煎したものがあの茶色いコーヒー豆。
カカオもココアパウダーやチョコレートになったものは手に入ったけど、カカオそのものはなかなか売ってなかった。ようやく家でチョコレートを作れる。
カカオからチョコレートを作るセットは日本でも手に入る。でもなかなか滑らかなチョコレートにはできない。それに市販のチョコレートのようにするなら、脂肪分を抽出したカカオバターを追加したりするので手間がかかる。
とは言え、魔法で処理できるならそこまで手間がかからないから自作がずいぶん楽になるとは思う。カカオが育ったら、久しぶりにチョコレートを作ってみようか。昔はジャリジャリしたチョコレートしか作れなかったから再挑戦だね。
他にもいくつか気になる食材を買い、お昼を食べるために飲食店が集まっているエリアに向かった。
「久しぶり」
「だろうね」
セラとキラの横にあるテーブルに積まれているのは、山のようになった空の器。ここは回転寿司じゃないんだけどね。
「しっかり食べないと力が出ないですよ?」
「食べないと動けなくなる」
「ワシと同じじゃな」
「[食い溜め]だろうね」
マリアンとセラとキラには[食い溜め]というスキルがある。ある程度まとめて食べれば何回か食事を抜いても大丈夫になるという名前そのままのもので、さらには溜め込んだエネルギーを瞬間的に爆発させることでとんでもない力が出すこともできる。だから頻繁に使うとすぐにお腹が減ってしまう。
もちろん彼女たちはそんなスキルを知っていたわけじゃないけど、経験からそのようなことができると気付いていたらしい。
「ふえうはい、はえば、ひおうはい、はいえふ」
「いっひょう、ふいへいふ」
「誰も取らないからゆっくり食べなさい。チャーハンは飲み物じゃないんだから。ほらほらこぼれてる」
バーベキューって半日以上じっくり焼くものだから、ここでするのは単なるグリルというか焼肉パーティーになるのかな。大きめのバーベキュー・グリルを四つと鉄板四つを並べ、離宮の使用人たちにも交代で参加してもらうことになった。
食材はマジックバッグに入っていた熊肉や猪肉、蛇肉、別で買っておいた牛肉や鶏モモ肉など。常に下処理はしてあるからすぐに使える。
他にはカローラさんが入れておいてくれたカニやエビ、イカなど。それと自家製ソーセージ各種。もちろん肉だけじゃなくて野菜も用意した。サツマイモはホイルで包んで焼き芋にする。アルミはないから銅を薄く伸ばして代わりに使った。
タレは自作の醤油ベースの焼肉のタレ、焙煎ごまダレ、ピリ辛ダレ、ポン酢、バーベキューソースなど色々用意した。このあたりは魚介類は多くないのでかなり珍しがられたけど、すみません、それはこの世界にはいないかもしれません。ソースなら教えられますよ。
そしてこの庭で一番注目を集めたのがセラとキラの二人。肉は飲み物と言わんばかりに次から次へと口へ放り込む。慌てて別で肉野菜炒めを作ったり、でっかいステーキを焼いたり、それすら追いつかないからマジックバッグに入れていた唐揚げやチャーシューを与えたら、それも飲み物のように口に入れ始めた。あまりのペースに殿下と執事のシモンさんと料理長が顔を引きつらせている。
危険だと思って途中からは鉄板一つを少し離れた場所に移動させてこの二人専用にした。そうしないと食べ尽くされるからね。マジックバッグからおにぎりとチャーハンを出し、そしてひたすらステーキを焼いていく。
「他のものが食べたいならそれは置きなさい。こっちに顔だけ向けてもダメ。鳥のヒナじゃないんだから」
両手でおにぎりを掴みながら交互に口に入れているセラ。チャーハンの入った容器から直接スプーンで食べているキラ。二人とも横着して僕に肉を食べさせてもらおうと、チラチラこちらを見てくる。だから肉を食べたいなら手を止めなさいって。
「先生、デザートはまだですか?」
「デザート」
「まだ食べるの?」
バーベキューに合うかどうかは分からないけど、作り置きの白玉ぜんざいがある。でも二人に食べ尽くされるわけにはいかないので、きちんと器に盛って渡す。彼女たちの頭くらいある丼だけど。
大量に作ってあったのがこれだけだった。それに白玉は意外とお腹に溜まるよ。もち米と砂糖と小豆だし。
「これで最後ね」
「分かりました」
「分かった」
揃って白玉ぜんざいをモゴモゴと食べる二人。この様子だけ見たらまるで子供だけどね。
結局この二人は最初から最後までひたすら食べ続けた。
「ケネスはちゃんと食べられましたか?」
「一応食べたよ。この二人が食べるのを見てたらすぐにお腹いっぱいになったけど」
「見てるだけで~胸焼けがしそうでした~」
「たべるのすごかった!」
「すごかったけど真似しちゃダメだからね、ミシェル」
「旦那様、ある程度は食事のマナーを教える必要がありますね」
「普段からあのような食べ方なら少し問題がありますよね」
「マイカ殿、おそらく一度満足すれば余程でなければ大丈夫じゃろ。ワシにも同じような経験がある」
そんなことを言っていたら、殿下が簡単なテーブルマナーを教えてくれることになった。実際に指導してくれるのは執事のシモンさん。執事は主人の側に控えているイメージがあったけど、それは従者の仕事らしい。執事は家の管理だとか。従者がいない家では執事が従者の仕事もするらしい。この離宮は使用人が多いから、みんなそれぞれ仕事があるのだとか。
この国の貴族について言えば、屋敷の中にいて使用人をまとめるのが家令や執事、主人に同行して馬車に乗り込んで身の回りの世話をするのが従者や近侍、馬車の前を歩いて先導するのが従僕と呼ばれるのだとか。僕は馬車の側を歩いていたから、最初は従僕だと思われたらしい。馬車の外を歩いていたエルフが伯爵家令嬢の恋人だとは思わないよね。ややこしくてすみません。
午後の軽食の時間、つまりおやつの時間を使ってみんなでテーブルマナーを勉強することにした。貴族のパーティーに呼ばれたらという設定にしてもらったけど、教えてもらうのは基本的なことだけだし、参加する側はそこまで厳密でなくてもいいらしい。マナーの内容はフランス料理に近いようだけど少し違った。
フォークやナイフは料理ごと出てきて、食事中に置く場合はハの字に置く。食べ終わったら揃えて置く。種族によって体格が違ったりするから、客に合わせて用意するのがホスト側のマナーだとか。
ナプキンは襟元に入れてもいいし、膝の上に二つ折りにしてもいい。貴族は太った人が多いし、やはり種族によって体型が違う。膝の上にナプキンを置いても意味がないことがあるから、襟元に入れてもいいらしい。なるほどね。
中座する時はナプキンを軽く畳んで椅子の座面に置く。テーブルに置くと食事を終えたという合図になるらしい。
食事中の会話は国によっても微妙に違うそうだけど、この国では話をしながら食べることが多い。でも口に入れながら話すのはダメ。他にはなるべくフォークとナイフの音を立てないとか、食べる時にすすらないとか、それくらいかな。
こういったことはマイカは当然知っているけど、僕は日本のレストラン程度のマナーしか知らない。リゼッタやカロリッタだって貴族のテーブルマナーの細かな部分まではさすがに知らないし、マリアンはそもそも気にしない。ミシェルはエリーと一緒に一生懸命覚えようとしていた。
やっぱり苦労していたのがセラとキラ。それでもバーベキューの時のような食べ方はしていなかったから、あれは緊急事態だったんだろう。
マナー講座が終わったらセラとキラがぐったりしていた。頭から煙が出そうだ。
「先生、頭が栄養を欲しています」
「補給を」
「五分前に食べたのは何?」
◆ ◆ ◆
もう数日ほどお世話になることにして、あらためて買い出しに出かけることにした。僕のお供はリゼッタとカロリッタ、セラとキラ。
エリーはミシェルと一緒に離宮にある本を読ませてもらうらしい。貴族向けの物語とかもあるし、エリーはミシェルに読み聞かせをするのだとか。
マリアンはマイカと一緒に殿下やロシータさんと話をするらしい。殿下は高祖父の写真ことでマリアンがあの山に住む竜だと知り、この国の昔のことなどを聞きたがったみたい。生きた資料館みたいなものだしね。
そういうわけで僕は四人と一緒に商業地区の一つに向かっている。途中でセラとキラのいた教会の横を通ると、ものの見事に崩れていた。
「セラさんの教会はこんなところにあったのですね」
「豪快に崩れてますね~」
「ギリギリだったんだね。敷地はパルツィ子爵のものだよね。いずれ建て替えるとして、片付けた方がいいかな?」
「石は売れるので持っていきます」
「鉄も売れる」
神父が去り際に「もう君の教会だ」とか「売るも壊すも立て直すも自由だ」などと言ったらしく、言葉通り好きに扱っていたらしい。そのあたりを殿下に聞いたところ、土地は子爵のもの、教会や孤児院の建物そのものは責任者である神父に寄付されたものだと見なされるから、責任者の責任で処分してもいいらしい。つまり神父がセラに全てを譲ったと考えてもいいと。
責任者が教会をきちんと管理していれば、当然ながら領主の評価は上がる。逆に責任者が管理できないのなら、領主の評価は下がる。教会が崩れ去れば評価も何もないだろう。
「先生、そこのお茶の木を引っこ抜いて持って行くといいですよ。ここで飲んでいたものですが、なかなか美味しいです」
セラの言う通りにお茶の木を根っこから掘り起こし、石材や金属類と一緒に収納していく。門まで取ったけどいいのかな?
「これだけあればお昼代になります」
「明日の分もある」
セラがいいと言うのだからいいんだろう。石を売るのは建築に関わる人たちが多い地区。そういうところにはドワーフが多いのだとか。だからといって特別扱いはしてくれない。仕事は仕事と割り切るのだそうだ。
ある商店まで行くと、背は一六〇そこそこの男の人たちがたくさんいた。あの人たちがドワーフの男性なのか。髭を生やしている人が多いけど、それほど人間と変わらない。少しがっしりして見えるかな。それと髪が少し多い。
「おう、セラ。今日も石か?」
「今日で最後です。まとめて持って来ました。ついでに鉄もあります」
「じゃそのあたりに積んでくれ」
「先生、そこにお願いできます?」
崩れた教会から持ってきた石材を全て出していく。ありったけ持ってきたからそれなりに量がある。
「結構な量があるな。教会は大丈夫か?」
「崩れたけど大丈夫です。もう閉めましたので。新しい居場所はここです」
そう言うと、二人は左右から僕の腕をポンポンと叩いた。
「ほう、二人まとめて永久就職というやつか。エルフの兄ちゃん、同じ種族としてよろしく頼むわ」
「いやいや、永久就職じゃないですよ? あくまで面倒を見るだけです」
「これからずっと衣食住の面倒を見てくれるそうです」
「その代わりに尽くす」
「やっぱり永久就職じゃねえか」
「居候ですって」
代金を受け取ったらその足で食材や魔道具を扱っている店を探す。探す間もなくいくつも見つかったので順番に見ていくことにした。
「ケネス、何を探しているのですか? うちのキッチンには一通り揃ってきたと思いますが」
「暮らしていくだけなら何もいらないけどね。他にどういう食材があってどういう道具が使われているのかが見たいだけかな」
「いわゆる~異文化体験のようなことですよね~」
「そうだね」
「うちのキッチンとはどこの家のことです?」
「旅人では?」
「二人にはまだ見せてなかったね。異空間魔法で作った空間に家があるから、夜にでも見る?」
「ぜひお願いです」
「約束」
家で使う道具や魔道具はかなり揃ってきた。キッチンはもう魔道具だらけになっている。エリーも使いこなせるようになったしね。武器としての魔道具は一つもないけど。
欲しい魔道具は見当たらなかった。でもアイデアはあった。こうすればもっと効率よくなるとか。うちにある魔道具の改良ができそう。
食材も朝市ではないから新鮮なものは少ないけど。とりあえずコーヒーの実とカカオを見つけたから、買って植えることにした。おそらく育つだろう。お茶の種類も多いね。
コーヒーはこれまで生豆を買っていたけど、ようやく実のままのものが手に入った。コーヒーの実はコーヒーチェリーと呼ばれ、多くは赤い色をしている。果肉を取り除くとパーチメントと呼ばれる硬い殻に覆われた種が向かい合って入っている。この殻から中身を取り出したものがコーヒー豆。これを焙煎したものがあの茶色いコーヒー豆。
カカオもココアパウダーやチョコレートになったものは手に入ったけど、カカオそのものはなかなか売ってなかった。ようやく家でチョコレートを作れる。
カカオからチョコレートを作るセットは日本でも手に入る。でもなかなか滑らかなチョコレートにはできない。それに市販のチョコレートのようにするなら、脂肪分を抽出したカカオバターを追加したりするので手間がかかる。
とは言え、魔法で処理できるならそこまで手間がかからないから自作がずいぶん楽になるとは思う。カカオが育ったら、久しぶりにチョコレートを作ってみようか。昔はジャリジャリしたチョコレートしか作れなかったから再挑戦だね。
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