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第一章 第三部
まさかの合流、そして一旦エピローグ
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「ケネス殿には本当に世話になった」
「いえいえ、こちらそこお世話になりっぱなしで」
「次にマイカと会えるのはいつかしらねえ。少し寂しいけど、元気で過ごせるならそれでいいわ」
僕たちは王都を離れることにした。殿下はあの指輪のおかげで体調はずいぶん良くなったようだ。その影響でロシータさんはいつもツヤッツヤだね。
ここにいる間は二人にかなり良くしてもらったけど、僕たちは東へ向かうから今度は当分は会えなくなるはずなんだけど……。
「ここだけの話ですが、僕は行ったことのある場所には[転移]で瞬時に移動できます。いつでもマイカを連れてやって来ますよ」
「あら、そうなのね。そんなに頻繁に来てもマイカも大変でしょうし、半年とか年に一度くらい顔を見せに来てくれると嬉しいわ」
「ええ、それくらいなら全然問題ありませんよ。ねえ、マイカ」
「はい、先輩。今度できれば実家に父と兄がいない時に帰りたいのですが」
「そちらはタイミング次第だね。お兄さんは難しいんじゃないの?」
「そうなんですよね。兄が出てきたら魔法で眠らせたらいいんでしょうか」
マイカがそれなりに無茶を言う。できるけど一般的には問題になるよね。
レオニートさんにはマイカの件でお礼を言わないと。他にはルボルさんとか。でもあそこに行くとミリヤさんがいるのか。
[転移]は行ったことのある場所になら移動できる。つまりどこでも入りたい放題になってしまうので、下手に使えることが分かると危険なんだそうだ。誰だって寝首を掻かれたくはないからね。
ちなみに、絶対に立ち入ってほしくない場所には普通は結界を張るらしい。そうすればその内側には[転移]でも入れなくなる。でも魔力量次第では強引に結界をこじ開けて中に入れるらしい。試しにマリアンが張った結界の中に僕が普通に[転移]で入ったら、また半目になっていた。
またマイカを連れて戻ってくると約束して、僕たちは馬車で離宮を離れた。
王都はかなり人が多いから中心部は速度が出せない。正直なところ歩くよりも遅いけど、馬車で移動する以上は仕方がない。今日は離宮の衛兵が二人、護衛として城門まで送ってくれるからね。
そしてこの滞在中に、マイカの馬車にまた新しい紋章が取り付けられた。これはレオンツィオ殿下の関係者であるという紋章。どんどん馬車の格が上がっている気がするので、下手に見られたらそれはそれで危なそう。
ちなみに馬車は見た目はわりと普通だけど乗り心地は最高になっている。一度殿下が乗って目を輝かせていたので、離宮の馬車を全て改造することになった。少し幅を広くしたけど軽くなったから、馬への負担も減ったと思う。車輪に巻く蛇の皮を除けば高価な材料はほとんど必要ないから代金は受け取らず、後日必要がある時に助力をお願いすることにした。エリーとマリアンのお店の件ね。
さあ、馬たちが少々運動不足気味なので、少し走らせないとね。この子たち、食っちゃ寝してたからね。
◆ ◆ ◆
王都を出て東へ向かう。ようやく半分かあ。とりあえずエリーの故郷のヴァリガ市を仮の目的地としてるけど、まだまだ先だね。
「とりあえず昼まではこのまま走って外で昼食にして、それからは何日かゆっくりしようか。たまには家に戻ってたけど、久しぶりに家でゆっくりしたいでしょ?」
「疲れるようなことはしませんでしたが、家の方が気は楽なのは間違いないですね。休暇というのもおかしなものですが、ケネスも久しぶりに少しゆっくりしてもいいと思いますよ」
「そうですね~。マスターとの愛の巣ですからね~。私たちもゆっくりしましょう~」
「そこを強調しない」
「え~でも~昨日はマイカさんとゆっくりしてましたよね~」
「……」
そうこうしているうちにお昼になったので、みんなには馬車から出てもらってここで昼食にすることにした。昼食後は馬車は家の方に戻そうかな。
「さてと、じゃあそろそろ昼食の準備でも……」
マジックバッグからピクニックシートなどを取り出そうと手を入れたら、何かが見えた。
えーと……マジックバッグに入って出られるというのは聞いてたよ。入れた手紙が引っ張られたあったから、そういうこととも可能だろうとは分かってたよ。
でも、これ出していいの? なんでその格好でじっとこっちを見て待ってるの? なんで自分からは出てこないの? なんでそんな表情なの?
「マスター、どうしましたか~?」
「あの、みんな、今から取り出すものを見ても驚かないように」
周りを見てそう言うと、それを掴んで取り出す。
「……ふう、息がしづらいわけではありませんが、なんとも閉塞感がありますね。ケネスさん、お久しぶりです。リゼッタもカロリッタもご苦労様」
「お久しぶりです、カローラさん」
「お久しぶりです~」
「カ、カローラ様、どうしてこちらに?」
「ようやくまとめて休暇が取れましたので、こちらで過ごそうと思ってやって来ました。ケネスさんが気付いてくれるか心配でしたけど」
「……この中に入れたのなら、僕が出さなくても出られるんじゃないですか?」
「残念ながら、私が自分で向こうから入った場合、あ、マジックバッグは私の手元にないので、時空間魔法を使って入るわけですが、自分から出られるのは向こうだけなんです。つまり入ったところからしか出られません」
「マジックバッグに時空間魔法で入るんですか?」
「私が作った異空間ですから、私ならマジックバッグそのものがなくても入れるわけです。でも入り口は一つしか開けませんから、ケネスさん側には出られません。出ると元の場所に戻るだけです。まあ移動するだけなら他にも方法がありますが、上級管理者が地上世界に下りるには手続きが必要ですから、今回は抜け道に使いました。ちょっとした手違いで地上世界に下りてしまった、という建前です」
「仕事はホントに大丈夫なんですよね?」
「はい、もちろんです。部下のコンラートに引き継ぎましたので、こちらでのんびりできますよ。具体的には子育てが終わるくらいまで」
おかしな言葉が聞こえたよね?
「お久しぶりです、カローラさん。その節はお世話になりました」
「マイカさん、ケネスさんと無事に合流できて安心しましたよ」
「ありがとうございます。それはそうと、ウェディングドレスを着てるのはなぜですか?」
「ああ、これですか。これはエリーさんに作ってもらったものです。ケネスさんにも写真しか見てもらったことがないので、実物を見てもらおうと思いまして」
「先輩、写真は見てたんですね」
「……」
「私が『ケネスさん、この姿であなたの隣に立ちたいです』と書いたら、ケネスさんは『いつでもお待ちしています。僕の愛するカローラ』と返事をしてくれました」
「いや、書いてないでしょ。捏造はやめてください」
「私の心にはそう聞こえましたよ?」
「いきなり現れたが、あれは誰じゃ?」
「私の本体で~、マスターをこの世界に送り込んだ方です~。一言で言い表せば~、残念美人ですね~。趣味の面では~拗らせ腐女子です~」
「拗らせて腐ってるです?」
「ふわふわのあれは白カビ?」
「あの方があの素晴らしい布や魔道具を用意してくださったカローラ様なのですね。話には聞いていましたが、本当に美しい方ですね」
「そうですよ~。見た目だけですが~」
「ほう、ではあのカローラ殿がいなければ、あの数々のドレスは作れなんだと?」
「ええ、そうです。これまでいただいた布で衣装を仕立て、完成したものを何度も納めさせていただきました」
「あのドレスきれー」
「ミシェル、あれは神への捧げ物ですよ。神聖なものです」
「作った本人は欲望の塊のようなものじゃがな」
「さて、ケネスさん、ではこれから二人でどこまでもハネムーンと参りましょうか!」
あれ? なんか目つきが危ない?
「強引に話を持っていきますけど、行きませんよ。旅は続けますけどね。その前にここでこれから昼食です。とりあえずその格好で食べると汚すかもしれないので、馬車の中で着替えてください」
「式が終わる前にいきなり馬車の中でだなんて……」
「いえ、着替えです。服を変えましょう。それよりも掴まないでください」
「お色直しは何回しましょうか。白無垢、色打掛、振袖、ウェディングドレス、カラードレス」
「いえ、いきなりウェディングドレスを着てきて、今さら白無垢もないでしょう。ちょっと、カローラさん?」
「はい、真っ白な私を貰ってください!」
……まったく噛み合ってない……
「カロリッタ! どうにかならない?」
「そういう時は~頭の角を~斜め四五度で~強めにエルボ~。えいっ!」
ガスッ!
「へぶっ!」
上空からのエルボー。いい音がしたね。
「あいたたた……あいたー……あれ? あっ、ケネスさん。お久しぶりです。カロリッタもご苦労様。ようやく仕事が片付きましたので、なんとかケネスさんのところに行けないかと考えていたのですが……どうして私はここにいるのでしょう? それに……カロリッタのとの接続が切れていますね。まあ直接ケネスさんとお話しできるから問題ありませんが」
「そこから?」
「? 何がでしょうか?」
「いえ、まあこれからみんなで昼食にするところです。そのままだとドレスを汚しますので、馬車の中で着替えてください」
「そうですね。どうしてこの格好をしているのか自分でも分かりませんが、とりあえず着替えてきます。では少し失礼しますね」
さっきのは何だったんだろう?
「テンションが上りすぎて~どこかが断線してたみたいですね~」
「叩けばいいって、ハンダ付けが外れた昔の家電じゃないんだし。まあ治ってよかったけど」
「目のハイライトがなくなってましたから~相当危ない状態でしたよ~。あのままならまたガッツリいかれる可能性がありましたね~。最初にマスターがガッツリいかれた時は~あの数倍の壊れ具合で一晩中でしたね~」
「あー、そうだったんだ。でもあの口ぶりだと、自分でマジックバッグに入ったことも覚えてなさそうだね」
「あまりにも思い詰めすぎて~コスプレ中に意識が飛んで~突発的に飛び込んだんでしょうね~」
「それはそうと、接続が切れたってホント?」
「そうですね~。どこかが繋がって~どこかが切れたみたいです~」
「まあとりあえずお昼にしようか」
あらためてマジックバッグからピクニックシートを出して広げていった。
◆ ◆ ◆
昼食はいつものようにピクニックなので、朝のうちに仕込んでおいたものを出していく。サンドイッチやベーグルなどが多いけど、僕のピクニックのイメージはその程度。
カローラさんは当然のように僕の隣りに座ってサンドイッチを食べ始めた。
「ようやくケネスさんと話をしながら食事ができますね」
「こうやって話すのも久しぶりですね」
「はい。五か月ぶりというところでしょうか。なかなか立場上、ゆっくりと休暇が取れなかったものですから、これだけかかってしまいました」
「そう言えばさっき、部下に引き継いだって言ってましたけど、大丈夫なんですか?」
「あれ? そんなことを言ってしまいましたか?」
「はい、ぽろっと」
「ええ、まあ大丈夫ですよ。リゼッタも知っているコンラートという部下ですが、彼はもう私と同じ立場になっていてもいいはずなのですが、部下を育てることを自分の一番の仕事と考えていましたので、この機会にしばらく私の代行をしてもらうことになりました」
「仕事に支障がないならいいんですけどね」
「それは大丈夫です。ただ、こちらにいる間はケネスさんにプレゼントができないのが残念なのですが」
「もう十分にいただいていますから、それは大丈夫ですよ」
「その代わりに直接お見せしますね? 衣装は一通り持ってきていますので」
向かいに座っているマイカの目が細くなった。
「先輩? 直接お見せするって何をですか?」
「ああ、いや……」
「私の写真集です。ケネスさんの愛読書ですよね」
「別に愛読書というわけでは……」
「毎回コメントをしてくれているじゃありませんか」
「カローラさん、その写真集をちょっと見せてもらってもいいですか?」
「あれはケネスさん専用ですので、他の方にはちょっと……。でもマイカさんたちはそういう姿をケネスさんに夜な夜な見てもらっていると思いますよ?」
「ああ、そういう写真集ですか」
「はい、そういう写真集です」
「それはそうと、エリーさん?」
「はい、何でしょうか、カローラ様」
「いつも素敵な物を用意してくれてありがとうございます」
「いえ、こちらこそ娘ともどもお世話になりました。カローラ様のおかげで今の私があります」
「しばらく向こうから物をお渡しすることはできませんが、手持ちの分がそれなりにありますので、後で渡しますね」
「ありがとうございます。喜んでいただけるように精一杯頑張ります。夜に旦那様の目が釘付けになる一品に仕立てます」
「ごはんのこと?」
「服のことよ、ミシェル。ミシェルも大きくなったら夜にそういうのを着て、旦那様に喜んでもらうのよ?」
「うん。パパによろこんでもらいたい」
「ちょっと、エリー!」
「なかなか薬の効き目もいいみたいですね。エリーさん、しっかり英才教育をしていますね」
「ありがとうございます。自慢の娘です」
「カローラさん、ひょっとしてミシェルにもそういう効果が出てるの?」
「ええ、もちろんですよ。小さくても女性ですから。今のところ父親に対する愛情の方が強いみたいですけど、一〇年後が楽しみですね」
「真っ直ぐ堅実に育ってほしいよ……」
「そういう話は後でもいいと思うがのう、リゼッタ殿」
「そうですね。こちらはこちらでゆっくりと食べましょう。ケネスには悪いですが」
「後で~疲れたマスターを~温泉でゆ~っくりと~癒してあげればいいんですよ~」
「話は家でゆっくりしたらいいと思います」
「食べる時は食べることに集中」
味方はいないよね。分かってたけどね……。
まあ食べるだけ食べたら一旦家に戻って、明日からのことはまた明日になったら考えよう。
しばらくはやりたいことをしよう。
スローライフがしたいわけじゃないけど、もう少しゆっくりしたいなあ。
「いえいえ、こちらそこお世話になりっぱなしで」
「次にマイカと会えるのはいつかしらねえ。少し寂しいけど、元気で過ごせるならそれでいいわ」
僕たちは王都を離れることにした。殿下はあの指輪のおかげで体調はずいぶん良くなったようだ。その影響でロシータさんはいつもツヤッツヤだね。
ここにいる間は二人にかなり良くしてもらったけど、僕たちは東へ向かうから今度は当分は会えなくなるはずなんだけど……。
「ここだけの話ですが、僕は行ったことのある場所には[転移]で瞬時に移動できます。いつでもマイカを連れてやって来ますよ」
「あら、そうなのね。そんなに頻繁に来てもマイカも大変でしょうし、半年とか年に一度くらい顔を見せに来てくれると嬉しいわ」
「ええ、それくらいなら全然問題ありませんよ。ねえ、マイカ」
「はい、先輩。今度できれば実家に父と兄がいない時に帰りたいのですが」
「そちらはタイミング次第だね。お兄さんは難しいんじゃないの?」
「そうなんですよね。兄が出てきたら魔法で眠らせたらいいんでしょうか」
マイカがそれなりに無茶を言う。できるけど一般的には問題になるよね。
レオニートさんにはマイカの件でお礼を言わないと。他にはルボルさんとか。でもあそこに行くとミリヤさんがいるのか。
[転移]は行ったことのある場所になら移動できる。つまりどこでも入りたい放題になってしまうので、下手に使えることが分かると危険なんだそうだ。誰だって寝首を掻かれたくはないからね。
ちなみに、絶対に立ち入ってほしくない場所には普通は結界を張るらしい。そうすればその内側には[転移]でも入れなくなる。でも魔力量次第では強引に結界をこじ開けて中に入れるらしい。試しにマリアンが張った結界の中に僕が普通に[転移]で入ったら、また半目になっていた。
またマイカを連れて戻ってくると約束して、僕たちは馬車で離宮を離れた。
王都はかなり人が多いから中心部は速度が出せない。正直なところ歩くよりも遅いけど、馬車で移動する以上は仕方がない。今日は離宮の衛兵が二人、護衛として城門まで送ってくれるからね。
そしてこの滞在中に、マイカの馬車にまた新しい紋章が取り付けられた。これはレオンツィオ殿下の関係者であるという紋章。どんどん馬車の格が上がっている気がするので、下手に見られたらそれはそれで危なそう。
ちなみに馬車は見た目はわりと普通だけど乗り心地は最高になっている。一度殿下が乗って目を輝かせていたので、離宮の馬車を全て改造することになった。少し幅を広くしたけど軽くなったから、馬への負担も減ったと思う。車輪に巻く蛇の皮を除けば高価な材料はほとんど必要ないから代金は受け取らず、後日必要がある時に助力をお願いすることにした。エリーとマリアンのお店の件ね。
さあ、馬たちが少々運動不足気味なので、少し走らせないとね。この子たち、食っちゃ寝してたからね。
◆ ◆ ◆
王都を出て東へ向かう。ようやく半分かあ。とりあえずエリーの故郷のヴァリガ市を仮の目的地としてるけど、まだまだ先だね。
「とりあえず昼まではこのまま走って外で昼食にして、それからは何日かゆっくりしようか。たまには家に戻ってたけど、久しぶりに家でゆっくりしたいでしょ?」
「疲れるようなことはしませんでしたが、家の方が気は楽なのは間違いないですね。休暇というのもおかしなものですが、ケネスも久しぶりに少しゆっくりしてもいいと思いますよ」
「そうですね~。マスターとの愛の巣ですからね~。私たちもゆっくりしましょう~」
「そこを強調しない」
「え~でも~昨日はマイカさんとゆっくりしてましたよね~」
「……」
そうこうしているうちにお昼になったので、みんなには馬車から出てもらってここで昼食にすることにした。昼食後は馬車は家の方に戻そうかな。
「さてと、じゃあそろそろ昼食の準備でも……」
マジックバッグからピクニックシートなどを取り出そうと手を入れたら、何かが見えた。
えーと……マジックバッグに入って出られるというのは聞いてたよ。入れた手紙が引っ張られたあったから、そういうこととも可能だろうとは分かってたよ。
でも、これ出していいの? なんでその格好でじっとこっちを見て待ってるの? なんで自分からは出てこないの? なんでそんな表情なの?
「マスター、どうしましたか~?」
「あの、みんな、今から取り出すものを見ても驚かないように」
周りを見てそう言うと、それを掴んで取り出す。
「……ふう、息がしづらいわけではありませんが、なんとも閉塞感がありますね。ケネスさん、お久しぶりです。リゼッタもカロリッタもご苦労様」
「お久しぶりです、カローラさん」
「お久しぶりです~」
「カ、カローラ様、どうしてこちらに?」
「ようやくまとめて休暇が取れましたので、こちらで過ごそうと思ってやって来ました。ケネスさんが気付いてくれるか心配でしたけど」
「……この中に入れたのなら、僕が出さなくても出られるんじゃないですか?」
「残念ながら、私が自分で向こうから入った場合、あ、マジックバッグは私の手元にないので、時空間魔法を使って入るわけですが、自分から出られるのは向こうだけなんです。つまり入ったところからしか出られません」
「マジックバッグに時空間魔法で入るんですか?」
「私が作った異空間ですから、私ならマジックバッグそのものがなくても入れるわけです。でも入り口は一つしか開けませんから、ケネスさん側には出られません。出ると元の場所に戻るだけです。まあ移動するだけなら他にも方法がありますが、上級管理者が地上世界に下りるには手続きが必要ですから、今回は抜け道に使いました。ちょっとした手違いで地上世界に下りてしまった、という建前です」
「仕事はホントに大丈夫なんですよね?」
「はい、もちろんです。部下のコンラートに引き継ぎましたので、こちらでのんびりできますよ。具体的には子育てが終わるくらいまで」
おかしな言葉が聞こえたよね?
「お久しぶりです、カローラさん。その節はお世話になりました」
「マイカさん、ケネスさんと無事に合流できて安心しましたよ」
「ありがとうございます。それはそうと、ウェディングドレスを着てるのはなぜですか?」
「ああ、これですか。これはエリーさんに作ってもらったものです。ケネスさんにも写真しか見てもらったことがないので、実物を見てもらおうと思いまして」
「先輩、写真は見てたんですね」
「……」
「私が『ケネスさん、この姿であなたの隣に立ちたいです』と書いたら、ケネスさんは『いつでもお待ちしています。僕の愛するカローラ』と返事をしてくれました」
「いや、書いてないでしょ。捏造はやめてください」
「私の心にはそう聞こえましたよ?」
「いきなり現れたが、あれは誰じゃ?」
「私の本体で~、マスターをこの世界に送り込んだ方です~。一言で言い表せば~、残念美人ですね~。趣味の面では~拗らせ腐女子です~」
「拗らせて腐ってるです?」
「ふわふわのあれは白カビ?」
「あの方があの素晴らしい布や魔道具を用意してくださったカローラ様なのですね。話には聞いていましたが、本当に美しい方ですね」
「そうですよ~。見た目だけですが~」
「ほう、ではあのカローラ殿がいなければ、あの数々のドレスは作れなんだと?」
「ええ、そうです。これまでいただいた布で衣装を仕立て、完成したものを何度も納めさせていただきました」
「あのドレスきれー」
「ミシェル、あれは神への捧げ物ですよ。神聖なものです」
「作った本人は欲望の塊のようなものじゃがな」
「さて、ケネスさん、ではこれから二人でどこまでもハネムーンと参りましょうか!」
あれ? なんか目つきが危ない?
「強引に話を持っていきますけど、行きませんよ。旅は続けますけどね。その前にここでこれから昼食です。とりあえずその格好で食べると汚すかもしれないので、馬車の中で着替えてください」
「式が終わる前にいきなり馬車の中でだなんて……」
「いえ、着替えです。服を変えましょう。それよりも掴まないでください」
「お色直しは何回しましょうか。白無垢、色打掛、振袖、ウェディングドレス、カラードレス」
「いえ、いきなりウェディングドレスを着てきて、今さら白無垢もないでしょう。ちょっと、カローラさん?」
「はい、真っ白な私を貰ってください!」
……まったく噛み合ってない……
「カロリッタ! どうにかならない?」
「そういう時は~頭の角を~斜め四五度で~強めにエルボ~。えいっ!」
ガスッ!
「へぶっ!」
上空からのエルボー。いい音がしたね。
「あいたたた……あいたー……あれ? あっ、ケネスさん。お久しぶりです。カロリッタもご苦労様。ようやく仕事が片付きましたので、なんとかケネスさんのところに行けないかと考えていたのですが……どうして私はここにいるのでしょう? それに……カロリッタのとの接続が切れていますね。まあ直接ケネスさんとお話しできるから問題ありませんが」
「そこから?」
「? 何がでしょうか?」
「いえ、まあこれからみんなで昼食にするところです。そのままだとドレスを汚しますので、馬車の中で着替えてください」
「そうですね。どうしてこの格好をしているのか自分でも分かりませんが、とりあえず着替えてきます。では少し失礼しますね」
さっきのは何だったんだろう?
「テンションが上りすぎて~どこかが断線してたみたいですね~」
「叩けばいいって、ハンダ付けが外れた昔の家電じゃないんだし。まあ治ってよかったけど」
「目のハイライトがなくなってましたから~相当危ない状態でしたよ~。あのままならまたガッツリいかれる可能性がありましたね~。最初にマスターがガッツリいかれた時は~あの数倍の壊れ具合で一晩中でしたね~」
「あー、そうだったんだ。でもあの口ぶりだと、自分でマジックバッグに入ったことも覚えてなさそうだね」
「あまりにも思い詰めすぎて~コスプレ中に意識が飛んで~突発的に飛び込んだんでしょうね~」
「それはそうと、接続が切れたってホント?」
「そうですね~。どこかが繋がって~どこかが切れたみたいです~」
「まあとりあえずお昼にしようか」
あらためてマジックバッグからピクニックシートを出して広げていった。
◆ ◆ ◆
昼食はいつものようにピクニックなので、朝のうちに仕込んでおいたものを出していく。サンドイッチやベーグルなどが多いけど、僕のピクニックのイメージはその程度。
カローラさんは当然のように僕の隣りに座ってサンドイッチを食べ始めた。
「ようやくケネスさんと話をしながら食事ができますね」
「こうやって話すのも久しぶりですね」
「はい。五か月ぶりというところでしょうか。なかなか立場上、ゆっくりと休暇が取れなかったものですから、これだけかかってしまいました」
「そう言えばさっき、部下に引き継いだって言ってましたけど、大丈夫なんですか?」
「あれ? そんなことを言ってしまいましたか?」
「はい、ぽろっと」
「ええ、まあ大丈夫ですよ。リゼッタも知っているコンラートという部下ですが、彼はもう私と同じ立場になっていてもいいはずなのですが、部下を育てることを自分の一番の仕事と考えていましたので、この機会にしばらく私の代行をしてもらうことになりました」
「仕事に支障がないならいいんですけどね」
「それは大丈夫です。ただ、こちらにいる間はケネスさんにプレゼントができないのが残念なのですが」
「もう十分にいただいていますから、それは大丈夫ですよ」
「その代わりに直接お見せしますね? 衣装は一通り持ってきていますので」
向かいに座っているマイカの目が細くなった。
「先輩? 直接お見せするって何をですか?」
「ああ、いや……」
「私の写真集です。ケネスさんの愛読書ですよね」
「別に愛読書というわけでは……」
「毎回コメントをしてくれているじゃありませんか」
「カローラさん、その写真集をちょっと見せてもらってもいいですか?」
「あれはケネスさん専用ですので、他の方にはちょっと……。でもマイカさんたちはそういう姿をケネスさんに夜な夜な見てもらっていると思いますよ?」
「ああ、そういう写真集ですか」
「はい、そういう写真集です」
「それはそうと、エリーさん?」
「はい、何でしょうか、カローラ様」
「いつも素敵な物を用意してくれてありがとうございます」
「いえ、こちらこそ娘ともどもお世話になりました。カローラ様のおかげで今の私があります」
「しばらく向こうから物をお渡しすることはできませんが、手持ちの分がそれなりにありますので、後で渡しますね」
「ありがとうございます。喜んでいただけるように精一杯頑張ります。夜に旦那様の目が釘付けになる一品に仕立てます」
「ごはんのこと?」
「服のことよ、ミシェル。ミシェルも大きくなったら夜にそういうのを着て、旦那様に喜んでもらうのよ?」
「うん。パパによろこんでもらいたい」
「ちょっと、エリー!」
「なかなか薬の効き目もいいみたいですね。エリーさん、しっかり英才教育をしていますね」
「ありがとうございます。自慢の娘です」
「カローラさん、ひょっとしてミシェルにもそういう効果が出てるの?」
「ええ、もちろんですよ。小さくても女性ですから。今のところ父親に対する愛情の方が強いみたいですけど、一〇年後が楽しみですね」
「真っ直ぐ堅実に育ってほしいよ……」
「そういう話は後でもいいと思うがのう、リゼッタ殿」
「そうですね。こちらはこちらでゆっくりと食べましょう。ケネスには悪いですが」
「後で~疲れたマスターを~温泉でゆ~っくりと~癒してあげればいいんですよ~」
「話は家でゆっくりしたらいいと思います」
「食べる時は食べることに集中」
味方はいないよね。分かってたけどね……。
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スローライフがしたいわけじゃないけど、もう少しゆっくりしたいなあ。
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異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
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