81 / 278
第二章 第一部
あちらの森とこちらの森、そしてキヴィオ市
しおりを挟む
今日も森の中を進む。メンバーは同じ。絶対にミシェルを危険に晒さないように注意しながら、魔物を狩り方を見せる。猪が一番大きな魔獣みたいで、それより厄介なのは今のところはいないね。
あまり大きくない魔獣を相手にしながら東へ進む。この森は歩きやすいけど、さすがにいつものペースだとミシェルにはきついから、少し遅めにはなっている。それでも並の五歳児の体力ではないよね。
普通ならこれくらいの年の子供はお昼寝とかするでしょ? でもミシェルがお昼寝をするのをあまり見たことがない。エリーに聞いてもあまりしないそうだから、個人差がかなりあるのかも。
◆ ◆ ◆
さすがに毎日森の中を歩くとミシェルも少しは飽きてくる。そこまで景色は変わらないから。そうなると一日くらいは家でゆっくりしようかという話になるよね。そういうわけで、今日は午前中は家でゆっくりする。
ゆっくりするとは言ってもミシェルと一緒に蜂蜜を搾ったりするけど。
ついでに先日買ったバナナとパイナップルとココナッツを森の近くに蒔いた。ココナッツは半分地面に埋める形で置いただけ。それでもすぐに芽も出たから大丈夫だろう。
この周辺は食べ頃で成長が止まるようにした。実が大きいから落ちたら危ないしね。
種を持ち歩いていても芽は出ないけど、地面に置いたり土に埋めたりするとすぐに芽が出る。地面に触れるのがトリガーなんだろう。
そう考えていると、もう一つ気になることがあった。この森では落ちた実は腐る。でもその中にあった種からは芽が出ない。
枯れるように設定した畑では、種が落ちるとそこからまた生えてくる。これはサランたちのセロリや一部のダイズなども同じ。食べ残しから自然と種が落ちて生え続けるから、彼女たちは食べ尽くさないように注意しているらしい。
でもよく考えれば、この森のクリやシイの実は勝手には芽吹かない。落ちた種から芽が出れば、ここは森ではなく密林以上になってるだろう。やっぱり自分で植えないと生えてこないんだろうか。
《僕が植えたもの以外で木は増えてる?》
《ふえてない》
《この半年間で自然と増えたことはない?》
《ない》
餅は餅屋。森のことはミツバチに聞く。ミツバチが増えてないと言えば増えてないんだろう。
前と同じように設定を見直したけど、このことについては分からなかった。花や野菜は種が落ちればそこから生えてくる。木の実は落ちても腐って、種からは芽が出ない。そういうものだと思っておくか。試しにクリのイガを割って、中の実の皮を薄く削ってから一つ植えてみた。うん、芽が出たね。自分で植えると増えるらしい。
植え終わったらまた家の方に戻ったらカローラさんがリビングにいた。
「ケネスさん、大森林の方ですが、だいぶ設置が進みましたよ」
「ありがとうございます。でも一人では大変じゃないですか?」
「勝手に移動するようにしましたので、まとめて置くだけです」
「勝手に移動ですか?」
「はい。丸太ですから転がりますよね。このまま設置をしてもかなり時間がかかりますから、魔素の濃いところへ向かって転がるようにしました。一か所に集まってしまわないように、お互いに距離を取るようになっています。念のために森から出ないようにもしています」
「さすがですね」
「もっと褒めてくれてもいいんですよ?」
頭を撫でたら、ふにゃっとした顔になった。これくらいはいいだろう。マイカとエリーが寄ってきたので、二人にも同じことをした。
◆ ◆ ◆
昼からはキヴィオ市に行くことにした。マイカからの手紙も預かっている。おそらくアンナさんからの手紙も届いていると思うけど、マイカは自分で書きたいと言っていた。一緒に行くかと聞いたらそこまではしなくていいと。
誰か一緒に行くかなと思ったら、みんなのんびりするようなので、今日は一人で行動することにした。
キヴィオ市から少し離れたところに移動して、西の門から入る。お昼を過ぎたのであまり朝市は賑わってはいないけどそれなりに人はいるね。前と同じように買い物をしながら冒険者ギルドの方へ向かう。
「兄ちゃん!」
広場を通ると、前と同じ場所に玉焼きのおじさんが声をかけてきた。
「ああ、久しぶりです。あれからどうですか……って、この看板は何ですか?」
「兄ちゃんに教えてもらったからな、この甘い方を『エルフ風玉焼き』って名前で売ったら大人気でなあ。甘いから腹にも溜まるってことで、最近はこっちの方がよく売れてるな」
「他のエルフもそうとは限りませんよ?」
「いんだよ、広まってしまえば言ったもん勝ちだろう。うちのを真似て他の店も使ってるしな」
「材料としては珍しくないから、すでに誰かが作っててもおかしくないんですけどね」
「イモやクリはそのまま食べることが多いからな。わざわざ玉焼きに入れるなんて考えないぞ」
「そういうもんですか。僕の場合はどうすれば食材として使えるかを考えますから。味だけではなく、ボリュームを出すのにも使えますしね」
「根本的なところが違うんだろうなあ。ただこれで色々な玉焼きが増えたからなあ。今後は玉焼きだけじゃなく、もっと屋台の種類が増えるかもな」
「ライバルも増えますけどね」
「それで負けたらそれまでだな。負けないように頑張るさ。とりあえずこれが新しいやつだ。持ってってくれ」
「いえ、さすがにこれは払いますよ」
僕はおじさんに銅貨を押しつけた。さすがに毎回無料では申し訳ない。
この玉焼きにはミルクが使われている。それとイモだね。この甘みはサツマイモかな。玉焼きはたこ焼きよりも大きくてしっかりしているから、これならしっかりお腹に溜まる。数が選べるようになっているのもいいね。
「ミルクを使ってるんですね。甘みもいい感じですよ」
「売り上げが伸びて余裕ができたからな。それでさらに味が上がってさらに売り上げも伸びて、ってとこだ。他に何を入れればもっと味がよくなるか、頑張り甲斐があるなあ」
お客さんが来るまで立ち話をして、それから僕はギルドの方へ向かった。
目の前には久しぶりのキヴィオ市の冒険者ギルド。ユーヴィ市に比べると大きくて洗練された感じ。ドアを開けて入ると、やはり中も落ち着いた感じ。
空いている受付は……ハンナさんのところが空いているので迷わず向かう。
「ケネスさんでしたね。今日の要件を伺います」
「はい。ギルド長のレオニートさん宛ての手紙を配達に来ました。こちらです」
「では確認してきますので、しばらくお待ちください」
そう言うとハンナさんは後ろのドアから出て行った。
そこまで久しぶりでもないかな。四か月くらい経ったかどうか。掲示板も整然としている。午後の中途半端な時間だからか、あまり人はいない。
「お待たせしました」
見回しているとハンナさんから声をかけられた。
「ケネスさん、そちらのドアから裏へどうぞ」
「分かりました」
以前と同じように裏に回ってギルド長室へ向かう。
「ハンナさん、勝手なイメージなんですけど、冒険者ギルドの廊下って、もっと冒険者が歩いているイメージがあったのですが」
「ここですか?」
「はい」
「冒険者にとってのギルドはあくまで受付をする場所ですから、カウンターの奥に入ることはほとんどありませんね。裏は事務仕事と持ち込まれた素材の仕分けなどですから、冒険者の出入りはありません」
「あ、そうでしたか。わりと案内されることが多いので、どうして普通にロビーから通じていないのかなと思っていました」
「ケネスさんの場合は、持ち込んだ素材の量が量ですから、他に置き場がないだけだと思います」
「ああ、それで……」
「ですから、冒険者ではなく出入りの業者に近いと思いますよ。そもそも普通の冒険者がギルド長と話をすることはまずありません」
業者扱いだった。それなら搬入口に案内されるのも当然か。
「ケネス君、久しぶりですね」
「お久しぶりです、レオニートさん。その節はお世話になりました」
「どうやら無事に会えたようで、なによりです」
お茶をいただきながら、キヴィオ市を出た後のことを話した。ラクヴィ市でマイカに会い、現在は一緒に旅をしていることや、王都でレオンツィオ殿下とロシータさんのお世話になったことなど。そして……。
「王都の大聖堂でミロシュ主教にお会いしました」
「ミロシュですか? ああ、主教にまでなっていましたか」
「偶然お見かけして、話の内容からおそらくルボルさんとレオニートさんとパーティーを組んでいた人ではないかと思って確認しました。レオニートさんとルボルさんに手紙を書くと言っていましたが、入れ違いですね」
「そうですか。みんなそれなりの立場になっているようですね」
レオニートさんは懐かしそうに目を細めた。
「もう一人、アシルさんらしき人の居場所も分かりました」
「ほう。彼が一番役職に就きにくそうですからね。どこにいるのですか?」
「ルジェーナ市にいる、かもしれません。どうやら鍛冶師になっているようですが、まだ本人かどうかは分かりません。いずれ会って聞いてみようと思います」
「その時は我々の居場所も教えてあげてください。彼もみんなのことを知らないでしょうから」
「ええ、ミロシュ主教からも頼まれましたし、もちろん伝えますよ」
「お願いします。ところで、ケネス君。話は少し変わりますが」
「はい」
レオニートさんが急に真面目な表情になって僕をじっと見た。
「君には色々と素材を売ってもらって助かりました。そして、これは私個人の方ですが、ラクヴィ伯爵令嬢の件では君に手を貸せた。そう思っていいですよね?」
「そうですね。その件ではかなり助かりました」
「世の中は持ちつ持たれつですよね?」
「ええ、そうでしょうね。それが、何か?」
「実は君に会わせたい人がいるのですが」
「会わせたい人ですか?」
「ドアの外まで来ていますね。入ってください」
……げっ!
「あら~、お久しぶりですねぇ、ケネスさん。お会いできて嬉しいです」
「マノンさん、どうしてここに?」
「ええ、ユーヴィ市のギルドを正式に辞めたんですよ。それで、ケネスさんを追いかけてここまで来たんです。そろそろ東へ向かおうかと思いましたけど、ここで待っていて正解でしたねぇ」
「マノン君のことはルボルから頼まれてね。ケネス君が近いうちにキヴィオ市にまた来るだろうから、その時に会わせてやってほしいと」
ルボルさん、あなたの読みが大当たりですよ!
「そういうことです。ケネスさん、よろしくお願いしますねぇ」
「ちなみに僕がここから逃げたらどうしますか?」
「そうですねぇ、まずは王都まで行ってですねぇ、そこでなんとかレオンツィオ王子に……」
「……分かりました。僕の負けです」
ルボルさんに余計なことを言ってしまったのは僕のミス。ナルヴァ村にはたまに行くと言っておいたから、向こうで会うかなと思ったらこっちだったか……。
「……では行きましょうか、マノンさん」
「ええ」
「それではレオニートさん、アシルさんと会えたらその後にでもまた来ます」
「はい、気を付けて旅を続けてください。マノン君もお元気で」
「お世話になりました」
腕にマノンさんを絡みつかせながらギルドを出た。それにしても話ができすぎている気がする……。
「マノンさん、僕がここに来るという話を、ルボルさん以外の誰から聞きましたか?」
ストレートに聞いたら、一瞬腕の力が強くなった。
「いえ、誰から聞いたわけでもありませんよ。女の直感です」
「ほほう。では後でカロリッタを折檻ですね」
「いえ、カロリッタさんの方じゃ……あっ……」
「……マノンさん、まったく隠すつもりはなかったでしょ?」
「分かりましたか?」
「隠すにしてもバラすにしても、演技が下手すぎます」
「ぶう」
「拗ねてもダメです。一度町から出ますね」
「それでは、このままデートですねぇ」
「いえ、単なる移動です」
あまり大きくない魔獣を相手にしながら東へ進む。この森は歩きやすいけど、さすがにいつものペースだとミシェルにはきついから、少し遅めにはなっている。それでも並の五歳児の体力ではないよね。
普通ならこれくらいの年の子供はお昼寝とかするでしょ? でもミシェルがお昼寝をするのをあまり見たことがない。エリーに聞いてもあまりしないそうだから、個人差がかなりあるのかも。
◆ ◆ ◆
さすがに毎日森の中を歩くとミシェルも少しは飽きてくる。そこまで景色は変わらないから。そうなると一日くらいは家でゆっくりしようかという話になるよね。そういうわけで、今日は午前中は家でゆっくりする。
ゆっくりするとは言ってもミシェルと一緒に蜂蜜を搾ったりするけど。
ついでに先日買ったバナナとパイナップルとココナッツを森の近くに蒔いた。ココナッツは半分地面に埋める形で置いただけ。それでもすぐに芽も出たから大丈夫だろう。
この周辺は食べ頃で成長が止まるようにした。実が大きいから落ちたら危ないしね。
種を持ち歩いていても芽は出ないけど、地面に置いたり土に埋めたりするとすぐに芽が出る。地面に触れるのがトリガーなんだろう。
そう考えていると、もう一つ気になることがあった。この森では落ちた実は腐る。でもその中にあった種からは芽が出ない。
枯れるように設定した畑では、種が落ちるとそこからまた生えてくる。これはサランたちのセロリや一部のダイズなども同じ。食べ残しから自然と種が落ちて生え続けるから、彼女たちは食べ尽くさないように注意しているらしい。
でもよく考えれば、この森のクリやシイの実は勝手には芽吹かない。落ちた種から芽が出れば、ここは森ではなく密林以上になってるだろう。やっぱり自分で植えないと生えてこないんだろうか。
《僕が植えたもの以外で木は増えてる?》
《ふえてない》
《この半年間で自然と増えたことはない?》
《ない》
餅は餅屋。森のことはミツバチに聞く。ミツバチが増えてないと言えば増えてないんだろう。
前と同じように設定を見直したけど、このことについては分からなかった。花や野菜は種が落ちればそこから生えてくる。木の実は落ちても腐って、種からは芽が出ない。そういうものだと思っておくか。試しにクリのイガを割って、中の実の皮を薄く削ってから一つ植えてみた。うん、芽が出たね。自分で植えると増えるらしい。
植え終わったらまた家の方に戻ったらカローラさんがリビングにいた。
「ケネスさん、大森林の方ですが、だいぶ設置が進みましたよ」
「ありがとうございます。でも一人では大変じゃないですか?」
「勝手に移動するようにしましたので、まとめて置くだけです」
「勝手に移動ですか?」
「はい。丸太ですから転がりますよね。このまま設置をしてもかなり時間がかかりますから、魔素の濃いところへ向かって転がるようにしました。一か所に集まってしまわないように、お互いに距離を取るようになっています。念のために森から出ないようにもしています」
「さすがですね」
「もっと褒めてくれてもいいんですよ?」
頭を撫でたら、ふにゃっとした顔になった。これくらいはいいだろう。マイカとエリーが寄ってきたので、二人にも同じことをした。
◆ ◆ ◆
昼からはキヴィオ市に行くことにした。マイカからの手紙も預かっている。おそらくアンナさんからの手紙も届いていると思うけど、マイカは自分で書きたいと言っていた。一緒に行くかと聞いたらそこまではしなくていいと。
誰か一緒に行くかなと思ったら、みんなのんびりするようなので、今日は一人で行動することにした。
キヴィオ市から少し離れたところに移動して、西の門から入る。お昼を過ぎたのであまり朝市は賑わってはいないけどそれなりに人はいるね。前と同じように買い物をしながら冒険者ギルドの方へ向かう。
「兄ちゃん!」
広場を通ると、前と同じ場所に玉焼きのおじさんが声をかけてきた。
「ああ、久しぶりです。あれからどうですか……って、この看板は何ですか?」
「兄ちゃんに教えてもらったからな、この甘い方を『エルフ風玉焼き』って名前で売ったら大人気でなあ。甘いから腹にも溜まるってことで、最近はこっちの方がよく売れてるな」
「他のエルフもそうとは限りませんよ?」
「いんだよ、広まってしまえば言ったもん勝ちだろう。うちのを真似て他の店も使ってるしな」
「材料としては珍しくないから、すでに誰かが作っててもおかしくないんですけどね」
「イモやクリはそのまま食べることが多いからな。わざわざ玉焼きに入れるなんて考えないぞ」
「そういうもんですか。僕の場合はどうすれば食材として使えるかを考えますから。味だけではなく、ボリュームを出すのにも使えますしね」
「根本的なところが違うんだろうなあ。ただこれで色々な玉焼きが増えたからなあ。今後は玉焼きだけじゃなく、もっと屋台の種類が増えるかもな」
「ライバルも増えますけどね」
「それで負けたらそれまでだな。負けないように頑張るさ。とりあえずこれが新しいやつだ。持ってってくれ」
「いえ、さすがにこれは払いますよ」
僕はおじさんに銅貨を押しつけた。さすがに毎回無料では申し訳ない。
この玉焼きにはミルクが使われている。それとイモだね。この甘みはサツマイモかな。玉焼きはたこ焼きよりも大きくてしっかりしているから、これならしっかりお腹に溜まる。数が選べるようになっているのもいいね。
「ミルクを使ってるんですね。甘みもいい感じですよ」
「売り上げが伸びて余裕ができたからな。それでさらに味が上がってさらに売り上げも伸びて、ってとこだ。他に何を入れればもっと味がよくなるか、頑張り甲斐があるなあ」
お客さんが来るまで立ち話をして、それから僕はギルドの方へ向かった。
目の前には久しぶりのキヴィオ市の冒険者ギルド。ユーヴィ市に比べると大きくて洗練された感じ。ドアを開けて入ると、やはり中も落ち着いた感じ。
空いている受付は……ハンナさんのところが空いているので迷わず向かう。
「ケネスさんでしたね。今日の要件を伺います」
「はい。ギルド長のレオニートさん宛ての手紙を配達に来ました。こちらです」
「では確認してきますので、しばらくお待ちください」
そう言うとハンナさんは後ろのドアから出て行った。
そこまで久しぶりでもないかな。四か月くらい経ったかどうか。掲示板も整然としている。午後の中途半端な時間だからか、あまり人はいない。
「お待たせしました」
見回しているとハンナさんから声をかけられた。
「ケネスさん、そちらのドアから裏へどうぞ」
「分かりました」
以前と同じように裏に回ってギルド長室へ向かう。
「ハンナさん、勝手なイメージなんですけど、冒険者ギルドの廊下って、もっと冒険者が歩いているイメージがあったのですが」
「ここですか?」
「はい」
「冒険者にとってのギルドはあくまで受付をする場所ですから、カウンターの奥に入ることはほとんどありませんね。裏は事務仕事と持ち込まれた素材の仕分けなどですから、冒険者の出入りはありません」
「あ、そうでしたか。わりと案内されることが多いので、どうして普通にロビーから通じていないのかなと思っていました」
「ケネスさんの場合は、持ち込んだ素材の量が量ですから、他に置き場がないだけだと思います」
「ああ、それで……」
「ですから、冒険者ではなく出入りの業者に近いと思いますよ。そもそも普通の冒険者がギルド長と話をすることはまずありません」
業者扱いだった。それなら搬入口に案内されるのも当然か。
「ケネス君、久しぶりですね」
「お久しぶりです、レオニートさん。その節はお世話になりました」
「どうやら無事に会えたようで、なによりです」
お茶をいただきながら、キヴィオ市を出た後のことを話した。ラクヴィ市でマイカに会い、現在は一緒に旅をしていることや、王都でレオンツィオ殿下とロシータさんのお世話になったことなど。そして……。
「王都の大聖堂でミロシュ主教にお会いしました」
「ミロシュですか? ああ、主教にまでなっていましたか」
「偶然お見かけして、話の内容からおそらくルボルさんとレオニートさんとパーティーを組んでいた人ではないかと思って確認しました。レオニートさんとルボルさんに手紙を書くと言っていましたが、入れ違いですね」
「そうですか。みんなそれなりの立場になっているようですね」
レオニートさんは懐かしそうに目を細めた。
「もう一人、アシルさんらしき人の居場所も分かりました」
「ほう。彼が一番役職に就きにくそうですからね。どこにいるのですか?」
「ルジェーナ市にいる、かもしれません。どうやら鍛冶師になっているようですが、まだ本人かどうかは分かりません。いずれ会って聞いてみようと思います」
「その時は我々の居場所も教えてあげてください。彼もみんなのことを知らないでしょうから」
「ええ、ミロシュ主教からも頼まれましたし、もちろん伝えますよ」
「お願いします。ところで、ケネス君。話は少し変わりますが」
「はい」
レオニートさんが急に真面目な表情になって僕をじっと見た。
「君には色々と素材を売ってもらって助かりました。そして、これは私個人の方ですが、ラクヴィ伯爵令嬢の件では君に手を貸せた。そう思っていいですよね?」
「そうですね。その件ではかなり助かりました」
「世の中は持ちつ持たれつですよね?」
「ええ、そうでしょうね。それが、何か?」
「実は君に会わせたい人がいるのですが」
「会わせたい人ですか?」
「ドアの外まで来ていますね。入ってください」
……げっ!
「あら~、お久しぶりですねぇ、ケネスさん。お会いできて嬉しいです」
「マノンさん、どうしてここに?」
「ええ、ユーヴィ市のギルドを正式に辞めたんですよ。それで、ケネスさんを追いかけてここまで来たんです。そろそろ東へ向かおうかと思いましたけど、ここで待っていて正解でしたねぇ」
「マノン君のことはルボルから頼まれてね。ケネス君が近いうちにキヴィオ市にまた来るだろうから、その時に会わせてやってほしいと」
ルボルさん、あなたの読みが大当たりですよ!
「そういうことです。ケネスさん、よろしくお願いしますねぇ」
「ちなみに僕がここから逃げたらどうしますか?」
「そうですねぇ、まずは王都まで行ってですねぇ、そこでなんとかレオンツィオ王子に……」
「……分かりました。僕の負けです」
ルボルさんに余計なことを言ってしまったのは僕のミス。ナルヴァ村にはたまに行くと言っておいたから、向こうで会うかなと思ったらこっちだったか……。
「……では行きましょうか、マノンさん」
「ええ」
「それではレオニートさん、アシルさんと会えたらその後にでもまた来ます」
「はい、気を付けて旅を続けてください。マノン君もお元気で」
「お世話になりました」
腕にマノンさんを絡みつかせながらギルドを出た。それにしても話ができすぎている気がする……。
「マノンさん、僕がここに来るという話を、ルボルさん以外の誰から聞きましたか?」
ストレートに聞いたら、一瞬腕の力が強くなった。
「いえ、誰から聞いたわけでもありませんよ。女の直感です」
「ほほう。では後でカロリッタを折檻ですね」
「いえ、カロリッタさんの方じゃ……あっ……」
「……マノンさん、まったく隠すつもりはなかったでしょ?」
「分かりましたか?」
「隠すにしてもバラすにしても、演技が下手すぎます」
「ぶう」
「拗ねてもダメです。一度町から出ますね」
「それでは、このままデートですねぇ」
「いえ、単なる移動です」
1
あなたにおすすめの小説
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる