64 / 278
第一章 第三部
外食と家の紹介、そして芝居
しおりを挟む
「どの店も~なかなか食べ応えがありそうですね~」
「このあたりはドワーフの職人が多いからでしょうか?」
「先生、私が選んでもいいです?」
「食べ放題を希望」
「いや、普通に食べようよ。もうあの空腹感は治ったでしょ?」
この二人は[食い溜め]というスキルを持っていて、昨日はその反動が出たようだ。でも食い意地が張っているのは元からのようだ。
こざっぱりとした定食屋風のお店に入って席に座ると、何も言ってないのに料理が出てきたから席でお金を払った。
「もしかして、料理は選べないの?」
「このあたりの店に入ったのは数回ですが、選んだ記憶はないです」
「勝手に出てくる」
「品数を絞ることで単価を下げているのでは?」
「効率を考えたらそれが一番ですよね~」
「まあボリュームはあるよね」
いわゆる肉野菜炒めとスープとパンのセット。どれも量が多い。炒め物もスープも洗面器くらいの器になみなみと入ってるし、パンはライ麦の全粒粉かな。頭くらいの大きさがあるパンが一人につき一つ。量が多いからそのうち飽きそう。
「途中で調味料や薬味を入れて味を変えるです」
「最後は真っ黒」
なるほど。二人の言葉から想像すると、テーブルに並んでいる調味料や薬味を肉野菜炒めに少しずつかけて飽きないようにする。パンはスープに浸して食べるけど、こちらもスープに調味料や薬味を入れて味を変える。そのうち炒め物もスープも真っ黒になると。体に悪くない?
「好き嫌いはありませんが、さすがにこの量は胸焼けしそうですね」
「マスター、さする胸はここですよ~」
「無理して食べなくてもいいよ」
「いらないなら貰いますよ?」
「もったいない」
リゼッタとカロリッタは大食いではないので、二人とも食べる前に半分以上セラとキラにあげていた。僕も二人に分けてあげた。さすがにこれを全部食べるのは無理だ。
店を出てからもう一度よく見たら、『他店の量では満足できない健啖家の紳士淑女はぜひ当店へ』と書かれていた。
それから腹ごなしに町中を歩いてから家に戻ったら、夕食の時はセラもキラも落ち着いていた。やっぱり[食い溜め]の反動だったんだろう。今後はああならないように、普段の食事を多めにするかな。
「じゃあ少し家に戻るね」
「居場所を聞かれたら、少し出ていると言っておきます」
「よろしくね」
昼間にセラとキラに言ったように、異空間の家の案内をすることになった。僕だけでいいかと思って、夕食後に一時間ほど戻ることにした。
「何と言っていいのか分かりませんが、ここは何です?」
「不思議」
まあ異空間に入ったと思ったら、家があり、周りは草原、そして向こうには森。暗くなりかけだから遠くはよく見えないけど、広いのだけはよく分かる。
太陽も月も星もないんだけど、なぜか明るくなるし暗くなる。空全体の明るさが変わっている感じ。でも夜は文字通り真っ暗になって気持ち悪いから、ところどころに街灯のような物を立てている。
「じゃあ家に入るよ」
「「お邪魔します」」
リビングに入るとサランとサランAとサランBがいた。
「ウサギがいるんです?」
「可愛い」
「この子たちは念話で話ができるから、ペットじゃなくて家族かな。そっちの牧草地に他にもたくさんいるよ」
久しぶりにサランをもふもふしながら説明をする。
「それなら頑張って念話を覚えます」
「徹夜をしてでも」
「そんなところで無駄なエネルギーを使わないように」
「このセラとキラは今度この家に来るけど、まだ[念話]が使えないからね」
《了解しました。では筆談で意思疎通を図るであります》
「書けるの?」
《はっ。このあたりの文字なら読み書きは可能でありますが、我々の口では言葉が話せませんので、書くことを覚えました》
「じゃあそれでよろしく」
三匹が『熱烈歓迎』『セラ殿』『キラ殿』と書いた紙を頭上に掲げていた。
「この子たちは言葉は話せないけどこちらが言っていることはちゃんと理解してるから」
「ウサギに文字で歓迎されるとは思いませんでした」
「斬新」
その後は二人を連れて一階と二階を順に案内。衣装室ではちょっと固まってたね。中を見た後は裏口に移動して畑を見せると、あんぐりと口を開いていた。少し暗いから分かりにくいけど、まあ広いよね。
「どれくらいの種類があるのです?」
「五〇は超えたと思うよ。一つ一つはそこまで多くないけど。米と麦も育てているから、ないのは肉くらいだね」
「先生は畑の神様です?」
「神よ」
「やめなさい」
二人もこの家で暮らすことになるんだから、今は細かい説明はいらないよね。とりあえずどんな家か分かる程度に中と外をざっと説明して、離宮の離れの方へと移動した。
「おかえりなさい」
「ただいま、リゼッタ」
「あ、先輩、明日はどうしますか? 姉から劇場の芝居に行ってみてはどうかと言われたんですが」
「劇場かあ。一度見てみたいかな」
「なら行きましょう。義兄と姉がいつでも使えるボックス席があるようなので」
◆ ◆ ◆
王都にいるのは残り数日。今日はロシータさんの勧めで王立劇場まで芝居を見に来た。
常に専属の劇団が芝居を上演している劇場もあれば、旅芸人に貸し出している劇場もある。前者の観客は主に上流階級が中心、後者は平民が中心となっている。王立劇場は前者。
ボックス席に案内されたので、周りの視線を気にしなくてすむ。飲食物の持ち込みができるそうなので、あまり音と匂いが出ないみたらし団子を取り出した。お茶は緑茶が合う。
「今日の公演は初代国王の建国物語か」
「この国では身分の上下に関係なく人気のストーリーですよ、先輩」
「だろうねえ」
ある国の下級貴族の家に生まれたフェリン少年が、この国の初代国王フェリチアーノになる話。
上流階級向けの劇場では初代国王の建国物語や騎士の活躍を描いた主に男性向けの物語、舞踏会を舞台にした主に女性向けの物語が多く、庶民向けの劇場では上流階級を揶揄するような喜劇が多いらしい。
もちろん上流階級でもこっそり庶民向けの芝居を見にいくこともあり、「全て見てこそ真の芝居好きと言える」と言う人もいるとか。
「へー、フェリチアーノ王が生まれた場所はかなり遠いのかな?」
「ヴェリキ王国とレトモ王国間に存在した国ですね。領地はその国でも一番南側だったと言われています」
フェリン少年は若いながらも才能を示し、王都に出てからは国王に重用されるほどになった。しかしそのせいで国王の側近や一部の宮廷貴族から妬まれることになってしまった。彼らの策略によって逆賊に仕立て上げられ、諸侯の軍との戦いで負けて領都を放棄せざるを得なくなった。
そのような状況でも彼のために兵を率いて集まってくれた仲間たちがいた。彼らはフェリンと同様、側近たちのやり方によって中央を追われて転封へ転封されていた貴族たちだった。
彼らの協力を得て、一度は体勢を立て直したものの、戦力差はどうしようもなかった。最終的には仲間や部下、そしてフェリンに付いていくと言った領民たちと共に国を捨てた。山を越え、川を渡り、辿り着いた先でどこの国でもない土地を見つけ、そこに国を作った。彼はその国に自分の名前を付け、自分は異国風に名前を変えてフェリチアーノと名乗った。
北のヴェリキ王国や東のレトモ王国と比べれば小さな国だったけど、両国と等距離を保って仲良くしつつ国力を高め、ついにフェリチアーノ王の孫のオッターヴィオが両国の手を借りて祖父の祖国を討った。オッターヴィオは、フェリチアーノの祖国の領土をヴェリキ王国とレトモ王国に譲る代わりに、両国からは当面の和平を保つ約束を取り付けた。
初代国王フェリチアーノの次の王は普通ならその長子になるはずが、三男の息子、孫のオッターヴィオが次の国王になった。だからこのフェリン王国では王の長子だからといって必ずしも王になれるとは限らない。人の上に立つためにはそれなりの資質が必要だ。愚かな部下の話を真に受けて優秀な部下を切り捨て、国を滅ぼすようなことがあってはならない。困った時に助けてくれる友を作りなさい。そのようにして話は締めくくられている。
「何回か見ましたけど、どこかで聞いたことがある気がするんですよね」
さすがに貴族の令嬢だけあって、ここに見たことがあるそうだ。
「ある程度は脚色されるだろうからね」
建国記というのは、『我々の先祖はこれだけ大変な思いをして国を作った』という自負が込められているから、世代を重ねるごとにどうしても大げさになっていくよね。
フェリン王国の話だって既視感があるというか、よくありそうな話だと思う。艱難辛苦を乗り越えて手にした建国の父の偉業を称える。そこにいつの間にか肉付けがされてどんどん壮大な話になる。フェリチアーノ王は墓の中でどういう顔をして見てるんだろう。「よく描けておる」と頷いているか、もしくは「お前らちょっと大げさにしすぎ」と苦笑いしているか。
「勇敢な初代国王と計算高い二代目国王という感じですね」
「組み合わせの妙ですね~」
「むつかしかった」
「まだミシェルには少し難しかったわね。もう少しお話を読んで、色々と覚えましょうね」
「うん!」
「先生、おかわりをください」
「同じく」
「二人とも、ちゃんと見てた?」
「マリアンさんはこのあたりの話を知ってますか?」
「さすがに人の争いに口を挟んだりはせんぞ」
「それもそうですね」
「ただ、存在を示して欲しいと頼まれたことはあったのう」
「存在を示すとは?」
「うむ、このあたりに国ができ始めた頃の話じゃが、あの山を登ってきた男がおってのう。『いずれこの国は大きくなる。それまでに何度かこの国の周辺を飛んで、近隣諸国にこの国を攻めるのは危険だと示して欲しい』と頼まれたことがあってのう。フェリチアーノと名乗っておったから、おそらくこの話に出てきた初代国王じゃ」
「まさかこんな近くに関係者がいたとは……」
何気なくマリアンに聞いたマイカが、帰ってきた答えに半目になった。
「口は挟まなかったのでは?」
「口は挟んでおらんよ。あやつに『もし周辺国との間に戦争が起きれば、国中から騒がしい音が聞こえてくる。それを避けるためと思えば、空の散歩をする程度のことは貴殿にとって大した労力でもないだろう』と言われてのう。それもそうじゃと思うて、それから一〇〇年ほどはたまに北の湖のあたりや東の川のあたりまで飛んでおった」
「マリアンさんは律儀ですね」
「律儀なのはフェリチアーノじゃのう。恩義を感じたんじゃろうが、この国の紋章に竜を入れると言ってな。ほれ」
そう言って彼女が向いた先には、盾を持つ竜をデザインした見慣れたフェリン王国の国章がかかっていた。
「最初の時と礼を言いに来た時と二度会うて、ワシはどちらも竜の姿で出迎えたんじゃが、まったく怯えた素振りもせんでのう、なかなか肝の座った男じゃった」
「先輩、この話を姉たちに伝えてもいいと思いますか?」
「うーん、自分の高祖父が、初代国王を助けた竜をナンパしていたと知ったら、殿下がどういう表情になるかがね……」
「絶対に内緒にします」
「このあたりはドワーフの職人が多いからでしょうか?」
「先生、私が選んでもいいです?」
「食べ放題を希望」
「いや、普通に食べようよ。もうあの空腹感は治ったでしょ?」
この二人は[食い溜め]というスキルを持っていて、昨日はその反動が出たようだ。でも食い意地が張っているのは元からのようだ。
こざっぱりとした定食屋風のお店に入って席に座ると、何も言ってないのに料理が出てきたから席でお金を払った。
「もしかして、料理は選べないの?」
「このあたりの店に入ったのは数回ですが、選んだ記憶はないです」
「勝手に出てくる」
「品数を絞ることで単価を下げているのでは?」
「効率を考えたらそれが一番ですよね~」
「まあボリュームはあるよね」
いわゆる肉野菜炒めとスープとパンのセット。どれも量が多い。炒め物もスープも洗面器くらいの器になみなみと入ってるし、パンはライ麦の全粒粉かな。頭くらいの大きさがあるパンが一人につき一つ。量が多いからそのうち飽きそう。
「途中で調味料や薬味を入れて味を変えるです」
「最後は真っ黒」
なるほど。二人の言葉から想像すると、テーブルに並んでいる調味料や薬味を肉野菜炒めに少しずつかけて飽きないようにする。パンはスープに浸して食べるけど、こちらもスープに調味料や薬味を入れて味を変える。そのうち炒め物もスープも真っ黒になると。体に悪くない?
「好き嫌いはありませんが、さすがにこの量は胸焼けしそうですね」
「マスター、さする胸はここですよ~」
「無理して食べなくてもいいよ」
「いらないなら貰いますよ?」
「もったいない」
リゼッタとカロリッタは大食いではないので、二人とも食べる前に半分以上セラとキラにあげていた。僕も二人に分けてあげた。さすがにこれを全部食べるのは無理だ。
店を出てからもう一度よく見たら、『他店の量では満足できない健啖家の紳士淑女はぜひ当店へ』と書かれていた。
それから腹ごなしに町中を歩いてから家に戻ったら、夕食の時はセラもキラも落ち着いていた。やっぱり[食い溜め]の反動だったんだろう。今後はああならないように、普段の食事を多めにするかな。
「じゃあ少し家に戻るね」
「居場所を聞かれたら、少し出ていると言っておきます」
「よろしくね」
昼間にセラとキラに言ったように、異空間の家の案内をすることになった。僕だけでいいかと思って、夕食後に一時間ほど戻ることにした。
「何と言っていいのか分かりませんが、ここは何です?」
「不思議」
まあ異空間に入ったと思ったら、家があり、周りは草原、そして向こうには森。暗くなりかけだから遠くはよく見えないけど、広いのだけはよく分かる。
太陽も月も星もないんだけど、なぜか明るくなるし暗くなる。空全体の明るさが変わっている感じ。でも夜は文字通り真っ暗になって気持ち悪いから、ところどころに街灯のような物を立てている。
「じゃあ家に入るよ」
「「お邪魔します」」
リビングに入るとサランとサランAとサランBがいた。
「ウサギがいるんです?」
「可愛い」
「この子たちは念話で話ができるから、ペットじゃなくて家族かな。そっちの牧草地に他にもたくさんいるよ」
久しぶりにサランをもふもふしながら説明をする。
「それなら頑張って念話を覚えます」
「徹夜をしてでも」
「そんなところで無駄なエネルギーを使わないように」
「このセラとキラは今度この家に来るけど、まだ[念話]が使えないからね」
《了解しました。では筆談で意思疎通を図るであります》
「書けるの?」
《はっ。このあたりの文字なら読み書きは可能でありますが、我々の口では言葉が話せませんので、書くことを覚えました》
「じゃあそれでよろしく」
三匹が『熱烈歓迎』『セラ殿』『キラ殿』と書いた紙を頭上に掲げていた。
「この子たちは言葉は話せないけどこちらが言っていることはちゃんと理解してるから」
「ウサギに文字で歓迎されるとは思いませんでした」
「斬新」
その後は二人を連れて一階と二階を順に案内。衣装室ではちょっと固まってたね。中を見た後は裏口に移動して畑を見せると、あんぐりと口を開いていた。少し暗いから分かりにくいけど、まあ広いよね。
「どれくらいの種類があるのです?」
「五〇は超えたと思うよ。一つ一つはそこまで多くないけど。米と麦も育てているから、ないのは肉くらいだね」
「先生は畑の神様です?」
「神よ」
「やめなさい」
二人もこの家で暮らすことになるんだから、今は細かい説明はいらないよね。とりあえずどんな家か分かる程度に中と外をざっと説明して、離宮の離れの方へと移動した。
「おかえりなさい」
「ただいま、リゼッタ」
「あ、先輩、明日はどうしますか? 姉から劇場の芝居に行ってみてはどうかと言われたんですが」
「劇場かあ。一度見てみたいかな」
「なら行きましょう。義兄と姉がいつでも使えるボックス席があるようなので」
◆ ◆ ◆
王都にいるのは残り数日。今日はロシータさんの勧めで王立劇場まで芝居を見に来た。
常に専属の劇団が芝居を上演している劇場もあれば、旅芸人に貸し出している劇場もある。前者の観客は主に上流階級が中心、後者は平民が中心となっている。王立劇場は前者。
ボックス席に案内されたので、周りの視線を気にしなくてすむ。飲食物の持ち込みができるそうなので、あまり音と匂いが出ないみたらし団子を取り出した。お茶は緑茶が合う。
「今日の公演は初代国王の建国物語か」
「この国では身分の上下に関係なく人気のストーリーですよ、先輩」
「だろうねえ」
ある国の下級貴族の家に生まれたフェリン少年が、この国の初代国王フェリチアーノになる話。
上流階級向けの劇場では初代国王の建国物語や騎士の活躍を描いた主に男性向けの物語、舞踏会を舞台にした主に女性向けの物語が多く、庶民向けの劇場では上流階級を揶揄するような喜劇が多いらしい。
もちろん上流階級でもこっそり庶民向けの芝居を見にいくこともあり、「全て見てこそ真の芝居好きと言える」と言う人もいるとか。
「へー、フェリチアーノ王が生まれた場所はかなり遠いのかな?」
「ヴェリキ王国とレトモ王国間に存在した国ですね。領地はその国でも一番南側だったと言われています」
フェリン少年は若いながらも才能を示し、王都に出てからは国王に重用されるほどになった。しかしそのせいで国王の側近や一部の宮廷貴族から妬まれることになってしまった。彼らの策略によって逆賊に仕立て上げられ、諸侯の軍との戦いで負けて領都を放棄せざるを得なくなった。
そのような状況でも彼のために兵を率いて集まってくれた仲間たちがいた。彼らはフェリンと同様、側近たちのやり方によって中央を追われて転封へ転封されていた貴族たちだった。
彼らの協力を得て、一度は体勢を立て直したものの、戦力差はどうしようもなかった。最終的には仲間や部下、そしてフェリンに付いていくと言った領民たちと共に国を捨てた。山を越え、川を渡り、辿り着いた先でどこの国でもない土地を見つけ、そこに国を作った。彼はその国に自分の名前を付け、自分は異国風に名前を変えてフェリチアーノと名乗った。
北のヴェリキ王国や東のレトモ王国と比べれば小さな国だったけど、両国と等距離を保って仲良くしつつ国力を高め、ついにフェリチアーノ王の孫のオッターヴィオが両国の手を借りて祖父の祖国を討った。オッターヴィオは、フェリチアーノの祖国の領土をヴェリキ王国とレトモ王国に譲る代わりに、両国からは当面の和平を保つ約束を取り付けた。
初代国王フェリチアーノの次の王は普通ならその長子になるはずが、三男の息子、孫のオッターヴィオが次の国王になった。だからこのフェリン王国では王の長子だからといって必ずしも王になれるとは限らない。人の上に立つためにはそれなりの資質が必要だ。愚かな部下の話を真に受けて優秀な部下を切り捨て、国を滅ぼすようなことがあってはならない。困った時に助けてくれる友を作りなさい。そのようにして話は締めくくられている。
「何回か見ましたけど、どこかで聞いたことがある気がするんですよね」
さすがに貴族の令嬢だけあって、ここに見たことがあるそうだ。
「ある程度は脚色されるだろうからね」
建国記というのは、『我々の先祖はこれだけ大変な思いをして国を作った』という自負が込められているから、世代を重ねるごとにどうしても大げさになっていくよね。
フェリン王国の話だって既視感があるというか、よくありそうな話だと思う。艱難辛苦を乗り越えて手にした建国の父の偉業を称える。そこにいつの間にか肉付けがされてどんどん壮大な話になる。フェリチアーノ王は墓の中でどういう顔をして見てるんだろう。「よく描けておる」と頷いているか、もしくは「お前らちょっと大げさにしすぎ」と苦笑いしているか。
「勇敢な初代国王と計算高い二代目国王という感じですね」
「組み合わせの妙ですね~」
「むつかしかった」
「まだミシェルには少し難しかったわね。もう少しお話を読んで、色々と覚えましょうね」
「うん!」
「先生、おかわりをください」
「同じく」
「二人とも、ちゃんと見てた?」
「マリアンさんはこのあたりの話を知ってますか?」
「さすがに人の争いに口を挟んだりはせんぞ」
「それもそうですね」
「ただ、存在を示して欲しいと頼まれたことはあったのう」
「存在を示すとは?」
「うむ、このあたりに国ができ始めた頃の話じゃが、あの山を登ってきた男がおってのう。『いずれこの国は大きくなる。それまでに何度かこの国の周辺を飛んで、近隣諸国にこの国を攻めるのは危険だと示して欲しい』と頼まれたことがあってのう。フェリチアーノと名乗っておったから、おそらくこの話に出てきた初代国王じゃ」
「まさかこんな近くに関係者がいたとは……」
何気なくマリアンに聞いたマイカが、帰ってきた答えに半目になった。
「口は挟まなかったのでは?」
「口は挟んでおらんよ。あやつに『もし周辺国との間に戦争が起きれば、国中から騒がしい音が聞こえてくる。それを避けるためと思えば、空の散歩をする程度のことは貴殿にとって大した労力でもないだろう』と言われてのう。それもそうじゃと思うて、それから一〇〇年ほどはたまに北の湖のあたりや東の川のあたりまで飛んでおった」
「マリアンさんは律儀ですね」
「律儀なのはフェリチアーノじゃのう。恩義を感じたんじゃろうが、この国の紋章に竜を入れると言ってな。ほれ」
そう言って彼女が向いた先には、盾を持つ竜をデザインした見慣れたフェリン王国の国章がかかっていた。
「最初の時と礼を言いに来た時と二度会うて、ワシはどちらも竜の姿で出迎えたんじゃが、まったく怯えた素振りもせんでのう、なかなか肝の座った男じゃった」
「先輩、この話を姉たちに伝えてもいいと思いますか?」
「うーん、自分の高祖父が、初代国王を助けた竜をナンパしていたと知ったら、殿下がどういう表情になるかがね……」
「絶対に内緒にします」
1
あなたにおすすめの小説
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる