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第二章 第一部
あちらの森とこちらの森、そしてキヴィオ市
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今日も森の中を進む。メンバーは同じ。絶対にミシェルを危険に晒さないように注意しながら、魔物を狩り方を見せる。猪が一番大きな魔獣みたいで、それより厄介なのは今のところはいないね。
あまり大きくない魔獣を相手にしながら東へ進む。この森は歩きやすいけど、さすがにいつものペースだとミシェルにはきついから、少し遅めにはなっている。それでも並の五歳児の体力ではないよね。
普通ならこれくらいの年の子供はお昼寝とかするでしょ? でもミシェルがお昼寝をするのをあまり見たことがない。エリーに聞いてもあまりしないそうだから、個人差がかなりあるのかも。
◆ ◆ ◆
さすがに毎日森の中を歩くとミシェルも少しは飽きてくる。そこまで景色は変わらないから。そうなると一日くらいは家でゆっくりしようかという話になるよね。そういうわけで、今日は午前中は家でゆっくりする。
ゆっくりするとは言ってもミシェルと一緒に蜂蜜を搾ったりするけど。
ついでに先日買ったバナナとパイナップルとココナッツを森の近くに蒔いた。ココナッツは半分地面に埋める形で置いただけ。それでもすぐに芽も出たから大丈夫だろう。
この周辺は食べ頃で成長が止まるようにした。実が大きいから落ちたら危ないしね。
種を持ち歩いていても芽は出ないけど、地面に置いたり土に埋めたりするとすぐに芽が出る。地面に触れるのがトリガーなんだろう。
そう考えていると、もう一つ気になることがあった。この森では落ちた実は腐る。でもその中にあった種からは芽が出ない。
枯れるように設定した畑では、種が落ちるとそこからまた生えてくる。これはサランたちのセロリや一部のダイズなども同じ。食べ残しから自然と種が落ちて生え続けるから、彼女たちは食べ尽くさないように注意しているらしい。
でもよく考えれば、この森のクリやシイの実は勝手には芽吹かない。落ちた種から芽が出れば、ここは森ではなく密林以上になってるだろう。やっぱり自分で植えないと生えてこないんだろうか。
《僕が植えたもの以外で木は増えてる?》
《ふえてない》
《この半年間で自然と増えたことはない?》
《ない》
餅は餅屋。森のことはミツバチに聞く。ミツバチが増えてないと言えば増えてないんだろう。
前と同じように設定を見直したけど、このことについては分からなかった。花や野菜は種が落ちればそこから生えてくる。木の実は落ちても腐って、種からは芽が出ない。そういうものだと思っておくか。試しにクリのイガを割って、中の実の皮を薄く削ってから一つ植えてみた。うん、芽が出たね。自分で植えると増えるらしい。
植え終わったらまた家の方に戻ったらカローラさんがリビングにいた。
「ケネスさん、大森林の方ですが、だいぶ設置が進みましたよ」
「ありがとうございます。でも一人では大変じゃないですか?」
「勝手に移動するようにしましたので、まとめて置くだけです」
「勝手に移動ですか?」
「はい。丸太ですから転がりますよね。このまま設置をしてもかなり時間がかかりますから、魔素の濃いところへ向かって転がるようにしました。一か所に集まってしまわないように、お互いに距離を取るようになっています。念のために森から出ないようにもしています」
「さすがですね」
「もっと褒めてくれてもいいんですよ?」
頭を撫でたら、ふにゃっとした顔になった。これくらいはいいだろう。マイカとエリーが寄ってきたので、二人にも同じことをした。
◆ ◆ ◆
昼からはキヴィオ市に行くことにした。マイカからの手紙も預かっている。おそらくアンナさんからの手紙も届いていると思うけど、マイカは自分で書きたいと言っていた。一緒に行くかと聞いたらそこまではしなくていいと。
誰か一緒に行くかなと思ったら、みんなのんびりするようなので、今日は一人で行動することにした。
キヴィオ市から少し離れたところに移動して、西の門から入る。お昼を過ぎたのであまり朝市は賑わってはいないけどそれなりに人はいるね。前と同じように買い物をしながら冒険者ギルドの方へ向かう。
「兄ちゃん!」
広場を通ると、前と同じ場所に玉焼きのおじさんが声をかけてきた。
「ああ、久しぶりです。あれからどうですか……って、この看板は何ですか?」
「兄ちゃんに教えてもらったからな、この甘い方を『エルフ風玉焼き』って名前で売ったら大人気でなあ。甘いから腹にも溜まるってことで、最近はこっちの方がよく売れてるな」
「他のエルフもそうとは限りませんよ?」
「いんだよ、広まってしまえば言ったもん勝ちだろう。うちのを真似て他の店も使ってるしな」
「材料としては珍しくないから、すでに誰かが作っててもおかしくないんですけどね」
「イモやクリはそのまま食べることが多いからな。わざわざ玉焼きに入れるなんて考えないぞ」
「そういうもんですか。僕の場合はどうすれば食材として使えるかを考えますから。味だけではなく、ボリュームを出すのにも使えますしね」
「根本的なところが違うんだろうなあ。ただこれで色々な玉焼きが増えたからなあ。今後は玉焼きだけじゃなく、もっと屋台の種類が増えるかもな」
「ライバルも増えますけどね」
「それで負けたらそれまでだな。負けないように頑張るさ。とりあえずこれが新しいやつだ。持ってってくれ」
「いえ、さすがにこれは払いますよ」
僕はおじさんに銅貨を押しつけた。さすがに毎回無料では申し訳ない。
この玉焼きにはミルクが使われている。それとイモだね。この甘みはサツマイモかな。玉焼きはたこ焼きよりも大きくてしっかりしているから、これならしっかりお腹に溜まる。数が選べるようになっているのもいいね。
「ミルクを使ってるんですね。甘みもいい感じですよ」
「売り上げが伸びて余裕ができたからな。それでさらに味が上がってさらに売り上げも伸びて、ってとこだ。他に何を入れればもっと味がよくなるか、頑張り甲斐があるなあ」
お客さんが来るまで立ち話をして、それから僕はギルドの方へ向かった。
目の前には久しぶりのキヴィオ市の冒険者ギルド。ユーヴィ市に比べると大きくて洗練された感じ。ドアを開けて入ると、やはり中も落ち着いた感じ。
空いている受付は……ハンナさんのところが空いているので迷わず向かう。
「ケネスさんでしたね。今日の要件を伺います」
「はい。ギルド長のレオニートさん宛ての手紙を配達に来ました。こちらです」
「では確認してきますので、しばらくお待ちください」
そう言うとハンナさんは後ろのドアから出て行った。
そこまで久しぶりでもないかな。四か月くらい経ったかどうか。掲示板も整然としている。午後の中途半端な時間だからか、あまり人はいない。
「お待たせしました」
見回しているとハンナさんから声をかけられた。
「ケネスさん、そちらのドアから裏へどうぞ」
「分かりました」
以前と同じように裏に回ってギルド長室へ向かう。
「ハンナさん、勝手なイメージなんですけど、冒険者ギルドの廊下って、もっと冒険者が歩いているイメージがあったのですが」
「ここですか?」
「はい」
「冒険者にとってのギルドはあくまで受付をする場所ですから、カウンターの奥に入ることはほとんどありませんね。裏は事務仕事と持ち込まれた素材の仕分けなどですから、冒険者の出入りはありません」
「あ、そうでしたか。わりと案内されることが多いので、どうして普通にロビーから通じていないのかなと思っていました」
「ケネスさんの場合は、持ち込んだ素材の量が量ですから、他に置き場がないだけだと思います」
「ああ、それで……」
「ですから、冒険者ではなく出入りの業者に近いと思いますよ。そもそも普通の冒険者がギルド長と話をすることはまずありません」
業者扱いだった。それなら搬入口に案内されるのも当然か。
「ケネス君、久しぶりですね」
「お久しぶりです、レオニートさん。その節はお世話になりました」
「どうやら無事に会えたようで、なによりです」
お茶をいただきながら、キヴィオ市を出た後のことを話した。ラクヴィ市でマイカに会い、現在は一緒に旅をしていることや、王都でレオンツィオ殿下とロシータさんのお世話になったことなど。そして……。
「王都の大聖堂でミロシュ主教にお会いしました」
「ミロシュですか? ああ、主教にまでなっていましたか」
「偶然お見かけして、話の内容からおそらくルボルさんとレオニートさんとパーティーを組んでいた人ではないかと思って確認しました。レオニートさんとルボルさんに手紙を書くと言っていましたが、入れ違いですね」
「そうですか。みんなそれなりの立場になっているようですね」
レオニートさんは懐かしそうに目を細めた。
「もう一人、アシルさんらしき人の居場所も分かりました」
「ほう。彼が一番役職に就きにくそうですからね。どこにいるのですか?」
「ルジェーナ市にいる、かもしれません。どうやら鍛冶師になっているようですが、まだ本人かどうかは分かりません。いずれ会って聞いてみようと思います」
「その時は我々の居場所も教えてあげてください。彼もみんなのことを知らないでしょうから」
「ええ、ミロシュ主教からも頼まれましたし、もちろん伝えますよ」
「お願いします。ところで、ケネス君。話は少し変わりますが」
「はい」
レオニートさんが急に真面目な表情になって僕をじっと見た。
「君には色々と素材を売ってもらって助かりました。そして、これは私個人の方ですが、ラクヴィ伯爵令嬢の件では君に手を貸せた。そう思っていいですよね?」
「そうですね。その件ではかなり助かりました」
「世の中は持ちつ持たれつですよね?」
「ええ、そうでしょうね。それが、何か?」
「実は君に会わせたい人がいるのですが」
「会わせたい人ですか?」
「ドアの外まで来ていますね。入ってください」
……げっ!
「あら~、お久しぶりですねぇ、ケネスさん。お会いできて嬉しいです」
「マノンさん、どうしてここに?」
「ええ、ユーヴィ市のギルドを正式に辞めたんですよ。それで、ケネスさんを追いかけてここまで来たんです。そろそろ東へ向かおうかと思いましたけど、ここで待っていて正解でしたねぇ」
「マノン君のことはルボルから頼まれてね。ケネス君が近いうちにキヴィオ市にまた来るだろうから、その時に会わせてやってほしいと」
ルボルさん、あなたの読みが大当たりですよ!
「そういうことです。ケネスさん、よろしくお願いしますねぇ」
「ちなみに僕がここから逃げたらどうしますか?」
「そうですねぇ、まずは王都まで行ってですねぇ、そこでなんとかレオンツィオ王子に……」
「……分かりました。僕の負けです」
ルボルさんに余計なことを言ってしまったのは僕のミス。ナルヴァ村にはたまに行くと言っておいたから、向こうで会うかなと思ったらこっちだったか……。
「……では行きましょうか、マノンさん」
「ええ」
「それではレオニートさん、アシルさんと会えたらその後にでもまた来ます」
「はい、気を付けて旅を続けてください。マノン君もお元気で」
「お世話になりました」
腕にマノンさんを絡みつかせながらギルドを出た。それにしても話ができすぎている気がする……。
「マノンさん、僕がここに来るという話を、ルボルさん以外の誰から聞きましたか?」
ストレートに聞いたら、一瞬腕の力が強くなった。
「いえ、誰から聞いたわけでもありませんよ。女の直感です」
「ほほう。では後でカロリッタを折檻ですね」
「いえ、カロリッタさんの方じゃ……あっ……」
「……マノンさん、まったく隠すつもりはなかったでしょ?」
「分かりましたか?」
「隠すにしてもバラすにしても、演技が下手すぎます」
「ぶう」
「拗ねてもダメです。一度町から出ますね」
「それでは、このままデートですねぇ」
「いえ、単なる移動です」
あまり大きくない魔獣を相手にしながら東へ進む。この森は歩きやすいけど、さすがにいつものペースだとミシェルにはきついから、少し遅めにはなっている。それでも並の五歳児の体力ではないよね。
普通ならこれくらいの年の子供はお昼寝とかするでしょ? でもミシェルがお昼寝をするのをあまり見たことがない。エリーに聞いてもあまりしないそうだから、個人差がかなりあるのかも。
◆ ◆ ◆
さすがに毎日森の中を歩くとミシェルも少しは飽きてくる。そこまで景色は変わらないから。そうなると一日くらいは家でゆっくりしようかという話になるよね。そういうわけで、今日は午前中は家でゆっくりする。
ゆっくりするとは言ってもミシェルと一緒に蜂蜜を搾ったりするけど。
ついでに先日買ったバナナとパイナップルとココナッツを森の近くに蒔いた。ココナッツは半分地面に埋める形で置いただけ。それでもすぐに芽も出たから大丈夫だろう。
この周辺は食べ頃で成長が止まるようにした。実が大きいから落ちたら危ないしね。
種を持ち歩いていても芽は出ないけど、地面に置いたり土に埋めたりするとすぐに芽が出る。地面に触れるのがトリガーなんだろう。
そう考えていると、もう一つ気になることがあった。この森では落ちた実は腐る。でもその中にあった種からは芽が出ない。
枯れるように設定した畑では、種が落ちるとそこからまた生えてくる。これはサランたちのセロリや一部のダイズなども同じ。食べ残しから自然と種が落ちて生え続けるから、彼女たちは食べ尽くさないように注意しているらしい。
でもよく考えれば、この森のクリやシイの実は勝手には芽吹かない。落ちた種から芽が出れば、ここは森ではなく密林以上になってるだろう。やっぱり自分で植えないと生えてこないんだろうか。
《僕が植えたもの以外で木は増えてる?》
《ふえてない》
《この半年間で自然と増えたことはない?》
《ない》
餅は餅屋。森のことはミツバチに聞く。ミツバチが増えてないと言えば増えてないんだろう。
前と同じように設定を見直したけど、このことについては分からなかった。花や野菜は種が落ちればそこから生えてくる。木の実は落ちても腐って、種からは芽が出ない。そういうものだと思っておくか。試しにクリのイガを割って、中の実の皮を薄く削ってから一つ植えてみた。うん、芽が出たね。自分で植えると増えるらしい。
植え終わったらまた家の方に戻ったらカローラさんがリビングにいた。
「ケネスさん、大森林の方ですが、だいぶ設置が進みましたよ」
「ありがとうございます。でも一人では大変じゃないですか?」
「勝手に移動するようにしましたので、まとめて置くだけです」
「勝手に移動ですか?」
「はい。丸太ですから転がりますよね。このまま設置をしてもかなり時間がかかりますから、魔素の濃いところへ向かって転がるようにしました。一か所に集まってしまわないように、お互いに距離を取るようになっています。念のために森から出ないようにもしています」
「さすがですね」
「もっと褒めてくれてもいいんですよ?」
頭を撫でたら、ふにゃっとした顔になった。これくらいはいいだろう。マイカとエリーが寄ってきたので、二人にも同じことをした。
◆ ◆ ◆
昼からはキヴィオ市に行くことにした。マイカからの手紙も預かっている。おそらくアンナさんからの手紙も届いていると思うけど、マイカは自分で書きたいと言っていた。一緒に行くかと聞いたらそこまではしなくていいと。
誰か一緒に行くかなと思ったら、みんなのんびりするようなので、今日は一人で行動することにした。
キヴィオ市から少し離れたところに移動して、西の門から入る。お昼を過ぎたのであまり朝市は賑わってはいないけどそれなりに人はいるね。前と同じように買い物をしながら冒険者ギルドの方へ向かう。
「兄ちゃん!」
広場を通ると、前と同じ場所に玉焼きのおじさんが声をかけてきた。
「ああ、久しぶりです。あれからどうですか……って、この看板は何ですか?」
「兄ちゃんに教えてもらったからな、この甘い方を『エルフ風玉焼き』って名前で売ったら大人気でなあ。甘いから腹にも溜まるってことで、最近はこっちの方がよく売れてるな」
「他のエルフもそうとは限りませんよ?」
「いんだよ、広まってしまえば言ったもん勝ちだろう。うちのを真似て他の店も使ってるしな」
「材料としては珍しくないから、すでに誰かが作っててもおかしくないんですけどね」
「イモやクリはそのまま食べることが多いからな。わざわざ玉焼きに入れるなんて考えないぞ」
「そういうもんですか。僕の場合はどうすれば食材として使えるかを考えますから。味だけではなく、ボリュームを出すのにも使えますしね」
「根本的なところが違うんだろうなあ。ただこれで色々な玉焼きが増えたからなあ。今後は玉焼きだけじゃなく、もっと屋台の種類が増えるかもな」
「ライバルも増えますけどね」
「それで負けたらそれまでだな。負けないように頑張るさ。とりあえずこれが新しいやつだ。持ってってくれ」
「いえ、さすがにこれは払いますよ」
僕はおじさんに銅貨を押しつけた。さすがに毎回無料では申し訳ない。
この玉焼きにはミルクが使われている。それとイモだね。この甘みはサツマイモかな。玉焼きはたこ焼きよりも大きくてしっかりしているから、これならしっかりお腹に溜まる。数が選べるようになっているのもいいね。
「ミルクを使ってるんですね。甘みもいい感じですよ」
「売り上げが伸びて余裕ができたからな。それでさらに味が上がってさらに売り上げも伸びて、ってとこだ。他に何を入れればもっと味がよくなるか、頑張り甲斐があるなあ」
お客さんが来るまで立ち話をして、それから僕はギルドの方へ向かった。
目の前には久しぶりのキヴィオ市の冒険者ギルド。ユーヴィ市に比べると大きくて洗練された感じ。ドアを開けて入ると、やはり中も落ち着いた感じ。
空いている受付は……ハンナさんのところが空いているので迷わず向かう。
「ケネスさんでしたね。今日の要件を伺います」
「はい。ギルド長のレオニートさん宛ての手紙を配達に来ました。こちらです」
「では確認してきますので、しばらくお待ちください」
そう言うとハンナさんは後ろのドアから出て行った。
そこまで久しぶりでもないかな。四か月くらい経ったかどうか。掲示板も整然としている。午後の中途半端な時間だからか、あまり人はいない。
「お待たせしました」
見回しているとハンナさんから声をかけられた。
「ケネスさん、そちらのドアから裏へどうぞ」
「分かりました」
以前と同じように裏に回ってギルド長室へ向かう。
「ハンナさん、勝手なイメージなんですけど、冒険者ギルドの廊下って、もっと冒険者が歩いているイメージがあったのですが」
「ここですか?」
「はい」
「冒険者にとってのギルドはあくまで受付をする場所ですから、カウンターの奥に入ることはほとんどありませんね。裏は事務仕事と持ち込まれた素材の仕分けなどですから、冒険者の出入りはありません」
「あ、そうでしたか。わりと案内されることが多いので、どうして普通にロビーから通じていないのかなと思っていました」
「ケネスさんの場合は、持ち込んだ素材の量が量ですから、他に置き場がないだけだと思います」
「ああ、それで……」
「ですから、冒険者ではなく出入りの業者に近いと思いますよ。そもそも普通の冒険者がギルド長と話をすることはまずありません」
業者扱いだった。それなら搬入口に案内されるのも当然か。
「ケネス君、久しぶりですね」
「お久しぶりです、レオニートさん。その節はお世話になりました」
「どうやら無事に会えたようで、なによりです」
お茶をいただきながら、キヴィオ市を出た後のことを話した。ラクヴィ市でマイカに会い、現在は一緒に旅をしていることや、王都でレオンツィオ殿下とロシータさんのお世話になったことなど。そして……。
「王都の大聖堂でミロシュ主教にお会いしました」
「ミロシュですか? ああ、主教にまでなっていましたか」
「偶然お見かけして、話の内容からおそらくルボルさんとレオニートさんとパーティーを組んでいた人ではないかと思って確認しました。レオニートさんとルボルさんに手紙を書くと言っていましたが、入れ違いですね」
「そうですか。みんなそれなりの立場になっているようですね」
レオニートさんは懐かしそうに目を細めた。
「もう一人、アシルさんらしき人の居場所も分かりました」
「ほう。彼が一番役職に就きにくそうですからね。どこにいるのですか?」
「ルジェーナ市にいる、かもしれません。どうやら鍛冶師になっているようですが、まだ本人かどうかは分かりません。いずれ会って聞いてみようと思います」
「その時は我々の居場所も教えてあげてください。彼もみんなのことを知らないでしょうから」
「ええ、ミロシュ主教からも頼まれましたし、もちろん伝えますよ」
「お願いします。ところで、ケネス君。話は少し変わりますが」
「はい」
レオニートさんが急に真面目な表情になって僕をじっと見た。
「君には色々と素材を売ってもらって助かりました。そして、これは私個人の方ですが、ラクヴィ伯爵令嬢の件では君に手を貸せた。そう思っていいですよね?」
「そうですね。その件ではかなり助かりました」
「世の中は持ちつ持たれつですよね?」
「ええ、そうでしょうね。それが、何か?」
「実は君に会わせたい人がいるのですが」
「会わせたい人ですか?」
「ドアの外まで来ていますね。入ってください」
……げっ!
「あら~、お久しぶりですねぇ、ケネスさん。お会いできて嬉しいです」
「マノンさん、どうしてここに?」
「ええ、ユーヴィ市のギルドを正式に辞めたんですよ。それで、ケネスさんを追いかけてここまで来たんです。そろそろ東へ向かおうかと思いましたけど、ここで待っていて正解でしたねぇ」
「マノン君のことはルボルから頼まれてね。ケネス君が近いうちにキヴィオ市にまた来るだろうから、その時に会わせてやってほしいと」
ルボルさん、あなたの読みが大当たりですよ!
「そういうことです。ケネスさん、よろしくお願いしますねぇ」
「ちなみに僕がここから逃げたらどうしますか?」
「そうですねぇ、まずは王都まで行ってですねぇ、そこでなんとかレオンツィオ王子に……」
「……分かりました。僕の負けです」
ルボルさんに余計なことを言ってしまったのは僕のミス。ナルヴァ村にはたまに行くと言っておいたから、向こうで会うかなと思ったらこっちだったか……。
「……では行きましょうか、マノンさん」
「ええ」
「それではレオニートさん、アシルさんと会えたらその後にでもまた来ます」
「はい、気を付けて旅を続けてください。マノン君もお元気で」
「お世話になりました」
腕にマノンさんを絡みつかせながらギルドを出た。それにしても話ができすぎている気がする……。
「マノンさん、僕がここに来るという話を、ルボルさん以外の誰から聞きましたか?」
ストレートに聞いたら、一瞬腕の力が強くなった。
「いえ、誰から聞いたわけでもありませんよ。女の直感です」
「ほほう。では後でカロリッタを折檻ですね」
「いえ、カロリッタさんの方じゃ……あっ……」
「……マノンさん、まったく隠すつもりはなかったでしょ?」
「分かりましたか?」
「隠すにしてもバラすにしても、演技が下手すぎます」
「ぶう」
「拗ねてもダメです。一度町から出ますね」
「それでは、このままデートですねぇ」
「いえ、単なる移動です」
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