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第一章 第二部
独白:ある家政婦の回想
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エリーです。以前は商人としてキヴィオ市で店を開いていました。それが今ではカローラ様のおかげで、ある尊いお方の愛人と妻を兼ねる家政婦として、身も心も充実した日々を送っています。
愛人兼妻で家政婦というのが旦那様にはなかなか理解してもらえないのがつらいのですが、簡単に言えば、立場としては愛人でもあり妻でもあります。そして仕事は家政婦です。
愛人はあくまで愛人です。何人も妻のいる旦那様にとって、家政婦の私は単なる使用人。それがある日、ちょっとした間違いから旦那様に手込めにされ……ということを想像し、日常的に背徳感を味わえる立場です。実際に仕事中に手込めにされることは……それほど多くはありませんよ? こちらから積極的に迫れば、仕方ないなあという感じで付き合ってくれる旦那様が大好きです。
妻は文字通り妻です。夜は旦那様を満足させたり甘えたり。そこに満足感を味わっています。
そんな私ですが……え? 言葉遣いが少し違う? いえ、私は元々こういう話し方です。
子供の頃からきちんとした場所ではきちんとした話し方ができるように、と教えられてきました。旦那様の側で家政婦として控えている時はそれ相応の話し方になります。「旦那様、少しよろしいでしょうか?」というのは仕事モードの私です。「旦那様……少しいいですか?」というのは夜にたっぷり甘える時の話し方です。
さて、私はカルラ辺境伯領にあるヴァリガ市でそれなりに大きな商人の家に私は生まれました。私の家にはいつの時代からなのかは分かりませんが、『割烹着と着物、そしてあ~れ~の価値が分かる者と結ばれれば幸せになる』という言葉が残っています。着物はヴァリガ市周辺でよく見る服です。その上に割烹着というエプロンを着けるのが一般的な家事のスタイルです。ただしあ~れ~という言葉の意味は父でも祖父でも分からないということでした。ずっと昔に、それこそ祖父の祖父の時代にはすでに意味は分からなくなっていたそうです。
ですが、幸か不幸か、私が一度死んでしまった後でこの言葉の意味を知ることになりました。そして私を生き返らせてくれた旦那様があ~れ~の意味も知っていました。ご先祖様は正しかったのです。『割烹着と着物、そしてあ~れ~の価値が分かる者と結ばれれば幸せになる』という言葉は、まさに私のための言葉だったのです!
私は幼い頃から読み書き計算を教わってきました。これは商家の娘としては当然で、自分が商人にならなかったとしても、商家へ嫁ぐことはありえるからです。それに子供が生まれれば、やはり読み書き計算を教えることができるというのは大きな利点です。結納金以上の価値があるのです。
そんな私ですが、商家の娘としてそれなりにきちんと育てられていました。きちんと育てられるというのはどういうことか。簡単に言えば、暇があれば読み書き計算を勉強させられるということです。だから気軽に男性との出会うことはできず、知り合うのはほとんど社交の場でした。
父は貴族ではありませんが、商人としてヴァリガ市では名前が知られていますので、領主が主催するパーティーへ私も参加する機会はありました。しかしそのような場所は女性にとっては戦場です。より良い条件の男性を見つけて実家の役に立つ手駒になること、それが未婚の女性には求められていました。当時はそれが嫌だと思いませんでしたが、積極的に自分からその戦場に飛び込む勇気もありませんでした。そんなある日、私はユベールという男性と知り合いました。
いえ、知り合ったと言うほどでもなかったでしょう。たまたま実家の店で接客をしただけなので。それから彼を追いかけて一路西へ向かったはずですが……実はそのあたりからの記憶があまりはっきりしていません。なんとなくそのようなことがあったという知識が残っているだけ、と言えばいいでしょうか、エリーという名前の別人の物語を読んでいる気分です。これはカローラ様のおかげだということを後に知ることになりました。
キヴィオ市でユベールを見つけて結婚し、小さな店を開きました。彼は主に仕入れを担当し、私は主に店で販売を担当しました。次の年には娘のミシェルも生まれました。でもそれから一年も経たずにユベールが流行病で死んでしまいました。
その状態で数年経ちました。さすがに少し懐具合が悪くなってきましたので、五つになったばかりのミシェルと一緒に、店を売った代金で購入した馬を荷馬車に繋いで西へ向かいました。このあたりは記憶がはっきりしています。
キヴィオ市を出てから三日目、私たちは馬を森の近くで休ませようとしました。私とミシェルも馬車の横に布を敷いて少し体を休めていました。その時です。急に大きな音がして真っ暗になりました。あれが私とミシェルが死んだ瞬間だったのです。
意識を取り戻した時、私はベッドで寝かされていました。非常に美しい男性が横の椅子に座ってこちらを見ているのに気付きました。それが旦那様でした。
旦那様の目を見ていると、まるで吸い込まれるような気分になりました。彼にこの身を差し出したい……いえいえ、私には夫が……いましたけど……いましたよね? いえ、たしかにいましたけど、なんでしょうか、このぼんやりした印象は……。彼を半年間追いかけて結婚までしたはずですが……。その時はそんな気分でした。
それからはミシェルと二人でこの家に置いてもらえることになりました。私は家政婦として、ミシェルはまるで旦那様の子供のように。そうなるといいのですけどね。あの時はそう思っていましたが、そうなるのにはそれほど時間はかかりませんでした。
最初のきっかけは旦那様が私とミシェルを調べたいと言った時でした。さすがに娘の前で裸になるのは……でも旦那様に求められるのなら……ミシェルも一緒にと言うことは、旦那様にはそちらの趣味も……と思いましたが違いました。旦那様は人の持つ力が分かるそうです。その力で私とミシェルにおかしなところがないかを調べてくれるということでした。残念。
それでもその結果は悪いものではありませんでした。なぜか私は旦那様の愛人となっていたからです! その理由は旦那様にとっても私にとっても驚くべきものでした。
私たちを生き返らせてくれた蘇生薬は旦那様専用で、生き返ると旦那様に好意を寄せるようになるというものでした。でも何があっても夫に操を立てるような女性には効き目がないそうです。夫と別れたがっていたり、夫を亡くしたことを忘れたがっていたり、踏ん切りがついていたり、そのような女性にだけ効き目があるというでした。
旦那様はこの件について申し訳なさそうな顔をしていましたが、とんでもありません。女手一つで子供を育てるのは大変なことです。もちろんユベールを愛していたのは間違いないはずですが、心のどこかで『もしいい男性がいれば……』と思っていたのかもしれません。生きていくのはそれほど簡単ではありません。生活力のある男性というのは既婚未婚を問わず、魅力的に見えるものです。旦那様は生活力、特に経済力という点ではずば抜けていますからね。
次のきっかけは割烹着と着物でした。私を見た瞬間、旦那様の目が釘付けになったのを見逃しません。旦那様は浴衣と呼んでいましたが、旦那様の元いた世界にもあったそうです。それならあ~れ~も知っていたはずですが、カロリッタ様の情報によると、どうやらその時は隠していたみたいですね。いけずな旦那様です……。
旦那様がいた世界では、浴衣とは着物の一種だそうです。浴衣というものは、昔は寝間着として着るものだったそうです。その場合は下着を付けなかったそうです。現代では夏のおしゃれな外出着として着ることが多かったとか。
一方で旦那様の世界の着物は、浴衣よりも高級な素材で作られた厚手のもので、下に着物用の長袖で裾も長い肌着を付けるそうです。帯もかなり華やかなようですね。そのため着るのにかなり時間と手間がかかり、着付けをする専門の人もいたようです。そういうものなのですね。
旦那様の世界に合わせるなら、私が着ているものは浴衣になります。ちなみに私は下着は付けていません。付ける付けないは人それぞれ違いますが、私の場合は旦那様へのアピールも兼ねているので当然ですね。
そしてもう一つ大きなきっかけがチャイナドレスでした。これも旦那様の世界にもあったそうですが、旦那様の暮らしていた国の服装ではなかったようです。わざと足を何度も組み替えましたが、やはり旦那様の目が動きました。そのことはリゼッタ様もカロリッタ様も気付いていたようですね。その場でお二人から同じものを作ってほしいと言われました。もちろん作りますよ。
さらにはカローラ様の分の制作もリゼッタ様から頼まれました。もちろん私と娘の恩人ですからね、喜んで引き受けますとも。その際に、布や裁縫用の魔道具と一緒に、関節が動く等身大のマネキンも渡されました。
リゼッタ様とカロリッタ様、そしてカローラ様の分を仕立てて渡しましたが、渡されていた布で下着類も一式作ってみました。
商人として扱ったことのなる布の中で、カローラ様からいただいた布ほど美しいものはありません。薄くて艶があり、物によっては向こうが透けているものもあります。いかに旦那様の目を喜ばせるか。ただそれだけを念頭に置いて作りました。夜のためのものですからね、下着としての機能があるかどうかは二の次です。もちろんリゼッタ様とカロリッタ様にも喜んでもらえました。
するとリゼッタ様とカロリッタ様から一つ提案がありました。旦那様の妻の一人にならないかと。リゼッタ様は旦那様がこの世界で快適に暮らすために、彼を支える妻の集団を作ろうとしてるようです。でも多ければいいというわけではないようです。旦那様が妻たちを支えるのなら、妻たちも旦那様を支えます。そのような女性でなければいけないと。
もちろん入りますよ。是が非でも。
それからしばらく経って、キヴィオ市を出た頃ですね、リゼッタ様とカロリッタ様から旦那様の部屋へと誘われました。二人が旦那様を説得するので好きにしなさいと。好きにさせていただきました。もちろんその結果がどうなったかは口にするまでもありませんが、私も正式に旦那様の妻の一人となったということだけははっきりと言えます。もちろん愛人という立場は捨てていませんよ。
それからしばらくして、ラクヴィ伯爵の娘であるマイカ様が旦那様の妻になりました。彼女は旦那様の元の世界では部下だった人だそうです。旦那様の以前の生活をよく知っているようでした。もちろん私たちはマイカ様を喜んで迎え入れました。カロリッタ様ですら知らない情報が入るわけですから。
マイカ様は家政婦という立場を非常によく分かっている人でした。そして自らは旦那様のメイドとしてお仕えすることもあると。家政婦とメイドは似ているようでまったく違います。それが理解できる人は意外と少ないのです。マイカ様はその数少ない人のうちの一人でした。貴重な人材ですね。
いずれ妻となる女性は増えてくるでしょう。でもみんなの考えは一つです。旦那様に迷惑をかけないこと。旦那様を支えること。そのためには自分を必要以上にアピールしないこと。限度を知ること。簡単なようで意外と難しいのです。
さて、それでは私はこれから旦那様の部屋にお邪魔します。もちろん、明日の朝食担当は免除してもらっていますよ。
愛人兼妻で家政婦というのが旦那様にはなかなか理解してもらえないのがつらいのですが、簡単に言えば、立場としては愛人でもあり妻でもあります。そして仕事は家政婦です。
愛人はあくまで愛人です。何人も妻のいる旦那様にとって、家政婦の私は単なる使用人。それがある日、ちょっとした間違いから旦那様に手込めにされ……ということを想像し、日常的に背徳感を味わえる立場です。実際に仕事中に手込めにされることは……それほど多くはありませんよ? こちらから積極的に迫れば、仕方ないなあという感じで付き合ってくれる旦那様が大好きです。
妻は文字通り妻です。夜は旦那様を満足させたり甘えたり。そこに満足感を味わっています。
そんな私ですが……え? 言葉遣いが少し違う? いえ、私は元々こういう話し方です。
子供の頃からきちんとした場所ではきちんとした話し方ができるように、と教えられてきました。旦那様の側で家政婦として控えている時はそれ相応の話し方になります。「旦那様、少しよろしいでしょうか?」というのは仕事モードの私です。「旦那様……少しいいですか?」というのは夜にたっぷり甘える時の話し方です。
さて、私はカルラ辺境伯領にあるヴァリガ市でそれなりに大きな商人の家に私は生まれました。私の家にはいつの時代からなのかは分かりませんが、『割烹着と着物、そしてあ~れ~の価値が分かる者と結ばれれば幸せになる』という言葉が残っています。着物はヴァリガ市周辺でよく見る服です。その上に割烹着というエプロンを着けるのが一般的な家事のスタイルです。ただしあ~れ~という言葉の意味は父でも祖父でも分からないということでした。ずっと昔に、それこそ祖父の祖父の時代にはすでに意味は分からなくなっていたそうです。
ですが、幸か不幸か、私が一度死んでしまった後でこの言葉の意味を知ることになりました。そして私を生き返らせてくれた旦那様があ~れ~の意味も知っていました。ご先祖様は正しかったのです。『割烹着と着物、そしてあ~れ~の価値が分かる者と結ばれれば幸せになる』という言葉は、まさに私のための言葉だったのです!
私は幼い頃から読み書き計算を教わってきました。これは商家の娘としては当然で、自分が商人にならなかったとしても、商家へ嫁ぐことはありえるからです。それに子供が生まれれば、やはり読み書き計算を教えることができるというのは大きな利点です。結納金以上の価値があるのです。
そんな私ですが、商家の娘としてそれなりにきちんと育てられていました。きちんと育てられるというのはどういうことか。簡単に言えば、暇があれば読み書き計算を勉強させられるということです。だから気軽に男性との出会うことはできず、知り合うのはほとんど社交の場でした。
父は貴族ではありませんが、商人としてヴァリガ市では名前が知られていますので、領主が主催するパーティーへ私も参加する機会はありました。しかしそのような場所は女性にとっては戦場です。より良い条件の男性を見つけて実家の役に立つ手駒になること、それが未婚の女性には求められていました。当時はそれが嫌だと思いませんでしたが、積極的に自分からその戦場に飛び込む勇気もありませんでした。そんなある日、私はユベールという男性と知り合いました。
いえ、知り合ったと言うほどでもなかったでしょう。たまたま実家の店で接客をしただけなので。それから彼を追いかけて一路西へ向かったはずですが……実はそのあたりからの記憶があまりはっきりしていません。なんとなくそのようなことがあったという知識が残っているだけ、と言えばいいでしょうか、エリーという名前の別人の物語を読んでいる気分です。これはカローラ様のおかげだということを後に知ることになりました。
キヴィオ市でユベールを見つけて結婚し、小さな店を開きました。彼は主に仕入れを担当し、私は主に店で販売を担当しました。次の年には娘のミシェルも生まれました。でもそれから一年も経たずにユベールが流行病で死んでしまいました。
その状態で数年経ちました。さすがに少し懐具合が悪くなってきましたので、五つになったばかりのミシェルと一緒に、店を売った代金で購入した馬を荷馬車に繋いで西へ向かいました。このあたりは記憶がはっきりしています。
キヴィオ市を出てから三日目、私たちは馬を森の近くで休ませようとしました。私とミシェルも馬車の横に布を敷いて少し体を休めていました。その時です。急に大きな音がして真っ暗になりました。あれが私とミシェルが死んだ瞬間だったのです。
意識を取り戻した時、私はベッドで寝かされていました。非常に美しい男性が横の椅子に座ってこちらを見ているのに気付きました。それが旦那様でした。
旦那様の目を見ていると、まるで吸い込まれるような気分になりました。彼にこの身を差し出したい……いえいえ、私には夫が……いましたけど……いましたよね? いえ、たしかにいましたけど、なんでしょうか、このぼんやりした印象は……。彼を半年間追いかけて結婚までしたはずですが……。その時はそんな気分でした。
それからはミシェルと二人でこの家に置いてもらえることになりました。私は家政婦として、ミシェルはまるで旦那様の子供のように。そうなるといいのですけどね。あの時はそう思っていましたが、そうなるのにはそれほど時間はかかりませんでした。
最初のきっかけは旦那様が私とミシェルを調べたいと言った時でした。さすがに娘の前で裸になるのは……でも旦那様に求められるのなら……ミシェルも一緒にと言うことは、旦那様にはそちらの趣味も……と思いましたが違いました。旦那様は人の持つ力が分かるそうです。その力で私とミシェルにおかしなところがないかを調べてくれるということでした。残念。
それでもその結果は悪いものではありませんでした。なぜか私は旦那様の愛人となっていたからです! その理由は旦那様にとっても私にとっても驚くべきものでした。
私たちを生き返らせてくれた蘇生薬は旦那様専用で、生き返ると旦那様に好意を寄せるようになるというものでした。でも何があっても夫に操を立てるような女性には効き目がないそうです。夫と別れたがっていたり、夫を亡くしたことを忘れたがっていたり、踏ん切りがついていたり、そのような女性にだけ効き目があるというでした。
旦那様はこの件について申し訳なさそうな顔をしていましたが、とんでもありません。女手一つで子供を育てるのは大変なことです。もちろんユベールを愛していたのは間違いないはずですが、心のどこかで『もしいい男性がいれば……』と思っていたのかもしれません。生きていくのはそれほど簡単ではありません。生活力のある男性というのは既婚未婚を問わず、魅力的に見えるものです。旦那様は生活力、特に経済力という点ではずば抜けていますからね。
次のきっかけは割烹着と着物でした。私を見た瞬間、旦那様の目が釘付けになったのを見逃しません。旦那様は浴衣と呼んでいましたが、旦那様の元いた世界にもあったそうです。それならあ~れ~も知っていたはずですが、カロリッタ様の情報によると、どうやらその時は隠していたみたいですね。いけずな旦那様です……。
旦那様がいた世界では、浴衣とは着物の一種だそうです。浴衣というものは、昔は寝間着として着るものだったそうです。その場合は下着を付けなかったそうです。現代では夏のおしゃれな外出着として着ることが多かったとか。
一方で旦那様の世界の着物は、浴衣よりも高級な素材で作られた厚手のもので、下に着物用の長袖で裾も長い肌着を付けるそうです。帯もかなり華やかなようですね。そのため着るのにかなり時間と手間がかかり、着付けをする専門の人もいたようです。そういうものなのですね。
旦那様の世界に合わせるなら、私が着ているものは浴衣になります。ちなみに私は下着は付けていません。付ける付けないは人それぞれ違いますが、私の場合は旦那様へのアピールも兼ねているので当然ですね。
そしてもう一つ大きなきっかけがチャイナドレスでした。これも旦那様の世界にもあったそうですが、旦那様の暮らしていた国の服装ではなかったようです。わざと足を何度も組み替えましたが、やはり旦那様の目が動きました。そのことはリゼッタ様もカロリッタ様も気付いていたようですね。その場でお二人から同じものを作ってほしいと言われました。もちろん作りますよ。
さらにはカローラ様の分の制作もリゼッタ様から頼まれました。もちろん私と娘の恩人ですからね、喜んで引き受けますとも。その際に、布や裁縫用の魔道具と一緒に、関節が動く等身大のマネキンも渡されました。
リゼッタ様とカロリッタ様、そしてカローラ様の分を仕立てて渡しましたが、渡されていた布で下着類も一式作ってみました。
商人として扱ったことのなる布の中で、カローラ様からいただいた布ほど美しいものはありません。薄くて艶があり、物によっては向こうが透けているものもあります。いかに旦那様の目を喜ばせるか。ただそれだけを念頭に置いて作りました。夜のためのものですからね、下着としての機能があるかどうかは二の次です。もちろんリゼッタ様とカロリッタ様にも喜んでもらえました。
するとリゼッタ様とカロリッタ様から一つ提案がありました。旦那様の妻の一人にならないかと。リゼッタ様は旦那様がこの世界で快適に暮らすために、彼を支える妻の集団を作ろうとしてるようです。でも多ければいいというわけではないようです。旦那様が妻たちを支えるのなら、妻たちも旦那様を支えます。そのような女性でなければいけないと。
もちろん入りますよ。是が非でも。
それからしばらく経って、キヴィオ市を出た頃ですね、リゼッタ様とカロリッタ様から旦那様の部屋へと誘われました。二人が旦那様を説得するので好きにしなさいと。好きにさせていただきました。もちろんその結果がどうなったかは口にするまでもありませんが、私も正式に旦那様の妻の一人となったということだけははっきりと言えます。もちろん愛人という立場は捨てていませんよ。
それからしばらくして、ラクヴィ伯爵の娘であるマイカ様が旦那様の妻になりました。彼女は旦那様の元の世界では部下だった人だそうです。旦那様の以前の生活をよく知っているようでした。もちろん私たちはマイカ様を喜んで迎え入れました。カロリッタ様ですら知らない情報が入るわけですから。
マイカ様は家政婦という立場を非常によく分かっている人でした。そして自らは旦那様のメイドとしてお仕えすることもあると。家政婦とメイドは似ているようでまったく違います。それが理解できる人は意外と少ないのです。マイカ様はその数少ない人のうちの一人でした。貴重な人材ですね。
いずれ妻となる女性は増えてくるでしょう。でもみんなの考えは一つです。旦那様に迷惑をかけないこと。旦那様を支えること。そのためには自分を必要以上にアピールしないこと。限度を知ること。簡単なようで意外と難しいのです。
さて、それでは私はこれから旦那様の部屋にお邪魔します。もちろん、明日の朝食担当は免除してもらっていますよ。
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