新米エルフとぶらり旅

椎井瑛弥

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第二章 第一部

再び東へ向か……わずに、丸太とコーラとポップコーン

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 ルボルさんは一緒にいた兵士たちとユーヴィ市へ戻っていった。アニセトさんたちもまた戻っていった。僕たちももう少ししたら東門からユーヴィ市方面へ向かおう。

「お前、すごいやつだったんだな」

 静かになった酒場でエーギルさんが声をかけてきた。

「僕は別に……普通ですよ?」
「いや、普通のやつはそう簡単に王族と親戚にならねえだろ……」
「あー……そうですね。たしかに」
「そういう泰然自若なところがすごいんだろうな」
「ケネスの、誰に対しても変わらない態度がいいんでしょうね」
「えこひいきなしですからね~」
「態度が変えたところはワシも見たことがないのう」

 あまりにもみんなが普通すぎて、たまにそう言われると、『そうか自分の周りはすごかったのか』とびっくりする。死んで生き返った自分からして普通じゃないか……。

「エーギルさん、先ほどの話とは違いますが、僕は何かを作ったり直したりするのが得意なので、何かこう、この店で改良してほしいものとか作ってほしいものとかありますか? お金は取りませんので」
「そりゃあるが、いいのか?」
「はい。高価な材料が必要となれば話は別ですが」
「保存庫だな。もう少し広ければいいんだが」
「あれが置いてあった隣とかを使ってもいいですか?」
「横には何も置いてないからな」

 前にも見せてもらったけど、カウンターの奥に入らせてもらった。

「この保存庫自体は全然問題がないですよね。十分使えると思います。それなら隣に増やしましょうか」
「いいのか?」
「ええ、歩いて入れる保存庫にします」

 家のキッチンにある歩いて入る食料庫タイプの保存庫。あれに似たものをここに設置する。

 あの異空間は魔素が濃いから全然問題ないけど、この村はそこまで濃くはない。それでもある程度の広さは確保できるだろう。

 まずは本体となる保存庫の外側を作る。ただの大きな箱。これは前からある保存庫と同じ大きさにした。僕もエーギルさんも立ったまま通れる大きさだ。そこに空間拡張を施す。グッと押して奥と両側を広げる。うちの食料庫は一〇メートル四方だけど、ここは四メートル四方くらいかな。八畳間くらい。

 広げた空間に術式を書き込む。今までの保存庫が[時間遅延]だから、こっちは[時間停止]にしてしまおう。もちろん人間には影響がない。

 壁面には食材を入れる棚を設置しておく。保存庫全体に術式を書き込んだから棚は普通のもので大丈夫。

「こんな感じです。いかがですか?」
「いかがですかって……広いな、これは」
「時空間魔法を使っています。内部は[空間拡張]で広げています。そして空間全体に[時間停止]がかかっていますので、食材が腐りません。人や動物が入っても害にはなりませんので安心してください。ただしこの中では発酵や熟成が進みませんので、そこだけは注意ですね」
「ああ」
「せっかくいい保存庫があるんですから、こっちは完全に保管用ですね。使う分だけあちら移し替えるとかでいいと思います」
「ありがたい話だが、普通に買ったらいくらくらいするんだ?」
「さあ? でも材料費はほとんどかかっていませんよ。鉄と木くらいですから。鉄は買った屑鉄を加工していますし、木も森で切り倒したものですから」

 これは本当の話。鉄を溶かして再利用することが普通に行われているので、その屑鉄を買ってきてまとめたものがこれ。きちんと加工し直すとまたこのように使える。

「ありがたく受け取っておくが、そうだな……うちに泊まる時は宿泊と食事は無料ってことにしてくれ。それくらいしないと気が済まない」
「分かりました。今後はたまに森の様子を見に来ますので、その時に泊まりますね」
「ああ、いつでも来てくれ」

 挨拶をして酒場を出ると、前と同じように東門から出た。しばらく歩いて村から見えなくなったあたりで一度家に戻ろう。



◆ ◆ ◆



「加工はお任せください」
「私も手伝いますよ~」
「私もお手伝いしますね」
「ありがとう」

 リゼッタとカロリッタとカローラさんの力を借りて、昨日作った魔素吸引丸太、あれを大量に作ることにした。

 直径三〇センチから五〇センチくらいの木を三〇センチずつに切る。内部をくり抜いて巨大な木の筒にする。その内側に術式を書き込む。

 術式を書き込むのはリゼッタを除く三人のうちの二人、リゼッタともう一人には魔法で木を切って中をくり抜いてもらう。鉄で作ったら早いけど、どうせ森に放り出すんだから材質は手に入りやすいものでいいだろうと思って森から切ってきた。

 昨日は作っては置いて作っては置いてを繰り返したせいであまりペースが上がらなかったから、今日と明日くらいで一気にまとめて作って、それこらまとめて設置してしまおう。

 途中からはサランたちにも手伝ってもらうことにした。

 サランたちに頼んだのは、切って中をくり抜く作業をしている場所から、術式を書き込む場所へと丸太を運ぶこと。それから完成した丸太を邪魔にならない場所へ運ぶこと。バケツリレーのような見事なコンビネーション。

 こっちも負けてはいられない。

 サランたちに協力してもらって作るペースがかなり上がった。サラン運搬方式による流れ作業で、一時間におよそ一〇〇〇個。あの広い森に設置するなら相当な数が必要。休憩を挟みながら夕方まで続けた。

「さすがに疲れたね」
「単純作業でしたが、どこに楽しみを見つけ出すかが最後のあたりには分かった気がします」
「目がチカチカします~」
「細かい作業をずっと続けると、気分的に疲れますね」
「みんな、悪いけどもう一日付き合ってくれる? それで一旦作るのはやめようとは思うけど」
「あ、ケネスさん、これを作る作業ですが、もしよければ明日から私に任せてもらえませんか?」
「カローラさんお一人にですか?」
「はい。ケネスさんもこればかりをしているわけにもいかないでしょう」
「まあ、先に進みたいというのはありますね」
「私はみなさんからから料理や裁縫を教わっていますが、一日中というわけにもいきませんので、空いた時間に内職として作ろうかなと思います」
「そうですね……今日作った分が六〇〇〇個ほどあるから……これを設置するだけでもかなり時間がかかりますね。ではお願いできますか?」
「はい」



◆ ◆ ◆



 昨日作った魔素吸引丸太を持って、僕とリゼッタとカロリッタの三人で再び森の上空まで来た。

「じゃあ今日は最初から分かれて設置していこうか。サランたちはまた魔獣の位置をそれぞれに教えてね。」


 サランが示した場所に丸太を置いていく。もちろん、わざわざ地面に下りて置くわけじゃなくて、[飛翔]で移動しつつ、ある程度の高さから地面に落とすだけ。魔獣がたくさん集まっている場所と魔素が濃い場所はほぼ一致する。必要に応じて危険すぎる魔獣は狩って回収し、後日ありがたく使わせてもらう。

 僕とカロリッタが全力で魔法を撃ち込めばほとんど吹き飛ばせると思うけど、地形を変えたら何があるか分からないし、命を無駄にはしたくない。一応準管理者という立場上、あまり下手なことはできないということもある。

 結局全ての魔素吸引丸太の設置が終わるのには相当かかりそうだと分かった。一分に一つ置くとしても、三人がかりで一時間に一八〇個。仮に六時間ずっと置き続けてたとしても一〇〇〇個くらいしか置けない。ばら撒いても仕方ないしね。これ以降、暇を見てたまに置きに行くことになった。



◆ ◆ ◆



 そうしているうちにコーラ用の香料ができたので、新しいコーラをマイカと一緒に試す。

「あ、かなり記憶の中のコーラに近いです」
「やっぱり香料だね。スパイスを増やしたから」
「香りが複雑で、前のとは全然違いますね」
「とりあえずこれはこれで一度完成としておこう。もう少し改良するけど」

 そう、香りが強そうなものを入れたらいいと思って、コリアンダーとナツメグを入れたらかなり良くなった。メースでもいいかもしれない。だいたいカレーに使うスパイス。まだ少し足りない気がするけど、これも少しずつ改良していこう。でも砂糖をたっぷり入れているから飲み過ぎはダメだね。



 コーラができれば次はポップコーン。その組み合わせは映画館のイメージだけど。

 セラとキラはだいたい畑にいる。マイカも付いてきたので四人で作ることにした。

「先生、できました。収穫してあります」
「見た感じは普通っぽい」
「普通っぽいけど、これはそのまま食べても全然美味しくないからね。甘みもないし。じゃあこれを乾燥させよう」

 魔法で水分を取り除いて乾燥させる。乾燥が足りないと弾け具合が悪くなる。でも乾燥させすぎてもダメ。

 乾燥させたら次は実を外す。親指で押すようにすればポロポロ取れる。

 それでここからが本番だけど、味付けは簡単なようで意外と失敗する。特にシンプルな方が難しい。

 キャラメルとかは爆発させてから絡めるんだけど、一番シンプルな塩は最初の方が絡みやすい。後から塩をかけてもほとんど落ちるから。

 まずは塩味から。フライパンにバターを入れて火にかける。バターが溶けたら塩を振って馴染ませる。それからトウモロコシを入れ、ここから強火にする。そして焦げないようにひたすら揺する。

 パンパン鳴り始めたらセラとキラが目をまん丸にして、食い付くように見ていた。

 音がしなくなったら火を止め、蓋をとって味の確認。薄ければ熱いうちに塩を足す。

「どう?」
「なんと言ったらいいのか、不思議な食感です」
「もきゅもきゅ?」
「たしかに言葉にすればもきゅもきゅですね」



「何をされているのですか?」
「おとがすごかった」

 そうしているうちに音につられてエリーとミシェルもやってきて、ポップコーンを食べ始めた。

 次はキャラメル味にする。

 フライパンにバターを入れて火にかけ、バターを溶かす。溶けたところでトウモロコシを入れて蓋をして揺する。

 今度はセラとキラだけではなく、ミシェルもかぶりつくように見ている。あまり近付くと危ないよ。

 鳴り終わったらフライパンから一度取り出し、今度はキャラメルソースを作る。

 フライパンに水と砂糖とバニラエッセンスを入れて火にかける。焦げないように注意し、黄色を越えて茶色くなったら火を止めてポップコーンを入れる。蓋をして押さえながらフライパンをシェイク。フライパンが重い場合はフライ返しでかき混ぜてもOK。

「はいどうぞ」
「おいしー」
「甘いのもいいですね」
「これも美味しいですよ?」
「やめられない」
「映画館の味ですね」

 さっき飲んだけど、ここでコーラを出す。食べ過ぎ飲み過ぎはよくないけど、たまにならいいだろう。ポップコーンとコーラの組み合わせを最初に見つけた人が誰かは知らないけど、異世界でもありがたく使わせてもらいます。



「あー、久しぶりに堪能しました」
「コーラは無理だけど、ポップコーンはなかったの?」
「見かけませんね。トウモロコシ自体は挽いて粉にして使うのがほとんどですから。この世界はお菓子が少ないんですよ」
「それはたしかに思った。貧しいようには思えないけど、そこまでする余裕はないんだろうね」
「そうですね。食べるだけならほとんど困らないんですよ。だから貧困は少ないですね。それで、お菓子がないなら自分で作ろうと張り切っていた時期があって、一度ポップコーンも作ったこともありましたけど、失敗でした……」
「失敗?」
「はい。姉も言っていたと思いますけど、料理は好きなのでたまにしていました。焼き菓子はよく作りましたね。それでポップコーンも作ったことがありましたけど……私は犬人になったんですよね。しっかり音を聞こうと集中すると耳が良くなるのを忘れてました。爆音でした。慌てすぎフライパンをひっくり返して、みんなびっくりして、父や兄も飛んできて……しばらく厨房へは立ち入り禁止にされました」
「ぷっ」
「……笑いましたね?」
「……それにしても、コーラがそんなに好きだったの?」
「……話を変えましたね。まあホームステイ中は飲むことはありましたけど、それほどでも」
「そうなんだ。こだわりがあるそうだから、好きなのかなって」
「先輩がくれたから好きになったんですよ?」
「え? そんなことあったっけ?」
「はい。新人の頃で、慣れない仕事でぐったりしている時に先輩が買ってきてくれました」
「……そんなことあったかな?」
「はい、二回。先輩が言ってくれた言葉も覚えてますよ」
「ごめん、全然覚えてなかった」
「最初は『そこまで好きじゃないけど、疲れている時にはこれが一番いいんだよね』って言ってました」
「二回目も覚えてるの?」
「もちろんです。二回目は『ホントに美味しそうに飲むよね』って言ってました」
「そんなこと言ってたのか……」
「はい。だから私にとってのコーラは先輩との最初の思い出なんです」
「それなら、できる限り思い出の再現をしないとね」
「はい」
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